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第14話 西の森の噂

「よう、トマージ。最近羽振りがいいらしいな」


 王都中央にある、冒険者の集まる酒場。トマージ達三人ば酒を飲みながら夕食をとっていると、顔を赤くしたベテラン冒険者がジョッキ片手にやってきた。


 四人席の空いた椅子に勝手に座り、酒臭い息を吐きながら話し続ける。


「冒険者ギルドのお偉いさん達ははやくも『次のA級冒険者はトマージだ』なんて言ってるらしいぞ!」


 トマージは照れ臭そうに赤い頭を掻く。


「またその話かよ。全くジジイ達は人の噂が好きだな」

「おい! 調子に乗りやがって! もっと嬉しそうにしろ! 可愛くねーな!」


 ベテラン冒険者は文句を言ってから、エールをグビとあおった。更に顔が赤くなる。


「まぁ、A級冒険者には近いうちに上がってやるよ。最年少A級冒険者って肩書は悪くない」

「まったく、若いってのはいーな! 夢があって! 俺なんてずっとC級だぞ?」

「それはオッサンが弱いからだろ!」

「てめえ! 言いやがったな! 一杯おごれ!」


 トマージ達三人とベテラン冒険者は楽しそうに酒を飲みかわす。


「そういえば、トマージ達は西の森の調査団には参加するのか?」

「あぁ、冒険者ギルドと王国が共同で依頼を出すってやつか? 参加するつもりだ。流石に最近の西の森はおかしいからな。そろそろ原因をはっきりさせた方がいい」


 ベテラン冒険者の問いに、トマージは真面目な顔をして答える。


「魔王が生まれたんじゃないか? って噂だぞ?」

「それなら丁度いい。何のモンスターがベースの魔王か知らないが、俺が討伐してそのままA級に上がってやるよ」

「おっ、言ったな? 期待しているからな? 本当にそうなったら『俺がトマージを育てた』って言いふらすからな!」


 ジョッキに入ったエールをまた飲み干し、ベテラン冒険者はお代わりを頼む。


「おっさん、飲み過ぎだぞ。全く……そんな調子だからC級どまりなんだよ」

「てめぇ! 言っていいことと悪いことがあるだろ!」

「これは言われても仕方ないことだろ!」

「確かに!」


 楽しそうに笑う。


 四人は結局、酒場が閉店になる時間まで騒いでいた。



#



「……よう、ロジェ。なんかブツないのか? 今在庫がヤバくてどんなブツでもいいから、売ってくれ?」


 中央通りを歩いていると、いかついおっさんがスーッと寄ってきて俺の腕を引っ張り、俺の耳元でささやいた。完全にヤバイ取引を持ち掛けている絵である。


「……おい。ささやくな。気持ち悪い」

「……そんなこと言わずによう……売ってくれよ……持ってんだろ……」


 薬のキレたヤバイやつのみたいだ。すれ違う人々が若干ひいている。


「……ここではマズイ。もっと人通りのないところに行くぞ」

「……わかった」


 肉パン屋の店主を裏通りに連れて行く。人影はない。


「どんな肉が欲しいんだ?」

「人が食って死なない肉で頼む」

「基準がおかしいだろ。料理人としての矜持はないのか?」

「そんなもんねーな。俺は肉パン屋だぞ?」


 謎に偉そうである。


「ささ。肉くれ」

「焦るなよ」


 俺は背負っていたリュックを前に回し、あるモンスターを想像しながら肉を取り出す。


「おぉ! 綺麗な赤身じゃねーか? 何の肉だ?」

「さぁ。俺も分からん」

「まぁいいか。とりあえずこの袋に入るだけ売ってくれ」


 そう言って肉やの店主は黒く大きな袋を取り出した。俺はモンスターの肉を袋に突っ込み、いくらかの金を受け取った。


 店主は黒い袋を肩に担ぐと、「助かったぜ」と言いながら、走って店に戻っていった。


「慌ただしい奴だ」

「見たわよ」


 突然、背後から男の声がした。拳を握りながら振り返る。


「わっ! ちょっと殴らないでよ!」

「なんだ。ブーマーか」


 俺に声を掛けて来たのは、巨漢の冒険者ブーマーだった。ぴちぴちのタンクトップに黒い皮のズボンを穿いている。見るからに変態である。いかにも同性愛者向けの風俗で働いていそうだ。


「ロジェ、肉パン屋になんの肉を渡したの?」

「ケンタウロスだ」

「えっ!? ケンタウロスの肉って食べられるの? というか、食べるの絶対無理なんだけど!」


 ブーマーは想像したのか、その身を捩っている。


「俺もそう思ってずっと食べずにリュックに入れていたんだ。肉パン屋がどうしても売ってくれって言うから売った」

「おええ。しばらく肉パン屋の肉パン、食べないわ……」


 口を抑え、ブーマーは気持ちが悪そうだ。俺もそんなブーマーを見て気持ち悪くなってきた。帰ろう


「ちょっとロジェ! 露骨に嫌な顔をして無言で立ち去らないでよ!」

「ブーマーの顔が気持ち悪いから、帰るよ」

「露骨に悪口言うのも駄目!」


 わがままな奴だな。


「で、何か用か?」

「用ってほどのことでもないけど、姿を見掛けたからちょっと話しておきたいことがあってね」


 ブーマーは何か企んだような顔つきになる。


「ロジェ。あなた最近、西の森に行ってないでしょ? 面白いことになっているわよ?」


 面白いこと?


「森に足を踏み入れるとチンコが二股に裂ける?」

「それの何が面白いのよ! あんたの発想が怖いわ!」

「ブーマーが面白がるのってだいたいそーいうネタだろ?」

「私にどんなイメージもっているのよ! もう!」


 ブーマーはぷんぷんする。怒っても気持ち悪いやつだ。


「で、何が起きている?」

「実はね……西の森の奥で魔王が発生している可能性があるらしいの」

「ほぉ……」


 魔王。それは邪神の祝福を受けたモンスターの最終系だ。ベースとなったモンスターにもよるが、人間にとっては最大限に注意を払うべき相手だ。


「それは……面白いな」

「でしょ?」


 ブーマーは得意げな笑みを作る。


「国と冒険者ギルドが共同で調査依頼を出したそうよ。かなりの実力者を集めるらしいから、まだ生まれたばかりの魔王ならあっさり討伐されてしまうかもね」

「そうか……」


 魔王は紛れもないレアモンスターだ。レアモンスターの素材な特殊な効果を発揮することが多い。つまり、推しに捧げるギフトに最適!


「ロジェって昔からレアモンスターの情報を集めてるでしょ? だから教えておこうと思って」

「助かる」

「いいのよ。同期のよしみだから」


「あっ、お店に遅れちゃう」と言いながら、ブーマーは去って行った。どうやら出勤途中だったらしい。


 一人路地裏に残される。


「次のギフトは魔王にしておくか」


 誰にも聞き取れない小さな声の独り言を残し、俺は標的に向かって進み始めた。

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