二話 深淵の魔女アルアリア
「まったく、あの姉ちゃんは毎度毎度、何考えてんだかな……」
と、まるで愚痴のように零す俺だが、その口元がむにむにと上機嫌に笑みの形に歪むことを止められない。
いやだって仕方ないじゃん、俺あのイカした姉ちゃんのこと好きなんだよ……いや性的な意味ではなく人間的な意味でね? 俺には兄の婚約者を寝取るような悪い趣味は無いのだ。
それに、おとうととして惜しみなく愛してくれるレティシアに、男として愛を囁くのは色んな意味で不義理だと思う。
だから俺はあの姉ちゃんに恋なんてしないのだ。絶対。断じて。決して。ほんとだぞ、これフラグじゃないぞ。
「はー。それにしても、この後どーすっかなー」
まるで底の無い泥沼に絡め取られるような謎の危機感を感じて、努めて軽い調子でそんな独り言を吐いてみる。
街に行くと言って講堂を後にしたはいいものの、この時期の王都は春の新生活ラッシュに湧きに湧いており、各街からの移住者やそれ目当ての多種多様な業者や更にそれ目当ての観光客なんかでごった返している。
明確な目的があるならともかく、普段のようにあてもなくぶらつくにはちょっと億劫だ。
……でもそんなふうに人とトラブルがひしめいている今だからこそ、特別な出逢いを求めて彷徨ってみるのもアリだろうか?
「ぬーん、悩む」
そんなふうに煮えきらない気持ちのまま、あてもなく校内をぶらつき彷徨う。時刻はまだ昼前だが、このままだと唸りながら散歩するだけで一日終わっちまいそうだな……。
よし! ここはちょっと一念発起して、街で素敵なマドモアゼルをひっかけ――
「みー」
「……あん?」
人混みへの忌避感からなんとなく人気の無い方向へ歩いていたら、無人でがらんとした教室棟に迷い込んでいた現在。別棟と別棟を繋ぐ渡り廊下で来た道をUターンしようとしていた俺の耳に、なんか小さな鳴き声が聞こえた。
「みー。みー」
「……中庭の方か?」
いまいち音源がはっきりしないのを不思議に思いながらも、いけないお店のキャッチに捕まる酔いどれ男のように、四方を校舎に囲まれて隔離された中庭へと歩を進める。
この時俺は確かな確信を得て、まだ見ぬ素敵なマドモアゼル、ていうかお猫様への期待でうっきうっきであった。ステキな出逢い、あったじゃない! うふっ♪
そう。何を隠そう、俺は根っからの猫好きである!
「みー、みー? みー……」
「はいはい、今行きますよお姫様――って、お前そんなとこにおるんかい……」
別に呼ばれてるわけじゃないけど喜び勇んで参上してみれば、あたりを見回した後にまさかと思って見上げた大樹のてっぺん付近に、枝の上から顔を覗かせてるお猫様の姿を発見。鳥にでも攫われたんでなければ、とんだお転婆姫である。
「おいおい、まさか登ったはいいが降りられなくなったとかベタなことは言うまいな?」
「みー!」
『大正解!』みたいに片足をぴこんと上げてゴキゲンに鳴くお姫様に、俺は乾いた笑みを漏らした。まさか本当に言葉が通じているなどとは思わないが、もし本当に窮地に陥っていてあの陽気な態度ならば中々の大物である。実際はちっちゃな子猫だけど。
これはあれかな。乙女ゲームで言うと、新入生の女子が特技の木登りを駆使して助けに行き、それを目撃した俺が『おもしれー女』とか言ってその子に興味を持つ場面なのかな。
でも残念、周囲には木登りしてパンチラ晒してまで子猫を助けてくれそうなアグレッシブ下町系美少女はいねーんだわ……。ていうか、授業以外で使うことのない区画だから、春休みの今は人っ子ひとりいねぇわ……。
これでは、たとえ俺があのお猫様を助けたとしても、そんな俺を見て『おもしれー男』とか言って興味を持ってくれる女子もいないではないか! いやそんなんどうでもええわ。
「じゃあ、なんだ。まあ、これからお迎えに行くから、おとなしく待ってなさい」
「みー」
伝わっているのかいないのか。ごきげんに鳴くお姫様に苦笑しながら、俺は脱いだ上着をその辺に放ってネクタイを緩め、緊急用に魔術展開の準備をしつつ「よっこらせ」と木の幹にしがみついた。
◆◇◆◇◆
【いと蒼き深淵のリヴィエラ】。
王国は最北端。溶けることのない雪に覆われた極寒の地にあって、まるでどこかから移植してきたかのように青々と生い茂る大森林の名である。
雪と森。
人里を離れ、その白と深緑のコントラストのちょうど境目となる所に居を構える、偏屈でわがままでだらしない祖母と、そんな祖母を甲斐甲斐しく世話する血の繋がらない孫娘がいた。
見た目だけは二十代前半の美女にしか見えない、されど実年齢でもうすぐ三百になろうかという、やりすぎな美魔女にして〈晴嵐の魔女〉の二つ名を持つ祖母・ナーヴェ。
――そして、実年齢で十五になったはずなのに、どう見てもそれより下にしか思えない、背もスタイルも未熟で痩せっぽちな、〈深淵の魔女〉アルアリア。
「お、おばあちゃん、もう飲みすぎだよぅ……やめなよぉ……」
「あァ? ほんのこれっぽっちで、どーこが飲みすぎだってんだい!! べらんめぇ、ちきょーめぇ!! ぐびぐびぐび、ウィーイ!!」
「やめてよぅ……もうやめてよぅ……死んじゃうよう!!」
セリフだけを抜き取るとまるで飲んだくれのクソ婆といたいけな孫娘だが、実際はアルアリアが調理に失敗して落ち込みながら自分で処理しようとしていたゲロマズのスープを、ナーヴェが横から無理矢理掻っ攫って吐き気をこらえながら勢い任せにかっこんでいる図である。この祖母と孫、関係はすこぶる良好な模様。
そうして、孫娘の気遣いに対しておばあちゃんの気遣いで見事に勝利したナーヴェは、代償に健康を失って、暖炉の火にあたりながらアルアリアに膝枕してもらって寝込む羽目になった。
「ぬーん、うむぅ〜ん、ぐぬぉぁああぁああぁぁぁ……」
「だから言ったのに……。よしよし、おくすり飲んで良い子で寝ててね……」
自らの生み出した劇物が原因で死人が出かけているというのに、アルアリアには気遣う様子はあってもさほど悪びれた様子は無い。
それもそのはず、そもそもあのゲロマズスープは、絶対ゲロマズにしかならないとアルアリアが断固拒否したにもかかわらず、ナーヴェが祖母権限で無理矢理作らせた代物だからだ。つまりはナーヴェの自業自得である。
しかし、ナーヴェはすべての責任をアルアリアへ擦り付けるかのようにじっとりと睨め付ける。
「なに、呆れ笑いしてんだい、この子は……。呆れたいのはこっちだってーの。なんであたしでも作れないような奇跡の秘薬は調合できるくせに、いつまで経ってもこんなクソほど簡単なひよこ豆スープひとつまともに作れないんだか……」
「おばあちゃん、それは深淵を覗くような質問だよ。ヒトが考えちゃいけない領域なんだよ……。わたし、諦めって肝心だと思うなぁ〜、なんちゃって? えへへぇ」
世の男共を根こそぎ悩殺すること必至な愛らしい笑顔も、枯れ果てし祖母には全く意味を成さずますますナーヴェの眉間にしわが寄る。
「若いうちからそんな覇気の無いことでどーすんだい……。そんなんじゃ嫁の貰い手も無いだろうに」
「おばあちゃんだって結婚なんてできたことないじゃんふぁひひはひひはひははひ」
「あたしゃあね、できなかったんじゃなくて、しなかったんだよ。この繊細且つ致命的な違いがおわかりかい、小娘? おいこら、あァん?」
血の繋がらない孫娘のほっぺをむにむに摘んで弄びながら、結婚はおろか恋愛すらろくにしたことのない三百年ものの乙女が凄絶な笑顔で牙を見せる。
それは余人が見たら恐れ慄きダッシュで逃げること請け合いの怨念に満ちた笑みだったが、彼女に拾われてから十年以上共に生活してきたアルアリアにとって、そんなナーヴェは慣れっこである。むしろ、『この手の話題になるとムキになっちゃうおばあちゃんほほえま〜』と和む始末であった。
ほっぺたをいじめられてもにこにこ笑顔な孫娘に鼻白み、ナーヴェは仕切り直すようにため息を吐いてよっこらせと身を起こす。
「……………」
「………? なぁに、おばあちゃん?」
無言で見つめてくるナーヴェの意図が分からず、アルアリアは小鳥のように首を傾げる。
今暖炉の火にちろちろと照らされて浮かび上がるのは、床でも気にせず座り込むアバウトな性格のナーヴェと、同じく床でも気にせず座り込んでる淑女らしからぬアルアリアの姿。
そんな二人が身にまとうのは、着れればなんでもいいと言わんばかりのボロいワンピースと、使い込まれすぎな擦り切れたローブ。
部屋中に所狭しとひしめくのは、金に糸目を付けずに買った高級錬金器具や、ガラクタにしか見えない効率最重視の自作器具、大陸各地からあらゆる手で仕入れた古書や稀覯本や薬草や鉱石や魔物素材の数々に、それ以上にわさっと溢れ返る手書きのメモ、メモ、メモの山。
あとは、お互いと実験以外のことがどうでもいいナーヴェとアルアリアが、いつでも着替えられるようにとタンスから出しっぱなしにしている服や下着類など。
混沌渦巻く室内を見渡し、ナーヴェは思った。
「こらアカンわ」
「え、なにが?」
つられて周囲を見渡したものの本気で何もわかっていない様子の、無垢な――けれど薬草の削りカスや零した薬液などで薄汚れた身なりのアルアリアを見て、ナーヴェは自分の業の深さを知った。
これは、ちょっと手料理を覚えさせた程度では、本気で孫娘が一生売れ残ってしまうかもしれない。
自分の場合は、負け惜しみでもなんでもなく、世界を己の目と脚で見て回った結果として自ら孤高であることを選択したから、それはそれでいい。
しかし、アルアリアはまだろくに世界を見たこともなく、それどころか自分の実験部屋からすらろく出たこともないまま、ストレートに半引きこもりとなった結果としての『ぼっち』だ。
自分を遥かに凌才能に目が眩み、『おばあちゃん』として、或いは『おかあさん』として、教えるべき多くのものを教えてこなかった。
その事実に今更ながらに気付いて、ナーヴェは血の気が引くほどに絶望した。
「………? お、ばあ、ちゃん……?」
最愛の祖母のただならぬ様子に、及び腰となりながら声をかけるアルアリア。
だがナーヴェの意識を呼び戻したのは、最愛の孫娘の声ではなく、硬質なノックの音と、無粋な第三者の空気を読まない声であった。
『ナーヴェさーん? リヴィエラのナーヴェさーん? いらっしゃいますかー?? お手紙のお届けでーす!』
「………………まったく、誰だろうね。こんな辺鄙な土地に住む老いぼれに、手紙を出そうだなんて酔狂なヤツは」
口では嘲るようなことを言いつつも、ナーヴェは助かったとばかりに軽い足取りで玄関へと向かい、つつがなく郵便業者の男性から手紙を受け取った。
ちなみにアルアリアはノックの音が聞こえた時点で手近な柱の裏に隠れている。人見知り、ここに極まれり。
びくびくした様子で顔を覗かせている孫娘に苦笑しながら、ナーヴェは受け取ったばかりの封筒の差出人を確認すると、ぴくりと片眉を上げる。
そして――彼女にしては珍しいことに――丁寧に封を開け、中に収められていた文に目を通す。
「…………へぇ、あの『わっぱ』がもう十五になったってのかい。いや、消印がかなり前だぁら、今じゃ十六かも? はー、月日の経つのは早いねぇ……」
「……おばあちゃん?」
「んー、ちょいお待ち。……あー、はいはい、なるほど。そっか。そっか。……おー、まじかー!!」
アルアリアの声もろくに聞こえぬほど、ナーヴェは手紙の内容に、そしてその向こうにいる差出人に心を奪われていた。
かつて、ひょんなことから自分が軽く錬金と調薬のレクチャーをしてやった、あの傲慢が服を着ていたような、いけすかないマセガキ。
それがこの数年で色んな絶望や悟りを経てきたらしく、最終的には『恋って本当に存在するんでしょうか?』なんて乙女チックで弱気な内心を、かつて小馬鹿にしていたこんな老いぼれに至極真面目に吐露している。
痛快だった。
あのガキのくせにやけに色気に溢れて大人びていたガキが、自分の思ってた以上の大物になっていて、それなのに身近にあけっぴろげに内心を晒せる者がいなくて、この自分に心の拠り所を求めているとは!!
「くかっ、くかっ、クカカカカ可可可可……!!」
「お、おばあちゃん……!?」
「ああ、すまんねぇ」
孫娘の鈴を転がすような声によって邪気を祓われたナーヴェは、こほんとひとつ咳払いをして、柱の陰に隠れてビクつくアルアリアの前に身を屈める。
「これはね、まあ、昔あたしがちょいと世話してやったマセガキからの近況報告だったよ。……あの頃はただの夢見がちなわっぱだったのに、今じゃ泣く子も黙る竜殺しの冒険者で、しかも星々の運行の仕組みを解明した世紀の大科学者で、そのうえ技術者集団であるドワーフ達にさえ神と崇められる大発明家なんだとさ!! まったく、出世したもんだねぇ。クカ化カカカ化……!!」
「ええぇ、それ絶対もりもり話盛ってるよぉ……。ぜんぶ、分野が全然違うじゃん……。そもそも、確かそれ、全部べつべつの人だったよね? その話したの、おばあちゃんじゃん……」
「だから、それが全部あのわっぱの偽名かなんかだったってことなんだろ。あいつのことだ、どーせ『世を忍ぶ仮の姿!』とかノリノリで言って――ああ、だとすると噂の義賊様とかいうのも、実はわっぱのことだったってオチかねぇ? いぃや、もしかするとアレもかい?」
なんだか手紙の内容以上にその人を評価している様子な祖母の語り口に、アルアリアは当然の疑問を持った。
「……おばあちゃんは、そのわっぱさんの言ってること、信じるの?」
「むしろ、信じない理由が無いね。あたしゃ、たとえあのわっぱが世界の創造主だとか、ミリス様の生まれ変わりだとか言われたって驚かないよ」
「そ、そこまでなんだ……。いったい、どれだけめちゃくちゃな人なの……?」
ここで、ナーヴェはおやっと意外に思う。
これまで他人に興味を示さず、愛する祖母の思い出話でさえ『知らない人が出てくるから』という理由で聞くのを渋り、外の出来事は巷で話題のホットなおもしろネタにかろうじて興味を示す程度だったアルアリア。
それが、話の流れとはいえ、今まで触れようともしなかった、触れることを拒んですらいた『ナーヴェ以外の誰か』に対して確かな興味を示している。
これは――好機!!
「めちゃくちゃも滅茶苦茶、あたしゃあいつ以上の『おもしれー男』なんて見たことないさね!! くかかかカカカカカ!!!」
引っ込み思案な孫娘の興味を刺激すべく、ナーヴェはここぞとばかりに灼熱の笑顔を浮かべ、心の底から愉快至極とばかりに笑い声を上げた。
もしこれが嘘の笑いであったなら、アルアリアに見抜かれて胡散臭そうな顔を向けられ、心折れたナーヴェがいつものように早々に話題を終了させていたことだろう。或いは、そもそも見地らぬ誰かについて語ろうとするナーヴェを拒んで、アルアリアの方から早々に話題の終了を言い出していたに違いない。
だが、そうはならなかった。
それは、ナーヴェの笑顔が嘘ではなかったからであり、そして何より、件の『おもしれー男』についてアルアリアに心当たりがあったからだ。
ネタとしておもしろかった『最も新しき竜殺し』や『時と空間と重力の解明者』や『世界の文明を百年進めた大発明家』としてではなく、ただひとりの『すっごくおばかな人』として。
「もしかしてその人って、『女心が知りたい』って理由で連日徹夜で【異性化薬】開発して、実のおにいさん相手に全力で妹ごっこしたっていう……?」
「んんっ!? え、なんでわかっんんっ、ぷっ、ブヒャッひゃっひゃひゃっひゃっひゃ! はー、何度思い出しても腹いてぇ、ぷひゃやひゃひゃひゃ! ひー、ひーっ!!」
「ほらぁ、そのすっごくおもしろそうな笑い方! おばあちゃんの中で一番『おもしれー男』って、ぜったいその人だ、もっ、ぷっ!! ぷーっ、く、ふっ、ふ、ふふっ!!」
指摘するアルアリアも、口元をローブの袖で押さえながら、彼女にしては珍しく大爆笑である。
祖母が過去に関わってきた人々の話題にはしこたま嫌な顔をするアルアリアだが、かつて、どこかの誰かから送られてきた手紙を呼むナーヴェが唐突に腹を抱えて大笑いを始めたものだから、その時は思わず興味が引かれてつい手紙を覗き見てしまったのだ。
結果、数分後には二人して爆笑である。
何が面白いって、女心を知るために新薬作って女体化して実の兄と妹ごっこに興じるという時点で意味不明すぎて面白いのだが、更に『彼』は異性化薬研究の副産物として【失われし万能の霊薬】なんてとんでもないものを完成させてしまい、それを『なんかもったいないから』という理由で、当時瀕死の状態にあったミリス教最高聖女様の寝所に忍び込んでこっそり使ってしまったのだとか。
巷を大いに賑わせていた『危篤疑惑の聖女様、奇跡の大復活!?』劇のまさかすぎる真相を知ってしまい、挙句『PS.やっぱり自分が妹になるのは違うと思いました。ぼくも妹か姉がほしいです』という、お前最初の目的どこいったと言いたくなる一文にダメ押しされて、ナーヴェとアルアリアは腹がよじれるほど笑い転げるハメになった。
ちなみにこの件において、ナーヴェも、そして他ならぬアルアリアも、『彼』の虚言だなどとはこれっぽっちも疑っていない。
――だって。彼からナーヴェへと送られてきた手紙には、本物の【失われし万能の霊薬】が、惜しげもなくさらっと同封されていたから。
力有る魔女であるナーヴェとアルアリアには、それが本物であることは一目瞭然だった。ちなみにそれが同梱されていた理由は、『余ったからおすそわけ』である。
まるで実家から送られてきた野菜程度の扱いで、神話にしか登場しないような幻の品のご到着。
あほだ。この人、絶対あほでおばかだ!!
「そっかそっか、あんたもあの手紙のこと、覚えてたんだねぇ……ぷっ、く、くく……」
「わ、忘れるわけないじゃん、あんなめちゃくちゃな、人……く、くふっ。……で、でも、さすがに今回のは、ちょっと話盛りすぎじゃないかなぁ?」
「いんや、むしろあたしゃ最近の色んな疑問に答えが出て、すっかり納得しちまったよ。近頃やけに天才鬼才がぽんぽん台頭しやがると思ったら、『全部あのわっぱかい!』ってね!」
本当心のしこりが取れたとばかりにけらけら笑うナーヴェだが、これには流石にアルアリアも全面的に同意はできず笑いが引っ込んでしまう。
「いやいや、さすがに今回のは絶対うそだって……。そりゃあ、ちょっとはほんとなのかも知れないけど……。でも、さぁ……」
「んー? ありゃりゃ、あたしの可愛くて純粋なアリアが、すっかりひねくれちまって……。これが反抗期ってやつなのかねぇ、ばあちゃん悲しいよ……」
「ご、ごめん……」
よよよと嘘臭く大袈裟に泣くナーヴェは勿論嘘泣きで、それをアルアリアもわかってはいるのだが、それでも謝らずにはいられないのもまたアルアリアのアルアリアたる所以である。
涙に濡れる(見た目だけは)美女なナーヴェを、よしよしと撫でて慰める素朴な美少女アルアリア。
一枚の絵画のように美しい光景がしばし繰り広げられ、やがて暖炉の牧がぱきりと割れて火の粉が爆ぜた時、ナーヴェの瞳にも謎の炎がめらりと燃えた。
「よし、わかった」
「え、なにが?」
「アリア。あんたちょっと、この『わっぱ』に実際に会っておいで。ほんで、良い機会だからついでにあんたも学校通いなさい」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ふぁー???」