7.邪魔しても問題ないよね?
《明里視点》
ふわふわと無数の光の球が辺りを漂う。そして、私の周りには白い服を着て呪文を唱える人たち。ある意味幻想的な光景とも言える。
これは、私を生け贄に捧げるための儀式によって生み出された光景。
「……さぁ。明里。その命を差し出し、封印の糧となりな」
当主様からそんな声がかけられる。
私はその言葉を聞いて自分の手元に視線を落とした。そこにあるのは、光を反射し輝く1つの短剣。これを私の胸に突き刺すことで私の命が封印に使われて、儀式が完了となる。
「早く」
当主様から急かされる。けど、なかなか簡単には短剣を刺せない。
私の手を止めるのは、1人の男の子が見せてくれた輝かしい毎日。ここまで来ても思ってしまうの。もう1度あの状況に戻れたら良いのになって。
「早く!」
当主様は怒気をはらんだ声で言う。その声からは、重い物を感じさせた。この私という生け贄がいなければ、多くの命が犠牲になるとでも言うように。
「早くっ!!」
更にもう1度追加で怒鳴られ、私が覚悟を決めてしまいそうになったところで、
「ご当主様!大変です!!」
誰かが儀式に乱入してきた。周囲の呪文を唱えていた人たちからは、心が乱れてしまったとその人へ鋭い視線が飛ぶ。当主様も、
「何をしているんだい!今は儀式中だよ!」
と、怒鳴ってんだけど、
「それどころではありません!本当に緊急なのです!会長がやってきていて、今すぐ対応しないなら出資を取りやめるとまで!」
「な、なんだって!?そこまでの用事なのかい。……ちっ。儀式はいったん中止だよ。すぐに話を聞いてくるから歳恋の準備を」
「ああ。その必要は無いよ」
当主様の言葉が遮られる。そうして部屋に入ってきたのは、
「目覚君!?」
「やっほぉ明里ちゃん。数日ぶりだね」
いつも通りニコニコと笑みを浮かべている目覚君。でも、
「なんで、ここに?」
《目覚視点》
明里ちゃんが連れ去られてから。僕はすぐに数人の知り合いに連絡を取った。神道家という家の者が、暴言を吐いたあげく僕のことを殴った、と。そうしたらあっという間に何人かから返信が帰ってきて、対応をするという返事が。
そして今、
「なんで、ここに?」
困惑した様子の明里ちゃん。僕がここまで来れるのは不思議だよね。
でも、これを説明するのは僕ではなく、
「その質問には私がお答えしましょう。……お嬢さんは初めまして。他の方も初めての方がいるかもしれませんね。私はこの神道家へ出資をさせて頂いている赤城グループの会長、赤城連夜と申します」
隣にいた赤城が微笑みながら挨拶した。でも、その目は笑ってない。何せ、僕って言う赤城グループの大株主が隣にいるわけだからね。こういうときの為に、大企業の株は大量に保有してるんだよ。
「そしてこの方は、我がグループ及び、この神道家へ出資を行なっている3グループの株主、小川目覚様です。……なんと、我がグループ及び他2グループの株主であるこの方に、この家の者が暴言を吐いた上に暴行を行なったという話ではありませんか。事情によっては株主様の機嫌を取るため、すぐにでもここへの出資を終了させ、裁判を行なわなければなりません。……ご事情の説明をお願いします」
「「「…………」」」
赤城の言葉に、皆絶句してる。まさかそんなことになってるとは思ってなかったっていう顔だね。気持ちはよく分かるよ。それと、明里ちゃんは僕がそんなに凄い人だって分かってなかったって言う驚きもあるかもしれないね。
「もちろん証拠となる映像もありますから、そちらの映像を提示した後での協議でも構いませんよ。ただ、すぐにでも説明頂いた方があなたたちの身のためかと」
「そ、そうですね……おい!どういう事だい!そんな報告は受けていないよ!」
怒鳴るおばあさん。この人は確か、神道家の当主の人だったはずだね。ゲームでも何回か出てきたから見覚えがあるよ。
そんなおばあさんの視線の先にいるのは、
「ひっ!?し、知らねぇ!俺は何も知らねぇよ!」
怯えた様子の男の人。僕のことを殴ってきた張本人だね。今すぐにでも知り合いに袋叩きにしてもらいたいけど、ここは我慢。重要な交渉のカードなんだから。
ここは更にこの家を追い詰めるため、
「……ふぅ~ん。知らないねぇ。この家の人は、殴った相手の事なんて覚えてないくらい頻繁に人へ暴行を行なってるのかな?そんな危ない組織とはすぐにでも手を切りたいんだけど」
「ち、違うんです!……言い訳してるんじゃないよ!さっさとしゃべりな!!」
僕が笑顔で脅すと、更におばあさんは焦って怒鳴る。男の人の顔が、面白いくらい真っ青になってるね。でも、当然手加減なんてしないよ。僕は殴られてるわけだから。
「その人が話をしないなら、それはそれで良いんだよ。君たちは、その人がやったことに対してどういった対応をするのかな?そして、組織としてどう責任を取るつもりなのかな?」
「そ、それは……」
矛先を男の人ではなく完全におばあさんへ向ける。おばあさんも同じくらい顔を青くしてるねぇ。まだまだ行くから、簡単には解決させないよ。