表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界最弱伝説〜最弱の英雄〜  作者: みりんタイプR調味料
25/49

マックスの過去




僕は女の子になりたかった。




ガッ!!




「なぜ!こんな人形も殴れないのだ!!マックス!!」



「だって…可哀想じゃないですか」



殴られるのは慣れている…それより



「やめて!やめて父様!!」


大切にしていた犬のぬいぐるみを引き裂かれる…



「あ…あぁ…ぐす…」



「泣くな!!マックス!!!男が涙を見せていいのは大義を成した時だけだ!!!」



男だから…長男だから……もう聞き飽きた…



何かあればガントレットの男子たるもの…


「どこに行く!マックス!!」


道場を飛び出す。


行くアテなんかない…



……………




お腹が空いた。

晩御飯の時間はとっくに過ぎている。

滝の側にある岩に腰掛けて何も出来ないでいた。



「やっぱここか」


肉まんを投げて寄越される。


「フェイ…」


「家飛び出したって聞いてよ…お前のとーちゃん恐いからなー」



「かーちゃん、あんなに美人で優しいのにな、凸凹カップルか羨ましいね」



物心ついた時から馴染みのあるフェイ…いつも僕が困っていると助けてくれる。



同い年なのに兄さんみたいだ。


「ありがとう…」


「面倒くせーよな族長の息子ってだけで毎日しごかれてよ」


「向いてないよ…僕には、なんでガントレットに生まれちゃったんだろ」


「まあな、お前は拳術ってより花とか愛でてるタイプだもんな」






なんで、人を傷つける技を覚えなきゃいけないのか…

僕は…そんなことしたくない。



フェイは肉まんを食べる僕をマジマジと見つめてくる…

 

「な、なに…いきなり」



「おまえが女だったら放って置かなかったのにな!もったいねー」



恥ずかしかったが悪い気はしなかった。


違う……嬉しかった。



「まあ、それ食ったら帰るぞ」



「でも…父様が…」


「そんときゃ!いつもみたいに庇ってやるよ!こないだのは惜しかったろ?もう少しで一発入ったのに」


活き活きと拳を振るうフェイ



いつまでも、こんなフェイとの関係が続けばいいのに……






…………………………………




1年後………フェイが死んだ……




「フェイ!!!フェイ!!!」



高熱を出し意識が無いフェイを僕と里のみんなが囲む。



成人の試練……サイなんて殆ど使えない人虎族に…なんでこんな事が起こるんだろう……



「マックス…落ち着け、フェイはきっと大丈夫…帰ってくる」



里の大人に諭される。



「フェイ!」


フェイの手を握る、汗ばんだ熱い手……


僕の手を引いていつも……引き連れていたフェイの手……



「そろそろ帰るぞマックス、フェイなら大丈夫だ」


「でも…でも…何もできないなんて…僕は…」



動転する僕を担ぎ上げ屋敷から出る父様。



「帰るぞ、フェイの家族に負担がかかる」




翌日……フェイが帰ってくることはなかった…………


涙は出なかった……


声も出なかった……






そして言葉を失った………






……………………………





隣の部屋から声が聞こえる…


「あなた……マックスはどうして……」


「今は放っておくしかあるまい…」


父様と母様が悲しそうだ…


僕だって何度も叫ぼうと!声を出そうと頑張ったけど駄目だった…



父様…母様…… 


居た堪れなくなり道場へ向かう。





拳立てをする


もう…どれくらい時間が経ったのだろう。


体が壊れるんじゃないかと悲鳴を上げる。


何かしていないと、おかしくなりそうだ。




「邪魔するぜ!お嬢ちゃんホクサイってやつは居るか?」



誰だろう…赤茶色い髪の妖兎族の青年が道場に入ってきた。



返事ができない……どうしよう。



「誰か来たのかマックス」



え!!!



消えた!



パーーーーーン!!!



振り返ると僕の背後に居る父様に青年が殴り掛かり父様は、その拳を掴んでいた。



「リベンジの時間だよ〜♪ホクサイちゃ〜ん♪」



「エド…この戦乱で、この里まで来るとは……貴様の執念は凄まじいな…穴を掘るのは諦めたのか?」



「ありゃ後回しだ!テメーをぶっ飛ばすのが先だ!!!!」




飛ぶように道場の扉を破り林に出る二人。




木から木へ飛び移り、時折り聞こえる打撃音。



見えない!!僕には二人の動きが分からない!


やっと道場の側に現れたと思ったら今度は二人とも構えたまま動かない。



「腕を上げたな…信じられん」



「そりゃー勝算なきゃ来ねーよ!!」



「あれだけ無謀だと言われても折れんな貴様は」



「諦めて後悔したら、そいつら俺に何かしてくれんのか?」



空気が張り詰める…


一撃だ!次の一撃で決まる!!



あの父様と互角に渡り合えるなんて……




ボッ!!!




空気の壁を破るような音がした。




ドサッ……




立っていたのは……



父様だった…



「マックス、道場で手当てしてやれ」





………………………………





「う…あ……」


気が付いた!


「そうか……まだ…駄目か…」



口惜しそうに溜息をつき起き上がるエドさん。



急所は外してるとはいえ、そんな直ぐに起き上がれるもんじゃない。



「嬢ちゃんが手当てしてくれたのかい?」



答えられない……ジェスチャーで何とかしようとする。



「おまえ…喋れないのか…」



「マックスは俺の息子だ」



禅を組んでいた父様がエドさんに歩み寄ってくる。



「試練で友を亡くしてな、それ以来口を利くことが出来ん」



「そーか……ありがとよマックス」



負けたのに、笑いながら礼を言われる、何なんだろこの人は



「ガーーーハッハッ!!やはり貴様は傑作な奴だ!!」



「今回はお前もマジだったろ」



笑い合う二人……



何が何だか


キョトンとしてる僕に紹介する父様。



「エドワードだ、ワシが旅に出た時に砂漠で穴を掘る変な奴を見つけてな」



「あの時の事は、ぜってーテメーを打ち負かして詫びさせてやる!」




……………………………



エドさんがディオの里に来て一ヶ月が経った。



「アーシャちゃんが作った飯は本当うめーな!毎日食えて幸せもんだなホクサイ!綺麗だし、お前にゃもったいねー嫁さんだよ」



「まあエドワードさんったら…おかわり食べます♪」



もう僕の家族にすっかり馴染んでいる。

里の皆とも、すぐに仲良くなった。


不思議な人だ…傍若無人な態度なのに、どこか憎めない魅力がある。



「ごちそーさん!そんじゃまー腹もいっぱいになったし行くかマックス!」




………………




滝を泳いで登るエドさん。


僕はエドさんの修行に着いていくのが日課になっていた。



「ふー、昼飯にするかマックス」


黙々と毎日修行をするエドさん、僕には到底真似ができない…



「お前のとーちゃん、つえーな〜まだまだ、こんなもんじゃ駄目だわ」


どうして、そこまでして父様に勝とうとするのだろう?

妖兎族は戦闘に向かないと聞いていたのだけれど…



「なんだよ…お前まで、なんでそこまでやるんだ?って顔しやがって」



コクコク



頷いてみせる。何か理由があるんだろうか。



「俺はよ…水が欲しかったんだ」


水が?



「俺の故郷はよ…どこの国も欲しがらねー遺跡があるだけの砂漠でよ」



「水はどっかの国から運ぶか行商から買うしかねー…何とか水脈が見つからねーか調べてよ」



「ここに水があるのは間違いないポイントを見つけたが、誰も信じねーし誰も掘ろうなんてしねー」




「そんで一人で掘ってたら、ホクサイの奴が、からかってきやがったから殴りかかったんだよ」



妖兎族が人虎族に?



「結果はコテンパンにやられてよ、このタコ絶対に許さねーとリベンジを誓ったのさ……まあ意地だよ!意地!」



意地……そんなもので妖兎族の限界を超えようとしてるの!?



「誰が何と言おうと自分の決めた事は曲げねー!じゃないと俺が俺を信じられなくなるじゃねーか」





この人は…………あれ…?…景色が……

歪んで………



「どうした?マックス!!マッ…………」




ーーーーーーーーーーーーー



ここは……どこだろう…


ああ…そうか……試練の時が来たんだ……


フェイを連れ去った……


気分は悪くない、僕もフェイのところに……



『どうしても…やるのね…』


男の人の声がする…



石で造られたボロボロの建物や荒れた街のようなものが見える



見たこともない場所に佇む男の人



『ああ…エインヘリアルはお前に任せるよ…マックス…』


僕に!?


『そんな事をしてもアリシアは帰ってこないわよ…』



『もう…どうでもいい…』



なんだろう……この人に…凄い縁を感じる…


湧き上がる感情……なんだ…これ……


これは…


      使命




ーーーーーーーーーー




気が付くと朝だった…



「マックスーーーー!!」



自宅の居間に布団が敷かれ、寝かされていた僕に抱きつく母様。


眼には涙を浮かべている。


何か側にある、乳鉢?



「父様が薬草を取りにいってくれたのよ、試練には意味がないのかもしれないけど」



立ち上がり道場に向かう。


「どこに行くの!」


「行かなきゃ…」


「えっ!」



………



道場で禅を組む父様が居た。


「父様…稽古をつけてください」



「マックス…起きたか……それに声が」


「………稽古を」



「試練で何か掴んだか…何を見た」



「覚えてません…」



「当然だな、皆何を見たか忘れてしまうものだ…病み上がりだ、明日からでも」



「今すぐ稽古をつけてください!!!!」



「マックス……分かった…厳しくなるぞ!!」




強くならなきゃ!


僕もエドさんのように決めた事は曲げない!!



ねえ、フェイ…天国があるかも分からないけど……見ててよ。


僕は大丈夫、一人でも大丈夫…


いや!フェイみたいに誰かを護れるほど強くなってみせる!!!





だからフェイ…安心して……





ーーーーーーーーーーー




「はっ!はーーー!わ、我輩は…我輩は…ぐっうぅぅ…」



マックスが目を覚ました!!



泣いてる…



「は!あぁ…はぁ…はぁ…」



ソフィアも目を開けるが息を切らせて悲痛な顔をしている。



時間にして1分そこそこだろう。



妖狐族の巫女もそうだったけど、深い精神感応は物凄い負担がかかるみたいだ。



「ソフィア!大丈夫か!」



「はぁ…はぁ…少しマックス様と二人でお話させてください…」



プライバシーがどうこう言ってたからな…



「分かった、ありがとうソフィア…行こうかアリス」



「ええ…良かった…マックス……」



…………………………




マール王国を発つ日



噴水広場のテント前にはエドワード王が見送りに来ていた。


ズラッと並んだ兵士が敬礼し、何かの式典のようだ。





「助かりましたエドワード王、マックスもすっかり元気になって」


礼を言う俺




「エドさ……エドワード王よ、無様な姿を見せてしまった…この恩は必ず!!」


マックスも礼を言う、良かったよマックス。

 



「こんな高そうなドレスを頂いて…感謝します。エドワード王様」



アリスのドレス姿は本当に綺麗だった。





「行ってきます!!お父様!ありがとうございます☆」


「うむ、達者でな」





ちょっと待てーーーーーい!!!





「どうして僕達と一緒に並んでるのかな?ソフィアちゃん♪」



「私!まだ取材が終わってませんわ♪あなた達を徹底取材したいですもの♪」



俺達、ソフィアを送りに来たんだよな!?



「ちょっと…エドワード王!」



「可愛い子には旅をさせよと言うからな、異界の英雄とマックスが一緒なら心配あるまい」




心配しろよ!!ネグレクトだろ!これ!!!



「我輩!命に変えてもソフィア王女を護ってみせましょうぞ」


「また一緒に寝られるわね♪ソフィア♪」


ソフィアに抱きつくアリス。


「お姉様…」



『もう連れて行くのが決まってる雰囲気だな』


………しゃーないのか??


「分かったよ…でも危険な場所に行く時は、どこかに置いていくからな」



「タカヤ様が行けるところなら私でも大丈夫ですわ♪」

ニヤリと笑うソフィア



しまった!!こいつには俺が弱いという事をを知られていたんだった………


『そろそろ行くか』


「分かったよ…とりあえずミシディア大陸片っ端から調べてフェンリルの手掛かり探すか」



俺達はテントに入り



悪霊に意識を委ねた。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ