第3記『思わぬ人と、再会しました』
〇前回までのあらすじ
昨日に引き続き、ギルドで冒険者のハンパーに襲われたコニー。しかし一緒に居合わせた受付嬢パムに助けられ、コニーは事なきを得た。しかし今度は、パムからあらぬ疑いをかけられる事になってしまうが、途中から話に入ったギルド長によって、パムの誤解を解く事ができた。
受付嬢のパムと共にギルドの応接室にいたコニーは、本題の依頼を受けるためカウンターに戻って来た。
「それでは改めて、依頼の受注をさせて頂きます」
応接室で散々取り乱していたパムだったが、カウンターに戻ると始めに見た時の冷静な態度に戻っていた。
「それじゃ、まずは護衛依頼の手続きを……」
「あれ、兄ちゃん?」
コニーが早速依頼を受けようとすると、背後から何処か聞き覚えのある声が聞こえた。
「あれ、君は……?」
コニーが振り返ると、そこには昨日街中で見た少年の姿があった。
「やっぱり、昨日の兄ちゃんだ!」
コニーと再会した少年は、笑顔で嬉しさを全面に表す。
「ティア、昨日の兄ちゃんだよ!」
「ジュン、ちょっと落ち着いて……」
嬉しさのあまりピョンピョンと飛び跳ねるジュンに、ティアは周りの視線を気にしながらうんざりしていた。
「君達、ここに来たって事は……」
「そうだよ、俺達冒険者になるんだ!」
コニーが聞き終えるよりも早く、ジュンがギルドに来た目的を明かした。
「ちょっと、私は冒険者になるつもりはないからね!?」
ジュンに突然一括りにされたティアは、冒険者になる意思はないと即座に否定する。
「えっ……それじゃ、何でついてきたんだよ?」
「アンタ1人じゃ危なっかしいからよ……」
ティアの反応に首を傾げるジュンに、ティアは頭を抱えながら項垂れる。
「それに……冒険者にはならないけど、ギルドには登録しておこうと思って。まだどんな職業にするか決めてないけど、とりあえず証は持っておきたいから」
「ふーん、そっか……」
ティアが冒険者にならないと聞いてから、ジュンは興味がなさそうにティアの話を聞き流す。
「……それじゃ、早速冒険者登録を……!」
「申し訳ありません。今はこちらの方の対応をしている最中ですので、それが終わるまでお待ち下さい」
ジュンが勢い任せで受付の前に出ると、パムが冷静な対応でジュンを止める。
「す、すいません! ほら、さっさと退く!」
「お、おう……」
ティアが申し訳なさそうに頭を下げると、ジュンの肩を力強く引っ張って下がらせる。
「……そうだ、兄ちゃん!」
一度引き下がったジュンだったが、思い立った瞬間ティアの腕を振り切ってコニーの下へ駆け寄る。
「兄ちゃん、冒険者でしょ? 良かったら、俺に冒険者の事教えてよ!」
「え……えぇっ!?」
ジュンからの唐突な申し出に、コニーは一瞬間を置いて驚いた。
「アンタは……何言ってんの!」
「あだっ!」
慌てて追いかけて来たティアが、ジュンの後頭部に平手を打ち込む。
「ってて……いいじゃんか、俺達を助けてくれた人だぜ? それに外界を旅した冒険者に教われば、外界の事も色々聞けるし!」
「人の迷惑を考えなさいって言ってんの! それに冒険者の事を学びたいなら、もっと適した場所があるはずでしょ!?」
「それって、どんなトコだよ!?」
「知らないわよ! でもビギリップは広い街だし、冒険者もたくさんいるから、そういう場所の1つくらいあるでしょ!?」
ジュンとティアはお互い譲らず、ギルド中に響き渡る声で言い争う。初めは周りを気にしていたティアも、ジュンへの対抗心から言葉に熱が入る。
「お、何だ何だ?」
「うるせぇな、ここはガキが来る所じゃねぇぞ……」
「ははっ、ガキ共が乳繰り合ってやがるぜ!」
2人の喧騒が聞こえた周りの冒険者達も、最初はうっとうしそうに文句を言っていたが、2人の熱が上がると逆にはやし立てる様な声が上がってきた。
「え、えっと……」
完全に放置されてしまったコニーはどうする事もできず、2人の喧嘩を眺めていた。
「……分かった。僕でよければ、君達に冒険者の事を教えるよ」
2人の様子を見かねたコニーは、気が進まないながらも指導する旨を伝えた。
「えっ!? マジで!?」
コニーの一言に、ジュンは素早く反応して振り返る。
「うん、いいよ。でも、僕も最近Dランクになったばかりだから、ちゃんと教えられる自信はないけど、それでもいい?」
「いい、いいよ! 外界から来た人に教われる事なんてそうそうないだろうし、兄ちゃんなら安心だよ!」
コニーは前もって自分の不安要素を伝えるが、ジュンは全く気にする事なく嬉しそうにガッツポーズを取る。
「それと、僕がこの街に居るのは数日だけだから、あまり多くの事は教えられないよ?」
「えぇー、そっかぁ……ま、それでもいいや!」
時間がないと聞いてジュンは落胆するが、教えてもらえる喜びが勝り一瞬で気持ちを持ち直す。
「あの……間違いだとは思うんですけど、私もお兄さんに教わる事になってません?」
嬉しそうな表情を浮かべるジュンの横から、ティアが手を挙げながらコニーに恐る恐る質問する。
「うん、君にも教えるつもりだよ」
「えっと……私、冒険者になるつもりはないんです」
教えてもらえるという立場から、ティアは少し申し訳なさそうに自分の気持ちを伝える。
「冒険者になるかどうかは、教えた後でゆっくり考えればいいよ。知った上で、もし興味を持ってくれたら冒険者になってもいいし、やっぱり嫌ならならなくてもいい。それにギルドの登録者になるなら、冒険者の事を知って損はないよ!」
「そ、それは……」
コニーの弁舌でだんだん断りづらい状況になりつつあり、ティアはどう断ろうかと必死で言葉を探す。
「……それに、あの子のためでもあるんだ」
「えっ……?」
ティアが返答に迷っている所に、コニーはジュンにチラッと視線を移しながら、ジュンに聞こえない様に小声で話す。
「あの子、僕から見ても危なっかしい所があるみたいで、ちょっと放っておけない感じがするんだ」
「そうですよね……アイツ、昔っから考えなしなトコあって……」
コニーと小声で話しながら、ティアは呆れた顔で小さくため息をつく。
「冒険者は危険な仕事だから、あの子が間違った方向に向かわない様に、誰かが見ていてくれると僕も安心して教えらえるんだ。君はあの子と仲が良いみたいだから、僕が去ってからは君にあの子を見張って欲しい」
「べ、別にそこまでしてやる仲じゃ……」
コニーにジュンと友達と言われて、ティアはさらに声をすぼめて口籠る。
「……でも、そうですね。お兄さんの言う通りかもしれないです。冒険者は興味ないけど、ジュンがどんな仕事に興味を持ったのか、私もちょっと見てみようかな」
「それじゃ、来てくれるんだね?」
「……はい!」
コニーがティアに心境が変わったか聞くと、ティアは黙って頷いた。
「ありがとう!」
ティアのやる気に満ち溢れた眼差しを見て、コニーは心からの感謝を言葉にした。
「よし……それじゃ2人共、今からギルドに登録しよう」
「「うん!」」
2人に指導する事が決まると、コニーはパムの方へと振り返る。
「……お話はまとまった様ですね。今は混み合っていないからいいですが、相談でしたらカウンターの前以外でして下さい」
「あっ……す、すいません……」
パムに軽く注意されて、コニーは申し訳なさそうに頭を下げる。
「それで、どの依頼を受けますか?」……」
パムがカウンターの上に置かれた依頼管理用の魔具を指し、魔石に写し出されている依頼を選ぶ様に促す。
「は、はいっ! まずはこの護衛依頼と……」
コニーは受けられる依頼を眺めて、真っ先にグルタの護衛依頼を指す。
「……後はこの辺りの依頼をお願いします」
依頼内容を一瞥したコニーは、採取系の依頼を適当に見繕った。
「では、証を」
「はい!」
パムがカウンターの下から証読み取り用の魔具を取り出し、コニーは自分のギルド証を魔具に読み取らせる。
(採取系の依頼……Dランクが受ける様な依頼じゃないけど、さっき新人を見るって言ってたから、2人を指導しながら安全にこなせる依頼を選んだのかしら……?)
コニーが受けた依頼の内容にパムは不信感を抱いたが、それらしい理由を推察して1人で納得する。
「……はい、受領しました」
考え事をしながらもしっかり手続きを進めていたパムは、コニーが受ける依頼の受領処理を全て終えた。
「それじゃ、次は君達の番だよ」
「っしゃ! まずは俺からな!」
コニーが手続きを終えて後ろの2人に譲ると、我先にとジュンがカウンターの前に出る。
「……何でもいいけど、さっさと終わらせてよ?」
先を越された事に無関心なティアは、冷めた目でジュンの背中に語りかける。
「ようこそ、ビギリップギルドへ。今日はどの様なご用件でしょうか?」
「冒険者になりに来ました!」
パムがお決まりの台詞で丁寧に出迎えるのに対して、ジュンはアバウトな注文を提示する。
「ギルドでの登録は初めてでしょうか?」
「そうです!」
「ではまずは、ギルドへ登録をお願いします」
パムは順序よくギルド登録の流れに誘導して、カウンター下から分厚い冊子と魔具を取り出した。
「ギルドへの登録は、こちらの簡易鑑定魔具で鑑定された情報を、ギルドに提出するだけです。鑑定で開示される情報を含め、ギルド登録に関する事はこちらの説明書をご覧下さい」
「分かった!」
ジュンは言うが早いか、真っ先に鑑定魔具を掴む。
「ちょっと、何してんのよ!?」
「な、何だよ……」
後ろで見ていたティアが、いきなり鑑定するジュンを引っ張ってカウンターから引き離す。
「どんな情報を登録するかも知らないで、いきなり鑑定しようとするんじゃないわよ!」
向こう見ずなジュンに代わって、ティアはカウンターに置かれたギルド登録の説明書を取って読む。
「えっと……『ギルド登録者は、一部の個人情報を定期的にギルドへ登録する義務がある。登録する内容は、基本的な身体機能及びそれに付随する情報、恩恵を含めた所有する全てのスキルの系統と種類、上記を総合したギルド独自の基準による評価の3種類である。』……。うん、特に問題なさそうね」
ギルド登録説明をざっくりと読み上げて、ティアはひとまず安心する。
「ふーん……大した事は分かんないんだな」
「アンタねぇ……」
まるで気にする様子のないジュンに、ティアは呆れて言葉が見つからなかった。
「それで、俺の情報はどんななんだ?」
ティアの様子を気にも留めず、ジュンは自分の鑑定結果を見ようと鑑定魔具を覗き込む。鑑定魔具の水晶体の中には、ジュンがギルドに登録する情報がびっしりと記されていた。
「力に耐久に体力……魔力とかも分かるんだ。精神と……敏捷? なんかよく分かんないものもあるな」
ジュンは水晶体を食い入る様に覗き込み、自分の情報を一つずつ確認する。
「全ての情報はA~Gまでの7段階で評価されます。Aが最高評価で、Gが最低評価となります。しかしこの鑑定結果はあくまで暫定のものですので、今後の成長次第で変化する可能性はあります」
礼を欠いたジュンの態度を気にする事なく、パムは情報に関する補足説明をしてくれる。
「そっか……思ったより力とか魔力が低いけど、鍛えれば何とかなるかな~……」
望んでいた情報が期待ほど高くない事に、ジュンは少しだけ気を落とした。
「……これでギルドへの登録は完了です」
ジュンが自分の情報の評価で落ち込んでいる間に、パムはジュンのギルド登録を済ませていた。
「希望の職業は冒険者という事ですが、このまま冒険者に登録してよろしいですか?」
「う~ん……うん、冒険者になる!」
パムの問い掛けに少し悩んだジュンだったが、結局冒険者になる事を選んだ。
「それでは次に、副職の希望はありますか?」
「ふくしょく……?」
すでに冒険者登録を終えて満足していたジュンは、パムから次の質問が飛んできて疑問符を浮かべる。
「『ギルドは本職となる職業1種類に加えて、3種類まで副職を設定できる』。色んな職業に登録できる、ギルドならではの規則ね」
パムの質問を聞いた瞬間、ティアはギルド登録説明書から同じ内容を見つけて読み上げる。
「とりあえず、無難な職業を登録したら?」
「でも、冒険者以外に登録した職業なんてないし……」
ティアの提案を聞いてなりたい職業を思い浮かべるジュンだったが、冒険者への憧れが強すぎて他の職業を選べずにいた。
「……それなら、今は選ばなくていいんじゃないかな?」
ジュンが副職を選べずにいると、コニーが思い切った提案をする。
「だ、大丈夫なんですか……? 冒険者って、結構危険が多いって聞きますけど……」
コニーの大胆な提案に、ティアもたまらずコニーに不安な気持ちを打ち明ける。
「中途半端に副職を決める方が、あんまりよくないと思うんだ。職業変更はすぐにはできないから、後から興味のある職業が見つかった時に、他の職業に登録していて変えられないかもしれないから、とりあえず登録しないって選択もアリだよ」
「ほ、本当だ……『登録した職業は、登録から1ヶ月は変更できない』って書いてある……。副業も『未登録の状態なら、ギルドでいつでも登録可能』ってある……」
コニーの説明を聞いたティアは、ギルド登録説明書を隅々まで目を通して、コニーの言葉が真実だと知って感心する。
「だから今は、冒険者の事だけ考えてみよう」
「……うん、兄ちゃんありがと!」
コニーに背中を押されて、ジュンも決心がついた。
「では、ジュンさんは副職なしでよろしいですか?」
「うん、それで!」
パムが改めて副職に就かないか聞くと、ジュンは迷いなく答えた。
「では……これで、ジュンさんのギルド登録が完了しました。こちらが、ギルド証です」
諸々の手続きを終えたパムが、いつの間にか作っていたジュンのギルド証をカウンターにそっと置く。
「これが、ギルド証……!」
自分のギルド証を手に取ったジュンは、ギルド証を天高く掲げて感極まった表情で眺める。
「ギルド証は、他の一般証と同じく身分や階級の証明に利用できる他、ギルド登録者が利用できる様々な特権やサービスがあります。詳しい使い方については、私達ギルド職員に聞いていただくか、そちらのギルド登録説明書を確認して下さい」
「ほぇー……」
パムがギルド証に関する重要な説明をしている間も、ジュンはボーッとギルド証を眺め続けていた。
「アンタねぇ……ちゃんと聞きなさいよ!」
「あっ! 何すんだよ!?」
全く聞く耳を持たないジュンに呆れたティアは、ジュンからギルド証を取り上げた。
「ふっ……この!」
ジュンが慌ててギルド証を取り返そうとするが、ティアがあっちへこっちへとギルド証を振り回して躱す。
「ほら……終わったんなら、次は私の番ね」
ジュンがカウンターから離れたのを見計らって、ティアはジュンにギルド証を返した。
「ちぇっ、分かったよ……」
ようやくギルド証を返してもらったジュンは、また取られない様に懐にしっかりと抱える。
「ようこそ、ビギリップギルドへ。今日はどの様なご用件でしょうか?」
「ギルド登録をお願いします」
「それでは、こちらの魔具でギルド登録情報を登録して下さい」
ついさっきまで登録の流れを見ていたティアは、トントン拍子でギルド登録を進めていく。
「……はい、これで登録は完了しました。こちらがギルド証です」
「はい、ありがとうございます」
ティアが鑑定魔具に触れて間もなく、ティアのギルド登録は完了した。
「ギルドで登録する職業はどうしますか?」
「今の所はなしで大丈夫です」
パムがついでに職業登録の意思があるか確認するが、ティアは即刻きっぱりと断った。
「へぇ〜……ティアって、意外と力あんだな」
「な、何してんのよアンタ!?」
ティアのギルド登録手続きをつまらなそうに見ていたジュンが、いつの間にかティアの脇から鑑定魔具を覗き見していた。
「魔力も結構あって……あ、これがティアの恩恵か?」
「この……いい加減にして!」
あまりに度が過ぎたジュンの行動に、ティアは我慢ならなくなって拳を振り上げる。
「はい、そこまでだよ」
しかしティアの拳がジュンの脳天に直撃する直前、ジュンはコニーに抱え上げられて後ろに大きく後退した。
「「……え?」」
目にも止まらぬ速さで移動するコニーに、ジュンもティアも何が起きたのか理解できなかった。
「……君、友達の簡易鑑定の内容だからって、他人の情報を盗み見たら駄目なんだよ?」
「う、うん、ゴメン……」
呆気に取られていたジュンは、コニーに注意されて素直に謝った。
「謝るなら、そっちの子にね」
「う、うん……」
ジュンが大人しくなったのを見て、コニーはジュンをティアの前にゆっくりと降ろした。
「ゴメンな、ティア」
「うん、いいよ。ジュンに情報見られた所で、困る事なんてないし」
ジュンにしおらしく頭を下げられて、ティアも謝罪を素直に受け取った。
「……それに、私もゴメン。もう少しでジュンの頭を叩き潰す所だった……」
「えっ……マジで?」
ティアがさらっととんでもない事をしようとしたと知って、ジュンは真顔で青ざめる。
(……さっきこの子が殴りそうになった時、拳に一瞬だけ纏ってたものの事かな? あれを見て僕もつい手を出しちゃったんだけど、あれってそんな危ないものだったんだ……)
横でティアの話を聞いたコニーは、咄嗟に割って入ってよかったと心の底から思った。
「……さて、これで2人共ギルド登録は済ませたし、早速依頼をしてみようか」
「おっ、ついに来た!」
コニーの口から依頼と聞いて、ジュンはやる気に満ち溢れる。
「……っと、その前に……そういえば僕達、お互いに名前を知らなかったね。僕はコニー。見ての通り冒険者で、ランクはDだよ」
コニーは2人の名前を知らないと気がついて、改めて自分から自己紹介する。
「そっか、そうだった! 俺はジュン、ついさっき冒険者になったぞ!」
コニーに言われてようやく気づいたジュンは、元気よくギルド証を見せびらかす。
「お互い名乗るタイミングがなかったですからね。私はクリスティア、長いので皆からはティアと呼ばれています」
ティアはコニーに言われる前から分かっていた様子で、改めてお辞儀をしながら挨拶する。
「それじゃジュン君、まずは依頼を選んでみよう」
「おうっ!」
コニーに言われるまま、ジュンはカウンターの前に立った。
「依頼の受注ですね。ジュンさんが受けられる依頼は、こちらになります」
「えっと……『外壁周辺の整備』、『街道周辺の雑草狩り』、『外界廃棄物の撤去』? 何か、面白い依頼がないなぁ……」
依頼管理魔具に表示された依頼の一覧を眺めながら、ジュンはつまらなそうにため息をつく。
「冒険者になったばかりだから、受けられる依頼が少ないのは仕方ないよ。でも地道に依頼を達成して昇級していけば、受けられる依頼も増えていくよ!」
「そっか……それなら、俺も頑張る!」
ジュンは思っていた様な依頼を受けられず残念そうにするが、コニーに励まされてやる気を取り戻す。
「そうだね……とりあえず、この辺りの依頼は完了までの期限が無制限で、外界に出た時についでに出来るからオススメだよ」
コニーは魔具に表示されている依頼の中から、『街道周辺の雑草狩り』と『外界廃棄物の撤去』を指す。
「ふ~ん……じゃあ、この2つの依頼を受けるよ!」
「そしたら、あと1つは……ジュン君が好きに決めていいよ」
「えっ? もっと依頼受けないの?」
「残念だけど、一度に受けられる依頼の数には制限があるんだ。ジュン君はまだGランクだから、1度に3つまでしか依頼を受けられないんだ」
「そっかぁ……」
一気に依頼をこなそうと思っていたジュンは、コニーから依頼の受注制限を聞いて少しがっかりする。
「それじゃ……この依頼にするよ」
ジュンは依頼の一覧を眺めながらしばらく悩んで、始めに目にした『外壁周辺の整備』の依頼を選んだ。
「それでいいの?」
「だって、他の依頼は領内依頼ばっかなんだもん。外界に出たくて冒険者になったのに、領内依頼なんか選ばないよ!」
「そっか……うん、そうだよね!」
ジュンの外界への憧れを聞いて、コニーは素直に感動した。
「それじゃ依頼も受けたし、今から外界に行こう!」
「よっしゃ、やっと行ける!」
コニーから外界に出れると聞いて、ジュンはより一層やる気を漲らせる。
「勿論、ティアちゃんも一緒にね」
「は、はい……」
やる気満々のジュンとは異なり、ティアはあまり乗り気になれないでいた。
「うげっ、ティアも来んのか……」
ティアがついて来ると聞いて、ジュンのテンションが一瞬で逆転する。
「何よ、その態度……私がいたら、困る事でもあるの?」
ジュンの態度を見たティアは、ジュンとは逆に気持ちが上向きになる。
「まぁまぁ……一緒に行くんだから、仲良くしよう?」
2人のやり取りに尻込みしながらも、コニーは2人の背中を押してギルドを後にした。
〇備忘録「世界常識3:依頼について」
依頼とは主に、ギルドが斡旋した仕事の総称である。ギルド登録者が必要とする仕事をギルドに申請して、ギルドが依頼として発注して他のギルド登録者が受ける流れとなる。
依頼には大きく分けて、領内で仕事する領内依頼と、外界で仕事する外界依頼の2つが存在し、冒険者は主に外界依頼をメインとし、それ以外の職業は領内依頼を本領としている事が多い。領内依頼は比較的危険が少なく、少ないながらも安定的な報酬を得られる。対して外界依頼は少なからず危険が伴う事が多く、報酬は内容によって大きく変わる。