第4章:秘密の刻印
二〇二五年二月一一日 午前〇時一二分、多摩丘陵・旧青陵教会跡。壊れた鐘楼の下の階段を降りると、縦横二メートルの石扉が現れる。中央に銀蔦紋、その周囲にラテン語の警句が彫ってある。
「『罪を識らぬ者、門を叩くべからず』。挑発的ね」朋美が呟き、掌を紋に当てた。
刺青の光が扉に流れ込む。次の瞬間、内部から黒紫の煙が噴き出し、十体の影人形〈ノクターナル〉が出現。
龍也が最前列に跳び出し、片手で鞘を捌いて一閃。鋼光に切り裂かれた影が霧散する。
里帆は低音部を強調して祈りのフレーズを歌い、圭太が六〇BPMにテンポを落とす。ラプンツェルのハープ弦が重低音を響かせ、ノクターナルを音波で押し戻した。
「朋美、開く!」
龍也が刀で扉を叩くタイミングに合わせ、朋美が蔦紋へ最大魔力を注入。石扉は縦に割れ、地下礼拝堂へ通じる漆黒の回廊が口を開けた。
回廊突き当たり、石棺の蓋が半ばずれ、そこから禁書〈罪の記録〉が浮遊している。ページの縁を囲む蔦は銀白から墨色へ変わりつつあり、今まさに暴走寸前だった。
「里帆、圭太、オフェリアの祈りをフルコーラス!」
兄妹が即座に歌い、ハープが全弦を共鳴させる。音の渦が禁書を固定し、蔦の色を銀白へ戻す。その隙に朋美が禁書へ手を伸ばし、紋とページを一体化させた。
深紅の閃光。蔦は花火のようにほどけ、礼拝堂の天井へ散った。禁書は表紙を閉じ、石棺へ静かに戻る。
午前一時四五分、礼拝堂外。白い月がようやく欠け始め、夜の闇が戻りつつあった。
「禁書は再封印。けれど支配者がいる限り、また蔦は伸びる」
朋美の言葉に、龍也が刀を納めながら答える。
「黒幕を追う。やつは必ず次の手を打つ」
里帆はラプンツェルを抱き締め、圭太はメトロノームを止めた。
「私たちも行きます。次に蔦が芽吹く前に」
夜風に餃子の匂いはない。だが四人の呼気は白く、同じリズムで流れていた。真昼の月は西の端で、静かに形を崩している。