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九話 百合に挟まる変態男子

「おにーちゃんったら、これはまた、随分と大量に買い込んで……、…………買い込む……?  …………あの、これ、どう考えても出店で買ったようなやつじゃないですよね。いったいどこのご家庭の幼妻さんの料理や、どこの農家の年若い娘さんの努力の結晶を強奪してきたんです?」


「ねえイルマちゃん、きみは俺の生態をとっても誤解してると思うんだ。俺はね、お腹が減ったらそこらの家の若い女性のとこに押し入って我が物顔で手料理をかっ食らったり、その上『さぁてお次はデザートだぜ!』とか言って女の子まで美味しく頂いてくるような、そんな横暴なお貴族様じゃあないんだよ?」


「うなぁ~う……。にゃっ!!(誰もデザートまでは言ってないでしょうに……。本性を現したわね、しょーねん!!)」


「ガッデム!!?」


 心の裡に秘めておきたい願望までうっかり暴露してしまって思わず天を仰ぐ俺を、黒猫と黒髪少女が胡乱な目付きで責めてくる中。


 適当な敷物を敷いてなんだかんだで仲良くお料理を並べてる俺達二人と一匹を、じ~~~~~っと熱い眼差しで見つめる魔女さんの姿があった。


 ……なぜか、イルマちゃんの背中に、まるでお母さんの足の影に隠れる人見知りの幼女のごとく張り付きながら。


「………………。ねえイルマおかあさん、そちらの可愛いお子さんは、一体誰との子なんだい?」


「我とみーちゃんの子ですね。ねー? 一度は娘と嫁を捨てた、裏切り者のみーちゃんさん? もちろん、今度はちゃぁぁあんと責任持って面倒見てくれますよねぇぇぇえええ??」


「………………にゃふぅ……(……え、ええ、そうね。さっきは逃げてごめんね、いるま……)」


「赦しましょう。我ってば、ダメな相方にも寛容な、とっても良きお嫁さんですので!」


 まるで不貞を働いた夫のごとく項垂れるみーちゃんと、それをネタに家庭内の地位向上を図るしたたかな嫁みたいなドヤ顔のイルマちゃんだけど、きみたちいつの間に結婚してたの? 

 あれっ、おかしいな、アリアちゃんも含めてこの娘達はみんな俺のお嫁さんだったはずでは……? いったいここはいつから男子の存在を許さぬ百合の世界になってしまったんです……??


 気配を消してモブに徹した方がいいのかしらと悩む俺を他所に、アリアちゃんが顔を覗かせながら「いるま……?」と小さく首を傾げ、おかーさんの着物をくいくい引っ張りながらこしょこしょと内緒話。


「……にんげんの女の子のみーちゃんは、おなまえ、みーちゃんじゃないの?」


「だからそう言ったでしょう? 我はみーちゃんから分かたれた半身にして、しかしてその正体は、新たなる人格を得て自らの人生を歩み始めたぶらんにゅーみーちゃん……。黒より出でて黒より黒き我の名は、陰の眷属・イルマに候――!!」


「かげのけんぞく……、イルマにそうろう……!!!」


 無駄に顔を片手で覆って陰の有る微笑と共に名乗りを上げたイルマちゃんを、まるで戦隊ヒーローショーを見る子供みたいにすっごいわくわくキラキラしたお目々で見つめるアリアちゃん。

 うん、俺もうこれそろそろツッコミ入れていいよね? ボケであほなのは俺の専売特許なはずなのに、さっきから女の子チームの方がぽけぽけとおとぼけあそばされすぎではないかしら??


 お株を奪われて、ていうか普通に予想外な光景すぎて思わず尻汗かいてきちゃった俺に、みーちゃんが疲れたような鼻息と共にみゃうみゃうと説明してくれた。


「みゃー、みゃうみゃー(寝起きのありあってぽけぽけしてるし、最近はちょっと夢遊病のケまであるしで、まともに相手してるとめんどいのよ。だからいるまもてきとーにノってあげて流してんでしょ)」


「はーん……?」


「んみゃーう。みゃうっ!!(あと、いるまのアレはたぶん『正気に戻ったらそれはそれで面倒そうだから、もうこのままでもいっか……』とか諦めかけてる顔ね。既に完全に諦めちゃってるあたしにはわかる!!)」


 イルマちゃんばりにドヤァと笑うみーちゃんを見て、俺はいつの間にか女の子達がマジで仲良くなりすぎてて微笑ましいやら疎外感が酷いやらで、よくわからん気持ちで「な、なるほどぉ?」と微妙過ぎる相槌を打つことしかできなかった。


 あれっ、おかしいな。このハーレムの中心は俺のはずなのに、俺ってただメシをパシるだけモブ男子に成り下がってなってない……? いやいや、そんなばかな……。


「お弁当係の小間使いおにーさん、そろそろご飯の用意はできましたか? ほらほら、とっととじぶんのお仕事しなさい。はりー、はりー! やーい、そーろー!」


「…………ぞんざいなフリして、寂しくなっちゃった俺のこともしっかりと構ってくれる、そんな気遣い上手なイルマちゃんが俺はとっても大好きです、候……」


「……………………るっさい、ばか」


 半分願望交じりのあてずっぽだったけどものの見事に図星だったようで、イルマちゃんは恥ずかしそうな顔をふいっと背けると、愛娘なアリアちゃんののどをこしょこしょくすぐって、女の子を笑顔にする尊いおしごとに戻っていった。


「なぁ~お。なぁ~おぅ!!(しょーねん、おごはんー。ごはん係のしょーねん、はやくおごはん~!!)」


「はいはい、俺はどうせごはん係の少年ですよ……」


 食い物の包みを咥えてほどくくらいしかできないお猫様に急かされて、俺は甲斐甲斐しく食器の準備やお料理の取り分け、ついでに俺の唾液塗れだった人参をしれっとスティック状にカットしてそっと食卓の片隅に並べたりしました。


 みーちゃんにものすんんんんんんごい胡乱な目で見られたけど、特に何も言われなかったので、きっとモブ少年のささやかな性的イタズラの申請は無事に通ったのだと思います。



 しかし、その後。


 能力的に絶対気付いているであろうイルマちゃんまでもが何も言わないし、アリアちゃんはごくごくフツーに何の疑問もなくお口に入れようとするしで、罪悪感に負けてしまった俺がとうとう性的イタズラの白状をした所。


「…………ひえぇぇぇぇぇぇ……!!? うわぁ、ほっ、ほんもののへんたいだぁあ……!! きゃめら、きゃめらに撮らなくっちゃ、きゃめらどこ、おばーちゃん……!!」


「おにーちゃん…………さいてー、です……。…………ほんと、さいってーですよ………ほんともう、ほんともう、このくそやろうですよ…………」


「なうなう……(しょーねん……、あんたって子は、ほんともー……ほんともう………あーもうほんとにもう………)」


 と三者三様の軽蔑の目で見られてしまったので、もうそのまま食わせときゃよかったなって思いましたよこんちきしょう!!!


 いや、アリアちゃんだけはなぜか軽蔑っていうかレアな珍獣見つけちゃったぞみたいに瞳輝かせてたんだけど、この子ほんといつになったら正気に戻るんだろうか……。

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