想い
拓けた広場に出て、1人物思いにふけり、思い出していた。
彼と逢ったのは森だった。
ただのヒューマン
黒髪に黒い瞳あまり見ない容貌
彼は申し訳無さそうに出てきて、自信の無さそうな態度だった。
なぜか彼には縁を感じた。
なぜか彼を助けなくてはならない守ってあげなくてはならないと思ってしまった。
どうしたのだろうか、こんな複雑な感情は初めてだった。
彼の顔を思い出す…吸い込まれそうな眼…
ドキドキと心臓が脈打ち、胸が締め付けられるような苦しさ
だがそれは、とても心地良く
世界が薔薇色になるような感情の高まりを実感する。
抑えきれそうにない思い…
大木の側まで歩く
抱きしめたい…
大木を抱きしめる
メキメキメキ!!バキッ!!パーン!
粉砕する大木
砕けた丸太を拾い皮をはぐ
メリメリ!
「すき…」
メキャ!
「きらい…」
バリッ!
「すき…」
「はっ!!我輩は何をして…」
マックスは自分を制御できない気持ちに困惑していた。
昨日の夕刻に逢った男、名はタカヤ・シンドー
人狼族との闘いに破れた我輩を庇っていたのだ。
意識が朦朧とする中、声だけが聞こえていた。
『ダメだ…マックスは殺させない!』
「いや〜ん♡可愛いのに意地らしい♡」
悶えながら暴れまわり岩石を殴り飛ばし粉砕した。
は!!おっ…おかしい!自分が自分ではなくなる…
こっこれは!もしや!
天啓!!!
父であり師であるホクサイの言葉
『強敵、出逢うだけで血湧き肉躍り互いを高めあい、かけがいのない存在となり、やがて主となる』
『主となる者は出逢った瞬間、電撃のような衝撃と高揚感を感じるであろう、それは天啓といってな…お前も研鑽を積めば、出逢うのかもしれんな』
北の人虎族の里ディオに伝わる神話
選ばれた戦士にのみ現われる世界を変革に導く者…
事実 時の権力者、開拓者、王族
彼らの傍らには常に人虎族の存在があった。
隠居した父はマール王国建国に携わった王直属の家臣であった。
「師よ!!これが天啓なのだな!!!」
………………………
朝?
目が覚める
誰も居なかった
アリスを追えなかった…
追える雰囲気ではなかった…
マックスを放って森を抜けられる自信はなく、ただ膝をつき放心している間に眠ってしまったらしい。
戻ってくると淡い期待もしていたが、アリスどころかマックスも姿を消していた。
バックパックもアリスの鞄も、そのまま打ち捨てられていた。
『理由は分からないが、命拾いしたな…あの女は危険だ去ってくれたのは好都合だ』
『アリスを追う』
『殺されかけたのに何を!』
『俺がそうしたいから、そうするだけだ』
森から巨体がノソノソと姿を現す
「起きたか…たしかタカヤ・シンドーと言ったな」
マックスだった、とうに俺を捨てアリスを追ったか逃げたかしたと思ったが
呆然とする俺の前に跪き
「このマックス・ガントレットそなたタカヤ・シンドーをトモとし主として、この身滅するまで忠誠を誓う!!」
この世界の人間はエキセントリックすぎて理解できない。
「待て、マックスとは気が合うような気がするし友はわかる…あるじ?何言ってんだ?」
「人虎族の戦士は勇者、英雄と言われる変革者に仕え共に闘うのだ」
闘うのだ、じゃねーーよ!
サイを使いすぎると脳に障害がでるのだろうか…
「人違いです、失礼します」
「何を言う!我輩は人を見る眼だけは自信があるぞ!ガーーーッハッハッハ」
「おまえ!思いっきり人猿族に騙されてたじゃねーーか!」
「うむ?あの猿か?賊に襲われ追われていたので、助けたら懐かれてな助けるのは道理だろう」
「追ってきた被害者だろ、それ!俺達の荷物を置き引きしやがったんだよ、あの猿は!」
「なんと!!」
悪い奴じゃないんだけど、アリスや悪霊と違う意味で頭がバグってる…
「まあ細かいことは気にするな!主よ!ガーーハッハッハ」
「主はやめてくれ、恥ずかしい
!タカヤでいい」
「名で呼べと!!!」
「そうだよ」
立ち上がりモジモジしている
「タ……タ…タカヤ……」
後ろを向いてしまった、便所でも行きたいのか?
『この男には気をつけろ』
『おまえは、人を疑うことしかしないのか?マックスはいいヤツだよ、変だけど…』
『おまえが、それでいいなら構わないが…趣味は人それぞれだしな…うん…』
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「そ…それは、そうとタカヤよ、こんな森で何をしておる旅なら目的地はあるのか?」
「ミズガルに向かうとこだったんだけど、今はアリスを追いたい、あいつもミズガルに向かってるはずだ」
「人狼族の女か…」
恐さすら感じるような神妙な顔つきになるマックス
そりゃそうだろう、自滅とはいえ格闘家が女に負けたとなれば恥だ。
「主は絶対だ!望むのなら仕方あるまい…乗れ」
背中を向けしゃがみ込む
「人狼族の脚をヒューマンが追うのは無理だろう、我輩の背に乗れば4時間ほどで着く」
マックス…なんだかんだアホだけどいいヤツなんだな。
荷物を背負い、お言葉に甘えてマックスの背に乗る、この虎皮は服じゃなくて体毛なのか…フカフカして乗り心地がよく触っていて気持ちいい
「う……く……はぁ…はぁ…」
「どうした?マックスやっぱ重かったか?」
「な!なななな!何でも無い!」
地面を蹴り、駆けるマックス
まるでジェットコースターのように景色が流れていく。
バイクでも乗ってるようで気分爽快だ。
待ってろよアリス…俺がその胸を揉んで真人間にしてやるからな!!