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一話 恋愛難儀な少年少女

 それから一年が経過した。


『えっ?』とか思わないでほしい。ページも読み飛ばしていない。

 恋を知るべく、過去の自分と決別を果たしてブランニューゼノディアスとなった俺は、国王陛下はおろか列強各国ですら無視できない実績と、古今東西あまねく女性がほっとかない端麗な容姿を引っ提げて意気揚々とアースベルム王立学園入学を果たして、


 それから一年が、経過したのだ……。


「えっ…………?」


 思わず俺が言っちゃったよ。いやほんと『えっ?』だよ。


 学園は、現世の俺が収集した前情報や、前世の俺が思う学園とそう齟齬は無い場所だった。

 十五歳の成人を迎えた貴族の令息令嬢が集い、そこに市井から見出された優秀な平民も加わって、身分と関係なく皆がブレザータイプの上着にズボンとスカートを履いてて、ここにいる仲間達で卒業となる十八歳までの三年間切磋琢磨していきましょうという、そういう所だ。


 貴族がいて、平民がいて、ついでに当然のごとくエルフや獣人なんかの亜種族もいたりする、在席生徒数数千に上る懐広きマンモス校。

 その半数がもれなく恋に恋するお年頃な思春期少女なわけで、そんな彼女達に身分や人種のべつなく積極的にアタックにいった俺は、よほどのことがなければ彼女の一人や二人、いいやもうちょっとしたハーレムくらいは作れていたはずだ。


 はず、なのだ。つまり、そうはならなかった。

 よほどのことなど何もなかったはずなのに、女の子とよほどの仲になることがなかった。というか、未だに女友達の一人もおらず、なんなら男友達ですら片手で余裕で数えられるほどしかいない。


「なぜだ……、なぜなんだ……?」


「ゼノ、お前が今何を考えてるか当ててやろうか?」


「おや? これはこれは、公爵家次期当主にしてかわいい婚約者持ちでかつては別の女性達と数々の浮き名を流した経歴をお持ちのシュルナイゼ兄様ではございませんか! 斯様に恋と青春を謳歌している麗しのハンサムボーイが、この賤しき下郎の心中を推し量ってみせようなどとは笑止千ば」


「『俺、本当ならハーレムくらい出来ててもおかしくないのに、なんでカノジョの一人も出来ないんだろ?』とか思ってるだろ」


「当たってるぅ……!」


 唐突に現れてひとの心を勝手に見抜いて溜め息吐いてるこのくっそ失礼な高身長金髪碧眼イケメン、名をシュルナイゼと言って俺の一個上の腹違いの兄だ。

 ちなみに下にも弟がいるけど、姉や妹はいない。なぜだ。


 数日後の入学式のため、春休み期間を利用して『在校生』として講堂の設営準備中な現在。

 生徒会長としてこんな雑用にも積極的に精を出していたシュルナイゼ兄様は、在校生少年少女達と気さくに言葉や笑みを交わしながら、一転して呆れたような目で俺を見る。


「そりゃお前、小さな頃からず〜っとそればっかだもんなぁ。予想を外せという方が無理な話だろ――っと、そっちの照明はもう少し暗めで頼む」


「あいあい。……おっ、確かにこっちの方が雰囲気出ますなぁ」


 兄様の指示に従い、遥か遠き天井に備え付けてあるスポットライトへ魔力干渉して出力をちょい下げる。

 この魔導ライト、発明したはいいが構造の簡易化のために初期設定から光度をいじることが出来る仕様にはなっていないため、それを可能とするために急遽開発者たる俺がヘルプで呼ばれたという次第。


 ついでに壇上の拡声器やプロジェクター、ついでに入学式で流す学校紹介動画の映像や機材周りをさくっと調整していく。どれも俺がこの世界に持ち込んだ概念と開発した技術が元となっている代物だ。


 そんな感じで兄様の腰巾着か従僕のように講堂内をあっちへこっちへ歩き回っている間、兄様は他の生徒会メンバーや一般有志の生徒さん達とちょいちょい雑談を交わし、お互いに笑い合っている。

 その傍らで俺への指示出しは常に的確なのだから、この男も前世かチート持ちだったとしても俺は驚かない。むしろ、チート持ちであってほしい。


 だって、これだけ兄様にべったりくっついてる俺には、だーれも声かけてこないんだぜ? 一瞬ちらっと見られたりはするけど、みんな何かいけないものでも見たかのようにすぐ兄様へ視線を戻す。

 いやまあ、会話の相手は兄様だから、それで正しいっちゃ正しいんだけど。でもこれだけ近くにいてこうも顧みられないと、俺は透明人間にでもなったのだろうかと錯覚してしまう。


「みんな、ちゃんとお前を見ているよ」


「唐突に心を読んで嘘の慰めを吐かんでください。そういうのはあなたの婚約者殿だけでお腹いっぱいです」


「嘘じゃないんだけどなぁ……。みんな、お前に直接話しかけるのが怖いから、俺の所に来ているだけだよ。俺、いつもはここまで声かけられないし」


「うっそだぁ〜」


「ほんとだぁ〜、っと、こほんこほん!」


 思いっきり訝しげな変顔で唸る俺に合わせて変顔を晒しかけた兄様だったが、通りすがりの記録係の女子にぎょっとされてすかさず何事も無かった風を装う。

 でもちょっと恥ずかしそうなのが隠せてなくて、俺この人のこういうとこ好き。


 本来なら、傍目には客観的事実としてあまりに優秀すぎる俺と、そんな俺に次期公爵の座を脅かされている長兄として、骨肉の争いを繰り広げる関係になっていてもおかしくはない。

 でもこのシュルナイゼ兄様は父様同様に幼い頃から俺の理解者であり、俺達はいつもこんな感じ。


 兄弟というより、友達というより、悪友。理解者で、ともすれば共犯者。もしこれで、


「兄様が女の子だったら、俺絶対惚れてたのに」


「……………………。うん、お前が相当キてる状態だというのはこの上なくわかった。だからそんな切ない顔でおぞましいことを言うな。腐った女子に骨の髄までしゃぶられるぞ」


「ハハハ、ご冗談を! 聞き耳でも立ててなければ精々さっきすれ違った女生徒さんくらいにしか聞こえてませんし、大体あんなかわいい子や他の子猫ちゃん達がお腐りあそばされてるわけないでしょう?」


 ねえ? と同意を求めるように周囲を振り仰いでみれば、バッと逸らされるカワイコちゃん達の視線と顔。いや、いくら俺のことが眼中にないからって、そんな全力で視界から追い出すことなくない……?


 ひっそりと傷付く俺の頭に、兄上のてのひらがぽんと乗る。


「お前は、もっと現実を知った方がいい」


「慰めると見せかけてこの上なくグサっと心を串刺しにしてくる兄上様鬼畜ゥ!!」


「いや、だからお前はまずそのネガティブフィルターを……、…………はぁ。まあ、今のは俺の言い方が悪かったな。ハハ、すまんすまん!」


 何かを諦めたような半笑いで、兄様はすまんと言いながら悪いと思ってる様子もなく俺の頭をぽふぽふ叩く。ついでに、興が乗ってきたようで撫でくり回してくる。


 なんとなく気恥ずかしくなって目を逸らした俺だったが、その先で、先程の記録係のかわいこちゃんと目が合った。


 ちなみに記録係というのは、こういった学校行事に励む生徒達をスケッチする係のことだ。いくら俺がカメラを普及させたとはいっても、素人カメラマンしかいないこの世界ではまだまだ手描きの絵の方が需要も情緒もある。


「ん?」


「あっ」


 なんか必要以上に目を血走らせながらこっちをガン見してた気がしたので、思わず疑問符を浮かべる俺。


 それに気付いた女子生徒は、スケッチする手を止めて慌てて退散していき――そしてコケた。


 そこからの展開は、まるでナントカスイッチのようだった。

 作りかけのまま出しっぱになっていた大きな看板に足をひっかけた彼女は、そばに置いてあったペンキ入りのバケツを巻き込んでずばっしゃああああと派手に倒れ込み、足を負傷したか放心したかで動けない彼女へ、固定されていなかった大看板がグラリと倒れ込む――


「あっぶね」


 ――寸前で、俺が間に入って受け止めた。ギリセーフ! いやアウトだわ。かわい子ちゃんは制服も髪もペンキかぶっちゃってるし、やっぱり足首も痛めてしまったっぽい。


 遠くの方で、俺の頭を撫でてたはずの兄様がスカっと空振りしてコケかけてておもしろ。でも今は愉快な兄様を嗤うより、笑えない状況の女の子を笑顔にするのが最優先だ。


「ごめん、少しだけ触るよ」


「……え? えっ、えっ? ……えっ??」


 未だ放心中の彼女だったが、それならそっちの方が都合がいい。

 自らの身に起きた惨状に気付いて絶望する前にと、彼女の髪や服や足にほんの少しだけ触れてチョチョイと魔術を発動させる。決して、女の子のカラダに触れる後ろめたさから施術を急いだわけではない。


 幸い、俺の完璧とは程遠い試作魔術でもどうにかできるレベルだったので、悲惨なペンキ少女はあっという間に地味めながらもかわいい女の子へと元通り。

 調子に乗って魅惑的なお手々を引いて立たせてあげようとしたけれど、少女がぼちぼち正気に戻ってきたので泣く泣く魔術で立たせてあげた。


「……えっ、あっ、……ありがとう、ご、ざいます……?」


「うん。どういたしまして。今度からは、ちゃんと前を見て歩いてね……って言っても、今回はなんか俺が原因の一端……? だったみたいだから、あんまり偉そうなことは言えないけど」


「っ、そ、そんなこと――」


 何かフォローを入れてくれようとした少女だったが、この辺でようやく兄様がこちらの様子に気付いて「おーい、どしたー?」と声をかけてきたので、俺は軽く手を振って「なんでもねー」と返事。そのまま兄様の所へ帰ろうと踵を返す。


 しかしそこで、ふと足元に転がっていたスケッチブックに気付く。そういやこの子、記録係だったな。落としたせいで多少汚れてる気がしないでもないが、こっちはペンキの被害は免れたようだ。


「あっ」


 少女が声を上げるのも気にせず、俺は拾ったそれの汚れを軽くはたき落とし、ページをぺらりとめくる。

 絵画というものにはとんと疎い俺だったが、単純に女の子の描いた絵というものに興味が――じゃなくって、そう、直前まで俺か兄様を描いていた様子だったから、自分がどんなふうに描かれているのか気になったから。



 そして俺は、腐り切った世界を垣間見た。



「……………………」


「…………あぅ」


 絶句する俺。もじもじ恥ずかしがる少女。なんだかとっても恥じらう乙女のフリしてる彼女だけど、この子あかんわ、相当やべー領域まで腐り果ててやがるぜ……。すまん兄様、貴方が正しかったよ。俺のへっぽこ魔術じゃもうどうにもなんねーレベルだよ……。


 俺はそっと表紙を閉じ、少女にブツをそっと手渡した。

 そしたら彼女は、受け取ったそれを胸元にきゅっと抱きしめて、ためらいがちに、しかし確かな期待に満ちた上目遣いで俺を見上げてくる。感想か、腐女子のBL作家様は感想を求めておられるというのか、モデルたるこの俺に。


 俺は天を仰いだ。神よ、なぜ俺にこんな過酷な試練をお与えになるのか。普通、女の子のピンチを救ったらニコポでナデポでチョロインなのが世界の摂理だろ?

 なのになぜ、俺と関わる女性はこうも俺とまともな恋愛なんて絶対してくれそうにない子ばっかりなのだろうか……。

 神、マジ許すまじ。


「あのぉ、ゼノディアス様……? あのぉ、そのぉ……え、えへへぇ」


「……『想像の翼は、誰にも手折ることはできない』」


「………!!」


 もじもじ少女に可愛くおねだりされてあっけなく屈した俺は、聞きかじった聖典を引用して彼女の性癖を容認する言葉を紡いだ。

 あくまで容認であって肯定でも賛美でもない。しかし少女はとっても嬉しそうに顔をほころばせてくれたので、俺も思わず笑顔を返す。ちなみに俺のは苦笑いです。


「ただ、あまり他の人に見せるのは、よくないかもしれないね。きっと多くの人に受け入れられる趣味というわけではないだろうから……」


「はい!! 同志にしか見せません!! あと学校に提出する用の普通の絵もちゃんと別枠で用意してありますのでご安心ください!!」


「そ、そうか、中々抜け目のないことだな」


「あたしらは擬態するのが習性として身に染み付いてますからねぇげひひひ」


「だったら俺の前でも最後まで擬態しててほしかったよ……。ほら、よだれよだれ」


 人様には見せられない顔をしてる彼女をそっと人目から庇いながら、口の端のいけない汁をハンカチで優しく拭ってあげる。


「ありがとうございます、神!」と元気良くお礼を言ってきた彼女に乾いた笑みを返し、俺は今度こそその場を後にした。


「お帰り、ゼノ。なんだかおもしろいことになってたみたいだな?」


「女の子を助けたと思っていたら、いつのまにか邪教の神になっていました。自分でも何を言っているのかわからない――あ、邪教というのは言葉の綾です。俺は彼女の信仰に応えることはできないけれど、己が信念に殉じる彼女の姿はとても尊く思います」


「…………お前はほんと、なんだろう、もっと色々と世界に目を向けるべきだと思う。神とかなんとか、お前がそういうこと気軽に言っちゃうと、ちょっと色々障りがあるというか……」


「? ああ、義姉様ですか? 敬虔なミリス教信者ですもんねぇ。いくら優しい義姉様でも、ジョークで聖典引用するとかネタで神だの邪神だの言っちゃうのは、流石に聞き捨てならない感じです……?」


「ネタにジョークて、お前ね……」


 ちなみに【ミリス教】というのは、うちの国の国教であり、ついでに言うならこの大陸に存在する九割超の国々の国教になっている世界最大規模の宗教だ。

 清貧と誠実をほどよく美徳とし、道徳及び学力に関する教育をほどほどにおこない、他宗教や他の神の存在を他人に迷惑かけない限りはそれなりに許容する、そんな感じの色々ゆる〜い教義を持つ宗教である。


 ただ、現在のミリス教がゆるい感じになったのは、過去に厳格な教徒達によるミリス教内を二分する凄惨な内ゲバ大戦があったがゆえにそれを悔いて、だという話を義姉様から聞いた気がする。

 興味無かったから聞き流してたけど、やっぱりいくらゆるゆるな今日のミリス教であっても、神をぞんざいに扱うのは御法度だろうか?

 いやそりゃそうだわな、これは俺が悪かった。


 呆れた様子の兄様に、素直に謝罪しようとした時。



「あら、よろしいんじゃありませんか? きっと『神』だって、畏れ敬まわれ祀られて人から遠ざけられるより、人々の日常会話の中で面白おかしく語られるくらいの方が喜ぶと思いますわ」



「ねえ、おとうと様?」と、全てを包み込む母性溢れる微笑みをたたえながら、唐突に現れたその少女――レティシアは小さく首を傾けて見せる。


 俺が答えるより先に、彼女の婚約者であるシュルナイゼ兄様が心底疲れたようにため息を吐いた。この如才ない兄様がここまでくだけた態度を取る相手は、俺以外ではレティシアくらいだろう。


「やはり湧いて出たか、レティ……」


「あら、一応婚約者のわたくしに向かって、随分な物言いではなくて? ねえ、おとうと様?」


 心外だぞ、おこだぞぷんぷん! みたいにほっぺを膨らませる彼女は、容姿の妖艶さとは裏腹に、年相応のかわいらしさに満ち溢れていて、俺は脳味噌を蕩けさせながら「まったくその通りですね、義姉様!」と答えるだけのイエスマンと化した


 ぶりっ子でもいいじゃない、だって本当にかわいいんだもの。普段大人びてて青色の涼し気な髪色と相俟ってクールビューティーなのに、気を許した相手にはこうやって茶目っ気たっぷりの仕草を見せてくれたり、時には本物のお姉ちゃんみたいな包容力で甘えさせてくれるんだぜ?

 俺としては兄様に遠慮して過度のスキンシップはしないように心がけてはいるけれど、なーんか義姉様の方が『ねえ、おとうと様?』が口癖になるくらいに積極的に絡んでくるんですよねぇ。


 そんなに弟が欲しかったんかな? と思いつつ、姉か妹が欲しかった俺とはなんだかんだで相性バッチリなので、じゃあなんも問題はねぇな!


「ええ、なにも問題はありませんわ、おとうと様。ですので、わたくしとも楽しく小粋な神様トークしてくださいませ?」


 おっと、これは神に対して不敬な発言をしたことのお説教が来るかな? 義姉様のにこにこ笑顔から何かの圧を感じるぜ……。でも怖い感じはしないんだよなぁ。まさか、単に神トークしたくてしたくて辛抱たまらんという圧なのかこれ?


「ええ、ええ、そのとおりですわおとうと様! さあ、おとうと様の思う神と信仰の在り方について七日七晩語って頂いたり、おとうと様による聖書の朗読会でオールナイトフィーバーしたりしましょう!!」


「なんで語り部が俺オンリーなの!? せめて義姉様も何か語ってよ!」


「まさかまさか、わたくしのような矮小な人の子がおとうと様に神様論を語るなど、へそで紅茶が沸きますわ」


「義姉様の中で俺って何なの?」


「神ですわ(キリッ)」


 いやキリッじゃねえよ。ブラコンこじらせ過ぎて信仰の域に達しちゃってるじゃん。弟や妹を天使と言うのはわかるけど、神扱いするとか聞いたことねぇよ……。


 軽く引いてる俺に代わって、兄様が嫌そうながらも前に出た。


「レティ、仕事は終わったのか? 仮にも生徒会副会長なんだ、まさか無駄なおしゃべりがしたいがために仕事を放り出したりは……」


「あら、誰に言っているのかしら、婚約者様? もちろん放り出して来たに決まってますわ!!!」


「お前なぁ!!」


 ぎゃーぎゃー喧嘩を始めた二人だったが、俺は義姉様のあまりの清々しさに爆笑した。やべぇわこの姉ちゃん、なんかあらゆる意味でぶっ飛んでやがる。


「ま、まぁまぁ、いいじゃないですか兄様。予定より作業は順調そうですし、それはさっきまで姉様が真面目に指揮を執っていたおかげでもあるんですから」


「お前はレティに甘すぎる! もっと自分の置かれた立場を自覚しろ!!」


「はぁ、自覚、ですか? なんだろ、『こんな愉快な姉ちゃんに気に入られて超ラッキー』とかですか?」


 思ったことをそのまま言ってみたら、義姉様は「まあ!!」と感極まったような涙目で口元に手を当て、兄様は処置なしとばかりに目元を覆って天を仰ぐ。なんだ、この兄様の反応。もしかして、婚約者が俺に取られるかもと思って絶望してるのか?

 安心してよ兄様、俺は義姉様のことはそりゃ好きだけど、この様子じゃたぶん義姉様が俺のことを恋愛対象として見ることはないから。


 だって、


「『崇拝は、理解から最も遠い感情であるから』、ですか?」


「……義姉様、さっきからちょいちょい【魔眼】で心覗いて会話するのやめてくんない?」


「もちろん、おとうと様がほんの少しでも嫌がるのであれば、わたくしはこの両の目を潰しますわ」


「やめてよ、そんなん言われたらダメって絶対言えないじゃん……。もう好きにしてよ――あ、でもあんまり他所の人には」


「使いませんわ!! …………ひ、必要以上には」


 威勢よくお返事した義姉様だったが、神を欺く罪悪感に負けてぼそっと本音を付け足した。うん、俺、義姉様のこういう素直な所好き。


 ちなみに【魔眼】というのは、魔術の才とはまた別の生まれついての異能で、義姉様の場合は『相手の心が読める』という稀有なれどスタンダードな代物だ。

 前世でその手の異能持ちの持つ苦悩について漫画やラノベで予習が万全だった俺は、彼女に対して心の防壁を張る気が起きず、素のままに接してたらいつの間にか神扱いにまでランクアップしてしまっていた。いやなんでだよ。


 義姉様はかつてはこの魔眼のせいというかお陰というか、幼い頃からどっかの組織の偉い立場にいたらしい。

 それがどういう経緯で兄様の婚約者になったのかは知らないし、義姉様はそれを俺に知られたくないみたいだから敢えてその辺は聞かないようにしてきたけど、もしその情報が俺にとって必要になった時は義姉様の方から秘密を打ち明けてくれるだろう。

 それにもしもっと差し迫った状況になったなら、俺は義姉様の意思も気持ちも無視して真実を暴き、たとえ義姉様に嫌われようとも彼女を助けてみせる心構えである。


「おとうと様。結婚しよ?」


「だから勝手に心を読むなぁ!! あと勝手に盛り上がって結婚前から不倫に走らんでください!! 見てよ、脈絡なく唐突に捨てられた兄様のあの顔――おい兄様、なぜ目を両手で覆っている?」


「俺は何も見ていないし聞いていない」


「いや何言ってんだあんた……」


 婚約者の不貞に文字通り目を瞑ろうとする兄様が意味不明すぎてドン引きである。

 救いを求めて周囲を見回してみれば、公爵家の醜聞となりかねない眼前の状況に対して、全ての生徒達が兄様同様に両手で顔を覆って見ないフリしていた。なんだこの連帯感。まさか、何かのドッキリ企画か?


 な、なるほど、そうかドッキリか。そうだよな、そうでもないと俺なんかがこんなかわいい女の子に求婚されるなんてあり得ないもんな。

 大方、俺が努力を空回らせて非モテ街道を突っ走っていることを哀れに思った兄様か義姉様が、ちょっとサービスしてやろうかという善意で企画してくれたんだろう。

 ありがとう兄様、ありがとう義姉様。


「…………あら、もうバレてしまいましたのね。残念」


 俺にドッキリを見破られてしまった義姉様は、少し名残惜しそうな顔をしながらも、詰め寄ってきていた身体を離した。それを合図に、周囲の生徒達もどこか残念そうな面持ちで各々の作業に戻っていく。


 だが、何気に負けず嫌いの兄様だけはまだ顔を覆ったままだった。


「……おいレティ、押せ。もっと押せ。ゼノは口では真実の恋がどうだとか兄様の婚約者に手を出すわけにはとか言うが、実際はただのヘタレなだけだからお前がもっとぐいぐいいけば確実に墜ちる」


「兄様はNTR属性の人なんです……? なにゆえ斯様な悪魔の囁きを聖女のごとき無垢なるレティシア様に吹き込むのです?」


「いい加減、婚約者の弟に密かな――でもないあけっぴろげな恋をする婚約者がじれったい。そもそも、レティが俺の婚約者に収まったのはお前に警戒されず近づくためぐぼぉア」


「なっなななななななな何を愚にもつかない妄言を吐いてるらっしゃるのですかこのねとられ属性まぞ男は、てめぇぶっ殺しますわよ!!?」


 婚約者を弟に寝取らせようと弁舌を振るっていた度し難き変態男は、怒れる婚約者様の流れるようなリバーブローを喰らって悶絶すら許されずどしゃりと床に崩折れた。なーむー。


 キル数をひとつ増やした義姉様は、一仕事終えたような晴れやかな笑顔で額の汗を拭う。


「おとうと様。邪教の徒はここに滅びましたわ」


「…………。あー、うん。そですね」


「『ネトラレ好きだって性癖のひとつだから邪教とまで呼ぶことはないと思うけど、リアルの婚約者にそれを強要するのは完全にアウトだしここは同意しとこ』ですか。なるほど、神自身は斯様な異端の存在も赦していらっしゃるのですね……。そして、それにも関わらずわたくしのことを想って、自らの主張を曲げてくださったのですね!!」


「魔眼持ちってホントめんどくせぇな!!」


 口ではそんなことを言いつつも俺の本心は義姉様に筒抜けなので、義姉様ってば今にもアヘらんばかりにとろっとろの笑顔である。弟好きにも程があるぜ姉ちゃん……。


 このままだとうっかり今は亡き兄様の遺志に従ってしまいそうになるので、俺は姉さまのぽーっと上気してるエロい尊顔から目を逸らし、溜め息を吐いて戦略的撤退へと移行した。またの名をヘタレたとも言う。


「あら、おとうと様? 急にどちらへ行かれるのです?」


「……俺の仕事は粗方終わってるし、依頼人も亡き者となってしまったので、気分転換に街かその辺ぶらぶらしてこようかと。……俺がここにいると、義姉様も仕事ほっぽりだしてかまいに来ちゃうみたいでイカンでしょうし」


「…………。取ってつけたような理由で逃げずとも、素直にわたくしに欲情してもいいんですのよ? お姉ちゃんには、弟の全てを受け止める用意があります! 性欲とか、精液とか子種とかあとおしっ」


「行ってきますッ!!!」


 あかん、この姉ちゃんもマジでアカンで。どうして俺の知り合う女性は揃いも揃ってこんな癖の有りすぎる子ばっかりなの? 狂えるブラコンに極まった腐女子にオジサマキラーに挙句の果てには呂布奉先。

 いやオジサマキラーや呂布呼びは流石に多方面に失礼か、自重しよう。


 義姉様の「おとうと様、晩ごはんまでには帰ってきてくださいね〜」という気の抜けた声と小さく振られるお手々に、俺は苦笑しながら「はいよ、ねーちゃん」と手を振り返し、講堂を出て行った。



◆◇◆◇◆



 ふりふりとかわいく手を振って最愛の義弟(仮)を見送ったレティシアは、網膜に焼き付けた親しみ溢れる苦笑いと、鼓膜に焼き付けた柔らかな響きの『ねーちゃん』呼びを反芻し、あまりの尊さに感極まって一筋の清らかな涙をこぼした。


「無理……。もうムリ……。あぁ、おとうと様、いいえ我が神ゼノディアス様。どうしてあなたはそんなにも存在の全てが尊いのですか……。無理……死にそう……」


「……そんなに好きなら、さっさとガチで告ればいいのに」


「あら、生きていらっしゃったのですか、婚約者様? まあ心底どうでもいいですが。ていうかわたくしのスカートの中覗こうとしてません? この痴漢くずやろうがッ!!」


「お前はもっとゼノ以外にも優しさを向けるべきだと思う……」


 奇跡の復活を遂げたシュルナイゼは、服に付いた埃を適当に払いながら立ち上がり、呆れた目で自らの婚約者を睥睨した。そこには、未来の妻になろうという女性への恋慕の情など欠片もなく、むしろ嫌悪のようなものすら滲んでいる。


「折角俺がなけなしの親切心を振り絞ってアシストしてやったってのに、なんで俺は殴られたんだよ、意味わかんねぇよ」


「意味わかんねぇのはわたくしの方ですわ。なんであなた、おとうと様にわたくしの悪行をバラそうとしましたの? マジでぶっ殺しますわよ」


「俺を脅して隠れ蓑にしてあいつに近付いたのが、悪行だって自覚は一応あったんだな。お前にそんな真っ当な良心が残ってたとは意外だよ」


「りょうしん? まさか、このわたくしがそんなものを持ち合わせているとでも本気でお思いで?? わたくしがどう思うかではなく、おとうと様がどう思われるのかがわたくしの善悪の判断基準ですわ。おとうと様が不快に感じるもの、それが即ちこの世の悪です」


「……お前、それでもミリス教の筆頭聖女かよ……」


「筆頭聖女だからこそ、おとうと様のご意思に従うのみなのです」


 ふんすと鼻を鳴らしてドヤ顔するレティシアに、シュルナイゼは最早語るべき言葉を持たず呆れ果てることしかできなかった。


 ――ミリス教現教皇の孫娘にして、自らもミリス教公認筆頭【聖女】の称号を持つやんごとなき少女、レティシア=ミリスティア。

 清廉な泉のように透き通る淡い水色の髪と、いまにも霞のように消え去りそうな儚く白い肌を持ち、その美貌を決定づける愛らしく整った顔立ちをも完備した、掛け値なしの美少女。


 生まれと容姿だけでも一種のカリスマ性を持つ彼女だが、魔眼、或いは【精霊眼】とも呼ばれる『真実を見通す眼』をも生まれ持ち、それと【癒しの奇跡】を起こす異能を併用することで教会の膿の排除と信徒達の救済を完遂したという、生きる伝説な乙女、それがレティシアである。


 そんなレティシアは、言うまでもないことだが、当然ミリス教徒である。それも、誰よりも敬虔な、という言葉が頭に付く。


 そんな彼女が、己の価値観よりも、或いはそれ以外の何もかもを置いても最優先に据え、敬い傅く相手。


 それは、つまり。


「お前、まーだゼノが『ミリス様』の生まれ変わりだとか信じてんの? 本当に真実を見抜く魔眼なんて持ってんのかよ」


 ゼノディアスの理解者だという自負があるシュルナイゼは、レティシアの見当違いもいいとこな勘違いを小馬鹿にして鼻で嗤う。


 しかし、レティシアはそれに対して更に大きく鼻で嗤い返した。


「あーら、あなたこそどうしてあのお方の偉大さがわからないのです? 先程、おとうと様が女子生徒を助けた一幕の中で、当然のように振るわれた奇跡の数々。あれを目にして、それでもまだ『いやあいつただのヘタレな一般人だから』などという妄言を心の中でも外でも繰り返すおつもりですか?」


「あぁ? 数々の奇跡……? いや、あいつ普通にコケた女の子助けただけだろ?」


「そうですわね。看板の下敷きになりそうな女の子の元へ【空間転移】で急行し、彼女の怪我を【完全治癒の奇跡】で快癒させ、服や髪に付いたペンキを【時空操作】で付着前の状態に戻し、最後は女の子を立たせるためだけに【重力反転】を使用していましたわね。どれもこれも神代の時代に失われた古の秘術や全く新規の概念に基づく魔術であり、そしておとうと様が現代へ蘇らせた、未だにおとうと様にしか満足に扱えない絶技。そんな神話の神々を凌駕しかねない隔絶した力をふつーに使って普通の女の子を助けて、最後は見返りを求めることもなく『ちゃんと前を見て歩いてね』と優しく助言を残していかれました。あの程度の奇跡も、見返りを求めない善行も、全ては確かににおとうと様にとっては極々普通で当たり前のものでしかないのでしょうね。そしてだからこそ、おとうと様は神たるお方として相応しい。そうは思いませんか?

 思わなかった場合あなたは十秒後に凄惨極まる死を遂げます」


「お、おおぅ、お、おもう、思うです、めちゃおもです」


 レティシアの目が完全に狂信者のそれであった。気圧されたシュルナイゼは、身の危険を感じてこくこくと頷き同意と恭順を表明する。

 シュルナイゼは思った。俺、ここで死ぬかもしれない。


 しかし、顔面蒼白なシュルナイゼとは反対に、レティシアの狂気に晒されていない外野の生徒たちはひじょうにのほほんとした微笑ましい気持ちで二人を眺めていた。


「あの二人、またやってるー」


「ほんっと、二人ともゼノディアス様のこと好きだよねぇ」


「特にレティシア様な。ゼノディアス様に近づくやつは、男も女もゆるせねーって感じだし」


「ねー。ゼノディアス様に話しかけようとすると、その後ろですっごい怒って飛びかかってきそうになってるか、すっごい泣きそうな顔で崩れ落ちそうになってるかだもんねー」


「なー。そりゃ誰もゼノディアス様に声かけらんなくなるわ」


 つまりは、それがゼノディアス透明人間説の真実であった。

 イきすぎたお姉ちゃんの愛が、レティシア本人のいる所でもいない所でもゼノディアスを過保護なまでに護っているのである。げに恐ろしき姉バリアー。


 だがもし、そんなお姉ちゃんのせいで恋する機会が潰されていることを知ったら、ゼノディアスは多少なりともレティシアのことを嫌いになるかも、知れ……、………。


(いや、あいつがレティを嫌うとか想像できねぇわ)


 弱味を握られて茶番に付き合わされているシュルナイゼは、もうこいつら結婚すればいいんじゃないかなと切に思った。


「それができたら、苦労はしませんわ。……だって、わたくしでは、あのお方の心がせつに求めているような、『対等で、ありふれた恋愛』なんて絶対できませんもの……。あのお方への重すぎる愛ゆえに、わたくしは、あのお方に愛される存在にはなれないのですわ……」


「難儀なこったな……」


 涙目で悲壮な笑みを浮かべるレティシアにそう感想をもらすシュルナイゼだったが、内心ではこいつアホかと思っている。


 そして当然そんな心はレティシアに見抜かれてしまい、レティシアは先程までの儚い美少女っぷりが嘘のように一転して悪女面で嗤う。


「あらあら、そんなことを仰っていいのかしらぁ? 実はわたくしってば、わたくし以上に難儀な恋をしている方を存じていましてよ? うふふ、誰のことか聞きたぁい? ねえ、聞きたぁい??」


「やめてくれ……。ほんと、やめてくれ……」


「『兄様が女の子だったら、俺絶対惚れてたのに』。先程そんな軽口を叩かれて呆れた顔をしていたあなたが、心の中ではどう思っていたか――」


「やめてくれっ!!!」


「女の子にいきなり怒鳴らないでくださいまし!!!!!!」


「ご、ごめんなさい」


 怒りを速攻で倍返しされて、負け犬シュルナイゼは素直に謝りながらこの世の理不尽を噛み締めた。


 そしてレティシアは追撃をやめない。……一応、何事かとぎょっとした顔で凝視してくるギャラリーに、聞こえないよう配慮しつつ小声で。


「――『俺はもう、女の子になった時のお前に惚れているよ』」


「あああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」


 かわいい少女に魅惑的な声音で囁かれたはずのシュルナイゼは,しかしまるで死の宣告を受けた末期患者のように頭を抱えて膝から崩れ落ちた。


 そう。かつて数多の女性と浮名を流し、今はレティシアという本命の婚約者ができたことで彼女一筋になったと周囲に思われているこの男。

 実のところは、ひょんなことから怪しげな薬で女の子になってしまったゼノディアスに全力で妹ムーブをされたことがきっかけで、女性化した腹違いの弟にガチの恋をしてしまったのだ(ただしシュルナイゼはあくまでノンケのままである。ややこしい)!


 以来、シュルナイゼは他の女性に興味が湧かず、それどころか女体化したゼノディアス以外にはイチモツがぴくりとも反応しない有り様であり、死んでも墓まで持っていきたいそれらの恥部をレティシアの魔眼によって丸裸にされてしまって、秘密を守ってもらうかわりに彼女の良いように使われているのが今日のシュルナイゼである。哀れ。


 あまりに哀れな姿でうずくまってめそめそ泣き始めたシュルナイゼに、さすがのレティシアも良心が刺激されて――ではなく、シュルナイゼを苛めたことがゼノディアスにバレたら嫌だなという思いから優しくシュルナイゼの肩を叩いて慰める。


「……あの、わたくしが言うのもなんですけれど、おとうと様ならば婚約者様の思いの幾ばくかには理解を示してくださるのでは? ……ええと、ねえ、そこのあなた!」


「ほえ? あたしですかー??」


 いきなり呼びかけられて間抜けな顔で自分の顔を指差す彼女は、先程ゼノディアスの世話になった記録係の女生徒である。

 哀れなシュルナイゼの姿をやべー笑顔でしゃかしゃかとスケッチしていた彼女は、話の内容は聞こえていなかったものの、なんか呼ばれたので素直にほいほいレティシアの元へ。


「はいはい、なんでげす?」


「げす? ……ええと、あなたも、おとうと様に言われましたよね? 『想像の翼は、誰にも手折ることはできない』と。聖書に語られるミリス様と同じおおらかな心を持つおとうと様ならば、実の兄がちょっと受け入れがたい趣味嗜好をお持ちであっても、賛同まではせずとも拒絶や否定はしないと思いませんか?」


「んー? そっすねー。かみの包容力まじパねぇっすわー。前からイケメンでまじパねーとは思ってましたけど、あたし、かみのこと一発で好きになっちゃいました!!」


「あ?」


「? はいはい?」


『好きになった』発言に思わず目くじら青筋立てまくって威圧を放つレティシアだったが、件の腐女子少女はイケメン達の耽美なる世界以外に対する感受性が著しく低かったため、レティシアに熱心に見つめられて不思議そうに首を傾けるばかりであった。腐女子最強説、爆誕。


 レティシアがブチ切れやしないかとひやひやあわあわしながら周囲が見守る中、蚊帳の外になりかけていた傷心男が幽鬼のようにぬらりと立ち上がった。


「……想像の翼は、誰にも手折れない、か。フフ、良い言葉だ……」


「うっさいですわ婚約者様。今ちょっと唐突に現れた狸女の処理で忙しいので後にしてくださる?」


「タヌキってあたしのことですかぁ!? なして!? ひどない!? あいつら、ウチの実家の畑を荒らしやがる天敵なのに!!」


「チッ、そういう天然っぽさを装う所がタヌキだと言うのですわ!! ………、……………、えっ? あなたまさか、それ本気で言ってますの……?」


「ほんきじゃごるぁー! 農家の苦労なめたらあかんでー!!」


「ご、ごめんなさい……?」


 ぷんすか怒る腐女子に、珍しく素直に謝るレティシア。彼女の妖しく光る魔眼には、自らの瞳に映るものに対する困惑の色だけが滲んでいた。


 思わぬ展開に驚く周囲の生徒達に向けて、完全に蚊帳の外へと蹴り出されたシュルナイゼはやるせなさを胸に小さく告げる。


「そろそろ、真面目に仕事しようか……」


『はーい!』


 すっかり劇団レティシアを見守る会と化していた一同は、それを合図にようやく各々の作業へと戻っていくのだった。

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