一話 戦じゃあ! 出会え、出会えぇ!!
週休を翌日に控えた、嵐の前の静けさ感満載な薄ら寒いほどに平和過ぎる夜。
この数日で方々を行脚して整えるべき準備を整えた俺は、ようやく一息ついて寮のベッドにごろんと仰臥しながら、明日の朝から赴く予定になっている【魔女機関】本部と、そこで俺を待っているらしい『臨時総帥』なる不思議な肩書の女性に思いを馳せていた。
魔女機関。十年前くらいに起きた大戦以降、支配体制が変わったかなんかで、一時よりは秘密結社感の薄れている組織ではある。
なにせ、列強各国の首都には大体魔女機関への窓口が新設されており、各国首脳と魔女機関本部のお手紙のやり取りを仲介していたりするのだ。秘密は秘密でももう公然の秘密みたいなもんだろう。
俺だって、〈晴嵐の魔女〉ナーヴェって知己の魔女に手紙や小包を送るのに窓口を利用した経験はある。だから、魔女機関からのお便りでーすって言われても、きちんと落ち着いて考えてみれば絶対無い話というわけでもないのだ。
ただ、今回の招待はきちんと窓口を経由した正式ルートではなく、知り合いを通じた非公式な直通ルート。
それも、呼び出し元はただの一構成員とかではなく、臨時とはいえ総帥――即ち、魔女機関内の話に留まらず事実上この世界の頂点に君臨していらっしゃる、言わば天上人である。
万端、準備せねばなるまい。
この身に流れてはいないけど、魂に受け継がれしあの国の男児としての血潮が、俺に『座して死を待つな、気高きおのこよ、神風たれ!』と俺に熱く激しく囁やきかけてくる。
そう。俺は既に、魔女機関総帥からの呼び出しに足る用件というものに、おおよその察しがついていた。アリアちゃんも同時にお呼ばれしているという時点で、察しを超えてほぼ確定ですらある。
問おう。
『世界の調律者』を自他共に認めている、絶対平和遵守を掲げし絶対的暴力機構が、『死者の大量蘇生』などというあまりに盛大すぎるルール違反を犯した奴らを直々に呼び付ける理由とは?
――答えは、『粛清』である。
或いは、浄化や私刑と言い換えても良いだろう。とにかく到底穏便な話し合いで済むなどとは思えない。ならば、こちらも相応の準備と態度を以て応じねばなるまいて。
腹は括った。やるべきことも既に終えた。ならば後は決戦の刻を待つばかり――なのだが、流石にこの世とオサラバするかもしれない大イベントを明日に控えているとあっては、緊張と恐怖と謎の高揚感で目が冴えすぎちゃってて、ちょっと寝付けそうにない。
――こういう時は、あれだよな、『白』よ。
――ああ。こういう時はアレだよな、『俺』よ。
「「やっぱこういう火照りと暇を持て余した夜は、盛大にシコって色んなものを気持ち良くブチ撒けるしかないよね!!!」」
つい先日人生史上二番目ってくらいに大暴れした影響か、ほぼリアルタイムで自らの内なる魔力との対話を実現させた俺。
拳で死神をブッ飛ばして死者蘇生を実行したことと合わせて着々と人間辞めいってる感はあるが、今の俺に求められているのは人の心を忘れたケダモノになることであるので都合が良い。
そう。俺は今日こそ、人類の至宝たるアリアちゃんのおぱんつ様及び着古しのわんぴーすを使ってオールナイトフィーバーしちゃうのだ!!!
リアルのアリアちゃん本人にはもうすっかり嫌われてしまった様子の俺に、最早良心の呵責など存在しない。
黄泉路の番人というこの世ならざる強敵を相手取り、共に抱き合いながら恐怖と勇気を分かち合って一緒に激闘を乗り越えたはずのパートナーでさえ、数日後には『あ……、ど、どうも……』程度の気まずげな笑顔しか向けてくれないのがこのどこまでも非情なまでにリアルな世界。
あれだけの大イベントに遭遇しておいてこれなのだから、最早この先俺に真っ当な恋愛など望むべくもない。
ならば、もういい。もうどうだっていい。どうせ明日には露と消えるかも知れない我が身だ、最後の晩くらいはかつて一目惚れした女の子の下着を使って盛大に果てるとしよう。
そう決意した俺は、善は急げ、悪はもっと急げとばかりにベッドから跳ねるようにして飛び起き、その勢いのままに自らのズボンとパンツを脱ぎ捨ててフルチンになると、ここ数日ずっと部屋の中央で俺を悶々とさせていたおにゃのこの衣服をズバっと手に取り――
「……………われ、さんじょぉ……。ぐすっ、ぐすっ……」
戦支度を整えて颯爽振り返った俺の、視線の先。
さっきまで俺が仰臥していたはずのベッドに、突如出現してちんまりと正座しながらぽろぽろと泣きべそをかいていらっしゃる、黒髪黒着物の少女を発見した。




