表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

141/145

一話・2 混沌より這い出る深淵

「……つか、そんな思いっきり味方裏切るような宣告していいのか?」


「まー、今更ですし。言ったでしょ?『裏切り者』とか呼ばれてるって。

 まあそれはあくまで私がまだ魔女機関の領土にいた頃の話ですけど、その後の私もわりと『いつ裏切るかわからない真意不明・素性不明の謎の強キャラ』ムーヴしてたんで。ほらほら見て見て、この仮面カックイーでしょ??」


 自らの顔を両手の人差し指で挟み、仮面越しでもわかる程に底抜けの笑顔を見せるアリス嬢。


 彼女は俺を見て『ああ、魔女だなぁ』とえもいわれぬ感慨を抱いていた様子だけど、俺もまた同じ想いを今のアリス嬢に抱いてしまって、思わず表情緩めて苦笑い。


 そう。魔女なんて、こんなもんだ。だから、魔女たる彼女が『それでいい』というのなら、それは余人がどうこう言うものではない。

 言ったって、どーせ死んでも意見は翻らないのだから、説得も議論も全ては時間と労力の無駄なのだ。


 ゆえにこそ、もしひとたび対立するならば戦闘は絶対不可避であるのだが……。先程までがどうであれ、今現在の彼女は完全にこちら側へと寝返った様子。


 もしかしたら、ここからまた寝返りや裏切りに走るつもりかもしれない。が、少なくとも今この時だけは彼女を信じてみてもいいだろう。


 ――べつに、裏切られたところで特段の問題も無いことだし。


「じゃあ、あとの成り行きは暫くアリス嬢に任せるとしよう。終わったら呼んでくれる? それまで身内の女の子達とキャッキャウフフしてるから」


「身内……って、さっきからなんか影の中でワイワイやってるっぽい子達です?」


「まあね。あ、ちなみに彼女達に会わせるつもりは無いよ? まだここ戦場だし、キミが敵か味方かもまだ確定じゃないし」


「あはー☆」


 わりとストレートに『お前を信用してないぞ』と言われたも同然なのに、アリス嬢はへらりと笑うだけでまったく堪えてない様子。裏切り者の二つ名は伊達ではないらしい。


 言ったこっちが逆に罪悪感を覚えてしまいそうなので、変に仲良くなってしまう前に視線を切ってよっこいしょとソファーから立ち上がる。

 さて、イルマちゃんの異能の世界ってどうやったら入れるんだ? 水溜まりに足突っ込む感覚で影踏めばダイブできるんかな――


「っ、ま、待ってくれ!!」


「ん……、何か? スオウくん」


 話の主導権がアリス嬢に移ってからは静かに成り行きを見守っていた彼だが、アリス嬢に視線で咎められながらも、毅然とした涙目でこちらを引き留めにかかってきた。

 涙目て……。アリス嬢、俺は気にしてないから、ちょっと手加減してあげよ?


「あ、いや、別に其方――貴殿等の邪魔をしようとか、異議申し立てが有る訳ではない。こうして貴殿のような『神話の怪物』と戦場で遭遇して尚、未だ命が有るだけでも有り難いということは此方も重々承知している」


 認識としては大体間違ってはいないんだろうけど、面と向かってなんちゅう言い草やねん。中々に勇者だな、こやつ……。アリス嬢、やれ、もっと涙目にさせちゃれ。


「しし、し、しかしだな!?? しかし、しかしだ、余等にも事情というものは、あるのだ……」


「……事情があれば、侵略戦争仕掛けていいのか?」


「……………場合によるとは、思わない、か……?」


「そりゃそうだろうけど。でもそういうことなら、事情とやらを聞く前にさっさと皆殺しにするけど?

 元々交流なんて無かった土地同士だし、厄介事に巻き込まれるくらいなら綺麗さっぱり絶滅させた方が後顧の憂い無くなってスッキリするだろ」


「………………アリぃス!!!」


 早々に万策尽きてアリス嬢に縋るスオウくんだったが、咎めてた視線を無視されちゃったアリス嬢はすっかりヘソ曲げて「つーん!」と台詞付きでそっぽを向いてしまう。おう、イチャつくなら他所でやれや。


 どうしよ、もう消そっかな……と色々面倒になってきた俺が遠い目で空を見上げていると、ズボンの裾が下からくいくいと引っ張られる感覚が。


「ん、今度はイルマちゃんか――」


「ざんねん、私でしたー」


 手すり掴んでよっこいしょじゃないけれど、俺のズボンに軽く体重をかけてきて、地面の影から『ずるぅり……』と弱冠ホラーチックに這い出て来るシャノンさん。


 その唐突すぎるショッキングな出来事に俺以外がぎょっと目を剥く中、付いてもいない服の埃をぱんぱんと払ってひと心地ついたシャノンさんは、スオウくんに――ではなく、一旦アリス嬢へとご挨拶。


「どうもー、エンリではない誰かさん?」


「……………総帥、様……? え、なん、で……」


 なんでアリス嬢まで驚いてるのかと思ったら、どうやら知り合いだったらしい。

 だがシャノンさんはそれ以上アリス嬢と会話を広げることなく、「それはまた後でね」とだけ告げると、スオウくんら首脳組へと向き直る。


「改めまして。こんにちわー、『新世界』の皆さん。 





 ――旧き世界から、元祖・悪の親玉がやって来ましたよー?」





『ひ、ヒイイィィィ………!!!??』


 おゥ、非力な一般人で遊ぶなや元総帥閣下。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ