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第14話 一線先へ

「────似鳥修斗選手。優勝、おめでとうございます!」


 表彰式。

 俺の手には、二番目に価値の高い賞状と銀のメダルが握られている。


 黄金のトロフィーや煌びやかな優勝旗は選手宣誓を行った似鳥修斗が順当に奪取し、あと僅かなところで手が届かなかった。

 

 二重の意味で──な。



「はーっ、落ち込むなよ正人。お前が落ち込んでたら俺が惨めになる」


 帰りのバスで、隣に座る幸太郎が項垂れる俺の背中をバンバンと叩いてくる。

 

 確かに、準優勝したやつの面構えじゃないな。

 少なくとも幸太郎には勝ったわけだし、もっと堂々としなければ。


「わり、切り替えてくよ」

「そうしてくれ」


 外面だけは取り繕い、お通夜みたいなバス旅を乗り越えて学校に帰還する。


 降りて数分待つと女子を乗せたバスも到着。

 何を待ってるかなんて幸太郎にすら問われなかった。

 もはや愚問なのだろう。


 スマホの内カメラでしけた顔をしていないか確認しつつ校門に立ち続けていると、遠くからデカいトロフィーを抱えた美波さんがやってくる。

 彼女は俺に気づいたのかトロフィーを落としそうになりながら片手を上げると、近くの友達にトロフィーやら賞状やらを預けて小走りで走り出す。


 おいおい、放り出しそうな勢いだな。


「はぁっ、はぁっ、お待たせしました……っ」

「なんで試合より疲れてんだよ……」


 てかそれ俺が待ってる前提のセリフじゃん。

 何も否定できないけどっ。


「……まあ、なんだ。優勝おめでとう」

「あっ、ありがとうございます! まさとくんも…………惜しかったですね」

「おう。あと少しで勝てそうだったんだけどなぁ」


 こう言うと美波さんは少し眉を下げて悲しそうな表情になった。

 仕方ない。

 たくさん応援してもらったのに勝てなかったし、例の約束も果たせなかったんだ。

 

 残念だな。

 うん、本当に。

 白旗を上げる覚悟は決まってたんだけど……な。


「ま、インハイには出場できるし。そこで勝つさ」


 終わってしまったことはどうしようもない。

 美波さんとの関係もしばらく続いていくだろうし、今までと変わらない日々が戻るだけだ。


 だから、さ。

 

 美波さん。


 ちらっ、ちらっ──て、何かを待つような感じで見てくるの卑怯だよ。


 魔法はもう解けたんだ。

 ここで俺ががっついてしまったら、それこそ大敗北。

 

「まっ、まさとくんっ。言いたいことがあるなら、ちゃんと言わなきゃダメ──ですよ!?」


 見かねた美波さんが無理した感じで煽ってくる。


「……」


 言いたいこと、か。

 

 たくさんあるよな。


 そのハリボテな『ツン』と『デレ』は何なの? とか。

 いくら何でも足速すぎでしょ、バグなの? とか。

 俺の前でだけ前髪上げるの流石にあからさまだよ? とか。


 あげようと思ったら幾らでも出てくるだろうけど。

 

 ただ美波さんが欲しい言葉はそんなんじゃないだろう。

 

 欲しいのは──俺自身の気持ちを語った言葉。


 ──


「なあ美波さん」

「なんです?」

「柄じゃないから、こういうの言いたくないんだけど」

「前置き大事ですもんね」


 さすが、分かってる。


「もし、魔法の効果が今も続いてるならさ、そこ」


 言葉を区切って、校門の目に見えない校外とを分ける境界線を親指で示す。

 周りくどいやり方だ。

 普通に言葉にすればいいのに。


「…………一緒に越えてくれないか」


 勿体つけるわけじゃないけれど、美波さんから見ればきっとそう見えたに違いない。


 彼女は肩を上下に弾ませて、くすくすと声を漏らし、破顔して俺の手を取った。

 

「もう……っ、断れるわけがないじゃないですか!」


 この手の温もりを俺は、一生涯忘れることはないだろう。


主人公が白旗を上げた……というか掴み取りに行ってしまったので、この物語は完結となります。


ここまでお付き合いいただきまして、本当にありがとうございます!



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