表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死と乙女の魔術記ー朋美ー  作者: 乾為天女
1/12

第1章:真昼の月

 二〇二五年二月五日 午後七時三〇分、東京都墨田区。冬の冷気が隅田川を渡り、ガラス張りの現代美術館「ルーチェギャラリー」のエントランスに霧のように漂っていた。高校教師・智野朋美(二五歳)は、背中の刺青を冬物コートで隠しつつ、企画展〈昼に浮かぶ月〉の会場へ足を踏み入れた。

 壁面中央に掛けられた一枚の絵──真夏の青空に満月だけが爛々と光る油彩──が彼女の視線を釘付けにする。その瞬間、館外の昼空にも同じ満月が出現した。

 「真昼の月……?」

 絵と現実が重なった違和感が脊髄を駆け、刺青の魔術紋〈パラドクスルーン〉がうっすら発光した。三年前、南米の秘境で彫り込まれて以来、紋は魔力のメーターのように主を守り続けている。異常を確信した朋美は、スマートフォンに保存してある緊急用ボイスメッセージを起動した。

 「龍也、墨田区のギャラリーまで至急。吸血種が来る」

 相手は、自警サークル〈ナイトハウンド〉に所属する大学院生・瀬名龍也(二四歳)。銀鍛鋼の刀身を帯びた彼が駆けつけたのは二〇分後だった。

 午後八時一五分、館内二階。真昼の月に引き寄せられた低位吸血種〈シェイドバット〉が展示室に侵入、来場者を襲い始めた。朋美は右手に魔力を集中させ、「リフレクション・ノヴァ」を放射。紋から迸る白光が吸血種を浄化し、残骸を灰へ変える。

 対応中、壁際に飾られていた小品〈薔薇と誠実〉が割れて床に落ちた。その破片の裏で、銀色の蔦模様の小片が脈打つのを朋美は見逃さなかった。

 「龍也、あの欠片を回収して!」

 龍也が応じ、銀蔦片を刀の峰で弾き上げると、欠片は彼の鞘に吸い込まれた。直後、シェイドバットの残党は一掃され、館内は静寂を取り戻す。

 「助かった、朋美」

 「こちらこそ。けど、ここから本題よ。あの銀蔦は〈罪の記録〉と同じ脈動をしていた」

 〈罪の記録〉──所有者の過去を刻み、代償として魂を縛る禁書。三カ月前に消失したはずだった。

 午後九時〇五分、ギャラリー裏手。戦闘の疲労を誤魔化すように、朋美は近くの屋台で焼き餃子を買った。熱々の一個を頬張りながら、龍也と次の行動を確認する。

 「絵里香から連絡。兄の光平が禁書に触れたらしい」

 「場所と時間は?」

 「西東京市、今夜十一時。宝船式の部屋を使ったそうだ」

 「了解。移動は車。十五分で準備するわ」

 月はまだ昼のまま輝いている。二人は東の空を一瞥し、ギャラリーを後にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ