表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元偽物令嬢は、みんなで幸せになりたい  作者: 花咲 抹茶
第一章 家族編
9/9

第八話 海と髪留め

ブクマつけてくださった方、ありがとうございます!とても嬉しいです。

「バルドさん!海ですよ、海!」


 きらきらと陽の光に輝く青い水面。港町に並ぶ白壁の家に屋台通り。活発に行き交う人々。その上を飛ぶ海鳥たち。乗合馬車から降りた丘で見える景色に、私ははしゃいで柵に駆け寄った。わずかに風に乗った潮の香りが鼻をくすぐる。


「待って、アメルト。危ないよ」


 私が転ぶことを懸念したバルドさんが制止の声を上げたが、耳に入らなかった。


 海……!これまで私は、海を見た事がなかった。前の時間では、アメリアンナとしても、伯爵令嬢としても、内陸の伯爵領と王都以外に訪れたことはない。これが、初めてだ。


「バルドさん!海ってこんなに綺麗なんですね!」

「そうだね。……後で、何か特産品でも買う?」

「買いたいです!」


 王都のギルドでバルドさんに護衛を依頼してから五日が経った。今のところ、買い物をにこやかに提案してくれたバルドさんに、おかしな点は見当たらない。……信頼できる人だと、思う。


 丘から街へ続く階段を降りて、私たちはまず港の乗船受付所のある建物へ向かい、切符を買った。出入国審査は、船に乗る際に行われるらしい。


 必要なものを買ったあとは、観光だった。バルドさんと手を繋いで、屋台通りに入る。


「……いい香り……」


 お肉や魚の焼ける香りが漂ってきた。食欲を刺激され、おなかがぐうと鳴りそうになった。前の時間では、伯爵令嬢として食を細くしていたり、処刑前の地下牢での食事もまともに取れなかったので、最近の私は美味しいものを食べたい気持ちが高まっているのだ。……もとから、食事は大好きなのだけれど。


 近くの屋台に駆け寄って、バルドさんの分も合わせて焼き串を二本注文する。すると、後ろからバルドさんがお金を出して、二本一緒にお会計を済ませてしまった。


「バルドさん……あの、お金は自分で払います」

「片方は俺の分だろう?高くないし、俺に払わせてくれないかな」


 バルドさんはこう言っているが、五日前からずっとこうだ。私がなにかお金を出そうとすると、いつの間にかバルドさんがお会計を済ませてしまっている。宿代と切符代は流石に折半しているが、それ以外はずっとバルドさんが払っているのだ。


 ……悪い人では無いのだろうが、子どもに甘すぎやしないだろうか。子ども想いのミリアさんでさえここまでではない。帝国東部に着いたらお別れする関係なのに、お人好しにもほどがある。いつか誰かに騙されないだろうかとひやひやしてしまう。


「は、い……ありがとうございます」


 レモン汁の効いた焼き串を食べ終わると、他にも地域の特産品をいくつか食べて回った。その途中で、ふと、とある屋台のアクセサリーに目が留まった。


 白い小さな貝殻と安価で透明感のある小粒の宝石が、いくつか連なった髪留め。派手すぎず、地味すぎもしない、非常に私好みのアクセサリーだ。白のワンピースに、とても良く似合いそうだ。宝石の色が紫色と青色であることも、私の心を惹いた。


「アメルト?」

「……あっ」


 ……そうだ。今の私は少年を偽っているのだ。少年が髪留めを買っては、怪しまれるかもしれない。せめてこの国を出るまでは、性別を偽っていることが露見してはいけないのだ。


「……なんでもありません。バルドさん、もうすぐ乗船時間ですよね。そろそろ向かいませんか」

「……そうだね。ちょっと寄っていこうね」


 バルドさんはそう言うと、私の手を引いてアクセサリーの屋台の方へ向かった。懐から小袋を取り出して、店主に声をかける。


「この髪留め、いただけますか」

「はいよ」

「ば、バルドさん!」


 バルドさんは銅貨を数枚取り出すと、髪留めを受け取った。私が見蕩れていた髪留めだ。何故これを、というより、お金の心配が先に立った。この髪留めは、先程の串焼きの数倍の値段はある。これは、奢られるにはいくら何でも高すぎる。


「アメルト。俺が好きで買ってるんだ。気にしないで」

「っ……」


 バルドさんは、屋台通りを抜けてから髪留めを私に渡した。まだ成人の頃よりも少しだけ小さな両掌に乗ったそれを見て、お礼を言いつつ警戒心が募った。


 親切。お人好し。それで片付けるには、いささか甘すぎる。そもそも、今の私は、少年としてバルドさんと接してるはずで、髪も短い。長い髪を纏める髪留めなんて、私に渡しても……あ。


 ――もしかして、性別を勘づかれている……?


 手を繋いでいるバルドさんを、気付かれないように見上げる。勘づいているなら、どうして口に出さないのだろうか。……人攫いをするような人には見えない。油断させてさらおうとしているようでは無いが……


「アメルト。出入国審査だ……ちょっとごめんね」

「……っ」


 悲鳴を上げなかった私を、誰か褒めて欲しい。警戒しながら考え事をしている最中に突然抱き上げられた。子どもを抱えるように私を抱えたバルドさんは、船の前の審査員の質問によどみなく答えた。


「……マランギルドの冒険者ですね。そちらのお子さんは?」

「私の妹です。歳は9歳なので、身分証はありません」

「……妹さんの顔を、見せていただけますか」


 ……やっぱり、勘づかれていた。“弟”ではなく“妹”と確かに言っている。


 警戒心を顕にしないよう気をつけながら、被っていたフードを脱ぐ。審査員はしばらくして頷くと、乗船を許可した。


「乗れてよかったね」

「……はい」


 船に乗り込んだあと、バルドさんは私を下ろし手を繋いだ。そのまま切符をとった部屋に入る。ここでも、護衛のために私たちは同室だ。


 扉が閉まったのを確認してから、私は口を開いた。


「……バルドさん。私の性別、気付いてらしたんですね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ