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異世界最弱伝説〜最弱の英雄〜  作者: みりんタイプR調味料
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衝突

「さて…と」


 ナタを拾ったアリスはゆっくりとマックスに歩を近づける。


「おいおい、何するんだよ」


「首を落とすわ」


 さも当然というように、いつもの無表情で答える。



「待てよ!誤解だ!マックスは山賊じゃない、さっきの人猿族がマックスを利用して盗みを働いてただけだ!」


「なぜ、そう言い切れるの?」




 マックスと鉢合わせてから30分ほどしか経っていない、少し話を聞いただけで、確かに信頼関係なんてなかった。



「少し話をしたけど、こいつは悪い奴じゃない、はぐれた俺を街道まで案内するところだったんだ」



「街道の側でヒューマンの亡骸が発見されたら騒ぎになって森が捜索される…言葉巧みに誘導して森の奥で始末すると考えられないの?」



『自己顕示の為に考え無しで自滅する、この男にそんな高尚な思考能力があったとは思えないがな…』




 意外だった…この悪霊が誰かを養護するなんて

アリスには聞こえてないんだろうけど


「ダメだ…マックスは殺させない」



 横たわるマックスの前に立ちアリスを阻む


「遺恨を残した相手を生かすことが、どれほど危険か分からないの?それに相手はあの人虎族!無謀にも程があるわ!」



「俺はアリスが人を殺すのは認めない!」



「大した正義感ね…力もないのに…」


 正義感?そんなものは持ち合わせていない


「正義なんてどーでもいい、殺らせない!」


「なぜ…そこまで、頑なに…」


なぜ…何故だろう…?


「そう…じゃあ、あなたペットクビね」



はえ!?



「よく考えたらデメリットが大きすぎるわ、戦闘能力も無い、歩くのも遅い、性善説だけは1人前、あなたのお守りをしながらフェンリルを追うのは無理よ」



「あなたみたいな、綺麗事唱えて死んでいった人は何人も見てきた!」



「ハッキリ言って足手まとい!!!」



 珍しく怒気を含んだ口調で叫ぶ。


ナタを俺の首に突きつける。

アリスの眼から光が消える。



あの時の眼だ…村で獣族を斬り伏せた…


殺る…こいつは殺る…


絶望…恨み…殺意…アリスの感情がビリビリと伝わってくる…


冷や汗が首筋を伝っていく…

恐怖…立っているのが辛い…


『替われ!この眼は本気だ!』


ダメだ…


『緊急事態だ!この女を消した後、すぐおまえに替わる!早くしろ!!』


ダメだ……アリスは殺させない…


息をするのも辛い、心臓は早鐘のように脈打っている…



時間が酷く…ゆっくりに感じる……景色が白くなる…



走馬灯……!?何かが見える、それは!!やめてくれ!停止しろ!






ーーーーーーーーーーーー




新入社員時代

ただ死にたかった…



「こんなことも出来ねーーのか!!おまえはよーー!!」


書類の束を投げつけられる


「いったい学校で何習ってきたんだよ!!えーーー!神藤!!!脳味噌あんのか!!コラ!!」




教育なんてものじゃなかった…


怒鳴りつけられ下を向く

毎日のような人格否定、吊し上げ、ありもしない噂を流される。



パワーハラスメント



言葉で纏めてしまえば、なんて軽く感じるんだろう…


「松尾さ〜ん、ハッハ、!厳しすぎないハハハ」


「いいんだよ!こいつの為を思ってやってんだ!!愛の鞭ってやつだ」



愛はこんなに辛く…悲しく…なるものなのか……



帰路につく……全てが灰色に見えていた。

駅を通過する電車を目で追ってしまう。


これに轢かれたら楽になるんだろうか…


帰って眠りにつく…食欲はなかった


「神藤く〜ん♪」

ガバッ

「はぁ…はぁ…」

夢にまで出てくる松尾さん、眠ることも許されなかった…




仕事をする


「神藤く〜ん………おい!!聞こえてるんだろ!!」

「は…はい…」

「何無視してんだよ!!!」

「こないだ挨拶したら、黙って仕事しろって……」



「なに!!口答えしてんだ!!コラ!!!」

肩を押される。

「流されて暗くてキモイんだよ!お前はよ!!何とか言えよ!!」


顔をビンタされる、痛みは感じない……今日……帰りに………死のう…




「おい!!!!」



長谷川さん……?


中途入社してきたばかりの長谷川さんが、松尾さんの顔面を思いっきり殴り飛ばしていた…


「なにやってんだ!!!おい長谷川さん止めろ!」


大騒ぎになっていた




………


退社後、社長室に呼び出されていた長谷川さんが出てきた。


「おっ!まだ居たのか!クビは免れたし警察沙汰にもしねーってよ。向こうも手出してたから後ろめたかったんかな?減給3ヶ月だけどな!ハッハッハ!」



「なんで長谷川さんが!僕やられた事言いに行きます!!」


「止めとけ止めとけ〜社長の甥っ子だろ?お前まで減給されんぞ」


「そんなの間違ってる!!!」


「しゃ〜ねーよ…権利(ちから)には勝てね〜よハッハッハ」




長谷川さんと駅まで向かい話す




「僕の為に…本当にすいませんでした」


「おまえの為?冗談よせよ、あれは俺の為にやったんだ」


「自分の…って?」


「う〜ん俺はよ、自分に正直に生きたいんだよ」


「誰が何やってもいい、上に取り入ろうが、歯向かおうが、馬鹿やろうが、欲に流されようが勝手だ!別に正義感なんてもんじゃねー、そんな出来た人間じゃねーよ」



「ただな、自分で自分が嫌いになることだけはしない!許せねー」


「あのまま、見て見ぬふりを決め込んだらよ。俺は俺を嫌いになる許せねーよ」



世界に色が戻ってくるのを感じた…

ただ好きに…正直に…





ーーーーーーーーーーーー



チョーさん……



時間の感覚が戻ってくる…そうか、解った…解ったとこで何も変わらない、何もできない


でも


それでも



アリスに殺させるのは!!俺が俺を許せない!!!!




「最後の警告よ!そこをどきなさい!!!」



「絶対にアリスに…殺させない!!」


「じゃあ、あなたが死んで…」



「ああ…殺すのは…俺を最後にしてくれ」


ハハッ、結局俺は死ぬんだな…アリスがナタを振り上げる…


もう笑うしかねーよ、あっけない人生、ハッハッハ


笑いながら最後にアリスに伝えよう





「じゃあな…アリス…達者でな」





目を閉じる




「ルーク………」



アリスの声が聞こえた


何も感じない…苦痛が無いように、人思いにやったか……




あれ?手は動く…



目を開ける



武器を降ろしたアリスが居た

遠くを観るような眼

ポケーっとした、いつもの無表情…


本当にいつもの顔で



泣いていた…涙だけが流れていた…


遠くを観ていた眼を俺に向ける…目が合う



何も言わずに振り返り、森の奥へと消えていった。



その夜、アリスが帰ってくることはなかった…

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