第4話 ツンデレノート side:美波
思えば、わたしの中学時代は悲惨だったと思います。
密林のように重い前髪。
暗い性格に禍々しい陰のオーラ。
教室の隅っこに広がる影が定位置。
友人の一人もいない、そんなわたしにも明石正人くんという想い人がおりました。
何事にも果敢に挑戦していく気概のある彼はまさにわたしと正反対で、とても魅力的に映ったのです。
そんなまさとくんに、何とか近づきたい。
そのためには彼をよく知らなければならない。
人生で一番の勇気と、ほんの少しの出来心でまさとくんの後を尾けて本屋さんの『ライトノベルコーナー』に足を踏み入れたのが、全ての始まりに間違いありません。
♧♧♧♧♧
「今日は記念日です!」
まさとくんと同じ空間に40分26秒も存在できました。
これはもう付き合ってるといっても過言ではないと思いますが、これからも精進していかなければなりません。
カップルというのはきっと客観的に見れば、チューとかアレとかコレをする関係なのです。
そういった定義の上では、まだまだ上のステージがあると見ていいでしょう。
未だ道半ば。
今日のわたしがあるのも、この三重の鍵で封じた宝箱にある『ツンデレノート』のお陰です。
なので、今日も今日とて書き進めていかなければなりません。
「……それにしても、速かったですね」
彼の隣に立つために努力して参りました。
でも、流石に正面切って打ち勝つのは難しそうです。
まさとくんの一番好きな顔は困難に直面した時に見せる真剣な表情なので、わたし自身が困難そのものになろうとしたのですが……残念です。
「勉強しましょうか……」
今日のわたしは偉大な一歩を踏み出しましたが、それでもまだゴールまでのヴィクトリーロードの上では小さな一歩に過ぎません。
明日の自分を形成していくためにも、偉大なる先人達から学ばねばなりません。
現代の科学者がアインシュタインの残した幻影をいまだに追い続けているように、わたしもまた、ラノベヒロインからスキルを盗み取ってゆくのです。
「うーん、考えるほどに不思議です。わたしのツンデレ像は悪くないと思うのですが……」
まさとくんは大のツンデレ好き。
本来ならもっと、何かしらの反応を見せてくれるはずなのです。
今日で471日目……随分遠いところまで来ましたね。
いつになったら辿り着けるのやら。
それもこれもわたしのツンデレパワーが低いからです。
時々恥ずかしがってしまいますからね。
これは良くありません。
明日からは第二フェーズに入りますし、バージョンアップしていきましょうか。