第26話 国境の戦い③
【地下ギルド会議 討伐隊配信 視聴記録】
ギルド組合員1
⇒やっと始まったよ。討伐隊 対 盗賊団
ギルド組合員2
⇒盗賊団の拠点、要塞じゃんwwww 絶対帝国の支援ウケてるだろwwww
ギルド組合員3
⇒帝国の本気度が窺える
ギルド組合員4
⇒しっかりやれよ~黒豹騎士団、白蘭魔法団、あと冒険者
ギルド組合員5
⇒めっちゃしゃしゃり出るじゃん。冒険者
ギルド組合員6
⇒そりゃ、雇われてる冒険者が引っ込んでるわけにはいかんでしょ
ギルド組合員7
⇒わっ、すごい矢雨。盗賊団、めっちゃ練度高いじゃん
ギルド組合員8
⇒ゆーて、物理障壁で危なげなし
ギルド組合員9
⇒おっ! 城壁に魔法師出て来た!
ギルド組合員10
⇒広範囲に【土牙】。かなりの使い手のようね。うずくわ。お店に来ないかしら?
ギルド組合員11
⇒気持ち悪いこと言ってんじゃねえ!
ギルド組合員12
⇒うほ~カリー副団長が地面を均した! やるねぇ
ギルド組合員13
⇒おっ、討伐隊、反撃か?
ギルド組合員14
⇒ヒューッ。【飛翔】とは恐れ入ったぜ。超高等魔法じゃん。流石は団長やな。パオラは
ギルド組合員15
⇒【暗黒剣】からの【火炎旋風】。これは決まりやね
ギルド組合員16
⇒簡単に瓦解しちゃったなぁ~盗賊団。もうちょっと粘ってほしかった
ギルド組合員17
⇒……【火炎旋風】が消えた……!? 何が起きてる?
ギルド組合員18
⇒なんかヤバそう男がでてきたぞ……!!
ギルド組合員19
⇒レオパルドとトマージが一撃でやられた!!
ギルド組合員20
⇒やばくね? これやばくね?
ギルド組合員21
⇒こいつの雷魔法の威力、異常だろ……。こんなの見たことないぞ……。レオパルドの【暗黒】を晴らすなんて……。
ギルド組合員22
⇒あらら。二人とも一撃でやられちゃった……。これ、討伐隊大丈夫か?
ギルド組合員23
⇒雷魔法の大男、めっちゃ速いじゃん。カメラが追い切れてない!
ギルド組合員24
⇒あわわわ。黒豹騎士団の騎士も一撃! 冒険者が逃げ始めた!
ギルド組合員25
⇒あかん! パオラが死んじゃう……!! 見てられない……!!
ギルド組合員26
⇒……大丈夫だ。目を開けてみろ。パオラは生きてる
ギルド組合員27
⇒エルルちゃんだ!! ロジェの推しが登場した!!【吸収】って何? 魔法?
ギルド組合員28
⇒いや、あの龍の杖に込められたスキルじゃない?
ギルド組合員29
⇒あの強力な【雷槍】を防ぐなんて、とんでもないスキルだな。【吸収】って
ギルド組合員30
⇒んんんん? これ、誰の叫び声? もう駄目、絶頂失神しそうエルルちゃん? とか聞こえなかった?
ギルド組合員31
⇒なんか聞いたことのある声だな……
ギルド組合員32
⇒カメラが声の主を探してる……
ギルド組合員33
⇒えっ……!? この灰色の髪の仮面の男ってもしかして!?!?!?
ギルド組合員34
⇒wwwww絶対これ、ロジェじゃんwwwwww瞳も灰色だし!!
ギルド組合員35
⇒何やってんだよロジェwwww
ギルド組合員36
⇒こいつ、カメラの前でイッ○ャウゥゥ!! って叫んだぞwwwww
ギルド組合員37
⇒あっ、私がロジェに「討伐隊にエルルちゃんが参加すること」教えたんだった……
ギルド組合員38
⇒ロジェ、王国全土にあえぎ声を響かせるwwwwくっそ腹痛いwwww
ギルド組合員39
⇒まぁでも、これで討伐隊の敗北は無くなったな。ロジェがやっちゃうでしょ
ギルド組合員40
⇒せやね
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『仮面なんてかぶりやがって……』
紫電を纏った大男は仮面の男の方に向き、地面を震わせるような低い声を出した。その響きに、白蘭魔法団の団員達は身を固くする。
『女を頂くのは後だ。まずはお前を殺してやる』
大男はパチパチと小さく雷を鳴らしながら、仮面の男を睨みつけた。二人は距離を置いて対峙し、頃合いを同じくしてスッと腰を落とす。
踏み込む音が二つ。
小隕石が落ちたかのように地面が抉れ、二人の身体がブレる。
ドン! と凶悪な音が響き、紫電を纏った男の身体が大木に撃ち付けられた。
「えっ、何が起きて……?」
エルルが目を丸くして、今にも倒れそうな大木を見つめている。
「仮面の男が、雷野郎の腹をぶん殴ったんだよ」
「とんでもない速さと、力ね。あれ、本当に人間かしら?」
いつの間にかすぐ後ろに立っていたカリー副団長とパオラ団長が、エルルの問いに答える。
『くそ……!! 舐めやがって!! 【雷槍】!!』
大男から槍のような形状をした雷が放たれ、空気を引き裂きながら仮面の男に迫る。が――。
「全然当たらない……」
仮面の男は雷を上回る速度で動きまわり、全く寄せ付けない。それどころか、 【雷槍】を引き連れて大男に肉薄する。
『ちっ……!』
【雷槍】は解除され、仮面の男だけが飛んできた。
『ぐはっ……!!』
再び、拳が大男の腹に埋まった。衝撃は身体を突き抜け、大木へと伝わる。メキメキと大木が倒れ始めた。仮面の男はさっと飛び退く。
大木が無慈悲に大男の身体に圧し掛かる。ドン! と地面を震わせたあと、しばしの沈黙が流れた。
「勝った」
エルルが思わず声を漏らす。
「まだよ……」
パオラの声。それに応えるように大木の下から肉の塊が膨れ上がった。すでにそれは人間の形を失っている。顔のようなものが無数に現れては消え、その度に質量が大きくなる。
「やっぱり人間をやめていたか」
仮面の男は地面に横たわった大木の上に立ち、膨れ上がる肉塊を見ていた。
「気持ち悪いから消えてくれ」
左の拳を握って突き出し、仮面の男は肉塊へと狙いを定める。その左手を覆う手甲には赤い宝石が付いていた。エルルの持つ杖にある宝石とよく似ている。
「【放出】」
仮面の男が呟くと、手甲の宝石から槍の形をした雷が二つ飛び出した。【雷槍】は絡み合いながら肉塊へと迫り、そのまま深く突き刺さる。
「終わりだ」
抑揚のない冷たい声が響き、肉塊は無残に弾けた。激しい紫電に焼かれ、ぐつぐつと煮立ち、すぐに黒焦げになった。
仮面の男は大木から飛び降りると、自分のリュックを拾ってから周囲を見渡す。
少し恥ずかしそうにしてから、「このポーション、よく効くから」とリュックから小瓶を幾つも取り出し、地面に並べた。
「じゃ」
仮面の男が地面を蹴ると、すぐに姿は見えなくなった。
残された者達はしばらくポカンとしていたが、怪我人の存在を思い出し、慌てて男が残したポーションに手を伸ばすのだった。