プロローグ
――――西暦二一世紀末、二千XX年。
世界は第三次世界大戦の渦中にあった。歴史は繰り返す、とは誰が言った言葉であったろうか。
“代理戦争”というものを知っているだろうか?
人類とは闘争の歴史ではあるが、また同時に多くを学んできた。
その形のひとつが代理戦争。列強に連なる国が他の弱小国を利用し、物資や資金を裏から手配することで代わりの戦争地と成す。
人は歴史を繰り返す。しかし、同時に学ぶ生き物でもある。
核の恐怖。戦火の痕。すべては既に過去のものであったが、それでもその痛みは受け継がれていた。
――ならば、被害の小さな地で戦争をすればいい。
誰が言い出した言葉であったかは問題ではない。結局その提案により、第三次世界大戦は勃発してしまったのだから。
当時の日本は限界であった。
度重なる他国との摩擦、内部腐敗。
軍事縮小の結果、招いてしまった事態。無能な総理大臣。汚職の数々。
肥え太っていく国の借金、増えるのは税金、疲弊するのは国民。
二一世紀初頭、巻き起こった恐慌が収まり、回復の階を上り、到達したのは再びの“バブル”。
そして訪れる崩壊。パラダイムシフトは足音を立てて忍び寄っていた……
技術大国とは既に過去の栄華。今ではアジア諸国に技術で追いつかれてしまい、生産量でも先を越されてしまった日本。
後が無かった――――
大恐慌により世界各国は大打撃を受ける。
切欠はテロであった。相次ぐリストラにより、増えた浮浪者。
流れ出した他国の密輸武器。発生したのは世界各国でのテロ活動。
疲弊した国の対処は遅い。ついに巻き起こった観光者殺害の記事。
日本だけではない、各諸国でも同じような事が相次いだ。
経済は大打撃の影響で生産ラインが一部根絶。治安も悪化の一途を辿っていた。
もう一度言おう。
日本に後はなかった。
行われたのは秘密裏の増札。各国に気づかれるより早く、物資を輸入し拡大される軍事。
――退路はなかった。
このことが明るみになれば、日本の紙幣の価値は半分以下にまで下がることだろう。
それでも後が無かった……溜まりに溜まった負債の数々、負の遺産は既にまともな手法で返済など不可能であったのだ。
そして、時を同じくして秘密裏に行われた協定。
ヨーロッパ諸国との軍事締結。不干渉協定。
同じことを考えていたのは日本だけではなかった。
アメリカもまたこの機に……と考えていた国の一つである。
日本、アメリカ、ドイツやイギリスにフランス、その他様々な国が一斉に、各自の思惑の下に戦火の狼煙を世界に轟かせた。
しかし、これに戸惑ったのは狼煙を高々と上げた筈の国々である。
彼らは過去の悲惨な結末を記録としてだが知っていた。
だからこそ、集まった緊急サミット。
世界連合の場で誰かが囁いた。
――代理の地を立てればよい。
悪魔の如き誘惑。広がる賛同の声。
こうして、幾つかの条約が結ばれた後、アフリカの地を舞台に、第三次世界大戦はその咆哮を轟かせた。
表面上は平和な社会が保たれる裏で、アフリカは地獄の地として阿鼻叫喚の様子をみせる。
次々と投入される戦略、戦術兵器の数々。核こそ使われないものの、凶悪さでは肩を並べるような物ばかり。
忌避されていたガス系兵器すら投入される戦場。そこに命の尊さなど欠片もなく、その重さはきっと一枚の硬貨より軽い。
散って行くのはその国の民が大半であった。各国は資金と物資で見えない糸を操るが如く。
繰り返される非人道的な行為、研究。
その場に最早モラルなんて言葉は存在せず、この世の“悪”が犇くコドクの坩堝であった。
そんなおり、世界に一斉に発信されたとある通信。
――化け物が現れた。
当初は歯牙にもかけなかった通信であったそれは、続々と寄せられ増えていく報告に、遂に各国が一時停戦を結んでまで調査が行われることとなる。
結果。事実“化け物”は存在した。空間が揺らぐ不可思議な場、その向こうからやってくる“異形の生物”。
誰かが言った「あれは、ゴブリンじゃないのか」と。
そう、出現し、被害を拡大させていた生物は、御伽噺やゲームの中で語られるような生物達であったのだ。
原因が判明したのはそれから数ヵ月後。
某国の戦争を有利にする為の研究。本来なら越えることの出来ない壁、それを越える現象。
即ち、トンネル効果を利用した空間の超越技術の研究。
その成果は確かに世界に知られることとなる。
“暴走”という結果で……
研究は失敗。世界を一夜にして覆った特殊な電磁波形は、あっという間に世界の理を侵し、繋がってはいけない世界への扉を開いてしまう。
結果。皮肉にも戦争を混迷化させる為の技術は、世界共通の危機を招き、それにより各国は強制的に矛を収める他なく、第三次世界大戦は終結したのだ。
――――それから数年。
空間の歪みに関する調査が進み、その研究を行った国。
つまりは日本が責任を負うこととなり、完成した技術により特殊な波形の電磁波が世界に向けて発信。
これは電子機器に影響は与えずに、空間の不安定を安定化する作用を持つ。
完全な完成した技術ではないそれは、代償として四国を丸々犠牲とすることになる。
この技術。つまりは、世界全体に広がった異常を四国という地に集束してしまうものであった。
同時、空間の歪みの向こう。
“異世界”より流れ込んだ不可思議な要素。
“魔素”により世界各国で超能力にも似た、あるいはファンタジー的な魔法とも言える様な、そんな特殊な力に目覚める者が現れ始めた。
これにより現代兵器では傷を負わせられない、特殊な化け物にも対抗手段ができ、一時は壊滅的であった軍が生命の息吹を吹き返す。
“能力者”と、そう呼ばれる彼ら彼女らはその後の研究の過程により、魔素によって肉体的要素が変質した結果の果てに生まれた存在だと判明。
そして、その魔素による変質は十代の若者が一番多いことも判明する。
空間の揺らぎの相殺技術。
これが完成するまで、あるいは代替案が出るまでの間、世界連合の協議の結果、結界の張られた四国の東部。
淡路島に世界的能力者育成機関。通称“アカデミー”の設立を決定。
これにより、能力に目覚めたものは国から要請が出され、場合によっては強制的、あるいは能力者側から進んでアカデミーへの入学者が集まっていく。
表向き世界は平穏を取り戻したと言えるだろう。
しかし、その裏で今日もまた“アカデミー”の少年少女達はそれぞれの思いを糧に、異世界の魔物達と戦い続けている――――
後書き
ここまでお読み下さり有り難う御座います。
本作品は四人の作者による合作および、リレー小説となります。
各作者がこの学園“アカデミー”を舞台に、主人公を用意。
時には話を交差させながら進んでいきます。
投稿は一週間で一巡予定。
それではどうぞ、私達“チームカルテット”の初作品。
これからも宜しくお願い致します!
プロローグ担当しました。
by作者名:アンデルセン