戸山羅花 1話
桜が咲き誇り、緊張と期待が溢れるこの季節。ここ、『ワールドアカデミー』は新しく入学する学生達を迎える入学式が執り行われていた。
周りを見渡せば、緊張した面持ちで学園長の話を聞く者、そんな話に興味はないと言いたげに欠伸をしている者もいる。
そんな中、俺だけは、いや、俺を含めた一部の生徒は浮かない顔をしていた。
「はぁ……」
このワールドアカデミーは、普通に自ら進んで入学する人間と、アカデミーという組織によって強制的に『連れてこられる』場合がある。
そして連れてこられた場合の俺では、どうも周りのような雰囲気に合わせられそうもない。
「なんで……なんで俺は能力者なんだ……」
「影原くん!」
「っ!? 樫原!」
入学式終了後、Fクラスに割り振られた俺は教室前で渡された携帯端末(結構重要な品らしい……)を眺めながらボーっとしていると、聞き覚えのある声がした。
「影原くんも入学してたなの! 良かったぁ~! 一人じゃ寂しいなの!」
黄金に輝く髪を揺らしながら言う樫原。
「あ、ああ……」
この目の前ではしゃぎまくっている美少女は樫原 輝。普通はひかる、なのだがこいつの場合はひかりと読む。中学時代のクラスメイトで幼なじみという、よくあるライトノベル的関係なのだが、まあ、だからどうってことでもなく。語尾がなのなの付いているが、気にしない方がいい。そういう属性なのだ。
「影原くんはどんな能力なの? 私はヒーリングなの! やっぱり性格が優しいからなの! うん!」
「馬鹿かお前は。……俺は、闇……らしい」
入学式前に行われた検査では、そう告げられた。
取りあえず手先からそれを放出させてみる。黒い煙のようなものが指から出る。
「わあ……。『闇』なの! Aランクなの!」
「そうだな……」
そういや他の奴らのことは全く考えてなかったぞ……。これのせいでここに来た訳だし。
「ねーねー知ってるなの?ここのクエストって誰とでも行けるなの。それで倒した敵に応じてポイントが貰えるなの。そのポイントで日用品とか、食べ物とか、武器とかも買えるなの!」
「……良く知ってるな。お前」
「ふっふーん! これでも勉強してきたなの!」
「お前はこんなとこに来て楽しいのか?」
「うん? 楽しいよ? まあ、望んだ学校では無いけれど、影原くんもいるから寂しくはないなの!」
普通なら金髪美少女に言われてキョドるものだが、まあ、こいつが言うにはそう深い意味があるわけじゃない。
「お前はそう言う奴だったな……。ほら、席戻れ。HR始まるぞ」
「はぁ~い、なの」
そう言って俺の後ろに座る樫原。
「お前そこなのか?」
「うん。そうなの。だって名前の順でも近いなの」
影原、樫原。確かに近いな。納得だ。
チャイムが鳴り、先生が入ってくる。
「そらー、席につけー。HR始めるぞー」
入ってきたのは若い男の先生だった。
「どんな授業なんだろうね……。楽しみなの」
「そうだな」
本心は全くそう思っていないのだが、適当にあしらっておく。
HRでこの学園の存在意義の簡単な説明と、これからの日程を伝えられ、直ぐに授業は始まった。
「よーし、取りあえずまずは自己紹介と使用能力の説明と、ランクを言ってくれ」
先生に言われて、端から順番に自己紹介していく。
左から順に紹介していくので、左から2列目、前から4番目ということは結構早く来る。
あっという間に自己紹介が続き、直ぐに俺の番になった。
「えーと、長野県から来ました影原 三門です。使用能力は闇でAランクです。宜しくお願いします」
こんなもんでいいか。着席し、樫原に回す。
「同じく長野県から来ました樫原 輝といいますなの。使用能力はサポーターで、Dランクなの。宜しくお願いしますなの」
「そう沈むな。まだまだやり直せるって」
「だってみんな笑うんだもん、なの」
「まあ口癖は中々治らないな」
案の定樫原の自己紹介は皆にとって笑いの対象だった。それもそうだ。見た目は美少女なのに語尾になのなの言っているわけだから。
「安心しろ樫原。すぐに慣れるさ。多分」
「うぅ……。ありがとなの」 どうやら気分はすっかりブルーのようだ。意外と繊細(?)だからなぁ……。
「さて、今日は君たちも良く知らない魔物について説明して今日は下校だ。今は九州以外じゃ殆ど見かけないからな。良く聞いて、覚えておくように」
魔物か……。そんなもの、本当にいるのかねぇ……。
能力に目覚めても尚、未だに信じられないような事だ。明日からは魔物と対峙しなくてはいけないなんて。
「影原くん」
後ろから小声で話しかけてきたのは勿論樫原だ。
「なんだ?」
「樫原くんは寮なの? それともアパートなの?」
「ん……。普通に寮だったな」
「じゃあ私と同じなの!」
「まあ男子と女子じゃ棟は違うだろうがな」
「ああ……。そっか」
「まさか気付かなかったのか?」
樫原は黙って頷いた。
何なんだこいつは。寮を普通の家と間違って認識していないか?
「でも、同じ敷地内なの」
「それもそうだな。同じ学校だし」
「おい影原! 樫原! 喋るならよそでやれ!」
「済みませんでした!」
「済みませんなの」
こんなに喋っていたのは樫原のせいなのだが、ここで言っても後々面倒なので大人しく静かにする。
「……さて、まず魔物だが、こいつにも属性というものが存在する。君たちのようにな。そうすると当然相性が発生する。火は水に弱い、みたいにな。さらにはこちらは魔物がどんな属性を使ってくるか分からないんだ。そこで、君たちが効率良く戦えるよう、俺たちは複数の属性、つまりはグループで戦う事をオススメする。無論、まだ慣れない環境で戸惑うこともあるだろうが、ぜひ、勇気を出して色んな人と行動してみてくれ。魔物については明日からの授業で説明する。次にこの学園の事だが、この学園は……」
退屈な説明がだらだらと続き、終わったのは大体お昼頃だった。
「うー。疲れたなの~」
樫原が大きく伸びをする。
「お前は何をやりたいんだよ。説明の間中俺の背中いじりやがって」
「あ、気付いてたなの? あれはメッセージなの」
「メッセージ?」
「そうなの。『今日はいい天気なの。暇なの〜』って書いたなの」
「知るか! つーか前後の文章が繋がっていない!」
天気と自分の気持ちにはかなり隔たりがあると思う。
「まあまあ、そんな事より早く寮に戻るなの!」
「分かったよ」
別棟だが、途中までは一緒なので樫原に着いていくことにする。
「んじゃ、ここでだな」
「うん、じゃあねーなの」
「はいはい」
校舎はどうやらコの字型らしく、コの縦線部分がそれぞれの教室、上下の横線が能力別の実践教室(?)になっている。その上側から少し離れた所に男女の寮が一列に並んでいる。管理人に自分の部屋番号と、鍵を渡され、案内板で自分の部屋を探す。
「俺の部屋は……四階か。荷物も纏めなきゃだし、急ぐか」
部屋の中は思ったより広く、備え付けとして、テレビ(液晶)、低めのテーブル、冷蔵庫、おまけにキッチンまである。
「よし、んじゃ纏めちまうか」
ダンボールを取り出し、荷物を取り出していく。
「えーと……。服はクローゼットだろ、食器はキッチンで、洗面用具は風呂場か。思ったより荷物預けてねぇな」
もっと生活に関係のない、例えばゲーム機なんかでも持ってくれば良かったな……。暇じゃねぇか。
今更そんな事を言っても仕方ないので、暇つぶしに図書館でも行くことにする。
「……図書館って、どこだ?」
考えても浮かばないものは無駄だよな。早速だが、学園より支給された携帯端末を使わせてもらおう。
「……あ、もしもし? 樫原?」
「……で、ここが図書館なの。分かった?」
「はいはい。どうもありがとごぜーます」
「ちゃんと言わなきゃジュースなの」
「分かったよ……」
礼を言って図書館に入る。そこで同じクラスの奴がいた。名前は確か……大柳。
まあ、だからどうってわけじゃないんだが。同じ闇を使う奴なので、なんとなく気になった。 大柳の隣を通り過ぎようとすると、向こうから話しかけてきた。
「君、僕と同じ闇を使うんだっけ? これから色々あるだろうし、授業中くらいは仲良くしてくれ」
「お前男だったのか!?」
「何だその反応は!?」
マジか……。完全に女だと思っていたぞ……。
「悪い。ちっとマジで女だと思ってた」
「そういう事は言わない方がいいとは思うけどね。……まあいい。僕は大柳 翔太。改めて宜しく」
「おう。俺は影原三門だ。宜しく頼む」
軽い握手を交わす。これなら授業中も一人にならなくて済みそうだ。
「君はもう誰かと組んだのかい?」
「ああ。樫原とな」
「樫原君とかい!? 大胆な!」
「いや待て。あいつとは小学校からの幼なじみだ。別に今日知り合った訳じゃないぞ?」
「ああ……どうりで……」
まあ知らない奴から見ると確かに大胆かもしれない。初日からあんな奴と話せる奴はそういないだろう。
「そういえばあの子はサポーターだったけ? 羨ましいよ。戦闘において重要な配置だからね」
「そ、そうなのか?」
「君はそんなことも知らないのかい? そのくらい基礎知識だよ」
「あ、ああ……悪い」
なんか怒られた。何もしてないのに。
「ところで君はどうしてこんなところに? まさか君も予習かい?」
「いや、なんも娯楽がないからな。さっき頼みはしたが、それまでここに来るのも悪くはないかなと思ってさ」
「そういうことか。まあ、立ち話もなんだし座りたまえ。僕自身の復習がてら、魔物について説明しよう」
「いや、それは大丈夫だ。悪いな」
「そうかい? じゃあ、またの機会に」
軽く返事をしてその場を立ち去る。……なんかこいつしゃべり方が……ナルシストみたい。
一時間ほど適当に時間を潰していると、端末が震えた。
「っと。誰からだ……って樫原か……」
――図書館の前に来てほしいなの。直ぐになの――
「何だよ」
「あ、案外早かったなの。もう直ぐ夕食なの」
「そうだが……どうかしたか?」
「買い物を手伝って欲しいなの」
「は? いや俺らはまだクエストをしてないだろ?」
買い物に必要なポイントはクエストをこなすと報酬という形でこの端末に貯まっていく。ポイント(報酬)は難易度によって変動する。つまりはゲームのように、難しいクエストをこなせばより購入の難しい上位装備やアイテムが手に入るというしくみだ。
そして、まだクエストをこなしていない俺らは買い物なんて出来ないんじゃ……。
「支給ポイントとして最初から端末に入っているなの。それを使えばいいなの」
「へぇ……。まあ、支給がなかったら新入生は初日から餓死だもんな」
そういうことで、俺らは地下にあるデパート的な所へと向かった。
「うっわー。広いなー」
「生活から戦闘中のアイテムと、何でもあるからかなり広いなの」
「こりゃ、下手したらそこら辺のテーマパークより広いんじゃねぇか?」
「そのくらいはあるかも、なの」
地下デパート(?)は地下一階から地下五階まであり、上から生活用品、食品、娯楽用品、戦闘中のアイテム、一般人用武具と別れていて、一階分にまとめたら学園より広くなりそうだ。
「さてじゃあ、買っちまうかなぁ……」
「はいなの」
言うやいなや、俺の後ろを着いてくる樫原。
「おい待てこら。何故ついてくる?」
「ん? 私は料理出来ないなの。だから影原くんに作ってもらうなの」
「いや、お前少しは努力しろよ。てか、俺は女子寮に入れないぞ?」
「許可証はもう影原くんに送ってあるなの。だからオッケーなの」
「許可証?」
「……影原くんは何も知らないなの……」
困った奴だ、とばかりに肩をすくめる樫原。
「いいなの? 基本的に異性の寮は入室禁止なの。だけど、相手、この場合は私が影原くんに許可証を送って、それを影原くんが管理人さんに見せれば異性の寮にも入れるなの。分かったなの?」
「ほー。よく分かった」
「よし、なの。では買い物宜しくなの」
「オッケーお前の料理に対するやる気の度合いが良く分かった。ワリカンな」
「……。分かってるなの」
材料も無事揃い、現在は樫原の部屋にいる。許可証を見せる時は怖かったが、以外とすんなり入ることが出来た。
「さーて、作るから邪魔するなよ」
「じゃあ私はテレビでも観てるなの」
そう言って樫原はキッチンを離れた。
先ずはメインだ。確か……あいつは卵アレルギーだったな。いやまて、他にも……あ、後ジャガイモだ。初日だし、豪勢に行っちまうか。
「……さて、メインの下準備はオッケーだ。次は……」
そんな感じで順調に進み、三十分程で完成した。
「よっしゃ、樫原ー。出来たぞー」
「はいなのー」
二人分の皿を運んで、ご飯もよそってテーブルに並べる。
「……おぉー」
食卓に着いた樫原が声を上げる。
「生姜焼きなの。あと、これは……カルパッチョなの?」
「まあ、そんなもんだな。結構頑張ったぞ? 初日だし」
「影原くん、最初は落ち込んでたのに、復活したなの」
「そういえばそうだな……。まあ、知り合いもいたから大分心も軽くなったのかな」
「じゃあ、影原くんは私のおかげで元気でいられるなの~」
「調子に乗るな」
あまり気にせず、悠々と生姜焼きを口に運ぶ樫原。
「んー……。美味しいなの。影原くんはお店開ける腕前なの」
「言い過ぎだ」
幼なじみとはいえ、女の子、しかもかなりの美少女に言われては、流石に照れてしまう。
「こっちのカルパッチョも美味しいなの~」
「そりゃ何よりだ」
そんな時、また端末が震えだした。
「何だ? えーっと……『先ずは入学おめでとう。影原君。さて、早速で悪いが、我々生徒会からのノルマというものを提示させてもらおう』って初日からからよ」
「私の所にも来てるなの」
「『生徒会のノルマとは、自由クエストの他に必ず挑戦しなくてはならないものだ。これを成功させるか否かで、上位クエストの開放が決まってくる。頑張りたまえ。今回のノルマはA―1地区に発生した魔物を三匹以上討伐すること。このクエストについては討伐数に比例してポイントを加算する。さらにパーティーを組む事も許可する。健闘を祈るよ。 生徒会より』……か。樫原は?」
「私は誰かとパーティーを組んで行動すること。クエスト中でのヒーリングは死と隣り合わせの戦場において重要な役割を持っている、しっかり援護すること。なの」
「ふーん。なら――」
一緒にどうだ? と言おうとしたところで遮られた。
「い……一緒に行こうなの!」
「分かった、分かったから! 近いって!」
身を乗り出して言う樫原を落ち着ける。
「じゃあ、明後日!」
「分かったよ……早いな。つーか」
「わぁぁ……ってごほん! 足手まといにならないで、なの」
「なるか!」
次の日から早速授業で、護身用と攻撃用、それから索敵用の能力を習い、あっという間に水曜日。
「えーと……樫原は……」
取り敢えず校舎前で集合となっていたが……。
「あ、影原くん!」
「おう。準備は出来てるのか?」
「うん。なの」
あれからさらに分かった事がある。どうやら俺と樫原を幼なじみではなく、彼氏と彼女という関係で誤解しているらしい事だ。樫原は気にしないどころか嬉しがっているようだが、俺としてはむず痒い事だ。
「クエストの受注は済ませてあるし……。問題ないな。じゃあ、行くか」
校舎へと入って行く。テレポーターは校舎内にあるらしい。
「えーと……あ、ここだ」
「ちょっと緊張するなの」
大分固い足取りで教室(?)へ入る。
室内は研究室のようで、真ん中にテレポーターらしき機械が置いてある。
「はい。テレポートしますね。どこでしょう?」
職員らしき人物に話しかけられる。
「あ、A―1地区です」
「お二人ですか?」
「はい」
「では真ん中のテレポーターに乗って下さい」
「はい」
あーもう、緊張するなぁ……。なんせ初任務だし……。
「では軽く目を閉じて下さい。3、2、1で目を開けてください。そこはもう魔物の巣窟、四国です」
目を閉じる。先生の声が聞こえてくる。それと何かの機械音。3、2、1……。
「……あれ……」
目を開けると全く知らない風景が広がっていた。崩れかけた建物。ここが九州なのだろう。
「影原くん……?」
後ろから声がした。振り向くと樫原がいた。
「これは……凄いな」
「ここが四国なの。A―1地区はとても弱い魔物が出るなの。と言っても私達は初任務だから、油断は禁物なの」
「分かってる」
地面はアスファルトが剥がれ、砂が剥き出しになっている。その荒れ果てた道を二人で歩いていく。
「探すか……」
早速だが、能力の出番のようだ。
「黒き漆黒なる闇よ。この地に膜となりて光を見出さん」
足下から黒い煙のようなものが吹き上がり、辺りに散っていく。闇の索敵術、『闇の膜』だ。
「うーん……こっちだな」
感覚を頼りに進んでいく。思ったより簡単に見つかった。
術式を閉じ、相手の様子を見る。
「……ちっこいなぁ」
相手は小さな毛むくじゃらの魔物だった。鳥のような足に小さな赤い目が光っている。
「なんか弱そうなの」
「ホントだな」
取り敢えず倒さなくてはならないので、能力を発動させる。
「黒き漆黒なる闇よ。鋭き槍となりて光を突き通せ。」
手元から黒い煙が湧き出て、徐々に槍の形を持って行く。
「よし、初戦の相手はあいつだな」
魔物に突き刺すように突っ込む。しかし、素早くよけられる。
「っ! こいつすばしっこいな!」
槍を振り回すが、まあ、いとも簡単によけられる訳で。
「うぜえ! イラつくなーオイ!」
弱ければ簡単、ということでもないらしい。というかそもそも、まだ俺は全然実戦経験がなく、覚えた能力だって「索敵術」「闇の手」「闇の槍」「闇の盾」程度だし。しかもそれすら使いこなせていない。
「当たれ! 当たれ! おりゃ!」
もはや能力者というより、新米のハンターみたいな気分だ。槍を投げられないところとか。
「あ」
その内偶然当たった。なんだろう。全然達成感ないや。
「よーし。んじゃ次を探しにいくか」
「私は見てなかったけど……勝ったなの?」
「なんでヒーリングが余所見してんだよ。……ああ。無事にな」
さっさと歩き出す。……おお、某有名製薬会社のマスコットキャラクターだ。こんなのもそのまま残ってるのか。
「いねぇなー。索敵術は結構疲れるから……ん?」
「……人影、なの?」
どうやらあちらも気付いたらしく、こちらへ向かってきた。
「やぁ! こんな所で会うとは奇遇だね!」
「大柳! ……ってお前……一人か?」
出てきたのは大柳。ただし一人だ。
「うん。まあ、入学して日も浅いしね。なかなかパーティーは組めないさ」
「誰?」
一人状況を理解していない樫原は首をかしげている。
「ああ、知らなかったっけか。こいつは大柳。俺と同じ闇だ」
「宜しく」
「宜しくなの」
二人が挨拶をする。
「俺らとはパーティー組めないのか?」
「残念だけど、クエスト中は組み替えたり、新たに加える事は出来ないんだよね」
「そうか。じゃあ、お前も頑張れよ」
「ああ。せいぜい死なないように頑張るさ」
大柳と別れ、索敵を再開する。
「じゃあ、残り二匹も倒しちまおう」
「りょーかい、なの」
すると少し歩いただけで、今回は簡単に見つかった。
「二匹いっぺんにか。まあいいや。どうせそんなに強くねぇし」
「頑張って、なの」
「……黒き漆黒なる闇よ。鋭き槍となりて光を突き通せ」
先ほどのように黒い槍を作り出す。相手の一体はさっきの毛むくじゃらの魔物だが、もう片方は犬のようで足下から黒い煙が絶えず噴き出ている。
「闇属性か……。面倒だな」
確か同じ属性同士ではダメージが軽減される、らしい。
「じゃあ最初に雑魚から!」
大きく飛び上がり、毛むくじゃらの魔物に突っ込む。素早いが、徐々に角へ追い込めば良いだけの話だ。
「影原くん! 後ろなの!」
「うわっと!?」
よけた瞬間、黒い煙の塊が通り過ぎる。
「あーもう! 相手してやっから待っとけって!」 犬の魔物を追い払うように槍を振り回す。
「くそっ! 毛むくじゃらはこれで十分だ! 黒き漆黒なる闇よ! 輝く光を掴み、永なる闇で包み込め!」
黒い煙が手のように地面から伸びてきて、毛むくじゃらの魔物を掴む。この手は俺が操作可能で、訓練すれば多くの手を操れるようになる。
「消えろ!」
思い切り叩きつける。毛むくじゃらの魔物は動かなくなり、黒い煙となって霧散した。
「さぁて、残るは……ってうわっ!」
虚空から俺が出したような手が引っかいてきた。
「闇の盾!」
手を前に突き出し、黒い煙を盾のように空中に浮かべる。
「おら!」
盾を解除し、槍で突く。当たったのだが余り効いていないような気がする。
「私も手伝うなの! 愚鈍なる魔物よ、無なる矢にて、罪を知れ!」
樫原がそう言うと、犬の魔物に突然矢が刺さった。
「おお! サポーターって後方支援も出来るのか!」
「いや、基本的に支援系が主なの!」
「止めは、俺がぁ!」
槍を思い切り振り下ろす。犬の魔物は胴体を引き裂かれ、黒い煙となって霧散した。
「終わりか……」
「どうやって帰るなの?」
「ああ、出口用のテレポーターがあるからな。そこで連絡して、遠隔操作で帰らせてもらうんだよ」
「分かったなの」
端末で連絡し、テレポーターで学園へと戻る。
「んー……。結構ゲームみたいで面白かったなの」
「生死を分ける戦いをゲームにされてたまるか」
こうして、俺と樫原は最初のノルマをクリアした。
戸山羅花です。なるべく最後まで書きたい……。本家の方もよろしくです。