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第30話 かくして二人は……

 王都の地下は俺の想像を遥に超えて、複雑で多様、そして寛容だった。何事にも裏と表があるのは分かっているつもりだったが、裏の深度について、俺は無知だった。


 まずは地下街について語ろう。かつて、王都にはダンジョンがあった。それを中心に栄えたのがリンデ王国。というのは王国民にとっては常識だ。


 そして、今となってはダンジョンは枯れ、入り口は硬く閉ざされ、その地上に王都が築かれた。というのも広く知られた話。


 しかし、入り口を閉ざせば、新たな入り口を作ってしまうのが人間。


 現在、王都の地下ダンジョンは「地下ギルド」という組織によって運営されているらしい。俺は薬屋のババアの推薦で、その地下ギルド会員になることが出来た。


 なんでも「長年に渡って貴重な素材を地下に流通させた功績」が認められたらしい。


 ちなみに当然のことだが、地下ギルドの会員には表の顔もある。薬屋のババアや肉パン屋の店主、ゲジゲジ屋の店主、意外なところではブーマーなんかも地下ギルドの会員だ。


 やつらは表で集めたヤバイ品やヤバイ情報を地下に流し、それをギルドの会員同士で売買し、利益を上げているそうだ。


 また、地下ギルドの会員には貴族のような権力者もいるらしい。大っぴらには明かさないが、長く地下にいる人は大体「あの人の表の顔は○○家の当主」なんてことを把握しているそうだ。薬屋のババアの受け売り。


「いや~快適快適」


 広いベッドでゴロリゴロリ。


 俺は枯れたダンジョンの一角を住居にしていた。ダンジョンの中は気温や湿度の変化が少ない。ベッドを作って寝袋を敷いてしまえば、快適な家になる。


 勝手にダンジョンに住み着いてよいのか? よいのだ。


 地下ギルドの会員であれば、ダンジョンの中で居を構えても問題にならない。勿論、他の人が商売をやっている場所は避けなければならないが、枯れたダンジョンは広大なので、争いになることはほぼ無いらしい。


「やば、そろそろ時間じゃん」


 俺は慌てて跳ね起きて座り、ベッドの脇に置いていたリュックからタブレットを取り出す。


 今日は盗賊団を討伐してから初めての白蘭魔法団ギフト開封配信の日。視聴者が頑張った推しに労いの品を捧げるのだ。


 俺も勿論、エルルちゃんにギフトを贈っている。きっと喜んでくれるだろう。


 時間になると、タブレットに光りが灯った。いよいよだ。


『王国民の皆んな! 見てくれてありがとう! 白蘭魔法団のギフト開封配信を始めるね! 今回は遠征から戻って初めて配信!! 皆からいつも以上の気持ちが届いていて、とても嬉しいです!!』


 タブレットからの音声が、枯れたダンジョンに響く。


「……始まった……」


 いつものようにパオラ団長の挨拶から配信が始まった。


 カメラが引いて白蘭魔法団の団員を順番に映す。お揃いのローブ姿でカメラに向かって手を振る。いつも通り、最後尾はエルルちゃん。


 水色の髪はつやつや、頬もつやつや。胸はバインバイン。そして、手には赤い宝石が輝く龍の杖が握られている。


「うおおぉぉぉ!! お揃いだ!!」


 俺の左手の手甲には、龍の杖と同じ赤い宝石――魔王の瞳――が仕込まれている。俺は風呂に入る時以外、この手甲を外さない。これは、俺とエルルちゃんの繋がりの証なのだ!


 俺が興奮している内に、ギフト開封の儀は進んでいく。


 今回は「遠征お疲れ様」の意味があり、高級石鹸や入浴剤のような癒しの品が多い。


「まぁ狙いは分かるよ。でもな~それじゃ~他の人と被っちゃうんだよな~」


 やはり推し活には独自性が大事だ。自分にしか用意できないものを推しに贈り、喜んでもらう。これが最上である。


 俺はタブレットを握りしめる。もうすぐ、エルルちゃん番だ。


『最後はエルルのギフト開封です! 討伐遠征で大活躍したので、今回は沢山のギフトが届いています!』


「なんだと……!?」


 叫んだあと、我に返る。エルルちゃんに多くのギフトが届くのは当然だ。一番可愛くて、一番胸が大きくて、一番活躍したのだから。


「でも……!! なんか嫌だ……!!」


 つい本音が漏れてしまう。エルルちゃんが人気者になるのは嬉しい。でも遠くに行ってしまうようで寂しい。そんな二つの感情がごちゃ混ぜになって、心をかき乱す。


 俺の心の叫びを他所に、エルルちゃんのギフト開封の儀は進んでいく。


『そして最後はいつもの、"通りすがりの冒険者"さんからのギフトです』

「聞きましたか!? 皆さん!! いつものって言いましたよ!! もう年季が違うんですよ!! 新参者とは!!」


 俺の叫びに呼応し、エルルちゃんはギフトボックスから掌サイズの包を取り出した。ベルベットに包まれたそれを、ゆっくりと開く。


『わぁ、綺麗な手鏡!』


 エルルちゃんは花柄の彫刻が施された手鏡を持ち、カメラに向かってアピールした。


『今度はどんな珍しい素材なのかしら?』


 パオラ団長がカメラ越しに鋭い視線を向けてくる。今回は鏡の悪魔を倒した時の品だ。なんでも、真実を映すらしい。


 エルルちゃんは鏡を手に持ち、小さく頭を下げる。


『通りすがりの冒険者さん、いつもありがとうございます!』


 ふう。今日は胸にギフトを挟まなかったか。あれをやられると興奮のあまり、絶頂失神をしてしまうからな。命拾いし――。


『いつか、お礼をしますね』

「えっ……!?」


 お礼……!?



#



 ギフト開封配信終了後、白蘭魔法団の団員達は山盛りのギフトを手にして自室へと戻っていった。


 広い会場に残っているのはパオラ団長とエルル。そこに、白蘭魔法団とは馴染みのない人物が加わる。スラムで薬屋を営む老婆だ。


「配信は終わったようだね。エルル、本当にやるのかい?」


 薬屋の老婆はエルルの覚悟を確かめる。エルルは力の籠った瞳を老婆に向け、しっかりと返事をした。


「はい! やります!」

「大した度胸だね」

 

 一方のパオラは不安そうな表情だ。


「あの、本当に大丈夫なんでしょうか?」

「重要なのは想像力。その辺の奴には無理だろうけど、私ならばなんとかなるよ。実際過去に一度、試してはいるしね」


 老婆はちらりとパオラに視線を送りながら、そっけなく返した。「余計なことを言うんじゃない」とでも、思っているようだ。


「じゃあ、決意が鈍らないうちにやってしまおう。杖を貸しておくれ」

「はい!」


 エルルは大事に持っていた龍の杖を老婆に渡す。老婆は受け取ると、杖をエルルに向けて構えた。エルルは白くほっそりした指を伸ばし、赤い宝石に触れる。


 老婆が短く息を吸った。そして――。


「【吸収】」



#



 ベッドの上で胡坐を組んで座り、ギフト開封配信の余韻に浸っていた。


「『いつか、お礼をしますね』ってどういうことだ?」


 俺は暗くなったタブレットの画面に視線を落とす。ついさっきまで、エルルちゃんの可憐な姿がそこには映っていた。


 配信の中のエルルちゃんは確実に成長しているように見えた。


 白蘭魔法団に入ったばかりの頃は周囲の先輩に気を遣っておどおどしていた。


 しかし、今は違う。最年少ではあるものの、しっかりと魔法団の一員として振る舞っている。盗賊団との戦いでも、的確に魔法を展開していたし、何より、あの雷魔法を使う怪物にも対峙してみせた。


「やっぱりエルルちゃんは最高だな。一生、推す」


 俺は無意識に左手の手甲に嵌めれらた赤い宝石を触っていた。まぁ、宝石というか、魔王の左目なんだが――。


「うん?」


 赤い宝石が点滅をしている。それは徐々に速くなり、次第に光りが強くなる。


「エルルちゃん、なんかヤバイものでも【吸収】しちゃったか?」


 俺は左手の手甲をダンジョンの通路に向け、静かに唱える。


「【放出】」


 ――魔王の左目から飛び出してきたのは、 水色の髪に可憐な顔、豊かな双丘を持つ若い女。この世の者とは思えない神々しさがある。


 俺は自然と両手を組み、祈りを捧げた。


「ちょっと、ロジェさん! 祈らないでくださいよ!」

「無理。祈る」

「もう!」


 エルルちゃんはベッドの上で胡坐を組む俺に近寄る。しっかり組んだ俺の両手に、白くほっそりとした指が伸び、包む。


「私が、お礼を言いに来たんですからね」


 エルルちゃんの顔が、身体が、双丘がすぐ傍にある。


 駄目だ。もう、失神しそう。


「いつも本当にありがとうございます」


 エルルちゃんは俺の両手をグッと引き寄せる。両手が柔らかな何かに触れた。


「大す──」


 手が……胸に当たってるうぅぅぅぅぅううううう……!!!!!!!!!!!!!


 俺は柔らかさに包まれたまま、意識を手放した。



ここで一区切り!!

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手紙でも吸収……まさかの本人!!
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