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「待ってよラビちゃん! そんなに急がなくても教会は逃げないよ!」
ピンクの髪を頭の後ろで結び、馬の尻尾みたいに揺らしながら僕の前を走るのはラビ・エンローズ。隣の家に住んでいる僕の幼馴染だ。
翡翠を思わせる瞳には紫色の光が浮かび、宝石のようにキラキラと輝いている。
少し赤みを帯びた健康的なほっぺ。将来は美人になることが約束されている可愛らしい顔立ちは、天使が地上に落ちてきたんじゃないかと疑うほど。
学校で男子連中が集まったときなんかに、誰が可愛いかって話題になると真っ先にラビちゃんの名前が上がるからね。
「カイトくん、早く早く!」
手招きをしながら元気いっぱいに走るラビちゃんに呼ばれた名前――カイト・フェルトは僕のこと。
黒目黒髪は珍しいっていわれてる。顔は平凡……いや、おまけして中の上ってことにしておこう。
僕らは今年で13歳。心と体が最も成長するこの時期に、自分がどんな召喚士なのか適性を診断するらしい。
朝早く家に乗り込んできたラビちゃんに叩き起こされて、神父様が待つ教会へと向かってるってわけ。
昼前くらいに行こうと昨日約束していたはずなのに……。
「もしさ、ラビがさ、ドラゴンサモナーになったらどうする? 国王様からお城に招待されたりして! それでそれでぇ……」
「夢を見れるのは今だけだもんね。好きに妄想したらいいんじゃない?」
ラビちゃんが自分の世界に入り込んでしまった。
僕だってなれるもんならドラゴンサモナーがいい。後世まで語り継がれる伝説となるだろう。
「もう、カイトくんたらすぐに意地悪なこと言うんだから! そんなんじゃテイマーになっちゃうよ~だ!」
「……ぐっ。テイマーは嫌だなぁ」
ラビちゃんが楽しそうに僕をからかう。
僕には苦笑いを返すことしかできない。
召喚士には大きく分けて二つ、サモナーとテイマーが存在する。
モンスターと戦い、服従させて従魔にするテイマーは不人気職。
1から5枠ある召喚枠のかぎりテイムというスキルでモンスターを仲間にできて、そのステータスの一部が召喚士に加算される。
従魔と一緒に戦うのがテイマーって感じだね。
でも、長い時間を費やして育てたところで、従魔が死んでしまえば最初からやり直しだ。
そもそも、生身の人間がモンスターと戦うこと自体、ハードルが高すぎる。
最弱のスライムならまだしも、オークみたいな強い種族になんて挑んだ日には殺されてしまう。
服従させるという条件が鬼門なのだ。
対して、魔力の限りモンスターを生み出せるサモナーは人気の職業。
サモナーのレベルが高いほど、召喚できるモンスターのレベルや数、ランクが上がる。
殺されようが怪我をしようが、魔力の限りまた新しく召喚できるのもメリットだ。
それこそ、ラビちゃんの言うドラゴンサモナーになんてなろうものなら、国王の親衛隊かそれ以上に抜擢されるだろう。
武力は国力に繋がる。強い召喚士は国の宝なのだ。
ドラゴンじゃなくても、サモナーだったら街の外やダンジョンでモンスターを倒して生計を立てる冒険者になってもいい。街の警備隊にだって入れるし、国を守る国防隊になれる可能性もある。お金を稼ぐには困らないだろう。
適性診断では、このサモナーとテイマーのどちらかに適性があるのか、どんな種類のモンスターを扱えるのかが分かる。
適性とは生まれ持った才能に近く、何があろうと生涯変わることはない。
テイマーなんか引いちゃったら地獄だね……。
そもそも召喚士って言葉からして変じゃない?
だって、テイマーはモンスターを召喚できないんだから。
何もかもサモナーが基準になってる気がするよ。
「ふっふっふ、安心していいんだよ? カイトくんがテイマーになっても、ラビがすっご~いサモナーになって養ってあげるから!」
後ろで手を組みながら立ち止まり、満面の笑みを浮かべて振り返ったラビちゃんが恐ろしいことを言う。
「えぇ……それもカッコ悪いから嫌なんだけど」
僕はやれやれと肩を落とす。
まだ子供だけど、僕だって男だ。ラビちゃんのことは嫌いじゃないし、むしろ好き……というか。
いやいや、今はそんなのどうだっていい。ヒモになるなんて真っ平御免だよ。僕が守ってあげなくちゃね。
でも、ラビちゃんにテイマーになって欲しいとは思わないよ?
二人ともサモナーの適性があればいいな。例えば、僕がウルフサモナーで、ラビちゃんがゴーレムサモナーとかね。逆でもいいし。
「じゃあ、カイトくんがラビを養ってくれるの? 強いサモナーになってさ、ラビを守ってくれる英雄になったり? ……なんて」
「え? あ……う、うん。そうだね、そっちの方がいいかも?」
ラビちゃんが小悪魔のような顔で僕の反応を窺う。
心臓の位置が変わっちゃったかと思うくらいにドキンと跳ねたよ。慌てて上手く喋れなかった。でも、僕なりの勇気は出したんだけどな。
「ほんとかなぁ? なんか頼りないけど」
「もう、困らせないでよ! 先に行くからね!」
僕の顔は真っ赤になっていたと思う。
恥ずかしいから、つい逃げちゃった。頭から湯気が出ていませんように。




