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第18話 ロジェ VS 魔王

 なんか熱い。熱風に顔を炙られたような感覚。


 慌てて瞼を開くと、俺は大木の幹に身体を委ねていた。確か、大量にモンスターを葬り、疲れ果てて眠っていたのだ。うっかり二日ぐらい寝ていたかもしれない。


 ぼんやりと空を眺める。


 やはり熱い。それはそうだ。目の前に巨大な炎の柱がある。


 炎の柱は渦を巻きながら地上から天高く伸びていた。何者かの、魔法だろうか?


 しばらく眺めていると、炎の柱は力を失い、やがて消え去る。


 瞳に魔力を廻らせて強化し、地上を見つめると、焼け焦げた死体がいくつもある。どうやら火葬をしているらしい。火葬業者とかいるんだな。森の中に。


「ちょうどいい」


 リュックの中の死体も処分してもらおう。食っても旨くないモンスターばかりだからな。


 俺は枝にかけていたリュックを手に取り、口を開けて下に向け、必要ないモンスターをイメージしながら、どんどん死体を取り出し、地面に放る。うまく山になるように調整しながら。


 やはり、一か所にまとめた方が燃やすときに効率がいいからな。


 いらないモンスターの死体を全てリュックから出すと、俺は脚に魔力を廻らせる。そして大木から飛び降りた。


 ダン! と派手な音がなり、森が震える。火葬業者さんを驚かせてしまっただろうか?


「えっ……?」


 火葬業者さんは尖った耳に鷲鼻。肌は緑でゴブリンっぽい。しかし最大の特徴はその顔に瞳がないことだった。ひどく不気味だ。こいつ、モンスターだな。しかも、ユニークな奴。もしかすると……。


 とりあえず、話し掛けてみよう。


「こんばんは~」


 相手は口を閉じたまま、じっと俺の方に顔を向けている。まるで、見えているように。


「あっ、驚かしちゃった? なんか死体を燃やしてるみたいだから、俺もお願いしようと思ってね。お金払うから、モンスターの死体、燃やしてくれない?」


 目の無いキモイやつの顔が歪み、深い皺が生まれる。


「貴様、何者ダ? 我ガ配下ノ命ヲ奪ッタノハ貴様カ?」


 キモイ奴がモンスターの死体の山に顔を向ける。


「えっ、そうだけど? ちなみにお前は?」

「我ハ、王。邪神ノ祝福ヲ受ケシ者ダ」


 いよっし! レアモンに遭遇だ! なんとしてでもレア素材をゲットしなければ……!


 さっきの炎の柱を見る限り、こいつは魔法系の可能性が高い。さくっと格闘で仕留めるか。柔らかそうだし、剣は要らないだろう。


 俺は両脚に魔力を廻らせ、構える。


 ダン! と地面を蹴り、魔王に肉薄する。すぐそこに、瞳のない緑の顔がある。のっぺりとして気味が悪い。


「破っ!」


 右腕を軽く振り、インパクトの瞬間だけ拳を強く握り、魔力を廻らせる。強く、速く。爆発的な衝撃をイメージしながら。


「【吸収】」


 妙なことを言いながら、魔王が右の掌で俺の拳を受け止めた。本来なら魔王は腕ごと吹き飛ぶ筈だが、衝撃はいなされる。俺は右の拳を包むように握られたままだ。


「【放出】」


 魔王が静かに俺の身体に左の掌を触れ、妙な言葉をつぶやいた。


 途端、凄まじい衝撃が走る。


「かはっ!」


 背中に硬いものがぶつかり、血の塊が腹の中から上がってきた。どうやら俺は、「俺自身の拳打」を喰らい、大木に打ち付けられたようだ。魔王の珍妙なスキルによって。


「フフフフ。ソレデ終ワリカ、人間?」


 魔王が目のない顔で笑う。相変わらず、キモイな。さっさと素材にしないと。


「【吸収】と【放出】ね。それって、カウンター専門のスキル?」

「我ガ今迄、ドレ程ノモノヲ、吸収シテキタト思ウ?」


 魔王は俺に向かって左手を突き出し、【放出】と呟いた。途端、数十の矢が俺に向かって放たれる。


「ちっ!」


 俺は痛む身体に鞭を打ち、脚に魔力を廻らせて横っ飛び。辛うじて躱すが、魔王の左手は緩まない。【放出】と呟かれる度に矢が、槍が、剣が、魔法が、ありとあらゆるものが俺に向かって飛んでくる。


 ……ちょっと舐めてたな。


 自慢じゃないが、俺は連続した飽和攻撃に弱い。つまり、今は不味い状況だ。


 少し、戦い方を変えるか。


 俺は【放出】物を避けながら、リュックから魔石を取り出し、魔力を籠める。そして、魔王に向けて投げつけた。と同時に、脚に魔力を廻らせ、距離を詰める。


 魔石が炸裂する瞬間、魔王は右手を翳して【吸収】を使う。同時に、俺は魔王の左半身を狙って蹴りを放った。


 魔王は巧みに左脚を上げ、ガードをする。思ったより体が硬いな。しかし、【放出】はない。


 ふーん。なるほどね……。【吸収】と【放出】の同時実行は出来ない?


 俺はバックステップで距離を取りつつ、再びリュックから魔石を三つ取り出す。魔力を籠め、それぞれ炸裂弾にして投擲。と同時に再び、突進。


 魔王は連続する魔石の爆発を【吸収】しつつ、俺の格闘に備えて守りを固める。


 俺はオーダー通りに右腕を振るった。魔王はそれを躱しながら、左掌の瞳を俺に向ける。その瞳はニヤリと笑っていた。


「【放出】」

「くっ……」


 魔王の左手から放たれた剣が俺の腹に突き刺さる。やはり、【吸収】と【放出】の同時実行は可能だった。さっきのはブラフだったわけだ。


 でもな、俺の狙いは近付くこと。俺を嵌めたと思って油断した、お前の身体に触れること。


 俺は伸ばされていた魔王の左手の手首をつかみ、その魔力を意識した。膨大な魔力が渦巻いているのが分かる。少しでも扱いを間違えれば、爆発するほどの。


「何ヲ……!?」

「はい、暴走して」


 俺は魔王の体内の魔力を操作し、その瞳の無い頭部に集中させ、過剰に廻らせる。直ちに頭は青白く発光し始めた。


「ボン」


 ボンッ! と俺の呟きと同時に魔王の頭は弾ける。すぐに体は地面に倒れ込み、頭部からの指示を失った筋肉が、規則的に痙攣していた。


 俺は腹に刺さった剣を抜き、リュックからまっとうな上級ポーションを取り出して傷を癒す。


「さてと……」


 周囲を見渡すと、魔王の死体の他に、黒焦げの人間が三人転がっている。装備を見た感じ、冒険者のようだ。


「あれ、試してみるか」


 俺は薬屋のババアにもらった新作のヤバイポーションを取り出し、地面に転がる冒険者三人にふりかけていく。効果は抜群のようで、すぐに火傷は治り、息を吹き返す。どうやらまだ、生きていたようだ。


「レロレロレロレロ」

「わっ、やっぱりラリッてる」


 俺はレロレロと言い始めた冒険者三人を放置し、もう動かない魔王の屍に近付いた。


「こいつのレアな部位はやっぱり、手だよな」


 腰の短剣を抜き、魔王の左右の手首に振り下ろす。掌についた瞳は瞼を下ろしている。俺は魔王の両手をさっとリュックに仕舞った。


「さっ、お暇しよう」


 俺は迫ってくる人々の気配を察知し、直ぐにその場を去った。

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