才能を持たない少年の話し
コンッ!
カンッ!
高めの木の音が裏庭に響く。
立ち会うは二人の男性。両者の年齢は大きく離れている。かたや十代、かたや三十代。
その少年と男性、二人の親子の修行風景。父親が師で子が弟子。
「ハッ!」
「………。」
声を漏らす少年。ただ、父親には息切れどころか構えさえ見せていない。
「フッ。」
ガンッ!
強めの音が響き少年の手から木剣が飛ぶ。
「そこまで。」
父から告げられたタイムアップ。かれこれ、十五分打ち合ったが、父にはまるで通っていなかった。
「今日はここまでにしよう。」
「………はい。」
父に剣術の教えを請うたのは息子。
しかし、彼はまるで強くなれなかった。
別にサボっていたわけではない。むしろ、同年代の剣術を学ぶ男の子より努力を積んだほうだろう。
しかし、筋力はそこまで付かず、相手の剣には反応できず、攻撃魔法は大して伸びず、何度も降った木剣もいうことを聞かなかった。
そんな彼の名は、アルク=クレブス。
戦闘における『才能』を何一つ持たない15歳の少年である。
1
「はぁ~。」
「そんなため息つかないでください。幸せが逃げちゃいますよ。」
「あっ、はいすいません。」
「まあ、稽古が終わったばかりで疲れているっていうのもよくわかります。けど、そんな雰囲気じゃ周りの人以前に自分自身にも良くないですよ。はい、はちみつティー。」
「ありがとうございます。」
「どっちに?」
「両方です。」
ここは、街にある冒険者センターのカウンター。アルクが一週間後に所属する施設の名前である。
カウンターにいる少女と女性の間で揺れ動くおっとりとした人。
彼女は、エレナ=ルーチェ。冒険者センターの事務及び家事担当の女性である。
「しかし、あと一週間ですか。アルクさんの活躍が楽しみですね。」
「自分はまるで戦えませんよ。」
「それでも、やっぱり楽しみじゃないですか。なんてったってレイフェル第1学園を主席卒業した優等生なんですもん、期待しちゃいますよ。」
「戦えないから勉学を頑張っただけですよ。」
「頑張っただけで主席卒業はできませんよ。すごく頑張ったんだと私は思いますよ。」
「うっ………ちょっと、エレナさん。」
「ふふっ。」
冒険者センター。センターと呼ばれるその施設はこの街、レイフェルにも存在する。
センターとは、人々の依頼を受け、近場の仕事から未開の極地までその依頼をこなす人たちの集まりだ。
依頼の内容も様々で、隣町への警護に希少な素材の入手、はたまた危険性の高い生物の討伐と多種多様。もちろん、レイフェルだけでなく街であればほぼすべてのところに存在している。
センターによって得意分野が違うことも多い。
戦闘を得意とするセンター。素材の探索を得意とするセンター。なかには人の治療を得意とするセンターまである。
その中でも、どんな分野の依頼でもこなすタイプのセンターもまた存在する。
その一つがここ、冒険者センター『ポリ・フォルティス』。
レイフェル唯一にて、数ある冒険者センターの中でも最強の一角とも謳われるエリートセンターである。
なお、冒険者になる人ほぼすべての人は、学校を卒業してからセンターにつく。
この街では、学校に行くことは無料で自由。その中でも領主が教育を受けることを推奨しているのでほぼ100%の修学率を誇る。たとえ、親の仕事を継ぐことが決まっていても、学校にだけは行くのがこの街では普通だ。
卒業時の齢は順調に進級すればだいたい15歳で卒業し、16歳程から働き始める。
これは、冒険者にかかわらずほかの職業もそのような形式を取る場合が多い。
閑話休題
アルク=クレブスの父であるアトラ=クレブスは、このレイフェルの警備兵長である。
警備兵は世襲制ではないのでアトラも、母であるマリィ=クレブスもアルクの進路は自由に決めさせている。
数ある進路の中で、幼い頃にアルクが夢見たのは冒険者だった。
子供の頃に冒険者に憧れる子供は多い。おとぎ話や物語で活躍する冒険者は数多く存在したからだ。ノンフィクションの物語があったのも要因の一つだろう。
ドラゴンに対して剣一つで挑む者、大怪鳥に自身の魔法で挑む者、ゴーレムに自身の身一つで挑む者。
しかし、ある程度の年齢に達すればその熱は冷めてしまう。大概の理由は、自分には出来ないだろうというあきらめ。実際の依頼にそんな伝説じみたものはないが、やはり危険な依頼も数多くある。それもまた事実だろう。
冒険者の才能を持たないものは大抵、諦めてしまうのだ。
でも、アルクはあきらめなかった者の一人である。
常人より才能を持たないアルクがあきらめなかった。
いや、あきらめきれなかったのだ。。
回想
アルクは幼少時、両親との旅行中にはぐれてしまったことがある。
山と海が隣接するその場所は旅行場所とあって魔獣、猛獣などはいないと言われる場所。
そんな安全地帯で、アルクははぐれの大怪鳥、ガーネラに襲われた。
ガーネラは冒険者にとっても危険と言われる大魔獣だ。
人間も捕食し、魔獣の中でも強力な魔獣さえエサにする。それに何より、凶暴だ。
その赤き羽毛は触れるだけで大火傷をするほどの高熱を帯びている。
火炎ブレスだけでなく、体のいたるところからの火炎放射に苦戦する、また犠牲となった冒険者も多い。
そんな大魔獣に、当時のアルクは幼すぎた。
ガーネラは当然、食料であるアルクに襲いかかった。
必死で逃げるアルクも、ガーネラの前では止まっているも同然だった。
そこに、――――――魔法剣士が立ちふさがった。
その魔法剣士の冒険者はアルクを結界で保護し、ガーネラへと向かった。
結界の中からアルクは、その戦いを見ていた。
巻き起こる火炎。躱す冒険者。炸裂する攻撃魔法。
彼の青年の前では大魔獣と謳われるガーネラが、切り刻まれ、吹き飛ばされ、最後には紫電に焼き殺された。
両親に送り届けられる間でも、彼は優しかった。見た目がゴツくなかったのも気を許した一員だろう。
アルクが憧れるのも当然の結果だった。
後に知ったことだが、父によれば彼はトップ冒険者の一人。魔法剣聖、リーヤ=アトラー。
冒険者を目指し、彼にあこがれ、また会えるのではないかとちょっと打算を働かせる。
リーヤ=アトラーを目指す。それがアルクの目標だった。
回想終了
話を戻す。
冒険者は難しく、危険な仕事。だが、冒険者が得られる富と名声は大きい。そして何より人々の願いを叶える誇り高き仕事として憧れる人も多い。
冒険者の実力はピンキリで所属するところにもよるが、アルクの所属する『ポリ・フォルティス』は、その名を轟かすエリート中のエリートセンター。当然、そこに所属する冒険者たちの実力は折り紙つきだ。
右に出るものがいない剣の実力者。多くの、そして強力な魔法を操る実力者。そして、パーティを組まず、たった一人で危険な依頼をこなす実力者。
そんなレベルの実力者たち、人数にして37名。そんな彼らの集まる場所。その名の由来は、多くの強者。
「いくら主席卒業でも、戦闘がからっきしの自分がなぜここに入れたのか、今になってもわからないんですよね………。」
「ここを目指して頑張ってきたじゃないですか。それに、何か役に立てることがアルクさんにあるから、リーダーがここに入れたんだと思いますよ。」
「分かっています。戦闘の出来ない自分ですけど、ここに入るからには全力でやらせていただきますよ。」
「そうこなくては。私も頑張りがいが増えるというものです。」
「ありがとうございます。…まずは一週間後のために、好スタート目指して練習してきます。」
ヒョイッ。と、カウンターの椅子から降り、懐の小銭を出そうとした。それをエレナが手で止め、首を振る形で断った。
「ここは私が奢ります。アルクさんにはこれから頑張っていただくんですからこれくらいのことはさせてください。」
「わかりました。ごちそうさまです。」
そのまま出口へ向かう。アルクに戦闘の才能はない。それでもやはり魔法は使える。ただ、攻撃魔法や味方への強化魔法ははっきり言ってショボイ。それでも、回復魔法に作成魔法とやれることはある。さっき述べた練習とは、魔法の練習なのだ。ちなみに、剣術を鍛える場合は訓練と本人は言う。
「待ってくれ。」
突然後ろから聞こえた低い声。たとえ初見でも、その貫禄には重役のオーラを感じるだろう。
そしてそれは事実だ。このエリートセンター『ポリ・フォルティス』を支えるセンターリーダー。そして、センター最強の冒険者。
その名は、デルタラ=ゴールディ。
「君に頼みたいことがある。」
「はっ、はい!わっ分かりましゅた!」
さっと、振り返りビシッと手を揃えた直立不動。この街の冒険者の中でもトップクラスの人物に声をかけられるどころか、頼み事までされてしまった。
アルクの様は、仕方ないと言えば仕方ないだろう。
「そんなに緊張しないでくれ。カミカミで、しかもまだ内容を言っていないぞ。」
「アルクさん、落ち着いてください。ほら、深呼吸。」
「は、はい。ハー、ハァー、ハー、ハァー。」
「深呼吸は、鼻から吸って口から吐くんだが?」
「アルクさん!落ち着いて!」
しばらくお待ちください。
「落ち着いたようだな。
「はい、迷惑をおかけしました。」
「いや、まだ入ってさえいない新人に余計な緊張を与えてしまった私にも問題はあった。謝らなくていいからな。」
「はい。」
「さて、君には頼みたいことがあるんだ。」
「自分に頼みたいこと………ですか?」
「そう、君のその頭脳を借りたいのだよ。」
「は、はあ。」
「まあ、来れば分かる。付いてきてくれたまえ。」
2
カツッ、カツッ。と、石の床を歩く音がする。
ここは、センターの地下通路。先日の案内によれば、ここは地下倉庫に続く通路のはずだ。
ただ、その日は通路の入口までしか案内させてもらえなかった。貴重な物品がいくつも保存される地下倉庫は、センターの冒険者でさえ許可がなければ入室できない。そもそもリーダーによる魔法の錠がかかっているのだから、倉庫に行くだけ意味はない。
正直、何があるのか気になるアルクだが、それ聞かない方がいいだろう。
デルタラは、来れば分かると言ったのだ。聞くというのは彼の指示に逆らうということになってしまう。
「………………。」
そしてついた扉の前。
パッと見では、まるで無警戒。しかし、魔法学が優秀だったアルクにはわかる。
この地下倉庫の魔法の錠は、難攻不落の要塞だと。
それだけではない。魔法以外にも様々な防護がある。扉、壁の材質。建造方法。上げればきりがない。
正真正銘の要塞だ。
スッ、スッ、スッ。
デルタラの解錠が終わる。
ギギギギギイイィイイ。
開いた扉。再び進むデルタラに続く。
周りにあるのは金銀財宝ではなく、多種多様なマジックアイテム。武器に水瓶。さらにはアレクでは分からないようなものまで、実に様々だった。
「これだ。」
着いた目の前。大量の本、本、本。すべての本から出る強烈な魔力。おそらくすべての本が魔道書だろう。その巨大な本棚から、デルタラが一冊を取り出していた。その一冊の魔道書を、アレクに手渡す。
「これは…。」
強烈な魔力の中でも、異彩な雰囲気を出す一冊の魔道書。強烈ではなく異彩。魔力を感じなければ魔道書なのかさえ怪しいだろう。
その本の表紙にはこう書かれていた。
『全知の書』
デルタラに目配せすると静かに頷き、本を読む許可を出す。
ページをめくると、描かれた文字………なのだろうか。どの古代文字とも違うため、さっぱり解読できない。
『我、汝との対話を望む』
詠唱したのは翻訳魔法。古代文字や読解不可能な文字を読む場合必須の魔法だ。
だが、それはいとも簡単に無効化された。
「これって………。」
「ああ。『全知の書』。別名、『異界の書』。今まで全く解読されていない、謎の魔道書だ。」
「全く、って!誰一人として読めなかったんですか!?」
「ああ。この魔道書から放たれる魔力は大したことないんだが、どうも強力なプロテクトがかかっていてね。この魔道書に対する魔法は一切無効化されてしまうんだよ。先天性魔法も含めてな。それともう一つ。一回閉じて、また同じページを開いてみてくれ。」
言われたとおりに指示に従う。再び開いたページは相変わらず読めない。
ただ―――――。
「違う………文字?」
そう呟き、もう一度試す。
今度は同じ文字。読めないのも同じ。だが、書かれている内容は違うものになっていた。
「この魔道書は付属の栞を挟まないと別の内容に変わってしまうんだ。ただ、何かしら念じた場合。その念じた内容が中身に反映される。そして、最初の数ページは何度開いても文字が変わらないのだ。まあ、内容は全く分からないがな。」
「そんな魔道書を、なぜ僕に?」
「君に、解読してもらいたいからだ。」
「そんな。何故、卒業したばかりの自分にこんなことを。」
「君の成績とやる気と………、あとはカンだ。」
「………。」
「そう構えなくてもいい。制限時間はないし、期限も設けない。ただ、これからの仕事の合間にちょっとやってくれるだけでいい。」
3
ペラリ、ペラリ。すーぅ、ポキポキ。
「うーん。………さっぱりわからない。」
夜。アルクの部屋。一応、頼みを任された以上、やれるだけのことはやっている。
だが、やはり成果は出なかった。既に夜も遅く、周りの家も、両親も、既に寝静まっていた。
(もうすこし。頑張ってみよう。)
開かれた、魔道書にノート。アルクが行なっているのは言語の解読だ。
魔法による翻訳は捨て、地道な解読作業に没頭していた。
そして努力の成果か、気づいたことが一点ある。
(たしかに、こちらが念じたことに内容を反映してくれる。読めないけど。でも、翻訳と念じたら辞書のようなものが書かれていた………と思う。こっちの言語に合わせてくれないし…。)
ここまでは、この魔道書に挑んだ幾人もの先人達も出した結果だ。
だが、ここまで。これ以上を踏み出せずにいた。それは当然、未だ存在しない文字の辞書もなければ、扱う人もいない。どんなにやっても、同じ文字があることがわかるだけで解読は出来ない。
それでも、アルクは未知の魔道書に挑む。アルクに戦闘の才能はない。だから、ほかで役に立てることを頑張ってきた。
デルタラに頼られたから。これが初めての依頼だから。そして、冒険者センターの一員になるために。
アルクは作業に没頭した。
4
君はどんな人間なんだ?
(どんな…。戦う……守る才能のない人間なんだと思う。)
君は何をしたい?
(自分………は、役に立ちたい。頼ってくれる人の力になりたい。)
それはどのような方法で?
(出来るなら、なんでも。病気の人なら治癒の手段を探して、襲われている人ならなにがなんでも守りたい。)
それは人を傷つけてもか?
(出来るならしたくない。でも、自分も含めて傷つくだけで死ぬ人が助かるのなら妥協して欲しいと思う。)
その人の大切なものを奪ってもか?
(それはしたくない。差し出してくれるならまだわかるけど、嫌なことを本人に強制は出来ない。)
そうか…。
これは、巨大な力を持つ。君の無才能を吹き飛ばすほどに。
知識は武器で、盾で、薬で、毒で、宝で、ゴミで、偉大で、危険だ。
この力は、間違ったところに向いてはいけない。
間違えば、この星は終わってしまうのだから。
(うん…。)
それでも、君は間違えないか?
(わからない。自分は…、僕はまだ未熟だから。)
左様か。
(でも。)
?
(人は、間違ってもやり直せると思う。)
取り返しがつかなくなってもか?
(取り返しがつくまでは。)
………………君は未熟だ。
(わかってる。)
だが、自分が未熟と自覚し、理想が高く、そして青い。
(うん。)
少し、試してみよう。
(?)
君の理想が見たくなった。
(僕の…理想?)
君に力を見せてやる。
数多の先人たちの偉大な足跡。
幾多の研究者の誇り高き発明。
過多な力を持ちすぎた暗黒史。
雑多な数の尊く優しい力まで。
(………………。)
我と心を通わせて、君の心に従って、我らの心は逆らわず。
君の信ずる心を貫け!
5
「うー…ん。ハッ。」
ガバッ。
そこは夜と同じ、アルクの部屋。ただ、起きたのはベッドではなく机。どうやら作業中にそのまま眠ってしまったらしい。
「うっ。……体が痛い、眠り足りない。」
無理な体勢で寝ていたためそれも当然だろう。
(夢、だよね…。)
ふと思い出した、睡眠前と後の間の記憶。
(でも…。)
ふと、その魔道書に目を向けた。
(やっぱり読めないや。)
そこにあるのは、未だ読めない未知の文字列。当たり前といえば当たり前。
ただ、なんとなくだが。アルクはこの魔道書に親近感、それよりももっとはっきりした―――――信頼を感じていた。
『我、汝との対話を望む』
………………不発。
これも変わらず当たり前。
そこに、ある呪文が頭をよぎった。
『我と心を通わせて、汝の心に従って、我らの心は逆らわず、我の信ずる心を貫く』
この世界に存在しない翻訳魔法。なぜ、この呪文を唱えたかはわからない。はたから見ればバカバカしい光景。
だが、アルクは前人未到の偉業を成し遂げた。
「っ!?よ………。」
読めるっ!!
そこに書かれていた文章は。
でん-りゅう【電流】『物』電気が導体内を流れる現象。一秒間に一クローンの電気量が流れる場合を電流の単位とし、これを一アンペアという。記号 A
(………さっぱりわからない。ああ、辞書を求めてたままだったから説明文があるのか。そうはいっても、内容は全然理解できないけど。)
だが、これではっきりした。
さっきのは夢だが現実だ。
おそらくは、この魔道書が自分を試している。
だが、読めるということは目次の説明文がわかるということ。
そしておそらく、その目次とは最初の変わらない数ページだろう。
まずは、その説明文を読み始めた。
全知の書(武器編)
この世界に存在しない書物を写す書。
使用者の求める武器の知識をこの世界の外から検索する。
異世界の情報提示のため、『辞書』が備え付けになっている。
とどめておきたい書になった場合、栞をはさむか次ページに開かれた書のタイトルをかざすことで登録できる。
この書物には、書き込みは出来ない。
たとえ書かれても、この書物はそれを吸い取り消し去る。
この本は、使用者以外、読むこと、理解することは出来ない。
この本の内容をほかの物に書き写すこと、他の者に教授することは使用者でもできない。
何も念じず開いた場合、異界の武器の書からランダムで映し出す。
この世界の書物を映し出すことはできない。
なお、このページ及び次ページは何度開いても変わることはない。
また、この本は使用者を選ぶ。
この本に見限られた場合、この本のすべての恩恵を使用者から消去する。
汝の求めた知識によって、汝の信ずる道を進め。
書かれていたのは信じがたい内容。
別名通り、異世界の知識を映し出す書。
使用者の求める知識を世界の外から検索する書。
(使用者の求める武器。なら……、才能のない自分に……………戦う力を!)
アルクが最初に求める知識。それは自らの才能の呪縛を打破する力。
開かれたページ。そこに書かれていたのは設計図。
今まで、求めても出なかった図に違和感を覚えながら。
その、設計図の武器の、映し出された本のタイトルに書かれた名前を読む。
(銃?って、どんな武器なんだ?)
武器であろうことはわかる。アルクが望み、この書が司る分野なのだから。
その中身を見て驚愕する。すぐさま、説明通り指をかざす。
すると、
『〈設計図:拳銃〉を一覧に登録しますか?』
『はい』『いいえ』
と文字が浮かび上がる。
当然『はい』を選び、そして銃について検索した。
「こんな………武器なんて………。」
自らの持った力に今更ながら怯え出す。この世界の制作魔法を駆使すれば、かなり難しいが作れない訳ではないだろう。
そして、攻撃魔法以外が優秀だったアルクにも、制作は可能だった。
銃にも様々な名前が書かれている。
拳銃、ライフル、魔装銃、レーザー銃、魔砲。
他にも、爆弾、刀、銃剣、様々な攻撃魔法。
この世界には存在しないオーバーテクノロジー。
だが、これにはいくつもの欠点があった。そもそもこの世界には、『カヤク』なるものは存在しない。
攻撃魔法も根本から違う魔法だし、レーザー銃などに関しては何で、どうやって攻撃するかさえ理解できない。
金属も、まるで違う物質だ。違うもので代用しても、同じ効果を表すかは保証できない。
そして作る難易度も問題だった。確かに作れないものではない。だが、いくら頑張っても制作できないような品物がゴロゴロ存在する。作れるものでさえ、制作期間は1ヶ月を越すだろう。それほどにまで精巧な武器たち。『ダンヤク』もその範疇に入ってしまう。
ただ、その本には魅力があった。その大きな力に驚きながら、アルクは全知の書を読みふけっていた。
眠気や疲れさえ忘れ、あと6日に迫った冒険者センターのことさえ忘れ、………いや、忘れていなかったから読みふけり力をつけようとしたのかもしれない。
これは、後にスーパールーキーとなる、ひとりの冒険者の少し前の話である。
才能を持たない少年の話しを読んでくれた皆さん、こんにちは。
赤川島起です。
以前から、ちょくちょく小説を書いていた自分ですがこの小説家になろうでは、この作品が初投稿です。
一応、二次創作SSで、『とある魔術の禁書目録』も制作中で、こちらはまだまだ時間が掛かりそうです。
まあ、中編で全部書き上げてから徐々に投稿、手直し使用としているので時間が掛かって当たり前なのですが…。
ちなみに、この作品は最初は編集(弟)にストップをかけられてオクラ入りだったのですが、手直ししてOKをもらったため投稿に至りました。
割と作品に厳しい編集(弟)で、まあ自分のためにもなりますがね…。
この作品を楽しめていただけたなら幸いです。
続きを書く事があれば、そちらも楽しんでいただきたいです。(そんな予定ありませんが…)
では、ここらへんでお別れとさせていただきます。
ご視聴ありがとうございました。
10/3 誤字修正