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第5話 美波さんはツンデレを自覚している

 最近美波さんの様子がおかしい。

 いや、おかしいのは元からだと思うんだけど、輪にかけておかしいと思うのだ。


「ストレッチ中にジロジロ見ないでくださいます?」

「こんなところで会うなんて……最悪な気分です」

「──っ、わたしのパーソナルスペースに気安く入らないでください!!」


 頭の中で美波さんの刺々しい言葉の数々が反芻している。


 初めて会った時、こんな感じだったっけ。

 多少言葉はキツくても、もう少し躊躇いがあったような気がする。

 なんかこう、言葉を詰まらせるような、「で、でもっ」みたいな感じで。


 なんてことだ。

 まるで絵に描いたような()()キャラじゃないか。

 リアルであんなのいんのか、すっげえな。


「──なんかぼーっとしてるね。実験にならないんだけど」

「……ぬあ!? ごめん、ちょっと考え事してた」


 あーあ、リトマス紙がびしょ濡れじゃん。ビーカーに入れてた水、溢しちゃったか。

 隣の席の阿原地衣(ちい)さん若干キレ気味だし、やっちゃったなぁ。


「疲れてるんでしょ、大丈夫? ま、私の使ってやり過ごしな」


 ただ地衣さんは気が強いけれど優しい。

 一つしかない自分の奴を差し出してくるくらいには優しいのだ。


「ありがとう、地衣さんはほんと優しいな」


 ついでに、


「ふぇっ? べ、別にあたしはっ。そうゆーのじゃないし!」 

 

 ちょっとアゲると絵に描いたようなデレの反応を見せてくれる。

 ツンツンした部分と合わせて『ツンデレ』だ。

 

 素晴らしい人だけど残念、()()()()()じゃないというのはマジの話だ。

 地衣さんには彼氏がいる。


「何を慌ててるのか分かんないけど、とりあえず軽く怒られてくるわ」

「あっ、リトマス紙……」


 手を伸ばす地衣さんに背を向け、ヒラヒラと手を振って俺は理科の先生の前に躍り出て行った。

 


♧♧♧♧♧



 部活が終わり、駅までの道を一人歩いていると「あ、まさとくん。奇遇ですね」と全然奇遇ではない感じで正面から美波さんに声をかけられた。


「……美波さんもこっち方面なの?」

「そうですよ〜」

「そうなんだ、今まで会わなかったのすごいね」

「えぇ、避けてたので」


「……」


 避けてた──過去形、ね。

 じゃあ今は違うのかよって話だ。


 美波さんはどうやら毒舌キャラみたいだし、単純に売り言葉に買い言葉で言ってきただけの可能性もなくはないか。


「……俺、そんなに嫌な奴だったかなぁ」


 ここは一つ、カマをかけてみるか。

 本当に避けてたというのならこの言葉を訂正しないだろう。

 それとも単なる毒舌でしかなく、シンプルに失言なら申し訳なさそう反応を見せるか。


 俺は探偵じゃないし、これで全てが分かるわけじゃないけど。


「そ、そそっ、それは違いますっ!! 今のナシ! ナシでお願いします!!」


「…………ナシ?」


 わちゃわちゃと両手動かしながら、なんか凄い剣幕で前言撤回された。

 やっぱりオーバーリアクションだけど、とりあえず失言だったってことで良いのかな。

 

 やっぱりというべきか、想定以上に変わった人なのかもしれない。

 ちょっとだけ離れておこう。


「……まあいいや、とりあえずあの十字路まで話そっか。あの先は駅だし、多分美波さんちはどっちかの方面でしょ」

「う、うん! そうしましょう!」


 俺が離れた分、美波さんは追いついてくる。

 二人横並びで歩調を合わせて歩き始める。


 ただ、俺は女子とこんな風に大した意味もなく並んで歩くのは初めてで丁度良い話題が振れないし、美波さんも最初こそ強気な姿勢を見せていたけれど言葉を発しようとしない。


 しばらく無言の時間が続いたので手頃の自販機に手を伸ばす。

 良い天気ですね〜から始まる構文よりは自然だろう。


「美波さん、なんか飲む?」

「あっ、いや…………。すっごく喉乾いてるのでミルクティーをお願いします」


 変な間があったな。

 それに喉乾いてるのにミルクティー?


「OK。じゃ、俺も同じやつで──っと」


 ゴロンゴロンと同じミルクティーが排出される。

 性格はまったく似てないと思うけど、飲み物の好みが同じとはね。

 これこそ奇遇ってやつだ。


「どうぞ」

「どっ、どうも……ありがとうございます!」


 ミルクティーを手渡すと、美波さんはめちゃくちゃ丁重に受け取ってノータイムで何故かバッグに仕舞い込んだ。

 え、そういう感じ?

 喉乾いてるって言うから、てっきりここで飲むものかと……。

 俺が初心すぎて色々と無知なだけか?


 なんかいつもの毒舌が恋しいな。

 俺の理解を悠々と超えて来られると、シンプルにどう対応したら良いものか困る。


 とりあえずは……。


「このミルクティーいいよね。お手頃価格で美味いし」

「そ、そうでしょうか。わたしはそう思いませんが、まさとくんがそう思うならそうなのでしょうね」


「……そうだね」

 

 今のは無理がある毒だったな。

 俺がミルクティーを先に選んでしまって、美波さんが合わせにきたというなら分かるけど。

 

 どういうことだ?


「あっ」

「んん?」

「まさとくんって、『今』彼女いたりします?」


 ……どういうことだ?

 凄い角度で変化球がくるな。


「……残念ながら、いな」

「でしょうね。わたしもそう思います」

「その断言はキツいな」

「えっ? じゃあ今のもナシでお願いします」

「どっちかハッキリしてくれよ……」


 某きんにくんのどっちなんだいが俺の中で鳴り止まない。


 ……なんか要領を得ない感じのまま十字路まで来ちゃったし、ここら今日のところはお開きかな。

 じゃあ、最後だし一番気になっていたことを聞いちゃおうか。


「──美波さんってさ」

「はい」

「あ、不快だったらそう言って欲しいし、全然変な意味じゃないんだけど…………いつも結構前髪重いよね。多分、陸上の時以外は上げてないと思う」


 入部前のやり取りの時も上げてたけど、あれは頼み事があったからキチンと顔と顔を合わせる必要があっただけと解釈。


「あー、はい」


 ピタリと十字路の中央で止まる。


「じゃあ、何で今は上げてるの?」

「…………っ!?」


 赤い夕日に照らされて、美波さんの綺麗な顔が恐ろしく映える。


「べ」

 美波さんは形の良い口をぱくぱくと開閉させてから、


「別に、意味になんて………………ないです」

「────!?」


 夕日のせいだろうか。

 これは──違う。


 潤んだ瞳、上気し桜色に見える頬、斜め下に下げ泳ぎ回る視点。

 

 理由は分からないけど──これは、照れ(デレ)??

 

 今までの毒舌(前フリ)が効いて、最強に見える。


 くそ──っ、なんてことだ。

 俺としたことが今まで見抜けなかった。

 美波さんはもしかしてツン──


「あ、あ、あぁああああああっっっ」


 ──デレかと思ったら、美波さんが突然発狂し出して、さっきバッグに入れたはずのミルクティーを一気に飲み干した。


 まるで誤魔化すようにして。


「はぁっ、はぁっ、何でもないです」

「えっ、いやっ」

「なんでもないです!」

「…………はい」

 

 そんな否定されたら何も言えねえよ。


 しっかしまさか。

 いや、そうなんだろうな、今の反応。


 うん、勘違いだったらすみませんって感じだけど、多分間違いない。

 この前の「死に晒してください!!!」発言といい、この方、自覚症状アリだ。

 


 ツンデレの。

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