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第2話 貧しくとも、微かでも、胸は確かにそこにある

「…………。

 大丈夫……?」

 ため息をついて伏せていた顔を上げると、制服少女の整った眉がハの字に下がっていた。その瞳は心配そうに揺れている。

 普段との態度の違いからか、察しの悪そうな彼女にも変化を感じ取られたらしい。まぁ、これほど露骨に態度に示していて、気付かないほうがどうかしているという意見もあるのだが。


「なにかあるなら訊きますけど?」

「……お前が?」

 胡乱な目を向ける。


 話せないからこそこうして苦悩を溜め込んでいるわけなのだが、制服少女に話せたとしてどうにかできる問題なのか疑問が残る。


 眉をひそめて疑わしげに見ると、ふいっと顔を背けた。

「……その。

 日頃お世話になっているわけで。

 話を訊くぐらいなら、私にもできますから」

 さらさらと揺れる黒髪の間から、赤みを伴った耳が露出する。


 ちょっとばかり気が抜ける。

 制服少女に向ける感情の半分は『お前のことで絶賛悩んでるんだけどなー』という皮肉めいたもの。

 感情に釣られてか、しらーっとした目を向けてしまうと、「な、なに?」と制服少女がわたわたと挙動不審になる。


 ただ、もう半分は気にかけてもらったことへの感謝……という言葉を使うのは少し重いけれど。

 心配してもらったところで、現実的になにかが解決することはない。

 それでも、人間、誰かに気にかけてもらっているという事実だけで、気が楽になることもある。

 ……その相手が諸々の問題の元凶を担っているというのは、マッチポンプめいているのだが、まぁ、悪くはなかった。


 もーなんか面倒臭くなってきたなー。

 全部ぶちまけてしまおうか。なんて、破滅への一歩を進みそうな考えが浮かぶ。

 ただ、それを行動に移そうとすると、『うふふー』と微笑む黒魔女の顔が脳裏を過って俺を思い留まらせる。


 そうなると、口をついて出るのは1つ優先度の下がった気になっていたことで。

 俺の視線は制服少女の顔から、すーっと下がる。見られた彼女がぎゅっと胸を庇うように()()を抱きしめる。

「なに急に……。

 興味ないなんて装ってみても、やっぱり女子高生の胸が気になるんですか?

 場合によっては通報しますよ?」

「お前のぺったんこなんぞに手を出すか」

 あれ? これどこか似たようなことを言った覚えがあるが……。


 どういう意味ですかごらぁと荒ぶりそうな貧乳神から意識を逸して、既視感に首を傾げる。記憶を少し掘り起こせば思い出せそうであるが……やめておこう。

 記憶の中でシスコンを拗らせた巨乳神が鼻息荒く妹の魅力について語ってきそうだったから。ほとんど思い出しているが、素知らぬ顔で記憶に蓋をする。


「お前の胸が貧しかろうが、微かに膨らんでいようがどうでもいいから。

 貧乳だろうが微乳だろうが誤差だ誤差」

「大きな差でしょうが!

 それに私の胸は貧しくとも微かでもありませんっ」

平乳へいにゅう

「~~っ!?」

 バンバンッと真っ赤な顔でテーブルを叩き出す。言葉にならない昂ぶる感情が貧乳神を荒ぶらせる。

 このまま乳弄りを続けると、遠からず俺への暴力に移行しそうなので、そうならない内に本題へと意識を移す。


 ちょんちょんと制服少女の膝の上に鎮座するそれを指差す。

 目の端を釣り上げて怒り心頭の制服少女だったが、俺の指し示す物にようやく気が付いたのか、浮かしていた腰を下ろしてすとんっと座り直す。

「これは、この前貴方に取っていただいたぬいぐるみですが……ボケましたか?」

「ここぞとばかりに煽ってくるなぁ」

 馬鹿にするように冷笑される。

 さっきの仕返しも混ざっていそうな憎たらしい顔だ。頬をつねってやりたい。


 死んだ目をした犬のぬいぐるみ。

 それがなんであるかはよく知っている。先日、ゲームセンターで俺が財布を空にする勢いでどうにか取った景品である。……今思い出しても後悔で胸が苦しくなる。うぐぅ。


 やたら金がかかったわりには、半分目を閉じて隈まである可愛げのない犬のぬいぐるみ。

 あの後、気になってフリマアプリで調べたら最安値500円で泣けた。無知な人間が搾取される世の中。やっぱり貯金箱だったか。


 そんなぬいぐるみらしい愛らしさとは皆無なそれの前足を取って、制服少女は上下に振っている。「なんですかこの野郎」と柄が悪い。どういうキャラ設定なのか気になるところであるが、それはどうでもいい。

「なんでそのぬいぐるみを持っているのかって訊いてんの」

 すると、はぁ……? とバカを見る蔑んだ目を向けられてしまう。

 まるで問題文の中に答えが載っていて、そのテストを制作した教師を見るような目だった。

 わからないのかと、これ見よがしにため息をつかれる。


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