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五話 俺もまぜてよ(^^)

 噴水とか有るオシャンティー(死語)な広場にて。

 そこらのカップルや家族連れに倣うようにてきとーなベンチに三人並んで腰を落ち着け、人混みをぼーっと眺めながら串焼きの残りをもぐもぐ囓る俺ら。


 イルマちゃんと俺の間に引き籠もるような形で身を縮めていたアリアちゃんは、小腹を満たし終えてはふりと満足の吐息を漏らすと、フード越しに前を見たまま薄く笑って一言。


「ひとがゴミ」


「せめて『まるで〜のようだ』の形で言ってくれない? 唐突な危険思想の暴露に震えが止まらないので」


「『まるでゴミが人のようだ』?」


「OK、無理なことを言った俺が悪かった」


 この子もう末期ですね。ほっとこ。


 なぜ謝られたのかわからず首を捻っていらっしゃる生粋の魔王様を放置して、俺はイルマちゃんに聞きたかったことを聞いてみた。


「……さっきのあれ、結局何だったんだ?」


「…………んー……」


 こちらを見ずに、ぼんやりと前を見たまま惰性でもっきゅもっきゅと肉を頬張るイルマちゃん。返事っぽい唸りは返してくれたけど、どう見ても説明するのが気乗りしない感じ。


 まあ、話したくないなら無理に聞く必要もない……か? さっきのあまりにもつれない態度からして、べつにあの王太子と特別何かが有った、というわけでもないようだし――


「それです」


「ん? え、どれです?」


 いきなりイルマちゃんに串で指差されて、思わず聞き返してしまう俺。


 イルマちゃんはそのままタクトのように串を振り振りしながら、その行方を目線で意味もなく追いかけるアリアちゃんと俺に滔々と語る。


「篭絡したい異性とのお出かけ中に、仕事上付き合いの有る別の異性とばったり遭遇してしまい、あまつさえ何らかの繋がりを匂わせるような態度を取られてしまいました。

 さて、こんな時あなた達ならどうします? はい制限時間十秒」


「わたし異性の知り合い一人だけなので、その設問は成り立ちません。証明終了!」


「そんなラブコメ的三角関係を演じられるような、モテモテ男になってみたいでござる!」


「あなた達に質問した我がとっても愚かでした……」


 がっくりと項垂れるイルマちゃんを、アリアちゃんがよくわかってない顔しながら頭撫でて慰めてあげる。

 気付けアリアちゃん、今キミわりと馬鹿にされてるぞ。いやアリアちゃんだけじゃなくて俺もだけど。


 でも、とりあえず俺はイルマちゃんの言いたかったことは把握できた。

 つまり、あれだ。イルマちゃんは俺に不貞(でいいのか?)を疑われたくなかったから、あんな正も負もない無みたいな態度で王太子をあしらったわけだ。親しげに接するのはもちろん御法度、逆に強く拒絶するのもそれはそれで関係を勘繰られそうで却下、という消去法でのあの態度だったんだろう。


 ……ところで、篭絡したい異性っていうのは、真っ当に男女的な意味で? それとも、やっぱりビジネスライクな意味が主なの?? どっちだろ……すっごく聞きたいけど聞けない……。たぶんこれ、聞いたらすっごく怒られる気するし……。てか、こんなこと考えてるだけで、めっちゃ凄い目でイルマちゃん睨んできてるし……。怖いよぉ、ふえぇ……。


「おにーちゃん?」


「おおおおにーちゃんはいもーとちゃんのことが異性的な意味で大好きデスヨ!!? なので怒らないでぇ!!!」


「…………………え、あ、うん……。………うん………。…………なら、いいです、けど……、……うん…………」


 面食らったように怯んだイルマちゃんが、そのまま居心地悪そうに身体をもぞもぞさせながら俯いてしまった。


 どうやら、苦し紛れに放ったカウンターパンチがミラクルヒットしたっぽい。やったぜ! ただしその攻撃は自爆攻撃だったので、いもーとを異性的な目で見ることの許可をうっかり得てしまったおにーちゃんにも謎の大ダメージが入りました。


 え、異性的な目で見ていいの? いや、あくまでいもーとを一人前のレディとして扱うことの許可であって、『性的』な目で見ることはフツーにダメですよというお話かもしれない。むしろそれしか有り得ないのだが、そう結論しようとするといもーとちゃんがすかさずとっても不機嫌な目で睨め付けてくるのはなんでです??


 わからない、わからないよイルマちゃん。おにーちゃんは一体、これからどんな顔をしていもーとちゃんと向き合えばいいのでせう――


「ぜのせんぱい、ぜのせんぱい」


 くいくいと袖を引っ張られたのでそちらを見下ろせば、【深淵】絶賛発動中の魔王様の御姿が。え、なんで? この子なんで息するように魔女の権能で絡め取りに来ながら無垢なお声で語りかけてくるの??


「お、おう。どしたね、アリアちゃ」


「わたしは?」


「えっ、な、なにがわた」


「わたしは、異性的な目で見ないの?」


 人ならざる双眸でじっと見つめてきながら、食い気味に問いかけてくるアリアちゃん。一瞬『ヤンデレか……?』とビビったけど、回答は迷う余地なく一個しかないので普通に答えてみた。


「むしろ、出会った瞬間から異性的な目でしか見たことない」


「…………そうなの?」


「いや、だってアリアちゃん女の子じゃん。女の子らしい女の子じゃん。むしろ普通より儚くてか弱くてちっこくて細っこくて、まるで俺の好みがそのまま具現化したような控えめでおとなしい隠れ美少女じゃん。まあ控えめとかおとなしいとかいう俺的にポイント高かったはずのファーストインプレッションはもうどっかいっちゃって久しい気もするけど、仲良くなってくると見せてくれる愉快な絡みもそれはそれで『ああ、仲良くなれたんだな、気を許してくれてるんだな、好き』って思えてむしろ更なる高評価い痛たたたたた痛い痛い、やめれ、やめれ!!」


 素直な内心を吐露したら、背を丸めて縮こまったアリアちゃんに脇腹をばっしばっしと叩かれ、アリアちゃんに伸し掛かるように身を乗り出してきたイルマちゃんには無言でほっぺをがっつんがっつん殴られた。

 虚弱貧弱アリアちゃんの猫ぱんちは鼻で笑っちゃうレベル(←超失礼)なのでともかく、イルマちゃんの拳がジャブ通り越して普通にストレートなのでくっそ痛ぇっす。


 なんとなく逃げることも許されない気がして哀れなサンドバッグ状態に甘んじることとなった俺は、情けない悲鳴を上げながら必死に救いの手を求めて周囲に視線を走らせる。


 結果、この悲惨なリンチを目撃した通行人達の反応はみんなして『あらあら、うふふ』みたいな微笑ましいものを見る目であったことを知った。いや、あらあらうふふやないで? 俺のほっぺ見てみ、これ絶対青アザ出来とるがな。


 痛いよぅ、痛いよぅとめそめそ泣きながら更に周囲を見回した俺は、灯台下暗しの格言の如く、なんかめっちゃ近場にいた頼れる身内を発見。その青年のドン引きしてる様子にも構わず、即座に縋るように助けを求めた。


「助けて、兄様……!! このままだと俺の国宝級のイケてるメンがボッコボコの穴ぼっこにされちゃう!! これは我が国にとって大いなる損失では!!? オラァ、国宝護れよ公爵家次期当主!!!」


「…………。言いたいことは色々有るが、お前って中身の自己評価低いわりに、見た目に関してはわりとナルシストだよな……」


「だって、客観的に見て俺って世界一格好良い容姿してますし。ただ中身が人類史でも類を見ないクソでゲスでクズのゴミだから総合的に評価が最低なだけでぐぼぉえ!?!?」


 アリアちゃん渾身のリバーブローとイルマちゃん必殺のコークスクリューブロウにブチ抜かれ、俺はベンチから吹っ飛ばされて地べたを舐めさせられた。

 何今の威力。余裕ぶっこいてたはずのリバーがズキズキ痛ぇし、顔面もアザ通り越して鼻血ダラダラなんですけど。これは流石に笑って許せるレベル超えちゃってますよ??


 身を起こして抗議の目を向ける俺を無視して、シュルナイゼ兄様とイルマちゃんは何かが通じ合ったようにうんうんと頷き合っていた。おい妹よ、おにーちゃんに他所の男との不義密通を疑われたくないとかいう話はどこいった?

 ちなみにアリアちゃんはというと、自分がたった今ふっ飛ばしたはずの男にちょこちょこ歩み寄ってきて、介抱してくれるのかと思ったら満身創痍の俺をシュルナイゼ兄様に対する盾扱いして背中にしがみついてきた。鬼かな?


「どうやら、ウチの弟は随分と愛されているようだ。……正直、身を挺してゼノを庇おうとしてくれた実績のあるアルアリアさんはともかく、あまりにも容赦なさすぎなイルマちゃんがゼノに近付いてると知った時は『あいつ洗脳でもされて使い捨てられるんじゃね?』と心配だったが……」


「ぶっ殺すぞこのちんかす野郎。我が、おにーちゃんを洗脳?? は??? ありえないんですけど。おにーちゃんの一番の魅力は、あの軟弱で惰弱で脆くて傷だらけのくせして奇跡的なバランスで芸術的に生を繋いでる、あの歪極まる狂った心なのです。天然一品モノのそれをむざむざ洗脳なんてして自らの手で貶めるとか、おまえバカです??????」


「キミも大概歪んでるよなぁ……。あとその顔ムカつくからヤメロ」


 なんか普通に顔見知りだったっぽい雰囲気で和気藹々とナイショ話に興じている長兄様と義妹ちゃんを見て、ハブられ次男はちょこっとジェラシーです。


 そんな俺の内心を見通したわけでもないだろうけど、アリアちゃんが背後からひょっこりと顔を出してきて、俺の顔を慰めるようにぽんぽんと優しく叩いてくれた。

 え、叩くの頭じゃなくて顔なの? 今絶賛鼻血ブーだから、叩かれると余計に血が出るんだけど――って、


「あの、アリアちゃん? その手に持った試験管は何?」


「……………サンプル採取 (ぼそっ)」


「サンプル採取!?!? ちょ、ま、あがぐっ」


 血潮迸る鼻の下に無理矢理試験管をあてがわれ、仄暗い目をしたマッドな魔女さんに強制的に血液を採取される俺。


「くひ。くひひ、くひひひひ……♪」


「おごぉ………」


 アリアちゃんがとっても楽しそうに笑うので、俺は早々に抵抗を諦めてされるがままとなった。

 採取と同時進行で顔の血を丹念に拭き取ってくれてるので、それでチャラということにしておいてあげよう。……ただ、拭き取るのに使ったガーゼまでもを大切そうに袖の中にしまっているのは少々気になるけど……まあいいや、ツッコむのめんどいからほっとこ……。


 実に楽しそうに趣味に興じているアリアちゃんを引っ付けたまま、俺はゆっくりと立ち上がってシュルナイゼ兄様と向き合った。


「それで兄様、こんな所でどうしたんです? 義姉様は一緒じゃないんですか?」


「……………………」


 返事はない。さっきまでイルマちゃんと楽しそうにお喋りしてた様子なのに、なんかめっちゃ目をかっ開いてこっちを凝視したまま言葉を失っている。


 そんな顔のままイルマちゃんを振り返った兄様は、ハンサムな声音に似合わぬか細い声を捻り出した。


「…………ヤバい笑みをした魔女に現在進行系で血を採られてるんだが、あいつなんでさも何事もない感じなの?」


「何事もないからでしょう。おにーちゃんにかかれば、〈力有る魔女〉にろくな説明も無しで血を採取される程度のことは、女の子の笑顔と天秤にかけるまでもない瑣末事です」


「……………えぇぇ……」


「ちなみに今アリアさんががんばって採取してる血の半分は、のちほど我が強奪予定ですのでそこのところあしからず」


『えぇぇぇぇぇぇ………』


 最後の呻きは、兄様のみならず俺とアリアちゃんからも漏れたものである。

 特に成果物の半分を強奪される宣言されたアリアちゃんが一際強く抗議の意思を表明してたんだけど、イルマちゃんに笑顔で「ん〜???」と凄まれたせいで、速攻「あっはい」と返り討ちに遭っていた。魔王様……。


 ちょっとしょんぼりしちゃったアリアちゃんと、逆にとってもごきげんさんとなったイルマちゃん。そんな仲睦まじい(?)女の子達をそっとしておいて、俺は改めて兄様に訊ねる。


「で、兄様はなぜこちらに?」


「あ、ああ……。いや、お前……、………えぇぇ……?」


 しばし混乱したような仕草で言葉にならない声を漏らしていた兄様は、やがて大きくかぶりを振ると、無理矢理真面目ヅラを取り繕ったような顔で応じてきた。


「……いや、な。実は今朝、レティの身内の……『ちょっと、過激な娘』……に呼び出されて、仲間内でちょっとした会合を開くことになったんだが」


 仲間内というか身内であるはずの俺に、当然の如く何のお誘いも無かった件について。え、俺泣いていい?


「いやお前関係ないから。関係なくはないけど、ほら、イルマちゃんだって呼ばれてないんだから。あくまで、レティの身内の子が、レティとその婚約者を呼び出したということだ。

 ……残りの参加者は、まあ彼女にとっては、言ってしまえば賑やかしやもののついでみたいな感覚だったんだろうな。だから、お前やイルマちゃんみたいな近すぎる身内は逆に呼ばれなかったわけだ、うん」


 なんか言い包められてるような気配があるけど、『義姉様の身内の娘』とやらに触れる際の苦々しいような歯切れの悪さからしてあんまり楽しい会合じゃなかったっぽいし、ここは素直に言い包められておこう。


「そっかー」


「そっかーて、お前……いや、いいけど……。で、集められたはいいが、グダグダしすぎたせいで肝心の本題に入る前に解散になっちまってなぁ。そのまま不完全燃焼でどこかに行っちまった過激娘がほっとけないってことで、レティが後を追いかけて行ったわけだ」


「で、その義姉様の尻を更に追っかけてきた兄様、という構図ですか? もしかして」


「尻……。ああ、それで合ってる。尻は追っかけていないがな!!」


 ズビシ、と指を突き付けてくる兄様、キメ顔とポーズは無駄にカッコいいけど発言が間抜けすぎて『ああ兄様だなぁ』って感じ。


 とにかく、これで事情はわかった。過激娘? とやらには会ったことないから知らんけど、おとうと大好き義姉様なら俺とニアミスとかしてたら即座にシュバっと駆け寄って来てたと思うし、兄様これ完全に見当違いの方向に来ちゃったんじゃないかな。


「ごめん兄様、俺らは義姉様見てな――」




「パフェ食ってます」




 なんか唐突な確定情報が来た。その発信源は当然、うちの隠密系ミステリアスガールちゃんである。


「………パフェ……だと……?」と何故かやたら衝撃を受けてる様子の兄様に、イルマちゃんは無慈悲な首肯を返した。


「自分で集めた会を自分で解散させて逃げ出した件の傍迷惑女は、追いかけてきてくれたレティシア様の鼻先で未練がましくちろりちろりと尻尾をチラつかせながら必死に逃走(笑)した後、レティシア様の手によってあえなく拿捕。

 その段になっても尚逃げ出すポーズを繕い続けるかまってちゃん女でしたが、レティシア様に『まぁまぁ』と宥められておすすめの甘味屋に連れられて行き、そして今は二人でカップル限定パフェを食べながらぎこちなくも生あたたかな空気で昔話に花を咲かせています」


「………………」


 まるで見てきたように――というより現在進行系で今も見続けているかのように、一切の揺るぎのない証言。根拠を問い質すまでもなくそれが真実なのだと確信させられる情報の提供を受けて、兄様は絶句していた。


 兄様のその驚愕の表情は、イルマちゃんの諜報能力へのものか、はたまた、苦労して探してた婚約者が百合カップルでキャッキャウフフしながらパフェなんぞ食ってたという残酷な真実へのものか。


 しばし呆然と佇んでいた兄様は、採血を終えたアリアちゃんが再び俺の背後に隠れた頃、ようやく再起動を果たして虚ろに一言。


「………パフェ……だと……?」


 どんだけパフェに引っかかり覚えてんだろ、この人。べつに義姉様とその身内の娘っ子が仲良くパフェ食ってたって良いやんけ。


 イルマちゃんに訊けば、兄様のこの謎のリアクションの理由もきっと教えてくれると思う。でも、アリアちゃんがやること終わって手持ち無沙汰になっちゃってるので、割り込めない内輪話をこれ以上続けるのもあんまりよくないだろう。


「――ああ。そういうことなら、ちょうどアリアさんに関係のあるホットな話題があるんですけど。……聞きます?」


 意識の間隙を突いて俺の傍らに寄ってきたイルマちゃんが、毎度の如く心を読んでさらっと提案してくる。


 それはわりと唐突すぎる話題転換にしか思えなかったはずだが、アリアちゃんはそんなこと一切気にした様子もなく「わたしに関係?」と普通に聞き返していた。この子ら、ちょっとマイペース過ぎじゃね?


「ええ。……まあ、アリアさんにというよりは、我々三人全員に、でしょうか? 『アリアさんの関係者から、我をメッセンジャーとして、おにーちゃん宛にちょっとした招待状が届いてますよ』というお話なので」


「………? はぁん??」


 なんじゃそら。よくわからなくて思わず変な吐息を漏らした俺は、同じような反応してるアリアちゃんと顔を見合わせて首を傾げ合った。


 いや、言葉通りの意味としては理解できるんすよ。エルエスタなりご母堂様なりみたいなアリアちゃん関係者が、また俺に呼び出しかけてきてるって話でしょ? それはわかる。前だって、黒猫みーちゃんの伝言サービスで間接的に出頭命令届いたしな。


 でも、なんで今回はメッセンジャーが魔女機関とは無関係なイルマちゃん? 大体、確かイルマちゃん一派って、義姉様に魔女機関への不干渉を命じられてるんじゃなかったっけ?


「いるまちゃん、えすたお姉ちゃんとかおばあちゃんと仲良いの?」


 もっともな疑問を口にするアリアちゃんに、イルマちゃんはちょっと愉快そうな苦笑いを返した。


「いえ、今回はそのお二方からのラブコールではありませんね。もっと、アリアさんにとって魂的な意味で身近な、半身や写身と言っていい相方からですよ」


「みーちゃん???」


「…………す、すみません、それみーちゃん本人に言ってあげてください。たぶん、すっごい喜ぶと思うので……」


 あまりに何の迷いもなくスルっとみーちゃんの名前が出てきたものだから、イルマちゃんがなんか不意打ちで感動させられてぷるぷる震えていらっしゃる。

 俺も正直、今の返しはグッと来たわ……。みーちゃん、めちゃくちゃ愛されてるぜ……。


 暫くして気を取り直したイルマちゃんは、アリアちゃんのストレートさにあてられたかのように、今度は何の含みも感じない朗らかな笑顔で素直に答えを告げた。


「今回おにーちゃんに会いたいって言って来てるのは、あなたのお母さんですよ、アリアさん」


「……おかあさん??」


 ちょっとびっくりしたように、アリアちゃんはお目々をぱちくり瞬かせる。


 おかあさん。おばあちゃんではなく、おかあさん?? 話の流れ的に、あの二代目晴嵐のナーヴェお嬢ちゃんとは別人ってことだよな……。


 アリアさんのお母さんなる、唐突なニューフェイスの登場。そして、その人とイルマちゃんの謎の関係性。更には、ちょっとした招待状とかいうなんかビミョーな言い回し。

 よくわからんことが多すぎるけど、まあ、呼ばれてるっていうんなら、素直にお呼ばれするのが一番話早い……よね?


「じゃあ、まあ。折角だし、みんなで行くか?」


 特に深く考えずにそう提案した俺に、アリアちゃんとイルマちゃんが返事を――するより早く。


 なんかめっちゃ意気揚々と挙手しながら、俺らの間に喜々として割って入って来る青年の姿があった。



「はーい!! 行く行くぅ♪」



 ちなみに、その青年は兄様ではない。なぜなら、兄様はその闖入者の片腕に首根っこをロックされてじたばたしてる所だから。


 では、この空気の読めない闖入者はいったい誰か? そう。彼の名は、


「Mr.キセル氏……」


「だからその呼び方やめろと言うに」


 一瞬で真顔になって律儀にツッコミ入れて来た王太子殿下は、女子陣の明らかに歓迎していない冷え切った目をさくっと無視して俺だけを見ていた。こいつメンタル鋼鉄かよ。


「話は聞かせてもらった。これから魔女機関のお偉いさんに会いに行くんだろう? なら、このやんごとなき俺様も連れてけ。ぶっちゃけコネ作りしたい。偉い魔女様に全力で尻尾を振って、御威光のおこぼれに預かりたい」


 ぶっちゃけ過ぎだろ。どんだけだよ。こんなのが王太子で大丈夫なのか、この国……? 


「……あの、べつに魔女機関の偉い人に会いに行くわけじゃないんで。こっちの子のお母さんに会いに行こうってだけなんで」


 だから部外者は早よ去れと言外に追い払いにかかるが、鋼鉄の王太子はきょとんと首を傾げてみせる。


 そして奴は、なんでもないことのようにさらりと言った。



「だから、そやつの母親というのは、【魔女機関】当代正規総帥アルアリアだろう?  

 十年前の聖戦の折に、戦犯扱いされたことで身を隠していたはずだが……。ほとぼりが冷めるまで、大聖女一派に匿われていたというわけか。そら見つからんわな」



 ………………。


 はぁん?????

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