プロローグ
お読みいただきありがとうございます。
初の連載小説なので不慣れなところもありますが、あたたかく見守っていただけましたら幸いです。
護送馬車から連れ出される。片足の健が切れた状態なので、上手く歩けなかった。処刑台と思われるところに登ると、被せられた袋で姿は見えなかったが、『悪女』だとか『早く死ね』だとか、群衆の怒声が飛んできた。伯爵令嬢の身分を偽って国の美しい王女を毒殺しようとした恐ろしい女が、およそ百年ぶりの公開処刑で殺されるのだ。群衆の熱気と悪意が直に伝わってくる。
「……これより、罪人アメリアンナ・ヒーリエの処刑を始める!」
処刑人の声と同時に、被せられていた袋が外された。久しぶりの陽の光に目が痛くなる。一瞬、眩しさに目を瞑ってからゆっくりと開くと、群衆の視線とまともに目が合ってしまった。それまでは気力で封じ込めていた足の震えが、再発する。
──震えているところを見せては、いけない。特に、私に冤罪をかけたあの王女には。
そう決意して、俯きかけた顔を毅然とあげる。群衆一人一人の顔を見回して、彼の顔が無かったことに安堵した。彼には、こんな終わり方を見せたくない。
斬首台の前に跪かされる。処刑人に促され、斬首台に首をかける寸前、後ろで悲鳴が上がった。
「ぐっ……なんだ!?」
何が起こったのかと振り向くと、処刑人の体に植物の枝が絡みついていた。どうやら、木製の処刑台の特性を活かした魔法のようだ。……この国でこんなことが出来るのは、きっと一人しかいない。
「アメリ。ごめん、遅くなった」
「……ルカ」
いつの間にか隣に彼が立っていた。いつもの学園のローブじゃなく、焦げ茶のローブを羽織っている。常に掛けている目の色を変えてみせる眼鏡も掛けていない。帝国高位貴族の血筋の証となる紫の瞳が顕になっていた。
「ルカ、どうして……」
「君が連行される前、必ず助けに行くと言ったでしょ」
ルカは、余裕があるように微笑んではいるが、明らかに肩で息をしていた。よく見ると顔に疲労感が広がっている。魔力はいつもより少し少ない……いや、常にどこかに向かって放出し続けている。……どこに向かって放出しているのだろうか。とにかく、尋常じゃなく大変な思いをしてきたのだろうことが伺えた。
「ルカ。逃げて。……足の健が切れていて私は逃げられないの」
「あの女……っ、大丈夫。……時間が無くて説明ができないんだ。ごめん。でも、僕を信じて欲しい」
手を出してと言われ、ルカの手のひらに片手を乗せる。ルカが魔法で壊したのだろう、手首にかかっていた魔力制御機能の備わった手枷は見当たらなかった。
「僕は今、巨大な魔法陣に魔力を流し続けている状態なんだ。君の魔力も必要だ。僕に魔力を渡してくれたらそこに届けるから、魔力供給をしてくれないか」
「……魔力供給?」
ルカはこくりと頷き、目を閉じた。すぐにこれまでの数倍の量の彼の魔力がどこかへ向かうのが感じ取られ、私も急いで魔力をルカに流し込んだ。目を閉じると、ルカの魔力が王都を抜けてどこかにある魔法陣へ注がれているのが感じられた。そこに私の魔力も混ざっていることも。
……思えばこの時、処刑人も近寄ってこなかったし、群衆たちの声も聞こえなかった。ルカが結界を張っていたのかもしれない。
いずれにせよ、ルカはこの時大量の魔力を消費し続けていた。常に自分と他人両方の大量の魔力をずっと遠くの魔法陣へ流し込むことは、相当疲れることだろう。もしも私が同じことをしたら、数分と持たずに気絶しているはずだ。にも関わらず、ルカは最後まで倒れ込みもせずに私の手を握っていた。やがて私の魔力も彼の魔力も尽きそうになった頃、ルカが目を開いた。アメジスト色の瞳が、本物の宝石よりも美しく煌めく。
「……アメリ。これから君は、後悔をしない人生を送るんだよ。……君がしたいことがあったら、必ず僕が手助けする。その力を付けるから……君は君がやりたいことをやって、後悔をしない幸せな人生を送ってくれ」
「ルカ……?何を、言っているの……?」
別れの言葉のような、共に生き続けるという誓いのような、曖昧な言葉を発したルカは、私の問いに微笑んだ。その直後、突然世界が白く光り、私の意識は無くなった。




