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元偽物令嬢は、みんなで幸せになりたい  作者: 花咲 抹茶
第一章 家族編
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第二話 これから

「……アメリアンナ。これから先、どうするつもりですか」


 母の葬儀が終わり、遺体が伯爵領の小さな共同墓地に運ばれている途中、アマルダさんはそう私に尋ねた。お嬢様の教育係の一人だった者の葬儀ゆえに花だけ手向けに来た伯爵も、こちらに寄ってきた。


「侍女長の言う通りだな。そなたはアリアドネの専属侍女候補だが、まだ正式な侍女では無い。給金も出すことは出来ないし、そなたの世話をしてやる義務は我が伯爵家にはない。ヒーリエ殿が死した今、そなたには後見人が居ないのだからな」


 伯爵の言葉にアマルダさんは眉をしかめたが、特に何か言い返すことはしなかった。当然だ。当たり前のことなのだから。


「……父を、探しに行こうと思っております」


 表情を変えずにそう答えた私に、アマルダさんは目を見開いた。まだ九歳の少女が、一人で何処にいるかも分からない父親を探しに行くと言っているのだから、これもまた当然の反応なのだろう。


「……ほう」


 伯爵が、やや前に突き出した腹を撫でながら、目を細めた。……この人が、幼い少女が一人で旅に出ると言っても何も感じない人間なことは既に嫌という程分かっている。


「……死の直前、母は私に手がかりを言い残してくれました。それを頼りに、探しに行こうかと思います」


 手がかりの内容は言えませんが……と付け加えて、悲しげに俯いた。これ以上の追求は受けたくない。


 ……伯爵邸から葬儀場への移動時間と葬儀の最中、ずっと考えていた。どうして時間が巻き戻り、私にはその記憶が残ったのか。私はこれから、何をすれば良いのか。


 そうして、前の時間でルカが言っていたことを思い出したのだ。


『巨大な魔法陣に魔力を注いでいる』


 もしかすると、その魔法陣というのは時間を巻き戻すもので、記憶を覚えている条件はその魔法陣に魔力を注いだ者であるということなのではないか?だとすると、ルカも記憶を持っているのかもしれない。時間なんてなかったはずなのに、どうやってそんな神の摂理に反するような魔法陣を作ることが出来たのかは不明だが……


 それに、もうひとつ。


『君は君がやりたいことをやって、後悔しない幸せな人生を送ってくれ』


 後悔しない幸せな人生。……前の時間の私は、ずっと、ずっとずっと、後悔していた。双子の姉のように大切だったお嬢様の死を防げなかったこと。そして、伯爵に脅されてお嬢様の身代わりとして生きたこと。


 今度は、自分の人生を生きたい。お嬢様の身代わりとしてではなく、アメリアンナ・ヒーリエとして。伯爵令嬢ではなく、ただの平凡な娘として。


 そのためには、まだ子どもの私を大人になるまで庇護してくれる大人が必要だ。お母さんは、死の間際、私の父親のことを言っていた。あの言葉を信じて、探しに行ってみよう。そう、決めたのだ。


「倒れていた母を保護し、娘の私にまで良くしてくださった伯爵様ご夫妻、およびお嬢様には申し訳ありませんが……私を、お嬢様の専属侍女候補から外してください」


 お願いしますと腰を折る。何も結んでいない金髪が、肩から落ちて顔の周りに垂れ下がった。


「……ふむ。良かろう」


 ……よし。言質は取った。これで、伯爵は『アメリアンナ・ヒーリエはアリアドネの専属侍女候補なのだから、アリアドネの死を隠し、その身代わりをするべき』という訳の分からない理屈を通すことは出来ない。


「アメリアンナ…!いったい、どうして急にこんなことを言い出したのですか」


 伯爵が去っていくのを見送っていると、アマルダさんが私に詰め寄った。表情に心配の色が窺える。


「あなたはまだ、ほんの子どもなのです。伯爵様に頼み込めば、きっと大人になるまで屋敷に置いて頂けます。今からでも遅くありません。頼み込みに行きましょう。父君を探しに行くのは、大人になってからでも遅くはありませんよ」

「アマルダさん…」


 冷静を装いつつも早口で捲し立てる彼女に、私は微笑んでみせた。安心させるためだ。


「大丈夫です、アマルダさん。旅に出たら、ギルドに行って護衛の人を雇いますから。母が残してくれたお金で、そのくらいのことは出来ると思います」


 肩に置かれた手を解きながら、私は続けた。


「それに、お母さんの……母の死を目にして、実感してしまいました。人は、突然死の機会が訪れてしまう。……私は、私の父を知りたいのです。今ならまだ見つけられるかもしれないのに、大人になるまで待って、その結果父が死んでしまっていたら、私はきっと後悔します。……私はもう、後悔したくないのです」


 アマルダさんは、私の言葉に息をのみ、そして静かにため息をついた。


「……そうですか……十分、気を付けて行くのですよ。それに、旅立ちまではしっかりと体を休めなさい」

「ありがとうございます」


 アマルダさんにお礼を言っていると、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。その音は、墓地の外に止まったようだった。額に、冷や汗が伝う。嫌な予感がした。


「伯爵様!至急お伝えしたいことが……!」


 伯爵邸の執事服を着た男性が、墓地に入り伯爵に耳打ちをしに行く。風魔法で何を言っているのか聞き取ろうとしたが、動揺しすぎて上手くできなかった。


 けれど、伯爵の反応だけで、何が起こったのかは察することが出来た。私は、あの悲劇を防ぐことは出来なかったのだ。


「───」

「何っ……?!それはまことか」


 伯爵は耳打ちされた内容に眉を顰めると、目を見開いた。わなわなと唇が震え、顔が青ざめる。急いで私たちの方を振り返ると、帰る旨を伝えてから早足で墓地を去っていってしまった。


「……何があったのかしらね」


 伯爵邸の侍女長らしく、冷静に事態をつかもうとしていたアマルダさんだったが、この出来事は到底想像がつくまい。そのくらい、伯爵にとっても、アマルダさんにとっても、私にとっても……衝撃的な出来事だったのだから。


「……伯爵様があそこまで狼狽なさるということは、相当のことでしょうね」


 前の時間でも、伯爵は母の墓に花を手向けに訪れ、そして途中で従者に耳打ちされて早足で伯爵邸へ帰って行ったのだ。そしてその数時間後、私は伯爵からあの知らせを受け取った。


 アリアドネお嬢様の死の知らせを。

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