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元偽物令嬢は、みんなで幸せになりたい  作者: 花咲 抹茶
第一章 家族編
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第五話 護衛依頼

 ……この人は、いったい誰だろう。ミリアさんにフードを被せられたまま、前髪の隙間から男性を覗き見る。


「……ご依頼でしょうか。それとも、冒険者の方ですか」

「これは失礼。冒険者です。そちらの子との話が聞こえてしまって。助けになれればと……」


 鍛えられた体をしている。今は膝を着いているが、立ち上がると身長は180cmはあるのでは無いだろうか。纏っている魔力の量も、常人より多い。魔力の練られ方から、相当な実力者だと見受ける。けれど、私はこの人を知らない。巻き戻り前の時間で、見たことがない。


 ……私が訪れたこのギルド、“マランギルド”は、前の時間、私がお嬢様のふりをしていた時にルカが冒険者登録をするギルド先として勧めてくれたギルドだ。


 見た目が怖く騒がしい人は多いものの、根が優しく朗らかで気のいい人ばかりだったから、信頼出来る。私と出会う前、人との関わりを避けていたルカに積極的に話しかけていたのも、このギルドの人達らしい。だから、護衛依頼をするならここの人達が良かった。受付嬢のミリアさんを始め、酒場にも何人か見覚えのある人たちがいたから、その人たちに頼もうと思っていたのだけど。


「助けにですか?……まだこのお客様はご依頼を完了なさっていません。それに、ここのギルドに依頼するかも……」

「あのっ!……わた……ぼ、僕、ここのギルドに依頼します。依頼は何歳からでも出来るんですよね?依頼させてください」


 慌ててミリアさんを見上げると、男性をちらりと見たミリアさんに、さり気なくフードを被り直させられる。……あまり男性に顔を見せずに済むようにしてくれているのだろうか。そういえば、ミリアさんは子ども好きな人だった。


「……わかりました。まずはお客様のご依頼を伺いますので、あなたはしばらくそちらでお待ちください」

「はい。突然声をかけてしまい、すみませんでした」


 ……このギルドの人にしては、礼儀正しい。ここの人は、もっとこう……がはは、とか、わはは、とか言う人たちなのに。他の地域か、外国の方なのだろうか。


 男性が食事処の方に行くのを見送って、ミリアさんが私に向きなおった。


「本当にこのギルドへのご依頼でよろしいのですか?」

「はい」


 心配そうな顔をしたミリアさんに尋ねられて頷くと、彼女は受付カウンターから数枚の書類を持ってきた。テーブルの上に並べて、ペンを取り出す。


「それではこちらに、お名前と性別、生年月日、出身国、依頼内容、報酬額をお書きください。……失礼ですが、ご家族の方は……?」

「母は亡くなりました。この旅で、帝国の東部にいるという父を探すので、護衛の依頼に来たんです」


 ペンを受け取ってからすらすらと記入事項を書き込む。……たしか、依頼内容と報酬額以外は、募集要項に載らないはずだ。真実を書こう。


 全て書き終わってミリアさんに書類を手渡すと、微かに眉を寄せていた。唇も噛んでいるし、目も心做しか潤んでいるように見える。……同情してくれているのか。ミリアさんはやはり、優しい人だ。


「……あの、すみません。お名前を伺ってもいいですか」

「はい。ミリア・カーネルンと申します」


 よし。これでうっかり名前を呼んでしまっても大丈夫なはずだ。あまりにもミリアさんが変わっていないから、このままだと、ついうっかりと名前を呼んでしまいそうだ。


「女の子……?」

「あ……はい。こんな格好をしていますが。担当の冒険者の方には、名前と性別を偽るつもりなので、言わないでいただけるとありがたいです」


 そう言うと、ミリアさんは納得した顔をして頷いた。少女一人の旅よりは、少年一人の旅の方が、周囲から狙われるリスクは多少なりとも低くなる。それを承知している人だ。


「承知しました。……では、先程の冒険者の方をお呼びしましょうか?」

「……お願いします」


 本当なら気を許せる人が良かったが、あの人はかなりの実力者だ。私だって、お嬢様として過ごす学院の合間に二年ほど冒険者をしていたから、魔法には自信がある。そんじょそこらの荒くれ者数人程度は、撃退できるはずだ。けれど、もしもの時のために実力者を護衛につけていて損は無い。


 ミリアさんに呼ばれて戻ってきたその人は、ローブのフードを脱いでいた。先程は顔まで見る余裕はなかったが、よく見ると優しげで整った顔立ちをしている。立ち振る舞いも、どこか品があった。ミリアさんは、その人をテーブルまで案内すると受付カウンターへ戻ってしまった。


「初めまして。先程は突然話しかけてしまい、すみませんでした」

「いえ。……あの、敬語でなくて結構です。ぼ……僕、の方がずっと歳下ですし……」


 ずっと歳上らしい男性に敬語で話されると、なんだか居心地が悪い。貴族社会ならともかく、ここは王都のギルドの中なのだから、普通にして欲しかった。


「……分かった。ところで、君は帝国の東部に行くらしいね?護衛の依頼をするとか」

「はい。僕は帝国に行ったことがないので、東部までの案内と、帝国に入る手助けをしていただきたいと思っています」

「なるほど。君の保護者として国境を渡らせて欲しいということだね」


 国境を渡るには、12歳未満の者は立場のしっかりとした保護者と同伴でなければいけない。この人との年齢差を考えると、兄妹……いや、兄弟として渡らせてもらった方が良いだろう。


「……その依頼、俺が引き受けてもいいかな?帝国出身だから案内できるよ。それと、こう見えて一級冒険者だから、護衛面では安心してくれていい」

「一級、ですか……?!」


 一級冒険者。六段階ある冒険者のランクのうち、最上級のものだ。冒険者のランクは全ギルド統一して同じだが、ギルドによってその質が違う。このマランギルドは、一級冒険者の一つ下、二級冒険者の能力が、他ギルドの一級冒険者の能力と同等のもの。つまり、"マランギルドの一級冒険者"といえば、他ギルドの冒険者たちよりもずっとずっと能力のある人なのだ。


「ああ。どうかな?」

「お願いします」


 この人に護衛してもらおう。強いひとに護衛してもらうに越したことはないから!!……断じて、その強さを間近で見たいからとか、そういう理由では無い!

お読みいただきありがとうございました。


本日の投稿はここまでにします。


これ以降は、話が一区切り着くまで毎週火曜日・金曜日の朝七時に投稿する予定です。


よろしければまたお立ち寄りくださいませ。

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