十二話 力と策謀と百合の花?
向かっている方向からして、途中から『もしかして』とは思った。そして、巡回中の衛兵に見つかるのを億劫がって迂回したり、避難所替わりになっているらしい教会や広場なんかを避けたりしたりつつも、尚エルエスタの凡その進行方向は変わらないまま。
慣れたルートを往くのではなく、特定の何かをランドマークにして、そこへの道を逆算するような挙動。
そんな彼女が時折見上げているのは、走り続ける内に残すところ数層となった街並みの向こう側でみるみる存在感を増してゆく、堂々と屹立する城壁と、そしてさらにその向こうに聳え立つアースベルム王城だった。
その正門へと続く大通りに出ようかという所で、エルエスタに制動をかけられて、二人で民家の影に留まりながら顔だけ出すようにして表を覗いてみる。
「…………あっちゃぁ、やっぱいるよ……」
王都と城壁を隔てる、大海溝染みた堀。そこに架けられた大橋の上を見て、エルエスタは呻くように嘆いた。
何が居るかって言ったら、金属鎧で全身を固め、剣を履き、長槍と大盾を構えし重武装の兵士諸君である。
よく橋落っこちないねと感心するようなレベルで所狭しとひしめき合う彼らは、そこからあぶれた感じで大通りを巡回している若干軽装な遊撃兵とお互いに怒声のように声を張り上げ合い、周囲に異常が無いかをきっかり十秒単位でチェックしている。
ただ、チェックしているのは不審者や不審物の類だけではないようだ。わんさと騎馬兵を引き連れた豪華な馬車が城門へ近づいてくると、それを見た遊撃兵の怒声リレーによって城側の守備兵長っぽいおっさんまで情報が届き、それを受けたおっさんの号令によって重装兵達が一糸乱れぬ動きで橋の両脇に整列し、馬車を一切の誰何なく素通りさせる。
そしてそれが終わると、また守備兵長の号令によって、橋の上は隊列を組んだ兵士達によって何事も無かったように再び占拠された。
一体何を基準にして素通りさせたんだろう? まさか、家紋入りの豪華な馬車ってだけで『通って良し!』と半ば顔パスさせたわけではあるまい。
対応マニュアルを知らない側から見るとザルのような緩~い出入管理にしか見えないが、今の状況にあの武装とあの練度だ、絶対そんなわけはない。
となると、一応公爵家の次男ってことになってる俺ですら、中に入れるかは怪しいものだな。平時なら、理由さえはっきりしていれば一般公開エリアくらいまでは通してもらえるだろうが……。つーか、
「一応確認するけど、城内に入りたい、ってことでいいのか? それも、真正面から順当に」
橋の状況から視線を逸らさないままで問う俺に、エルエスタも同じ光景を見たままで困ったように答える。
「んー、べつに絶対正面から行きたいってわけじゃないんだけどね……。余計な所でこそこそして後々面倒になったら嫌だから、できれば最初は正式に【魔女機関】の使者として手続きして入りたかったなって……」
「つまり、真っ当な手段で堂々と乗り込んでから、余計じゃない所や最初以降でこそこそするのが今回の陰謀ってわけか。嘘をつく時は九割の真実の中に紛れ込ませるのが常套手段、みたいな感じで」
「お、わかってんじゃん! なになに、もしかしてゼノくんもそういうの好きなタイプだったりするの?」
「いや、俺は魔力ガン積みして物理で殴る晴嵐流だから」
「…………………チッ!!!!」
予期せぬ同好の士の登場に俄かに喜色を滲ませたはずのエルエスタが、速攻裏切られて破天荒婆さんもかくやと言わんばかりの盛大な舌打ちをカマす。
え、ちょっと流石に不機嫌すぎない? 俺を睨みつけて来た彼女の瞳が、まるで不義の夫を見る嫉妬深い妻のような暗黒の愛憎に満ちてるんだけど……。
思わずぶるりと身震いした俺は、彼女の視線から逃れるようにして大通りへと改めて首を伸ばす――と、そこで遠間の遊撃兵さんとばっちり目が合ってしまった。
『あ』
まだ声は聞こえない距離ながらも、お互いに間抜けな形に口を開く俺と彼。
即座に味方に応援要請を出そうとした彼を押し留めるように、俺もまた即座に両手をホールドアップしながら民家の影から身体を現した。
そんな俺をエルエスタが一層刺々しい眼で見つめてくるけど、見つかったものは仕方ないと思ってくれたのか、彼女も諦めたような溜息を吐きながら表に出て来て俺の横でそっと顔を俯かせる。
仲間を数人伴いながらこちらに駆け寄って来た遊撃兵さん達は、俺に声をかけるより先にエルエスタの顔を見て魂を抜かれたような面持ちとなり、けれど速攻俺の咳払いと眼光に貫かれて正気を取り戻す。
「……し、失礼した!」
「べつにいい。気持ちはとてもよくわかる。でも彼女にあまりオイタをすると、お前等の身ごと背後の城が跡形も無く消し飛ぶと思え」
「……………………へ?」
さらっと吐かれた俺の警告を受けて、先ほど以上にぽかーんとしちゃう遊撃兵さん達。
エルエスタが肘で俺の脇腹を至極弱い力で突っつきながら「こら」とちっちゃな声で諫めてくるけど、もう遅い。
「…………てっ、敵襲――――ッッッッッ!!!!」
遊撃兵の彼の鍛えられた声帯から、けたたましく告げられたゼノディアスくん襲来の報。背後の仲間達によって数倍に増幅されたそれは、大通りに散っていた同胞達にも口々に『敵だ!』『敵襲!!』『敵発見!!!』と叫ばせ、橋の上に陣取っていた重装兵達にも『うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ――――!!!!』と合戦のような怒号を上げさせる。
「うぉ、うるせぇ」
「いや、全部ゼノくんのせいじゃん……」
耳を抑えた俺とエルエスタが、口の動きだけで意思を疎通し合う中。
土煙を上げながら瞬く間に俺達二人を包囲した夥しい数の兵士たちは、『ザッ!!』と石畳を靴裏で擦りながら腰を深く落とし、腰溜めに構えた長槍の先端を天から俺達へと向け――
――ようとした所で、俺の威圧によって一人残らずその場に崩れ落ちた。
スライディングしてくるような勢いで陣取ったと思ったら、まるでそのままボレーシュートを決めるかのような、流水の如き滑らかな動きで滝のように落下していく兵士諸君。
将棋倒しのようにわりとシャレにならない感じで幾重にも折り重なった彼らは、手にした武装や身に纏った鎧の重量のせいでガチで潰され、けれど同じく鎧のお陰で命だけは取り留めながら、血の底を這うような苦悶の声を撒き散らす。
なぜか一瞬にして地獄か野戦病棟のような有様になってしまった大通り。
その真ん中で離れ小島に取り残されたような形となった俺は、ほっと安堵の息を吐いて傍らのエルエスタの肩をそっと抱き寄せた。
「ったく、無辜の民に向かって無暗に物騒なもん振り回すんじゃねーよ。躾が出来てるんだかできてないんだか、いまいちわからん連中だな」
「うん。きみはいったい何を言ってるのかな? この子達、今ぜったいとってもまともな対応しただけだよ?」
「は?? 一体どんな理由があれば、屈強な兵士共が寄ってたかって無実の女の子に槍を突き付けていいことになる??? そんな慮外の蛮行に及んだ屑共だ、まだ命が有るだけありがたいと思って欲しい所だね。むしろ、今からでも皆殺しにしてやりたい。つか、殺そう」
「うーん。きみはほんとに、思考がもう完全に〈力有る魔女〉のそれだね! お願いだから、もう少し理性持とう? さっきのはね、王族狙ったテロの犯人やその仲間って疑われても仕方ないこと言った、きみが悪いんだからね?」
「はぁん。じゃあ、王族も殺すか。そうすりゃ疑いじゃなくなっていっそスッキリする」
「………………あれっ、もしかして、結構ほんきで怒ってる……?」
「逆に怒らない理由が無い」
エルエスタの身体を一層引き寄せながら、俺は辺りに積み重なる兵士共を睥睨し、呻いたり惚けたり睨んだりしてくるとんちき共に一人一人目を合わせて、彼らの罪を語って聞かせた。
「なあ。剣とか槍って、脅しの道具か? 違うよな。殺すための物だよな。じゃあお前ら、今、俺やこの子を殺そうとしたんだよな?」
「…………だったら、なんだ」
目を逸らしたり、文句を言いたげな奴らが大半な中で。先程も見かけた守備兵長らしきおっさんだけが這いずり出て来て、俺の言い分を認めた上で尚射殺そうとしてくるかのような眼光を向けて来た。
俺はちょっと意外に思って「へぇ」と感嘆の吐息を漏らし、最初思っていた台詞と別の言葉を告げることにした。
「なら、逆に殺されたとしても到底文句を言える筋合いじゃないよな――って言いたかったんだけどな。反論しなかったあんたに免じて、皆殺しはやめてやる。あと今更だが、俺達は王子殺したとかいうテロとは無関係の一般市民だ」
「っ、どの、口が――」
「なぜならば、俺がやるなら、あんな王城ごと王族全員吹き飛ばすからだ」
俺は守備兵長の視線を無視し、エルエスタを抱いていない方の手を王城主塔のてっぺんへと向けた。
そして、破戒の祝詞を告げる。
「【時壊砲】」
特に切り札でも何でもない、単に瞬間的に魔力を高めて時空属性に変換して打ち放つだけの、魔術とも呼べない代物。
いわば、魔力ガン積みして物理で殴る晴嵐流の基礎の基礎みたいなその魔力砲撃は、バカみたいに有り余ってる俺の魔力を存分に吸って、俺の望む全てのモノをこの時空から消滅させた。
暗黒の発光という矛盾した現象を纏いながら、俺の掌から暴風を『吸い込みながら』一直線に主塔へと伸びて行ったその破壊光線。
城壁の上空に張ってあったらしい結界をぱりんと砕き、無駄に豪華な主塔の屋根を音も無くごそっと丸ごと消滅させたそれは、その背後を呑気にぷかぷか漂っていた雲を貫くと、青空に暗黒の穴を穿ち、黒い輝きの残滓を放電のように散らしながら数秒かけて消滅する。
空気どころか次元さえ破断された空間が、ぱち、ぱりっ、と静電気のような音をさせながら徐々に元の姿を取り戻していく。その様を見ながら、俺は『もしかしてこれが世界の修正力か?』と全く関係ないことを考えていた。
だが、わからないことを考えても仕方ない。なので、打ち終わったばかりの手を今度は王城の中程へと向けながら、完全に血の気の失せた顔をしている守備兵長に声を放る。
「もう一度言う。俺と彼女は、王族を襲ったテロとは無関係だ。だが、あんたの返答次第では、いつでもそれを事実に変える用意が有る。
――その上で少し頼みがあるんだが、俺と彼女を王城に入れてもらえないか?」
「……………………」
守備兵長は、答えない。魂がどっか行っちゃってるのか……と思ったけど、それは周囲の兵士達だけで、守備兵長自体は一応意識が残っている。その上で、何かを言おうとして、けれど何も言えずにいるような様子だ。
……ああ。まあ、いくら遠隔狙撃で王族殺せるからって、『じゃあ城の中に入れてもどうせ一緒だから通って良し!』とは言えないか、彼の立場的に。
でも、そんな事情に配慮しなけりゃいけない理由がどこにある? 俺やエルエスタを殺そうとした相手に慈悲や情けをかけなきゃいけない理由が、俺の中のどこをどうひっくり返しても、ただの一片たりとも見つけることができない。
じゃあ、いいや。
「わかった」
鼻白んだ俺はただ一言だけ呟いて、差し出した手の方角をそのままに、再度魔力を込めていき――。
けれど、それをぶっ放す直前で、エルエスタの手によってそっと腕を下ろさせられた。
「だーめ」
「…………エルエスタ?」
一瞬、『キミも俺を否定するのか』と悲しい気持ちになりかけたけど、エルエスタには別に俺を咎めるような様子はなく、ちょっと困ったように笑顔を浮かべているだけだった。
「陰謀しにきたって言ったでしょ? ここは私の見せ場なんですからね、そんなナーヴェみたいに力業で丸ごとおじゃんにしようとしないでよ。私がそれで何度悔しい思いしてきたと思ってんの? いい加減ぶっ飛ばずぞこのやろう」
「え、ご、ごめん……」
いやそれ俺じゃなくてあの婆さんに直接言ってよ……とは思うものの、素直に謝る俺を見てエルエスタが「うむ、ゆるす!」と積年の鬱屈を晴らしたような満面の笑みを浮かべてらっしゃるので、じゃあまあいっか!
でれでれの笑顔を返す俺を横に置いて、エルエスタは肩に回された俺の腕をそっとほどき、呆然としてる守備兵長さんの前に歩み出る。
「初めまして、兵士さん。私は【魔女機関】からの使者で、今回の件について、陛下と少し打ち合わせたいことがあって来ました」
「………っ、……魔女、機関……?」
「ええ、そう。私の所属の真偽についての説明は、まあ、不要ですよね?」
魔女機関と聞いて速攻なぜか俺を見た守護兵長さん同様、エルエスタまでなぜか俺を見る。まあ、俺は魔女じゃないけど、そう思われても仕方ない非常識なやらかしをした自覚はあるのでここは黙っておこう。
何かを納得したような面持ちの守護兵長に、エルエスタはひとつ頷く。
「そんなわけで、ちょっとお城の中入れてもらえません? 大丈夫、陛下にとっても民にとっても悪いようにはしませんし、あなたが咎められることもありません。むしろ、ここで私達を拒む方が、とっても困ったことになると思いますよ?」
「…………脅す、というのか。……俺や、……陛下や、この国を! …………この、魔女共めがぁ……!!」
「……………んー。なんか私も、ちょっとゼノくんに賛成したい気分になってきちゃったな……。どうしよ、私の策士としてのプライドが、めんどくささに負けそうだよ……」
いや負けんなよ。そんな可愛らしい仕草で俺を振り返って『どうする? 殺っちゃう??』みたいに小首傾げられても困っちゃいます。
エルエスタが勘違いかなんかで睨まれてる現状にあまり良い気はしないけど、一回『だーめ』とたしなめられて彼女にこの場を任せた以上、また俺がしゃしゃり出るのもどうかなぁって思う。
困り果てながら顔を見合わせる俺とエルエスタを見て、守護兵長がはたと何かに気付いたようにぽつりと漏らす。
「…………ゼノ……? まさか、貴方はゼノディアス様ですか?」
「え、そうだけど……。え、なんで俺のこと知ってんの?」
「某は、バルトフェンデルス公爵を寄り親とする伯爵です故……」
「え、ああ、そう……それ理由になるか……? ……ん? 伯爵?? え、貴族じゃん。なんで守備兵長なんかしてんの?」
「緊急事態を受けての臨時措置です。……此度の件への対応を決める『会議』に呼ばれなかった中流以下の貴族は、現在、私兵を率いてそれぞれ王都内各所の守護と治安回復を命じられております」
「はあ、そすか……」
傷ついた身体を引きずって臣下の礼を取りながら説明してくれる守護兵長さんに、俺はなんとも言えない生返事を返すことしかできなかった。
だって、どんな態度取ったらいいのかわかんないし……。今更恭順の姿勢を見せられて小難しい事情話されても、俺はもう王城のてっぺんブチ抜いちゃった後だし、そもそもエルエスタに刃を向けた件は未来永劫赦す気は無い。
どうリアクションしていいかわからない俺とエルエスタに、俺の下知待ちで傅いたまま頭を垂れてる守備兵長。
膠着しかけた事態を打開したのは、傷は負ったものの俺の威圧から復調してきた周囲の兵士達だった。
「……閣下、なぜそんな奴に跪いているのですか……!!」
その声を受けて、守備兵長さんがぴくりと身体を震わせる。だが俺の出自が明らかになった以上、身分に厳格っぽいこの守備兵長さんは俺の赦しなく動くことを躊躇ってるんだろう。
俺、公爵じゃなくて、ただの次男なんだけどな……と微妙な気持ちになってる俺を他所に、倒れ伏したままの兵士達が命を吹き返したように一気にまくし立ててくる。
「そうです! そんな公爵家の面汚しを、なぜ閣下が敬わねばならないのですか!!」
「栄えある王家の功績を掠め取ろうなどと画策する、あの大法螺吹きのゼノディアスですぞ!?」
「いくらバルトフェンデルス公爵の息子だからとはいえ、そんなクズにまで膝を折る謂れなどありませんっ!!!」
一人が言えば二人が言い、二人が叫べば四人が叫ぶ。そんな感じで累乗的にやかましくがなり立ててくる兵士達の言葉を、俺はちょっと他人事のような気分で聞いていた。
いやー、公爵家の面汚しとか大法螺吹きとか、なんか久々に聞いたなぁ。学園に入学してからは義姉様のおかげでそういう陰口叩く奴は全然身近にいなかったから、なんかちょっと懐かし気持ちにすらなってくる。
けれど、やがて叫ぶだけでは飽き足りず殴り掛かってこようとしてる彼らを見て、俺は傍らで挙動不審になってるエルエスタの肩をぽんぽんと叩いた。
「エルエスタ、もう勝手に王城入ろうぜ」
「えっ? じゃあ、やっぱり……、この人達、皆殺し? 私、いっぱい手伝うよ?? むしろ、こんなゴミ共なんて私一人で充分???」
「戸惑ってるように見せかけて唐突におっかないこと言うんじゃありません。いいから、もうほっといて普通に先行こうよ」
「で、でも、こんなひどいこと言われて……」
「いいんだ。だって、全部、『あの人』が俺のためにやってくれたことの結果だったんだろ? なら、赦すよ」
「―――――――なにそれ」
不義に走った夫を咎めるような嫉妬深い妻の視線、リターンズ。
え、怖い、エルエスタが超怖い……。周囲でヒートアップしてた兵士共まで思わずちょっとたじろぐほどに、エルエスタの――というか【魔女】様の漏らす圧が凄まじい……。
「ああ、そう……。あなたは、私より『あの子達』を選ぶんだ……。…………私がこんな所まで足運んで、陰謀とかなんとかやらなくちゃいけないのだって、元はと言えばあの子達のせいなぴゃぅ」
「……………………ぴゃう?」
なんか重要なことをぶちまけようとしていたエルエスタがいきなり素っ頓狂な悲鳴を上げ、かと思ったらくらりと身体を傾がせてそのまま倒れかける。
そこをなんとか抱き留めた俺は、腕の中で唐突に安らかな笑顔で眠っていらっしゃるエルエスタを見てひたすら困惑した。
「? ?? ??? ???? ?????」
救いを求めて周囲を見ても、やはり怒れる魔女様の唐突なおねむに頭を追い付いて来ていないようで、誰も彼もがぽかーんである。
おそらく誰よりも間抜けな面を晒しているであろう俺だったけど、民家の影でなんだか見覚えのある黒い着物の少女が吹き矢なんぞを構えてる姿を見かけてしまって、今は深く追求することをやめた。
――エルエスタが暴露しかけていた内容から察するに、今回の件にはどうも『あの女の子達』が関わっているらしい。
何がどうなってあの人達が王太子の爆殺なんぞするハメになっちゃったのかは知らないけど、きっとそれこそ陰謀かなんかの内なんだろう。そしてそれに呼応する形で、エルエスタもまた自分の陰謀を仕掛けに来たと。
あそこでこっちに平謝りしてるイルマちゃんが、エルエスタに俺の情報を色々渡したらしいことも併せて考えると、どうも俺の知らない所で女の子達が随分と仲良くやっている様子だ。
女の子達の仲が良いというのなら、大抵の問題など問題ではなくなる。なので俺はイルマちゃんに軽く笑いかけながら手を振ってやり、彼女がほっとした面持ちで闇へと溶けていくのを見送ってから、エルエスタをお姫様抱っこして悠々と王城へ歩き出した。
……のだが。進路上にいた邪魔な兵士を一蹴りで全員ブッ飛ばした所、エルエスタが「ひょえっ!!?」とびっくりして起きてしまい、折角のお姫様タイムをろくに堪能することもできずに結局普通に二人でお城へ向かうことになりました。




