表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

やりすぎた?宴会


夕方、ここは何処かの林。

(……何処?…………)


「ねぇ、待ってよぉ」

「悠稀、早く来なさいって」


目の前を2人の小さな子供が通り過ぎて行った。

(あ、俺だ……)

(じゃあ、前にいるのは…………って事は、あの時の夢か……)


小高い丘から見える街並みと川が見えるこの場所。

「…………ほら悠稀、遅いよ」

「ちょっと待って、…………うわぁ、ここすごいね?」

「でしょう? ここからなら花火だってよく見えるから後で母さん達と一緒に来ようね?」

「うん!」



……き……か…………おき……おき……ろ…………


「コラ起きねえか、ボケ息子!」

言うと同時に鳩尾に水平に右足の指がめり込んで……逝った……様な気がした。

悶絶している俺にケラケラ笑いながら、さらに軽く2,3発蹴りを入れるかコイツは!


「いい加減にしろ!このクソ親父! おふくろが川の向こう岸に見えたぞ!」

「お? 愛姫いつきに会ったか、相変わらずいい女だっただろ?」

 悪びれた様子も無く、口にくわえた煙草から灰が落ちそうになっていた。

「ああ、そうだな。親父じゃなくておふくろに似てよかったよ!」


このクソ親父はいつかぶち倒してやる!

…………って言っても剣道じゃあいっつも負けてんだよなぁ。こんなんでも今でも全国大会に出たら常に上位なんて信じられねえ。

しかもこんないい加減か性格なのに大学の助教授なんだもんな。その上、ご近所からは結構な人気と着たもんだ。


……こんなオヤジの何処が好いんだか。

「オラ、もう少しで少年の部が始まるからさっさと準備しな!」

「もうそんな時間か……」

「それとな、こっちの準備の方は万端だからな、皆喜んでだぜ、今年は若い子がいるってな」


と言って手を口元にやって飲む真似をする。

俺は「はい、はい」と言って軽く振って蒲団から這い出て、気付けに煙草を取って火を点ける。

これも大人の嗜みだと言われ、高校から親父に無理やり吸わされる上に、

酒なんて中学2年から毎晩のように付き合わされた。

消えていく紫煙を見ながら5日前の事を思い出す。




「親父、祭りの日にうちで飲み会するって聞いたんだけど」

 夕食後のささやかな穏やかな時間に瑞希から聞いたことを確かめる為に聞いてみた。

「お?誰から聞いた?おまえも参加するか?」

「耕平さんダメですよ、悠稀君はまだ未成年なんですからね」

夕食の後片付けを終えて居間に入って来たのは、

「さゆり、いいじゃねえか中学は卒業したんだから、後はこいつの好きにさせようって言っただろ? 学校は学校、家は家」

「そうですけど……」


さゆりさんは……親父の再婚相手で俺の行っている俺の行っている賢成高校の数学教師でもある。

再婚して今年でまだ2年目、だからまだ新婚気分がまだ抜けない。

今年、24歳でまだ若いし、かなりの美人だから学校でも人気あるんだけどな。

……何で俺って言うコブ付きなのにバツ2のこの男(当時35歳)と結婚とはなあ。

紹介されたときは驚いた、なんせ「昨日籍入れたから」って事後報告。しかも卒業式の次の日。

親父、大学で何やってんだよ!しかも俺の方が歳が近いから色々とやりずらいって。


「鷹斗たちが来るって聞かなくてさ、さゆりさん、どうもスイマセン。色々とお手数を掛けます」




「はあ、さゆりさんには悪い事したな、後で手伝いに行こう。

後なんか忘れてた様な気がするけど…………ま、いっか」


立ち上がって、「しょうがないか」と呟いて、

遅めの軽い食事を取り、道場でいつもの様に子供たちの相手を務める。




「気持ちいい、さっぱりするな」

小・中学生相手の剣道ってもの意外と力の加減が難しいな、まだ慣れてない証拠だな。

庭の水道で頭から水を被ってから息を抜く。

こんなに暑いと道場の中はさらに暑い、その上防具なんで着込んでるからよけいに暑くて着込んでいられない。

よく晴れた日曜でこんな日はプールとか海って混んでるんだろうな。

今度、誘って行ってみようかな?



「よう、来たぜ。剣道まだやってるんだな」

鷹斗が後ろから声を掛けてきたけど今は疲れて振り返る気分じゃない。

「一応家業だからな、続けてるさ。鷹斗1人か?やけに早かったけど」

「いや、父親と一緒だ。もう向こうに行って親父さんと始めてるんじゃないか?」

「そっか、俺は風呂に入ってくるから、皆が来たら先に始めてくれ」

そう言って、後ろには鷹斗とセミの鳴き声を残して、家の中に入っていく。



シャッーーーー

シャワーを浴びながら考えている。


花火大会……か。いつからだろうな?

集まって行く様になったのは……たぶん小学校の頃からだと思うけど。

あの頃から色んな事があったな。

たしか、小学校の頃は俺が迷子になって泣きながら帰ってきたら、瑞希も泣いてたな。

あと、帰り道で川に落ちた事もあったな。

一昨年は沙紀が隣町の中学校のヤツに絡まれて鷹斗と一緒に喧嘩したよな。

考えると毎年何かしら起こってるな…………今年はどうなんだろうな。



風呂に入った後、部屋に戻ってから普段着に着替える。

こう見えても風呂ってかなり好きで1時間ほどは余裕で入っていられる。

部屋の中で何か無いような気がするけど気にせず、すでに始まっている道場へと行くと、

「結構騒いでるな、外まで丸聞こえじゃないか」

口にはいつもの煙草をくわえて道場へと進んでいき扉を開けると、


………………な!……

一瞬固まって扉を閉めた。

……なんだこの騒ぎようは、10人はいるからな。しょうがないか。

さゆりさんのところに行って手伝ってくるか。


台所に行くと酒のつまみを作っているさゆりさんがいた。

そりゃ、10人も入れば作る量も1人じゃあ大変だろうな。


「さゆりさん手伝うよ、何作ればいい?」

椅子に腰掛けながら後姿の小百合さんを見ている。

「悠稀君、こっちはもう終わるから皆のところに行ってらっしゃい。こっちはいいから」

「……じゃあせめて、出来たもの持って行くよ」

 少し悩んだように手を顎に添えていて、

「じゃあ、そこにあるものお願いします」

そう言うとテーブルにある料理を指し、俺は4皿ほどお盆に載せて、

「終わったら、こっちに来て下さいね、センセ」


そう言い残して道場に行くまでにいくつか食べてみるがこれがまあ……相変わらず微妙な味付けで……酒呑んでいるから関係無いか。



「ちわー、追加注文お待ちー」

抑揚の無い声で道場の中に入って行って、鷹斗たちの姿を探して「こっちだよー」と沙紀が手を振っていたので行くと、後ろからいきなり抱きついてきて……、


「あー、まだここに素面の不届き者がいるわよ!」

「なっ! ……もうでき上がってんのか?」

瑞希がコップ片手に嬉しそうに笑っていたが、


「コラー、おねいさんの酒は呑めないのー?そんな事言う人にはこうだ!」

急に持っていたコップの中身を飲ませ…………んっ! これ!!


「どお? いいでしょこれ。こんなの初めて♪」

「これって日本酒だろ! しかも大吟醸!? ……どっから持ってきたんだ?」

親父はビール派だからここにもビールしかないハズなんだけど。

そうすると瑞希は、悪戯心満点の顔で、


「ふっふふ、ぢつはぁ、さっきぃ悠の部屋で見つけてぇ、持ってきちゃいました♪」

「おっ、俺の楽しみをよくも!!」

「いいじゃん、もう呑んじゃったんだから。気にしない、気にしない♪」

うう、今年の正月に5本程とって置いた最後の1本だったのに……

瑞希は調子に乗ってグラスの中身を一気に呑んでいた。

俯いてもしょうがない、沙紀の所に行くことにしよう。


「どうだ? 楽しんでるか?」

「うん、これってビールの苦いのと違って飲みやすいから。」

と、持っているコップを見ると思った通りに無色透明。

沙紀まで俺の楽しみを……

もう…………いいや、どうでも……


ん? そういえば鷹斗のヤツが見えないけど、

「なあ沙紀、鷹斗のヤツ何処にいるか知ってる?」

「あそこにいるよー」

と、指差すほうを見ればなぜか人垣、と後ろには……トーナメント表?


「で、あそこで何やってんだ?」

「んーとね、早飲み、とか言ってた様な気がするよ?」

 何だよ……早飲みって、牛乳じゃああるまいし。

「まさかな……ちょっと見てくる。」


人垣の中には確かにチラッと見えたけど鷹斗がいた、しかもなぜ真ん中?

トーナメント表よく見てるとそこには長里(子)の文字が……ってことは?

横から行って見るか……隙間をより分けながら中の様子をよく見ると、…………やっぱり。


「……ん……んっ……ん……んっ……っだあ、おっしゃあ!!」

「……っかあ、負けた!!」

「子供なんぞにまだまだ負けてられるか!」

ばっちり参加してる。……しかも結構でき上がっちゃってるし。

見なかったことにしよう。そのほうが安全だ。

ここにいたら、ぜ・っ・た・い・に参加させられる! ……戻ろう。



沙紀と瑞希の3人で話してると、後ろに誰かいるような気がして振り向くと、

「オラ! ボケ息子、酒が無くなりそうなんだよ! 持ってきやがれ!」

 そう言うなりいきなり人の膝に足を乗せてきた。ああ、こうなったら、もう手がつけられない。

「分かったよ、持って来ればいいんだろ?」


後ろで頷いてる親父は無視して「こっちにも持ってきてね」

とか瑞希まで乗ってくるし、まあぁいいや、ついでにさゆりさんも呼んでこよう。

さゆりさん何処にいるんだろ、やっぱり台所かな?


…………いない、じゃあ、居間か? …………いた。

ちょっと疲れたのかな……。


「さゆりさん、どうしたの?こんな所にいて、向こうには行かないの?」

俯いていたさゆりさんは後ろから声を掛けられて、初めて俺の存在に気付いたらしく少し驚いていた。

「え? 悠稀君……あまりお酒って強くなくて……、それに私って人見知りする方だから、知らない人が多いところは、だから、ね?」

「大丈夫だよ、さゆりさんの知っている人の所にいればいいよ」

 鷹斗たちとは学校でも会っているから連れて行けば大丈夫だろ。

「でも……私…………」

「いいから、いいから。俺に任せなさいって」



「ほらいいから、さゆりさんこっち」

「強引なんだから、学校とは大違い。でもそんなにお酒持って全部飲んじゃうの?」

 手には350mlの缶が30数本ほど入ったかごを手にしていた。

「これは親父たちの分。俺の分は……どうだろ残ってるかな?」


そのままさゆりさんと2人で宴会場と化した道場へ行くと、

さっきのトーナメントがちょうど終わった頃で、勝ったのは鷹斗の親父さんか、このうわばみ親子め!

そのまま親父にビール缶30本ほど渡してから鷹斗達の所に行く。



「さ、こっちだよさゆりさん、ここだったら皆知ってるでしょ?」

「長里君に神崎さん、名和さんまでどうしてここに?」

『先生?』

あれ?何か予想と違った反応…………まさか、知らなかったのか?

「悠稀」

「悠君」

「悠」

 一斉にこっちを見て一瞬の間が開く。

『どういうこと(だ)(よ)?』

見事にハモったな。どうしよ、なんて説明すればいいかな?

でもこうしてあいつらが驚いてるの見てるのもいいか。

あ、瑞希はビールの缶を後ろに隠してる。鷹斗はどっかに走って行くし、沙紀は、……固まったまま動かない。

お? 鷹斗が戻ってきた。


「どっ、どういうことだ!……はあ、はあ、……嵌めやがったな! 説明しろ!」

あちゃー……、怒ってるし、息まで切らして。なんて説明しようか。


「まあ、落ち着けって説明するから、とりあえずこれでも呑んどけ。」

ビールを差し出すが無視して詰め寄ってくるし、しょうがないからさゆりさんに渡した。

「あ、ありがと……んっ、んっ、……」

 開けたら速攻でイッキですか……。

「悠、早く説明しなさいよ!」

「どうして先生がいるの? 悠君教えてよ」

瑞希と沙紀がかじりついて聞いてきた。そろそろヤバイか、こうなったら……。

煙草に火を点けて、「フー」と一息、


「俺の大切な人」

軽めのジャブって事で肩をグッと寄せて、言った。

「……………………」

んー、反応がない。もう1回言ってみようか。

「俺の大切な人」


「うっ、……うっ、……えぇぇぇん!」

あちゃー、軽めのジャブじゃなくて、逆にクロスカウンター喰らった。

「さ、沙紀? いや、違うんだ、だから、な。泣くなよ、頼むから。」

「うっ、……ほんと?」

 マジで泣いてるんだよな……こいつ。

「ホントだから、ホントだから泣くなよ、な?」

 慌てて沙紀を落ち着かせようとするが中々落ち着いてくれない。

「本当に? ホントに本当?」

「ホントだから……落ち着け……」

「でも学校でもかなり仲いいし……」

よく見ていらっしゃる。

でも本当にビックリした。急に泣くんだもんな、鷹斗と瑞希は後ろで睨んでるし…………

そろそろホントの事言っておこう。

「えっと、ホントは……なんていうか…………」

怖い……目が怖いよ、皆さん。説明するのも……なあ。

横でさゆりさんは勝手に飲んでいらっしゃるし…………


「ホントは、まあ、なんていうか……母親……です」

うぁぁわぁぁぁー、……信じてねぇって目してるな、でもホントだし。


「ホントよー、悠稀君は大切な家族よー。だ・か・ら、こんなこともしちゃう!」

「さ、さゆりさん?」

いきなり抱きついてくるし、しかも何か瑞希と沙紀は睨んでるし、

鷹斗は羨ましそうにしてるし…………なんか俺って悪者?


よく見たら空き缶が5本も転がってるって、さゆりさんって何気にピッチ早いな。

しかも弱いって言ってたからもう酔ってる状態だな。

「悠君! ちゃんと説明して!」

珍しいな、沙紀が怒ってる、本気で怒ってるな。


「親父の再婚相手さ、ホントに。だから……落ち着けよ。」

「悠君、それ本当?」

「何度も言わせるな、驚かせて悪かった。」

「はい、はい、今日は楽しくいきたいんだから、沙紀だってもう泣かないよね♪」

 さっと瑞希が俺と先の間に割り込んでくれて沙紀を落ち着かせてくれた。

「うん♪」

瑞希がこの空気を洗い流してくれなきゃまだ続きそうだったな。瑞希には感謝、感謝。




…………で、何でこうなる訳?

さゆりさんは後ろからずっと抱きついたまま寝てるし、

沙紀は沙紀であの後から俺の左腕を掴んだまま呑んでると思ったら今度は寝てるし、

鷹斗と瑞希は何事も無かった様に寝てるし、……俺の大吟醸は空になってるし。

極めつけに他の大人連中はお開きだって帰ってしまい、

親父は親父で「呑み直す」とか言って鷹斗の親父さんとどっか行っちまうし…………



「俺にこの状況をどうしろと?誰か助けて!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ