6.生け贄でも問題ないよね?
《明里視点》
私は車に乗せられ、本家まで戻された。そして、今は手首を縛られて部屋に閉じ込められてる。
「……全く。手間をかけさせて」
手首の拘束を外せないかと色々試してると、部屋に1人がやってきた。その顔を見て、
「っ!」
私は体をこわばらせる。だってその人はこの家の当主。この家の中で1番偉い人なんだから。
当主様は私を冷めた目で見ながら、
「分かってるとは思うけど、あんたには生け贄になってもらうよ。それまで逃げないことだね。次逃げたら足でも切り落とそうかねぇ」
足を切り落とされるのかぁ。それはもう逃げられないね。私が教わった術じゃ、部位欠損までは治せないから。
と考えると、捕まりたくないから次に逃げるならもっと遠くにしなきゃいけないんだけど、出来るかなぁ。まず、この部屋自体が私の力じゃ脱出が難しいし。
「それじゃあ大人しくしてるんだね」
当主様はそう言って去って行った。それから私はぼぉっと過ごすことになる。スマホを使ってみるけど、Wi-Fiもつながらない。何も出来ないから、私はこれまでのことを考える。1人の男の子を取り合ったこと。家出したこと。そして、ちょっと意地悪だけど、色々お世話をしてくれた優しい目覚君のこと。
そんなとを思い出していると、
「明里……」
「ああ。葵南。来てくれたんだ」
部屋に1人の女の子が入ってきた。その子は今にも泣きそうな顔をして私を見てる。泣きたいのは、私なんだけどな。
この子は、私と男の子を取り合った子の1人で、神道葵南。名前から分かるとおりこの神道家の娘で、色仕掛けをたくさんして男の子を勝ち取った子。
「ごめん。私、こんなことになると思って無くて……」
私が生け贄になるのはある意味この子の所為と言えるかもしれない。この子が男の子に選ばれず私が選ばれなければ、私は重要な存在になれたのだから。私は生け贄にされるけど、葵南ちゃんが選ばれなくても命までは取られなかったと思う。負けたときの代償が1番大きかったのは私なんだよね。
でも、だからって恨むことはない。
「良いんだよ。どうせ生け贄にならなくても、幸せではなかっただろうから。好きでもない人に腰を振って生きていくなんて嫌だよ。……だから、ある意味今回は良かったのかもしれないね。少しだけだったけど、今までで1番楽しい時間を過ごせたから」
「明里……」
葵南は私の言葉で、更に辛そうな顔をする。さっきも思ったけど、辛いのは私だからね。
なんて思うけど、ここでわざわざ邪険にする必要も無い。暇だったし、話し相手がいてくれた方が楽しいだろうから。
「それより、あの子とはどう?上手くいってるの?」
「……ううん。あんまり上手くいってないかも。私が確定したから心に余裕が生まれたみたいなんだけど、その所為で必死な感情がなくなっちゃって。やっぱり、好きでもない人と子供を作らなきゃいけないのは辛いなって……ごめんね。明里の道を奪っておきながらこんなことになっちゃって。もっと私は幸せじゃ無きゃいけないはずなのに!」
話をそらしたら、更に追い詰める結果になっちゃった。困ったね。今はどんな話題を出しても追い詰めちゃう気がするよ。
暇は潰せるかもしれないけど、楽しい話は出来そうにないなぁ。ここは積極的にリクエストした方が良いかもね。
「何か、楽しい話はないの?私は死ぬ間際まで暗い持ちでいたくないんだけど」
「あっ!そ、そうだよね。ごめんね。……楽しい話、何かあったかな。最近はあの子が体にベタベタ触ってくるのが嫌で、そればっかり考えるんだよ。そのくせ、手を出したりはしてこないからただただ嫌な気持ちになるだけで」
「あぁ~。自分は何か発散できるって訳でもないからね。……そういう意味でも、短い間だったけど私は充実してたよ」
「えっ!?明里、そういうこともしてたの!?」
「うん。泊めてくれる代わりにっていうのだったんだけど。あっちが上手いのは勿論なんだけど、その相手の顔とか性格もあの子よりも断然良くって。死ぬ前にいい男の子とであえて幸せだったかな」
私は目覚君のことを思い出す。新品の制服を汚されたりもしたけど、それも今思えば良い思い出かもしれない。あのときのイタズラっぽい笑みが、私の脳裏に浮かぶ。
「そ、そっかぁ」
「うん…………葵南は、学校でも気になる人いないの?」
「学校で?……うぅん。いないかな。あの子よりはマシだけど、好きになる子はいないかも」
葵南は学校に通ってる。だから、男の子との関わりも私より多かったはずなんだけど、そういう子はいないみたい。そんな話をしながら、私たちは時を過ごした。
その日は1時間くらいで帰ったけど、葵南は次の日も、また次の日も来てくれた。何人か男の子を取り合った知り合いも来てくれて、私は暇で精神が病むということまでにはならなかった。
でも、それだけ。例え精神は病まなくても、
「さぁ。そこに立ちな。早速儀式を始めるよ」
「……はい」
儀式が始まってしまう。私の死は、すぐそこまで近づいていた。