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十一話前 時間が無い時ほど脱線が捗る

 デート。


 狭義においては、互いに憎からず想っている男女が二人きりで過ごすことを差し、広義においては、男子が女子と半径三メートル圏内で会話することである。ちな俺調べ。


 その広義の方で考えた場合、俺は既に並み居る美女美少女達とデートの経験を積んでいるわけである。

 いや。イルマちゃんやアリアちゃんと抱き合ったことや、女だらけのすき焼きパーリィすら経験済みであることを考えると、もはや俺は広義において既におせっせや乱交まで経験済みであると言えるだろう。これはもう、更なる広義において俺はもうハーレム王とさえ呼べるのではないだろうか。


 で、俺はそんな万夫不当のハーレムキングでありますゆえに、おにゃのこと二人きりでおデートすることになったってそんなの全然どぎまぎなんかあわわはわわ。


「………ねえ、さすがにどぎまぎしすぎじゃない?」


「王都のゴーストタウンっぷりにびびっただけですけど!!?」


「でも、こっち戻って来る前からキョロキョロ挙動不審だったじゃん」


「それは、だって、そのぉ、えっとぉ、ウフフっ♡」


「……うわぁ、きも………」


 かわいい女の子にキモがられて俺のハートが大ダメージな件について。


 でも怪我の功名的にちょっと高揚が落ち着いたので、俺はエルエスタの白い目から逃れるようにして改めて王都の現状を見回した。


 爆破テロがあった……という割には、道や建築物に目立った損傷は見受けられない。

 まあ、一口に王都って言っても、地平の果てまで尽くすんじゃないかってくらいにだだっ広い街だしな。軽く空を見上げても火災や黒煙の気配も無いし、たぶん実際に事件が起きた場所はここからある程度離れた地区なんだろう。


 ただ、それでも『同じ街で大事件があった』っていうのは中々ショッキングな出来事として受け止められているようで、見渡す限り表を出歩いている住民の姿は一切無し。

 一応、そこらの民家の窓からこちらを伺っているような気配はあるが、認識阻害ローブで半端に人相を隠蔽している怪しいフード女を目撃しては、速攻でカーテン締めて引きこもりを決め込む。


 ……うん。いかにも不審人物な格好してるエルエスタが怖がられるのはともかくとして、なんで普段着の俺まで『ひぇぇ』みたいに恐れ慄かれて見なかったフリされちゃってるのかな? 俺ってそんな見てはいけない夜道の変質者みたいな風貌してますかねぇ、ええ、おい?


「こぉら、なーに罪もない一般市民にガン付けてんの? なんか感じ悪いなって思っちゃうのはわかるけど、この自粛ムードの中で堂々と表をほっつき歩いてる私達の方が悪いんだから。素直に殊勝な態度でいなさいな」


 頭をこつりと優しく叩かれながらたしなめられてしまったので、俺は渋々を装って「チッ!」と舌打ちしながら威嚇行為をやめた。ちなみに内心では、今しがたのエルエスタによる親愛に満ちたアクションに胸をときめかせてたりする。


 つか、俺らがみんなに見られてたのって、単に空気読めない奴に眉を顰める感覚だったのか。自粛ムードね。なるほど、流行り病の噂に必要以上に怯えて自主的に自宅謹慎してるようなこの感じ、まさに自粛ムードそのものだな。

 正直、王子の生死なんてマジでどうでもいいし、たかが一国の王子を重要視してテロを仕掛けるような小者なんぞもはっきりいってどうでもいいから、自粛しようなんて気持ちが頭からすっぽり抜け落ちてたわ。

 精々、『いつも満員なのに、今日は電車がびびるくらい空いててラッキー』くらいにしか思ってなかった。


 普段の俺だったら流石にもうちょい慎重になる所だろうけど、御母堂様とのバトルではっちゃけた後遺症で、少し荒事に対する感覚が狂ってたかもしれない。


 ――これは、少し不味ったか? 相変わらず俺自身には欠片ほどの危機感も沸かないけど、俺の隣で行先を定めるべく辺りをきょろきょろ呑気に見回してるこの娘には、もう少し気を遣って然るべきだった。


「……エルエスタ。ちょっと幾つか『お守り』渡しとくわ」


「ん? お守り? なぁに、いきなり」


「いいから」


 勿論、魔女機関の代表たる者が、身を護る術のひとつも無しにそこらをほいほい出歩いているとは思わない。むしろ、こんな風に余裕ぶっこいてる俺でさえ一瞬で抹殺できるような隠し玉を幾つも持ってるとか言われたって、『当然』ってなもんだろう。


 だが、それとこれとは話が別。この女性を崇め奉りし拗らせどーてーゼノディアス君が、命の危機的な意味で治安の悪い今の王都へ、何の対策も無しに可愛い女の子を解き放つわけにはいかない。


 だから俺は、よくわかってない様子のエルエスタの手の中に、『防犯グッズ』――というか、主に『救命キット』を押し付けた。


 それを思わず受け取って腕の中に抱えてしまったエルエスタは、目をぱちぱちと瞬かせながら首を傾げる。


「………魔導具と……、錬金薬? なにこれ、今飲めばいいの?」


「ん……、あれ? 俺の情報って、プライバシー無くなるレベルで筒抜けになってるんじゃなかったっけ? なら、見ただけで大体どれが何だかわかったりは……」


「送られて来たのは、あくまで『あなたが私達に有害と判断されないために必要な情報』が主だからね。流石に何の説明もなしに『お守り』とだけ言われても困っちゃうよ」


「あ、いや、決して困らせるつもりは――おい待て。その理屈で言うと、俺の初恋の話は俺が有害だと判断されないために必要な情報だったということに」


「うん。必須というわけではなかったけど、確実にあなたの生存に一役買ったと思う」


 マジすか……って、あー、そっか。俺が今日やろうとしていた『情に訴えてお目こぼしを願う』って策を、イルマちゃん(たぶん)が先んじて実行してくれてたわけなのか……。

 なら確かに、俺が魔女機関への反抗なんぞ考えもしない情けない人間であるというのを証明するためのプライバシー皆無な暴露話は必要だったし、そして逆に、俺が『魔女機関にとって脅威に成り得るという物証』については秘匿してくれたことだろう。


 その推察が合っている確証は無いが、けれどイルマちゃんならそうしてくれそうだなという確信はある。なので、そんなイルマちゃんの気遣いに感謝しつつ、けれど同時に申し訳なく思いながら、俺はさっくりと救命キットの解説をした。


「護符は、ほんとにお守りだから、できればいつも肌身離さず持っとけ。薬は、ヤバい怪我した時に飲め。あと指輪とか髪飾りとか腕輪とかのアクセサリー類は、さりげなく付けられるデザインにはしてあるから、付けられる奴はなるべく付けといて」


「いや、それ結局何も具体的な説明になってないんだけど」


「細かい説明し出すと、各学会のお偉方でも頭抱えるレベルの話になってくるからちょっと面倒すぎる。今は陰謀のお時間なんだろ? 時間はいいのか?? ほらほら、さっさと陰謀しに行こうぜ!!」


「強引だなぁ、まったく……。じゃあ、悪いけど、最低限の確認だけ私の『能力』でさせてもらうよ? べつにあなたを疑うわけじゃないし、そもそもこれが本当に私に害を為すものであっても『無駄に終わる』とは思うけど、よくわからないアクセサリー身に付けたりよくわからないお薬飲んだりするのは、流石にちょっと、その、……ふつーに怖いので……」


「…………あ、うん……」


 ふつーに怖いと言われてしまってふつーにさっくり傷付いた俺だけど、彼女の言うことがあまりにごもっともすぎて何も反論することができなかった。


 なんか極々自然に『私に害を為そうとしても無駄に終わる』とか仰ってるし、これなら最初っから変に気なんて回さなきゃ良かったわ。

 なんで俺、無駄にイルマちゃんの気遣いを無碍にした挙句に無駄にエルエスタに怖い思いさせて無駄にマイハートに自傷ダメージ負ってるんだろう。


 溜め息を吐いて、エルエスタがあたりをつけていたっぽい方角へなんとなく目を向け、気まずい気持ちを誤魔化しにかかる俺。


 そんな俺の横で、エルエスタが宣言通りに何らかの力を使ってる様子で『お守り』の見分を始め――、そして抱えていた品々を思いっきりその場にがしゃんと落っことした。


『あ』


 ぱりん、と割れるガラス瓶、そして石畳の染みとなる液体。目立たないような意匠にしたことが仇となり、うっかりどっかに転がって行方不明となる指輪。風に乗ってお空に舞っていきかけた所を、さすがにこれは失くしたらまずいと、俺が【空間転移】発動してぱしっとキャッチした護符。


 とん、と軽い靴音を立てて無事に着地した俺は、見失ったはずの指輪を偶然の光の反射によって無事に発見し、それもついでに回収してエルエスタの元へと戻る。


 足元に残っているアクセサリー類を拾おうともしないまま、エルエスタはただただそれを呆然と見つめていた。


「…………あ、くすり……割っちゃった……」


「ああ……、まあ、いいよ、気にしないで。そこそこだいじな物ではあるけど、べつにまた作ればいいだけから」


「………………また? 作る?? ……この、指輪とか、護符も、あなたが作ったの????」


 くわっと目を見開かれながら尋問のように詰め寄られて、俺はちょっとたじろぎながらも、ひとまず曖昧に頷――こうとして。けれど、そこでちょっと思い直し、ただただ目を逸らした。


 ――ああ。遺失秘跡を当然のように使いこなす魔女機関臨時総帥様でさえ、この過剰な反応。ってことはやっぱ、これは明かしたらダメな情報だったんだな。マジでごめん、イルマちゃん……。


「…………要らないなら、いいよ。余計なお世話だったみたいだし、全部回収――」


「――バカ言わないで!!?? 一回もらったんだから全部わたしのコレクションだよ!!!! 今更取り上げようったって、もう遅いんだからね!!!!!」


「……………………………は?」


「あっ」


 落ちてたやつどころか俺の手の中に有った分までまとめて掻っ攫ったエルエスタは、それを大事な我が子のように腕の中へしかと抱き締めて己の身で庇いながら魂の叫びを上げ――そして固まる。


 そんな彼女と見つめ合いながら、俺は彼女の主張を咀嚼する。


 コレクション。コレクションとか言ったか。……まさかこいつ、


「まさか、実はレアアイテムコレクターとかだったりする?」


「…………………………。てへっ☆」


 舌をぺろっと出して、おどけた笑みを見せながら無駄にウインクしてくるエルエスタ。

 うん、可愛いよ? 可愛いんだけど、ちょっと、プレゼントを喜んでもらえた理由がちょっと俺の想像の真逆すぎて、俺はなんともやるせない気持ちでまたも目を逸らすことしかできない。


 俺としては、彼女にとって不要な贈り物であっても、そこに込めた気持ちだけは受け取ってもらえて、『まあ、ありがとね?』くらいの軽い感謝の言葉と、あとほんの少しの笑顔とかでももらえれば、それで大いに満足だった。


 でも……、逆に、気持ちを蔑ろにされて物欲オンリーでこうも大喜びされては、ちょっと、こう……、なんか、こう……それは、ちょっと……。いや、喜んでくれるなら、それに越したことはない、はずなんだけど……。


「……………………」


「あ、あのぅ、しょーねん……? あ、えっと、ゼノディアスくん……? ……もしもーし……?」


「………ああ、いや……」


 不安そうな面持ちで顔色を伺われて、俺はまた彼女とまともに目を合わせることもできずに口ごもる。


 ――いいや。忘れよう。彼女の言った通り、今渡したアイテム類は全部彼女にくれてやったものだ。それをどう使おうが、或いは使わずにコレクションして眺めようが、全ては彼女の自由だろう。


 ……物で女の子の気を惹こうとしても、ろくなことにならないんだな。最初は気を惹こうとしてプレゼントしたわけではなかった気がするが、俺は今日、そんな一般常識をようやく学んだ。


「…………全部、持てるか? 邪魔だったら、一旦俺が預かるけど」


「……持て、る、けど……」


「ん。そうか。ならいい」


 俺は差し出しかけた両手を素直に引っ込め、赤子を取られまいとする彼女を安心させるように微笑んで見せた。


「なら、ぼちぼち出発といこう。きみの言う陰謀が具体的にどんなものなのかは知らんが、ずっとここに居ていいわけでもないんだろう?」


「…………………」


「……エルエスタ?」


 行動を促すように半身を引いて背を向けかけた俺だが、それを受けてもエルエスタが全く動き出す気配がなかったので、思わず振り返る。



 ――そんな俺の鼻先に、ずいっ、とエルエスタの大事な赤子が押し付けられてきた。



「い、要らない。返す。ぜんぶ、しまって」


「………………え、でも、さっきあんな喜んで――」


「やだ。――こんなの貰うより、あなたに、ちゃんと笑ってほしい。…………じゃないと、……やだ……」


「―――――――う、うん。は、はい、うっす、うっす」


 どうやら、俺の作り笑顔って、自分が思ってる以上にあんまり上手くないらしい。


 たとえそうだとしても、どうせ大抵の人はツッコミなんて入れて来やしないんだけど、どうも近頃俺が出会う女の子達はあまりにも心が優しすぎる。

 意味わからない所で勝手に自爆して勝手に傷ついてる情緒不安定な童貞野郎なんて、そのままほっときゃいいのに。


 ――だって。そんな優しさを向けられてしまったら、俺はそれが『特別なもの』だなんて勘違いして、勝手にきみを好きになってしまうから。


 俺に優しくしてくれる娘は、誰にだって優しい子なのに。そうとわかっていても、俺は作り笑顔を維持できずに、小っ恥ずかしいはにかみ笑いなんて浮かべちゃいながら、エルエスタにきちんと向き直った。


 なんだか泣き出しそうにしょげていたらしいエルエスタは、俺のキモい笑顔を見て――とっても嬉しそうにぱっと表情を綻ばせた。


「あ……、きもかった頃のあなたに戻った!!!」


「ブッ飛ばすぞこのやろう」


「なんで!!? 私、事実しか言ってないのに!!!!」


「事実なら何言っても良いってもんじゃねぇぞコラ。例えば俺が『エルエスタの向けてくれる優しさを、特別なものだと思いたい』って本音をそのまま本人に言ったら、ふつーにウザくておぞましいことこの上無いでしょう? 人ってのは本音と建前を上手く使い分けていかないとダメな生き物なんだよ。わかった?」


「…………え、それが、本音? ……なら、べつに、私も本音で言うけど……、それは、べつに、うざくはないです……。ちょっと、困りはするけど」


「困ってんじゃん。じゃあダメじゃん」


「え、判定厳しくない? もうちょっと余裕プリーズ。あと時間もください、あなたの気持ちときちんと向き合いたいので……」


「やだ」


「やなの!!??」


 だって、余裕を持って時間を使ってきちんと向き合われたら、絶対キモくてウザくておぞましいって結論に辿り着くこと請け合いだし。その場でバッサリ切り捨てられるより、間をおいて期待させられてやきもきさせられてからの方が絶対食らうダメージ大きいじゃん。そんなんもう致命傷じゃん。


「大体、今時間大丈夫なの? って話何回かしてんだけど。なんか全然急ぐ様子無いし、陰謀とかもうべつにいいなら、もうこのまま何も考えずにデートしようぜ」


「…………………陰謀は、どうでも、よくないです……。一応、だいじなおしごとですので……」


「つまり、俺とのデートはだいじじゃないと。俺より仕事を選ぶんだな、見損なったよエスタ」


「めんどくさい女みたいなこと言い出さないでくれる!!? あとさりげなくエスタとか呼ばないで!! そんなこと言うと、私もあなたのこと、なんかこう、愛称的なやつで呼ぶからね――って、ああもおっ、また脱線しちゃったじゃん!!!」


 流石にそろそろ時間が差し迫っているのか、彼方に見える時計塔の方をちらっと見てあたふたし、次に結局腕の中に持ったままな救急セット類を見てあたふたする。


 更には俺の顔まで見てあたふたしちゃうエルエスタに、俺は思わずプッと笑ってしまいながら両手を差し出した。


「やっぱり、一旦預かるよ。そんなに喫緊で必要でもないっていうなら、道すがら説明と選別しながら一個ずつ渡してくから」


「…………お、おなしゃぁす……」


 妙に畏まって頭を下げてくるものだから、俺はまたも可笑しくなって吹き出しながら、返って来たプレゼントを笑顔のままで受け取った。


 ただ、エルエスタがやっぱり物欲しげな顔をするものだから、とりあえず護符だけでも先に渡そうかと考えて――。

 けれど俺は、ふと再燃してしまった僅かばかりのやるせない気持ちと、そして新たに湧きだした反発心とイタズラ心に衝き動かされ、アイテムではなく自らの手をそっと差し出してみた。


 最初、その手の平を『ばかには見えない魔導具でも乗ってるのかしら?』と言わんばかりにしげしげと見つめていたエルエスタ。けれど本当にそこには俺の手しか無いのだとわかると、からかわれたと思ったのか、ガッと牙を剥きだしにして食ってかかってきた。


「何も持ってないなら、始めからそう言ってよ!! 何なの、今の無駄な時間!?? なんで、時間はいいのかって言ってた本人がそういう無駄なことするわけ!!? ほんっと意味わかんない!!!!」


「え、いや、ごめん、そこまでガチギレされるとは思ってなくて……。ごめん、繋ぎたくないなら、いいっす……。調子こいてマジごめん……」


「…………………え、繋ぐ? ……手を?? ……なんで??」


「いや、だから、もういいって」


 拒否られるでもなく普通に心底不思議そうな顔をされてしまったので、やっぱこれデートじゃねぇんだなと再確認しながら、俺はようやく目的地へ向けて勝手に歩き出した。

 ちなみに方角はてきとーだ。だって目的地知らんし。だから、ひとまず俺が動き出せば、エルエスタが付いて来て方向修正してくれるだろーというのを期待しての行動である。


 予想通り、数秒遅れてちょこちょこと隣に並んできたエルエスタは、けれど俺の進路を正すことも、本題に入ることもせず、終わったはずの話にこだわり続ける。


「手、繋ぎたかったの?」


「うるさいな、だからもういいってば」


「…………ふーん。じゃあ、私ももういいや」


 ぎゅっ。


 気の無い返事と共に、何の脈絡も無く彼女の手によって繋がれる、俺のお手々。ホワイ? 今何がどうなってこの結論に至ったの、この子? もういいやとか言ってませんでしたっけ??


 しかも困惑する俺の隙を突いて、恋人繋ぎカマしてくるし。そのまま歩きやすい繋ぎ方を模索してたと思ったら、なんか俺の腕に絡み付くような抱き着くような感じで身を寄せてくるし。


 え、やめてほしい。待って。普通にやめてほしい。エルエスタの胸元のローブの生地が普通に俺の腕に触れるし、そもそもお互いのお手々なんて直のナマで絡み合い過ぎだし、いきなり路上でこんな唐突過ぎる性行為に及ばないでほしい。俺はこんな所でうっかり射精などしたくない。せめてハジメテは自宅かホテルのベッドの上で優しく絶頂へと導かれたいのねん、でゅふふ♡


「あ、えっちな顔してる」


「してませんけど!!? てかキミそのローブほんとずるいよね、俺だけそっちの表情ちゃんと見えないんだも」


「じゃあ、これでいい?」


 空いてる方の手で何の気なしにフードをぱさりと下ろしたエルエスタは、軽く首を振ると月の光で織り上げられたような白銀の髪をふわりと外気に曝け出し、月世界のお姫様のように神秘的で愛らしい顔を惜しげもなく披露すると、色素の薄い儚げな印象の瞳で至近距離から見つめて来て――





 そして。いきなりそんなありえねーほどかわいすぎるご尊顔を見せられてしまった童貞野郎を、あまりにも唐突で、あまりにも予想不可能な、絶対不可避の大絶頂と夥しい量の射精へとものの一秒足らずで導いたのだった。





 いや、これ俺悪くないよね? だってほんとマジかわいいんだもの……。こいつ、ほんとに人間かよ……。魔女って、カテゴリー的には人間でいいはず、ですよね……? たぶん……。

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