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序章 妄想を! 独白を! ぶち抜き降臨、イルマちゃん!!

 春休みも終わりを告げ、新学期が始まってから初めての週休である、今日。


 早朝の日課である学園外周マラソンを終えた俺は、部屋に戻って熱いシャワーをさっと潜って汗を流し、水も滴る良い男へとジョブチェンジ。

 さくっと部屋着に着替えたら、キンキンに冷えたミルクをごっごっと喉を鳴らして気持ち良く一気飲みだ。


「っぷはぁああああ~~~~~!! この乳臭さ、たまんねぇぜ!! 美味い、もう一杯っ!!!」


 などと意味不明な販促CMを演じるという孤独な遊びを愉しんだ後は、生まれた時から一日たりとも欠かせていない魔力鍛錬のお時間です。


 ベッドの上で胡坐をかき、股の上で意味も無く印を結び、内なる自分に意識を集中しながらアリアちゃんのおぱんつをいや違う無意識だ煩悩を捨て去り清らかな気持ちでアリアちゃんのおぱんつを見ることなくそうアリアちゃんのおぱんつ及びわんぴーすが今この部屋の中にあることなど頭の中から追い出してそうだ俺今日ちょっと鍛錬に熱入りすぎたからちょっとここらで熱を抜いておくべきなので抜くと言えばやっぱりあれですよね下半身から迸る白い牛乳をヌくためにミルクのような香りがするアリアちゃんが身に付けていたまだちょっぴりアンモニア臭がのこってる気がしないでもないおぱんつとかアリアちゃん愛用っぽい着古し感満載のワンピースとかとっても柔らかそうな手触りのおぱんつとかうふふ♡♡♡


「しゃああああらああああぁあぁぁあああああああっぷ!!! ふぅぅうぅぅぅぅぅ、Foooooooooo!!!」


 ダメだ、全く集中できない……!!

 部屋の中央に鎮座している平たい洗濯籠と、その中にくるくる丸まってるアリアちゃんのワンピース、そしてうっかりそのくるくるの中から一旦取り出してしまったもののあわてて一番上に安置し直してしまったアリアちゃんのパンツから視線が離れない……!!!

 いやそもそも俺よ、なぜあの籠を『ほら、使えよ』とばかりに部屋の中央に持って来てしまったのだ……!! これでは何をどうしてもアリアちゃんのアリアちゃんなアリアちゃんが視界に入ってアリアちゃん……ッッッ!!!


「………………………………」


 アリアちゃん……か。


 最後に彼女の姿を見たのは、数日前に食堂の片隅でぽつーんと座ってた、入学早々ぼっち街道まっしぐらなあの子のしょんぼりとした姿。


 あのトレードマークみたいなローブとフードを常に制服の上に身に纏っているものだから、ただでさえ目を引くぴかぴかの新入生の中でも思いっきりビッカビカに悪目立ちしちゃって、在校生はおろか同じ新入生諸君にまで遠巻きにされて『なにあれー』みたいにひそひそ囁かれてた。

 ちなみに囁きの中に『ほらあれ、あの恥ずかしいお母さんの……ぷーくすくす!!』みたいなのが結構な高確率で入っていたので、たぶん入学式の際にあの破天荒な自称祖母が何かしらやらかしたのも、アリアちゃんが浮いちゃってる原因のひとつ、というか大半だと思われる。

 残念ながら入学式は新入生と一部運営の在校生のみで行われるので、現場を見ていない俺には一体何があったのかを想像することしかできない。生徒会役員として出席していたはずのシュルナイゼ兄様とレティシア義姉様に聞いても、ただただ気まずげな顔で話を逸らされるだけだったので、あっとお察しして深堀りできなかった俺が真実を知るためには、もう直接アリアちゃんに突撃するしか道は残されていない。


 声を、かけたかった。

 冬眠直前のハムスターみたいに背中を丸めてもそもそと味気ないパンをかじってたあの子の、その目の前にどっかりと座り込んで、『へいベイビー、そんな顔して食べてたら小麦農家の方に失礼だゼ☆ ところで小麦粉と強力粉と薄力粉の違いってわかるカナ☆』とか小粋な小麦トークをしながらウインクをかましてあの子に笑顔をプレゼントしたかった。

 でも別に小麦農家トークって、言うほど全然小粋じゃないし……。俺、トークセンス無さ過ぎだし……。それに新入生専用みたいになってるスペースに突撃カマすとか、俺は全然平気だけどアリアちゃんの悪目立ちが加速しちゃうし……。


 それに何より、なぜかこう、アリアちゃんを見ると何か思い出してはいけない謎のスープの記憶が蘇って、吐き気と動悸が止まらないんですよねェー…………。


「ほんとなんなんだろうな、これ……」


 思い出されるのは、アリアちゃんと初めて出会ったあの日のこと。

 アリアちゃんやその従魔である黒猫のみーちゃんと一緒に食堂にメシ食いに行ったら、そこで義姉様を見つけて、あとなんかどっかで見たことある女の子も一緒に食事をする流れになって、




 そして気付いたら治癒院のベッドの上だった。




 は???? なんで???? 時間跳んでない????


 しかも治癒術師のお姉さんに話を聞くと結構ガチめの毒劇物に当たって意識混濁してたみたいで、常時複数身に付けてる状態異常防止アクセサリーをこっそり確認してみたらかなりの数が役目を全うして壊れてて、それだけならまだいいけど、俺の切り札の一つである時空魔術を利用した限定的な即死回避のオリジナル護符までもが一枚消費されてた。



 俺、かわいい女の子達と和気藹々と食事してる間に、即死したの? は?? なんで???



「……………………ぶるっ」


 思わず口に出してしまうほど盛大に身震いして、ついでに頭もぶんぶん振って、思い出してはいけない何かを必死に頭の中から追い出す。


 やがて平常心を取り戻した俺は、水鏡のように澄み切った心の中に仮想の『内なる魔力』を擬人化してイメージし、黒髪の俺と対になる、『白』髪のそいつとの対話を試みる。


 ――なあ、白よ。俺の言いたいこと、わかるか?


 ――ああ、わかるさ、俺よ。つまり、あれだろ?




「「白と言えば、ぱんつだよな!!! やっぱりここは一回性欲を発散して綺麗な心になってからの方が、魔力鍛錬もアリアちゃんとのトークも捗るってもんだと思うんだよね!!!」」




 今ここに、内なる俺との対話は完全なる意見の一致を以てこの上なく円満に終了した。所要時間約三秒。ちなみにこの『自分の中の魔力に仮想の人格を付与して対話』という鍛錬法は、英雄すらをも鼻クソ扱いでお馴染みの理不尽チーター〈晴嵐の魔女〉からのお墨付きを頂いている。

 あの婆さんは擬人化とかじゃなくて魔女の権能とやらでガチで魔力と対話できるらしく、そんな婆さんからすると、


『本来常人には見えも話せもしない魔力を相手に、イメージだけで完全に対話を成立させ、あまつさえありえねーほど濃密で膨大な魔力を調伏してみせてるあんたは絶対頭おかしい』


 らしい。ちなみに婆さんは一般の魔女が平均三分かかる対話タイムを驚異のリアルタイムで成立させてるらしいので、頭おかしいのは絶対そっちだろと言いたい。


 まあいいや。頭おかしい婆さんのことはほっといて、今俺はかわいいあの子の残していったおぱんつ様で、この身に横溢する若くて青い情欲を発散するとしましょうかねえ、ムフフフ――




「我!!! 参・上ッッッッ!!!!!」




 ムフフな妄想に鼻と股間を膨らませ、善は急げとズボンを半分下ろしながらアリアちゃんのぱんつをとうとう手に取った、その俺のすぐ横で。


 唐突に天井の板がばごぉんと落ちて来たと思ったら、なんか黒髪黒着物の謎の少女までシュタっと降り立ってきて、妙に厨二っぽいカッコいいポーズをドヤ顔でキメていた。

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