失恋
フローライト第九十九話
<朔、学校にどうして来ないの?>
美園が朔にラインをしても返信がなく既読すらつかなかった。電話をしても「おかけになった番号は・・・」とアナウンスが流れるばかりだ。
美園は朔の家に直接行こうと仕事の帰りに寄ってみた。けれど朔の家は真っ暗で、インターホンを押しても誰もでなかった。
(朔・・・)
勝手にどこかに行かないでって言ったのに・・・。美園の目から涙が流れた。
家に戻り真っ直ぐに部屋に入った。何だか何もする気力がわかなかった。こんなことは初めてだ。
(どこに行っちゃったの?)
部屋のドアがノックされて咲良が顔を出した。
「美園、帰ってるの?何よ、電気くらいつけなさいよ」と咲良が部屋の電気をつけた。美園は部屋に入るなり鞄を置いてベッドに突っ伏していたのだ。
「何?具合でも悪いの?」
咲良が美園のそばに来て言う。
「別に」
「じゃあ、何よ」
「何でもない」
「・・・ご飯早く食べちゃって」と咲良が言って出て行った。
美園は起き上がって本棚から朔からもらったスケッチブックをを手に取りまたベッドに座った。スケッチブックの中で少し微笑んでいる女の子・・・それは全部自分だと言う・・・。
(私はいつのまにこんなに朔が好きになっちゃったんだろう・・・)
美園はスケッチブッを閉じて机の上に置いた。そして、そうだこんな腐っててもしょうがない。明日学校で先生に聞いてみよう。そう思って少し気持ちを奮い立たせて部屋を出た。
食事をしてると奏空が帰ってきた。
「ただいま」といつものように奏空が美園に抱き着く。
「おかえり」と美園もいつものように言ったつもりだったけれど、当然奏空に嘘はつけない。
「何かあった?」と奏空に聞かれた。
「・・・何も」
嘘はつけないことはわかっていたが、美園はそう答えた。奏空が「そう。ならいいけど」と答えたので美園は奏空の顔を見た。奏空は一瞬だけ美園と目を合わせただけで、すぐにまたご飯を食べだした。
(奏空・・・)
咲良も奏空を見てから美園の方をチラッと見たが、何も言わずにまたご飯を食べ始めた。
咲良も奏空もわかっていて何も言わないのだ。どうしてだろう?特に奏空はいつもなら深く聞いてくれて色々アドバイスもしてくれるのに・・・。
「ごちそうさま」と美園は席を立った。
部屋に入ってから朔からもらったスケッチブックをもう一度見ながら、明日絶対に先生に聞いてみようと美園は思っていた。
次の日の放課後、職員室を訪れて朔のクラスの担任のところまで行った。
「あの、対馬君、どうして学校休んでるんですか?」
そう聞くと担任は少し顔を曇らせた。美園の胸に嫌な予感が渦巻いた。
「対馬は・・・家でちょっと事故があってね・・・」
「事故?」
「んー・・・天城は対馬と親しくしてたみたいだけど、何も聞いてないのか?」
「はい・・・」
「そうか・・・対馬は学校をやめたんだよ」
「えっ?!」と美園は思いっきり驚いてその担任の顔を見た。
「どうしてですか?」
「・・・事故でお母さんが亡くなってね・・・ここだけの話になってるんで他には口外しないで欲しいんだけど・・・」
「・・・事故って・・・交通事故ですか?」
死ぬような事故ならニュースに出るはずと美園は思った。
「いや・・・」と担任が言葉を濁す。
「今、対馬君はどこにいるんですか?」
「家にいないのかい?」
「はい・・・」
「そうか・・・携帯を持っているだろう?かけてみた?」
「はい、でも出ません」
「そうか、先生の方でもどこにいるかまでは把握してないんだよ。連絡先は以前の登録のままだよ」
「そうですか・・・」
美園は朔の担任に頭を下げて、職員室を後にした。その日は仕事でレッスン日だったが、曲も何も頭に入ってこなかった。
夜九時過ぎ、ようやく家に帰って来て美園は何度もかけた朔のスマホを呼出してみたが、「おかけになった・・・」といつものアナウンスが流れるだけだった。
(朔・・・何で?何も言わないでいなくなるのよ?!)
美園はスマホを床に投げた。それからベッドに突っ伏して泣いた。大声で泣いていると部屋のドアが開いた。
「美園?」と咲良の声が聞こえたが、美園はかまわず泣き続けた。
「どうしたの?」と咲良が背中に触れてくる。
「・・・さ、朔が・・・」と美園は言いながらまた嗚咽した。
「朔君?」と咲良が聞く。
「どこにもいないの・・・」と美園は言って泣いた。この時きっと一生分泣いたんじゃないだろうかというほど泣き続けた。
「美園・・・」
咲良が背中を撫でてくる。その温もりが朔のものと重なって美園は余計泣けてきた。
(必要とか必要じゃないとかじゃない・・・なんて朔に言ったくせに・・・私には朔が必要なんだ・・・)
奏空が帰宅しても、部屋にこもったままの美園のところには来なかった。何故だろう、今こそどうして朔がいなくなったのか奏空に説明して欲しかったのに、肝心なときには奏空は何も言わないのだ。
それから数回朔の家に行ってみたが、いつも虚しくインターホンの音が響くだけだった。美園はただ淡々と日々を過ごしながら、時折朔が残してくれた絵を眺めた。芸能界をやめようと思っていたけれど美園はやめなかった。このままテレビに出たり、何らかのメディアで自分が出ていれば、自分にはわからなくても朔は見てくれるような気がした。そうすればきっといつか連絡をくれる。美園はそう思った。
そうして美園は高校を卒業して、本格的にミュージシャンとして活動することになった。




