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八話 食べ物のために貞操を売る主人公とは

 そして、そのままひとりぼっちのロックフェスティバル(※隠喩!)に赴いて魂のシャウト(※隠喩!!)を吐き出してこようとした俺だけど。

 か弱い女の子達の姿が見えなくなるとついつい不安になっちゃって、思わずクルっと引き返してしまい、防犯グッズを渡してからまたソロ活動へ旅立ち、けれどまた不安になって引き返して防犯グッズを渡し……というのを五往復ほど繰り返した頃、


「いいから早よイってこいや、このシスコンおにーちゃんっ!!!」


 と愛しのいもーとちゃんにキレられてしまったので、めそめそ泣きながら家出するようにして逃げ出す羽目になったおにーちゃんなのでした。


 おなにーしてくると宣言し、早よイってこいと言われはしたものの、愛しの妹に怒られちゃったショックですっかり性欲が引っ込んでしまったので、シコる気になれず。

 それじゃあ今は一体何をしているのかというと、麓の村まで降りて、本当はべつにやるつもりじゃなかった食料調達を実際に遂行してる真っ最中です。


 つっても、ここ本来は別に観光地でもなんでもないただの長閑な農村だから、コンビニなんて勿論有るわけないし宿屋も無ければ飯屋も無い。じゃあどうやって食い物を調達するのかというと、そこら辺の村人に話しかけて物々交換するというRPG的なクエストをこなして回るわけです。


「おー、おばちゃん久しぶりー。こないだのお裾分けありがとね。あとこれ、新しい農薬の試作品。来年また使い心地教えてねー」


「おー、ゼノくん、あんがとなぁ! ……ん? あんた、そういや今年は来るの二回目だねぇ? そんなに今年のニンジン気に入ったのかい?? そうかいそうかい、じゃあちょっと齧っていきな!! ほれほれ、採れたてほやほやだよ、ほれほれぇ!!!」


「うん、せめて調理したものをほれほれしてね? 俺ウサギさんじゃないから、そんな土も皮も付いたマジで採れたてほやほやの生ニンジンを丸ごと食うのはちょっとマジでご遠慮あっあっ、あっ、やめて、入らない、入らないの、そんな太くて硬いの入らないのぉぉおおおおおお!!!」


 などと畑仕事してた顔見知りのおばちゃんに貞操を奪われたりしながら村を一周すれば、あら不思議。

 そこかしこで似たような感じで心身ともにズタボロにされきった俺の腕の中には、何かたいせつなものを失った見返りとして、抱えきれないほど大量の採れたて果実や家庭料理のお裾分けが出来上がるのでした。


 農家、こわい……。入らないって言ったのに、結局強引に口に捩じ込まれるし……。俺の唾液付いちまったから、これは女の子達には出せないな。となると俺一人で食うしかないんだけど、ニンジン一本丸ごとはキツいっす。


「……みーひゃんふぉ、ふぉれふぁふぇふぇふふぇふ? (みーちゃんも、これ食べてくれる?)」


「みゃーお。みぃ……?(食べてあげるから、あんたそれさっさと抜きなさいよ。いつまで咥えたままでいるの……?)」


 クエスト巡りの途中からいつの間にか俺の足元をとてとて歩いてくれてたみーちゃんに訊ねてみれば、胡乱な目で見上げられながらごもっともなツッコミを入れられてしまった。

 うん、半分ウケ狙いで咥えっぱなしだったんだけど、村回ってる間誰一人としてツッコミ入れてくれなかったから引っこ抜くタイミング逃しちゃったんだよね……。俺がふごふご言いながら農薬やら軟膏やらの小瓶を差し出すと、みんな一瞬きょとんとするけど、すぐに笑ってお返しの食い物くれるの。

 一体どこまでいけるかなと半ば興味本位な感じでふごふごを続けてたら、なんとそのままつつがなく村内を一周し終えてしまいました。マジか、この村どうなってんだ。農家怖ぁい……。


 何気にみーちゃんも、俺から話振るまで触れてくれなかったし。これはあれかな? もしかしてみんなの中のゼノディアスくんって、人参咥えてフゴフゴ鳴きながら薬と食べ物を交換して回るのがデフォルトとかいう新手の妖怪みたいな生態してるの?


「みゃーう……。んにゃっ、にゃん……(んなわけないでしょ……と言いたい所だけど、当たらずも遠からずね。あんた色々あほだから、またあほなことしてても『ああ、そんなものか』ってつい思っちゃうのよ……)」


「ひ、ひふぉひ(ひ、酷い……)」


 ……ん、あれ? 今みーちゃん、なんかナチュラルに俺の心読んだな――って、なんかもうこれこそ『そんなものか』って感じだなぁ……。日頃から義姉様には覗かれっぱなしだし、さっきまで散々イルマちゃんにも丸裸にされてたし。

 どうせあれだろ、みーちゃんもこの念話の応用かなんかで俺の心が読めちゃう系の子なんだろ。俺、もう驚かないもんね。ゼノディアス君は鋼の精神を手に入れました!


「…………みぃ」


 図星突かれたらしいみーちゃんが若干気まずそうに顔を逸らして鳴いてるけど、べつにいいよ、気にしないでおくれよ。お猫様とこうして意思疎通ができるというだけで、俺としては夢のひとつが叶ったってくらいにすっごく嬉しいんだから。


 だから、まあ。みーちゃんが読み取ったものを、アリアちゃんには話さないでいてくれるなら、それでいいよ。なので、これからも気兼ねなくお話ししようね、みーちゃん!


「………………み、みぃ(そ、そうね、うん……)」


 言葉の上では素直に同意してくれているけれど、何やらさっき以上にあらぬ方向へと顔を向けてしまうみーちゃん。


 そんな彼女の不思議な態度に首を捻りつつ、けれどやっぱりお猫様と会話ができる嬉しさが勝ったので、まあいっかと些細な疑問を忘却の彼方へ吹っ飛ばす大の猫好きゼノディアスくんでした。

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