2.拾われても問題ないよね?
「いっぱい買ったねぇ」
「そ、そうだね。予想以上の買い物だったよ」
僕と明里ちゃんは両手に袋を持っている。明里ちゃんが持ってるのは自分の服で、僕が持ってるのは食材。1人で暮らすための食材しかないから、量が足りないと思ったんだよね。明里ちゃんがどれくらい食べるのか分からないけど、ゲームだと大食漢って言う設定だったしいっぱい買っておいた。
これで買う物は全部だから僕の家まで来たんだけど、
「え?ここ?ここに1人で住んでるの!?」
「そうだよ~」
僕の家を見た明里ちゃんが驚いてた。1人暮らしって伝えてるから、マンションとかだと思ったんだろうね。残念ながら僕は一軒家だよ。自分で設計までやった自信作だね。
「ほら。入って入って」
「あ、うん」
僕は家の鍵を開けて、固まってた明里ちゃんを中に入れる。それから荷物を置かせて、手を洗わせた。これから明里ちゃんの部屋を決めても良いんだけど
「まず何をやりたい?部屋を決める?ご飯にする?お風呂にする?」
「あぁ~。じゃあ、お風呂にしても良いかな?」
「了解。たぶんお風呂はもう沸いてると思うから入ってきて。場所はこっちだよ」
お風呂に案内する。ついでに、お手洗いの場所も教えておいた。お風呂と近い場所にあるからね。こういう所は聞かれる前に教えておかないと。
「それじゃあごゆっくりぃ~。僕はその間に夕ご飯作っておくから
「あっ。うん。ありがとう」
《明里視点》
「……ふぅ~」
温かいお湯につかって、私は息を漏らす。
今日は入れないと思ってたお風呂。それに入れるなんて、なんだか夢みたいに思える。温かくて優しい湯気に包まれて、
「……ひぐっ!」
嗚咽が漏れる。私の目からこぼれる涙を止めることが出来ない。辛くて悲しくて、私は過去を忘れ去って洗い流すように、泣いた。
「……はぁ」
数分泣いたら涙も止まった。泣き疲れた私は体の力を抜いて、なんでこんなことになったのか思い出す。
始まりは5歳の時。親に捨てられて施設にいた私を、神道家に拾ってもらった。それから始まるのは、普通の人生では関わることのなかったと思う巫女としての人生。それも、現実に現れる化け物を祓うための巫女としての。
私には才能があった。そのお陰で家の人からも褒められて、私はより沢山魔物を祓った。神童とまで言われて、幸せな毎日だった。
変化が訪れたのは、中学に入ったとき。神道家が1人の男の子を引き取った。その男の子は私以上の才能を秘めていて、圧倒的な力で化け物を祓うことが出来た。そこで私を含め、数人の女の子が集められる。その男の子と強い力を持つ子を作る相手として。
ただ、皆がそうなるわけではない。力の継承とか色々問題があって、選ばれるのはたった1人だけ。そのため、それぞれの目的のために私たちは男の子へアプローチをした。好きでもないというのに。
私は男の子が、自分の役割を分かっていると信じていた。だから、必死に化け物と戦った。私が1番優秀で、私との子供が1番皆の役に立つと伝わるように。
……でも、ダメだった。選ばれたのは、好きでもないだろうにベタベタと密着して、そっちの方面でアピールしてた子。
その子が選ばれてから、私たちは解散させられた。皆は帰る家に帰っていって、でも、私は、
「選ばれないお前に価値はない。生け贄にするから、大人しくしていることだな」
神道家からはこう言われた。
このままでは生け贄にされて死んでしまう。そう考えた私は逃げ出した。走って走って走って。どこまでも遠くに。見つからないために姿を隠すための術とか、移動速度が上がる術とかを偶に使った。
そして気付いたら知らない住宅街に。暗くなってきてもう疲れて、私は道路に腰を下ろした。全てが私とは隔絶された世界にあるように思えたけど、
「……ねぇ。君。大丈夫?」
1人だけ、私に話しかけている子がいた。年下に見えるけど、たぶん中1か小学校高学年くらい。ちょっと嘘を言って追い出されたってことにしたけど、その子は私の言葉を考えて止めてくれる。体を求められた上に、こんな豪華な家に1人暮らしだって言うのは驚きだったけどね。
「あの子に体、捧げるのかぁ」
久しぶりに触れた優しさ。いや、私が触れようとしてこなかった優しさ。それをあの子は与えてくれた。だから、借金の利子を返すっていう言い訳もあるし、私は全てを捧げようと思う。あの子が、私を捨てないために。
もう必要ないなんて言われたくはないから。
《小川目覚視点》
明里ちゃんがお風呂に入ってる間、僕は宣言通り夕食を作る。……え?お風呂を覗きはしないのかって?
しないよぉ。だって、そんなことしなくても後でゆっくり可愛いところを見せてもらうつもりだからね。ぐふふふっ!
なんて思いながら作ってると、1時間後、
「ありがと。さっぱりしたぁ~」
買ってきた服に着替えた明里ちゃんがお風呂から出てきた。かなり長風呂だったね。もう僕の作ってるのも完成しそうだよ。
「はい。これ水。ジュースとか牛乳とか飲みたかったら冷蔵庫に入ってるから勝手にとって」
「分かった。ありがとう」
お風呂上がりの水分補給は大事って聞いたからね。
さて、そろそろ夕食が出来るよ。