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第3話 言葉にしてない本質を指摘されるのは恥ずかしい

 なんだか立場が逆転したようで非常に癪なのだが、口から出そうな皮肉を喉で留まらせて制服少女の返答を待つ。

「家出中ですから。

 持ち歩くしかないでしょう?」

「あぁ……そうね」

 言われてみればその通りで。

 拠点がないのなら荷物は持ち歩く以外に方法はない。

 もちろん、それは可愛げの欠片もない犬のぬいぐるみも例外ではなかった。


 なんで思い至らなかったんだろうと頭をかくが、そこまでバカにされることでもないだろうと思う。

 この湧き上がる負の感情は後々制服少女で発散するとして。

「邪魔なら引き取るが?」

 家出中に荷物なんて増やしても行動を妨げるだけ。それも、ぬいぐるみなんて役に立たないだろう。

 俺に起因するゆえの提案だったが、制服少女は「いい」と死んだ目をした犬のぬいぐるみを隠すように抱きしめる。

 その挙動は、子供が大好きなおもちゃを取られまいとする行動に似ていた。


「この子は、私のですから」

「そ」

 親切の押し売りは迷惑以外のなにものでもない。

 俺がぬいぐるみをあげたせいで面倒を被っているのならとの気遣いで。

 どちらかといえば俺の憂慮を晴らしたかっただけだった。

 最初から、それほど制服少女の心配はあんまりしていないので、本人が良いというのならどうでもよかった。


「後々邪魔になったからって、もう受け付けないからな。

 俺の親切はナマモノだ」

「アフターサポート最悪のお店ですね。

 二度と利用しないのでそのまま腐って生ゴミとして出しておいてください」

 邪魔にはなりませんから、とぽしょりと零す。


 ふーっと鼻から息を吐き出し、肩の力を抜く。

 ちょいちょい仕草が幼いというか、なんというか。いいけど。


 話はこれで終わり。

 さくっと仕事に戻りたいところなのだが、話題の中で気にかかる疑問が生まれてしまった。

 ちらりと彼女の足元に視線を落とす。

 テーブルの足に寄りかかる学生鞄が1つ。

 制服少女の手荷物はそれだけだ。


 顔のパーツをぎゅっと中央に寄せる。

 俺は今相当渋い顔をしているだろう。おでこの少し上。生え際の部分がズキズキと痛む。別にハゲそうとかそういう未来への懸念ではない。ない。


 事情を探る真似なんてしたくはないんだがなぁ。

 面倒だし。興味もな……いわけじゃ、なくなったけれど。その感情の出処はともかく。

 深く追求したいわけじゃない。


 けれども、制服少女の姉からの命令(強制)もある。

 そもそも命令というは強制的なモノでは? と、自分にツッコミを入れたくなったが、そういうことではないのだ。自分で自分の揚げ足を取る虚しさったらない。

 まぁ、家族である窓際美人が心配してるなら、な。うん。しょうがない。


 俺が興味本位で訊きたいわけじゃないと、言い訳という名の盾を構えてそれとなく話題を振ってみることにする。

「そーいえばー。

 今、どうやって生活してるんだ?」

 質問した瞬間、きょとんっと制服少女が目を丸くする。

 珍しいモノでも見るように。

 まじまじ見つめられて、「な、なんだよぉ」と身構える。


 変なこと言ったか、俺。

 話の流れ的にもそこまでおかしくないと思うのだが。

 偶発的に虚を突いてしまい、質問した側の俺のほうが取り乱してしまう。

 なにかやったのか……? と、ありもしない失態を探そうとしていると。

 ようやく意識が戻ってきたのか、制服少女は見開いていた目からゆっくりと力を抜いていく。

 それでも、俺を見る目は変わらず、驚きと興味を混ぜたモノだけれど。


「だから、なんだよ」

「いえ、意外だったので」

 意外?

 なにがと首を傾げると、なにがおかしいのか笑われてしまう。

「……なんだよぉもぉ」

「なんでも」

 一頻り笑って、制服少女が言う。

「事情なんて訊きたくない、関わりたくないって冷めたスタンスだと思っていましたから。

 わざわざ自分から踏み込む真似をすると思わず……ね?」

 からかうような流し目を向けられて、カァーっと顔の熱が上がる。


 思った以上に見られていたとか。

 そんなにわかりやすいのかとか。

 羞恥に至る過程はともかく、他人に心を暴かれているようで耐え難い。

 口元を手で隠して、テーブルに視線を落とす。

 けれど、その態度がまたいけなかったのか。

 くすくすと耳をくすぐる笑い声に体温ばかりか、心の熱まで上がっていくようだった。


 くっ。いいようにされていてムカつく。

 羞恥を誤魔化そうとして怒りが表面に出てくるのは人間のさがだ。

 弱みを突かれれば、誰だって慌てるし、心も粟立つ。冷静じゃなくなる。

 だから、こういう時に限って失敗を重ねてしまう。

「……別に俺が訊きたいわけじゃなくって――」

 お前の姉がと続けようとして、より強く手で口を押さえつける。


 やば。滑った。

 羞恥という名の油によって、唇の動きはあまりにも滑らかだった。隠し事すらも、ぽろりと吐き出してしまいそうになるぐらいに。

 幸い致命的な部分まで零したわけではなかったが、やっちまったというこの態度そのままが制服少女に情報を与えている事実にも遅まきながら気付く。


 喉を鳴らして、表情と感情を整える。

 びーくーるびーくーる。

 よし、と顔を上げると、どこかで見たことのあるニッコリ笑顔が俺を出迎えて、ひくっと頬が引き攣った。


「“俺が訊きたいわけじゃなくって”?

 で、続きはなんでしょうか?

 ――夜行さん?」


 胸の名札が俺の動揺に合わせて揺れる。


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