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五話 Code/【ARe:A】Ver.2.0

「……その、さ。……なんていうか。…………久しぶり。元気してた?」


 たとえ偽物の可能性があるとはいえ、見た目はどこからどう見ても俺の知るアリアちゃんだ。本体からどの程度の記憶や知識を受け継いでいるのかはわからないが、ひとまず無難にご機嫌を伺ってみる。


 フードと前髪の向こうの暗がりに爛々と輝く、あまりにも目を見開きすぎな彼女の、眼窩に嵌められた紅玉。本来のアリアちゃんであれば常に俺ではないどこかへふらふらと視線を彷徨わせているはずだが、今の彼女は俺のことを真っ向からガン見である。


 いやほんとどんだけ見んだよ。そんなに俺の登場予想外だったんだろうか? ……もしくは、ひょっとするとひょっとして、俺のことを忘れちゃってるかインプットされてないかで『え、こいつ誰……?』みたいにびっくりされちゃってるんだろうか。


「……………………」


 フリーズしたアリアちゃん型ホムンクルスを前に、ちょっとしたイタズラ心が芽生えてしまった俺は、イルマちゃんと握っていた手を離してもらい、アリアちゃんがいつも被りっぱなしなフードにそっと手をかけてみた。


 そして、至極優しく、ふぁさり、と外してあげる。


「――――――ああ、やっぱりかわいい……」


「…………ッッッッッ!!!?!?!?」


 朝の優しい光の中で豊かに波打つ、ちょいちょい寝ぐせとか跳ねちゃってて、ろくに切りもしないせいでぼさっと膨らんじゃってたりもする、ダークブラウンの髪。

 あまりにも素のままに放置されすぎな髪の中には、同じく化粧の『け』の字も知らない彼女のありのままのすっぴん顔。


 これでもし、髪も洗わず顔の造形にも難があるとかであれば、まず間違いなく俺でも流石に顔を顰めていたと思う。

 けれどアリアちゃんはきちんとお風呂に入って髪もしっかり洗う子のようで、下ろされたフードの合間からふわりと香ったのは、せっけんの爽やかで心地良い香りと、女の子特有の甘いミルクの匂い。


 それに何より、ただただ純然たる事実として――、あどけなくも年頃の少女らしい愛らしすぎる顔立ちが、あまりにも俺の好みにドストライクすぎて、胸のキュンキュンが留まるところを知らない。





「―――――欲しい」





 ドクン、と。前世から引きずり続けた鋼鉄の呪縛を弾き飛ばさんばかりに、心の臓が火の入れられた炉のようにカッと赤熱し拍動する。


 もしこの娘を手籠めにできたなら、俺はきっと前世から抱えた仄暗き情念の何もかもを清算し、ただただこの娘への愛だけを胸に無敵の人となってこの世界の頂点に君臨するだろう。


 その日、この世界は俺のためだけに存在するのだと、前世も含めた俺の報われない人生は、ただこの娘と添い遂げるためにあったのだと、頂きに座す俺は確かな確信を得るに違いない。


 ……けれど。そんな妄想超特急と化した俺を、後ろに控えたいもーと様が寂し気に見つめていることに気付いて、俺は考えを改めた。


 大丈夫。もし俺が、俺を縛る戒めの全てから解き放たれたなら。その時俺はきっと、俺を好きだと言ってくれる女の子達全員と、笑顔でいっぱいのハーレムだって築けてしまうはずだから。


 ――だって、その時の俺ってば、無敵の人ですので!! 愛の使途と化した覚醒のゼノディアスくんに不可能など無いッ!!!


「ゼノくんさいてー」


「嫌なら逃げていいよ。今逃げないならイルマちゃんも俺のハーレム候補入り決定だからね。もう逃がしはしない」


「……………うっひぇぇぇ~……」


 アリアちゃんを見つめたままでイルマちゃんに言葉を放った俺は、今イルマちゃんがどんな顔をしているのかわからない。

 なんだか思いっきりドン引きしてるような呻きが聞こえてきた気がするけどそれはきっと気のせいであり、彼女はきっと俺の迸る愛にあてられてトロンと蕩けるようなはにかみ笑いを浮かべてくれているに違いないのだ。


 そんな絶対の確信を胸に抱く無敵超人ゼノディアスくんは、全身の毛を逆立てるようなレベルでびっくんと驚愕しちゃってるアリアちゃんに、そっと顔を寄せて甘く切なく囁いた


「……ねえ、今のアリアちゃんって、偽物だったりするの?」


「!!?!? なっ、な、な、なな、なん、な、なっ」


「もしそうなら、さ。――俺の『お願い』、聞いてほしいな」


「――――――――――」


 完全に茹で上がり、脳味噌フットーお目々ぐるぐるで言葉を失うアリアちゃん。


 既にグロッキー通り越して気持ち良~く天国へ旅立とうとしている彼女の前に、それまで黙って見守ってくれていた机上のみーちゃんが、毛を逆立てながら割り込んできた。


「しゃーっ、ふしゃーっ!!(ちょっと少年っ!! あんた、まさか最初からそのつもりで……!!!)」


「ああ、そうだよ。俺は最初からずっと、アリアちゃんが好きだった。あわよくばお近付きになってえっちなこととかしたいとずっと思ってたし、今朝なんかとうとう思いを抑えきれずにアリアちゃんのおぱんつをオカズにして盛大に自慰行為に没頭するところだった」


「………………………………………。んにゃん??」


 唐突なおぱんつをぶち込まれて『は?』と言いたげにぽかーんと口を開けて固まっちゃったみーちゃんをそのままに、再びアリアちゃんに目線を戻した俺は、彼女の髪をそっと手で押し退けるようにして彼女の両頬にそっと手を添えた。

 そして、あらぬ方向へ高速で彷徨いまくるアリアちゃんの瞳にどうあがいても俺が映るように、まるでキスするかのように、互いの吐息がかかる距離へと近づいて。

 真っ赤な頬にとうとう涙の雫まで落とし始めた恥ずかしがり屋さんな彼女に、俺の願いをぶちまけた。





「――俺のモノになれよ。偽物の『アルアリア』ちゃん?

(※意訳:どうせただのホムンクルスなら俺がもらっちゃってもいいよね! だって本物じゃないんだし!)」





「――――――――――――きゅう」


 負荷のかかり過ぎで回路がショートしちゃったアリアちゃん型ホムンクルスは、まるで糸の切れたマリオネットのようにかくんと倒れかけ、けれどそれを俺が優しく抱きとめて事無きを得る。


 そして俺は、腕に伝わりくる『人間ではありえないほどの異常すぎる高熱』により、彼女はやはり本物のアリアちゃんではないのだというこの上ない確信をも得た。

 だってこれ、平気で四十度超えてるぜ? 人間だったら普通に生死の境彷徨ってるレベルだわ。


「ああ、やっぱ偽物なのか……。残念なような、助かったような……。ねえみーちゃん、本物のアリアちゃんは今どこにいるの? やっぱ、女子寮の部屋に引きこもったまんま?」


 ひとまず、アリアちゃん型ホムンクルス――言いにくいな、もう『俺のアリア』でいいか。

 とにかく俺のものとなった方のアリアちゃんの背後に回り込み、肩揉みしてあげるような感じで彼女の身体を椅子にきちんと座らせて安定させながら、まだおぱんつの衝撃から立ち直れていない様子のみーちゃんに鬼畜にも質問を放ってみた。


「……………………にゃう? ……にゃん……??(え、ちょっと待って? ……しょーねん、あなた、何言ってるの……??)」


「や、だから。この子、本物のアリアちゃんの影武者かなんかなんだろ?〈深淵〉なんて呼ばれてる上、人見知り拗らせ中なアリアちゃんのことだ。大方、『誰にも会いたくないから』とかいう理由で自分似のホムンクルスでもサクッと作っちまったんだろ? もしくはオートマタか」


「……………………………にゃふぅ……(えぇ……)」


 なんか脱力した感じで呻き声っぽい肯定の言葉を盛らしたみーちゃんは、そのままありえないようなものを見る目で名探偵ゼノディアスくんを眺め続けた。


 いや、流石にそこまで驚くことなくない? あの子の性格と肩書を知っていれば、この程度の推理は誰にでも簡単にできると思う。ねえ、イルマちゃん?


「…………………………えぇ……」


 心の声で語り掛けながら振り返ってみれば、こちらもなんだかみーちゃんと同じような表情で微妙過ぎる肯定を返してくれるだけだった。


 二人の反応の理由がわからず首を捻る俺を他所に、黒髪の少女と黒猫な彼女が顔を寄せ合って何やらひそひそやり始める。


「………………にゃうにゃう? んにゃっ……(ちょっとおじょーちゃん、この人の頭の中っていったいどーなってんの……? って、あー、言葉通じないわよね……)」


「大丈夫ですよ、みーちゃんさん。我ってば察しの良すぎる出来過ぎた『いもーと』ですので、あなたの言葉も感情もまるっと理解した上で、まるっと共感しているところです。うちのおにーちゃんてば、ほんとアレすぎて、もう言葉もありません……」


「にゃーん? みゃうみゃう(しょーねんの、いもーと? ってことは、あなたもこのありえねーしょーねんや、あの意味深パツキンしょーねんのご同類ってわけね。なるほど)」


「なんだとこのやろう!? 我をあんな寝取り間男と同類扱いするとは、この畜生風情がッ!!! ハラワタ掻っ捌いて今日の朝食にしてやるです、かかってこいやおらー!!!」


「ぎにゃぁあああ!!?(ええええぇぇぇ!!?)」


 仲良さげだった少女と猫は、なぜか一転して獰猛な肉食獣と哀れな小鹿の様相へ。いや、今の一瞬で一体何があったのキミ達……。


 しかもなんだか、遠くの方からも「野郎、もう我慢ならん!! ブッ殺してやる!!!」「だから殺されるのはこちらですってば!!!」みたいに殺伐とした会話が聞こえてくるし、更によく見てみればなんか周囲の人たちがこっちを見る目もなんかよろしくない感じだし。

 その上よくよく見てみれば、この席の周りだけぽっかりと穴が開いたように人が近づいてこないので、ここって実は人が本能的に忌避するような負の感情を暴走させるパワースポットだったりするのかな?


 まあ、その原因はたぶん、俺に肩を揉み揉みされて気持ちよさそうに「はひぃ……♡」とかヨダレと寝言を漏らしてる、俺のアリアにあるんだろう。一体どんな魔女謹製の謎技術が詰め込まれているのやら。


 ま、それは俺のアリアが起きてから詳しく聞いてみればいいかな。俺のアリア。うん、とってもいい響き♪ 間違っても本物のアリアちゃんには絶対言えない俺様台詞だから、ここぞとばかりに言い倒すことにしよっと!!

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