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第9章:晴天と陽光の救出
二〇二五年四月一二日 午後一二時三五分、富山県南砺市・五箇山の合掌造り集落。圭太の遺体を弔う場として、里帆が選んだのは祖先が住んでいた旧家の床下墓所だった。
葬儀のあと、里帆は金片を抱えたまま縁側に座っている。山桜が舞い込み、畳に淡紅の影を散らす。朋美は小鍋で餃子を焼き、皿に七個並べた。七は圭太の好きな拍子数だ。
「姉妹の歌にリズムが戻るまで、私たちが拍を支える。餃子で良ければ無限に焼くわ」
冗談めかした言葉に、里帆は僅かに笑った。
「ありがとう。圭太はリズムを残した。私は旋律を守る」
龍也が屋外から戻り、刀を膝に置く。
「黒幕は北へ逃げた。『月影の神殿』──北海道大雪山系だ」
朋美は皿を片付け、真昼のように白い月を探す。だが昼空には雲が揺らいでいるだけだった。
「月が隠れた今が好機。神殿で蔦を完全に封じ込める」
里帆は金片を胸に、強く頷いた。