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終章旧世 あっちもこっちもフリーダム!

 その日、【魔女機関】新規正統総帥エルエスタは、小鳥がちゅんちゅん囀る声を目覚まし代わりとして爽やかな起床を果たした。


 上体を起こした拍子にめくれる、手触りの良い布団。立ち上がる気力を根こそぎ奪う、大きくて柔らかなベッド。ぼさぼさに大爆発して自由を満喫し過ぎな、自慢の銀髪。

 そして最後に、朝特有の澄んだ空気と淡い朝日に満ちた室内を意味もなく眺めてから、エルエスタはハッと気付く。


「………やっべ、寝落ちしちゃってた……? え、仕事全然終わってない……?? うっわ、どうしよ……。とりあえず、もっかい寝直す???」


「総帥閣下。貴女はそれで本当にいいのか……?」


「え、いいに決まって――ああ、お友達ちゃんか。おはよー」


 開けっ放しだったドアにいつの間にやら背を預けて、呆れ顔で突っ立っていた『お友達ちゃん』ことオルレイア。


 にこにこ笑顔で朗らかに挨拶するエルエスタに、うっかりっぽく「ああ、おはよう」と応じかけたオルレイアだが、咳払いで誤魔化すと神妙な顔を取り繕った。


「エルエスタ閣下。寝起きの所申し訳ないのだが、少しばかりご報告がある。よろしいか?」 


「え、やだ。寝起きじゃなくても聞きたくない。なんか面倒事の気配するもん。

 それよりなんで私、あなたの上司っぽい雰囲気? あと敬語はー? 昨日はいちおー敬語がんばってくれてたじゃーん。エルエスタ上司閣下に敬語はないのぉ~??」


「ない」


「ないかぁー……」


 無いらしい。エルエスタ上司閣下、無惨に切って捨てられてしょぼーん……。


 とはいえ、別に本気でしょぼーんしてるわけではなく、これは単なるじゃれ合いみたいなものである。

 昨日は結局仕事そっちのけであれやこれやのあっはんうっふんなディープトークに花を咲かせまくった二人であるため、現在の距離感としてはわりと仲の良い友達同士みたいなところに落ち着いている。


 とエルエスタは思っているのだが、オルレイアの言葉の端々から時折奇妙な『畏れ』が滲む瞬間があり、一体どう思われているのか微妙に掴みきれていない所が有ったり無かったり。

 ……よもや、オルレイアの奇妙な態度の理由が処女崇拝によるもので、自分が密かに御神体として崇められているなどとは夢にも思わぬエルエスタであった。


 さておき。


「んで、ご報告だっけ? 私が受け止めきれる内容ならしょーがないから聞くけど、そうじゃないなら一生あなたの胸の中へ仕舞い込んで、絶対私に聞かせないでね?」


「ゼノディアス様が外世界へ戦争しに行きました」


「………………。んー?」




「ゼノディアス様が、愚妹イルマとアルアリア少女、それにシャノン女史を伴って、外世界の人類を絶滅させに行きました」




「………………。ん、んんんんんん????」


「又、ゼノディアス様――というより魔女機関先代総帥シャノン女史の此の動きを受け、暗躍していた仮称・反魔女機関連合は一時活動を停止して静観を選択。

 それらの状況により聖国周りも動静は鈍化し、その他主立った勢力も総じて様子見の様相となっています」


「待って待って、待ちなさいレイアちゃん」


「はいレイアちゃん待ちますッッッ!!!!」


「………え、えぇぇぇぇぇぇぇ………?」


 オルレイアの言う事やる事全てがあまりにツッコミ所有り過ぎて、エルエスタは起きて早々に頭を抱えてフリーズする羽目になった。


 ゼノディアスが、智天とアルアリア、それにシャノンを連れて……、外世界の人類絶滅??? 

 ……おそらく、この話の主体はあくまでゼノディアスではなくシャノンだろう。今の今まで雲隠れしていたはずの先代総帥が、人目を憚らず――或いは敢えて周囲に見せつけるようにして行動しているのは、今まさにそうなっているように、各勢力を牽制して動きを鈍化させるのが目的か。

 標的が外世界の人類――即ち『魔女殺し』達であるのは、シャノンの言行を鑑みるに、彼女にとって魔女殺し共こそが今回の戦における最大の難敵であり、同時に敵側にとっての切り札でもあるからに違いない。


 ここまでは、いい。あとついでに、忠犬オルレイアの恍惚の笑みもひとまず今はどうでもいいったらどうでもいい。


 問題は――。


「……働かせる気無いって、言ったはずなんだけどなぁ……。どうせあれでしょ、ゼノくんの無駄に旺盛な労働意欲と性欲につけ込んで、どこぞの智天サマと先代総帥閣下が上手いこと唆したんでしょ? で、アルアリアは単なる巻き添えと」


「いえ、きっかけはともかくとして、どちらかというとゼノディアス様の暴走に智天と先代総帥が泣きながら巻き込まれた形です。

 あと、アルアリア少女はわりとノリノリでゼノディアス様にくっついて行きました。……彼女、人類の滅亡を願う生粋の魔王様ですからね……。

 あ。ついでに言ってしまうと、昨日紅蓮と晴嵐でまた酒盛りしてたとかで、今は二人仲良くゲロ吐きながら死亡中なので暫く使い物に成りません」


「………どいつも、こいつもぉぉ……!!」


 自信満々に語った予想をものの見事に外された小っ恥ずかしさと、味方なはずの連中のあまりにもあんまりなフリーダムっぷりにより、エルエスタは現実逃避して布団を引っ被ってふて寝を決め込んだ。


 そんな哀れ極まる小娘を見下ろして、妖しい笑みとヨダレを零していたオルレイア。うっかり零れたものをこっそりと引っ込めて、処女厨ドS少女は恭しく頭を下げながら部屋を辞し、ドアをぱたんと閉じる。


「……ふゥー……。あーもうダメ、尊い……。よわよわエルたん、しゅきしゅきぃ……♡♡」


「…………なぁーう……?(……おる、れいあ……?)」


「おっと、我が魂の咆哮を聞いてしまったな? 猫娘よ。なんていけない子だ、これはゴージャス猫まんまの刑に処さねばな。いや、流石に朝からそれは重いか……?」


 部屋の外から総帥閣下の様子を伺っていた子猫のみーちゃんは、ドン引きしか選択肢無くなるレベルなオルレイアの奇行の数々を余す所なく目撃し――。けれど、なんかゴージャス猫まんまくれるっぽいので余計なことはなんも言わないことにした。みーちゃん、かしこい子。


「なーお! ……うにゃん??(ごーじゃす、食べたーい! けど、なんでいきなりごーじゃすくれるのよ? あんたもりんでと同じで猫好きなの?)」


「いいや、どちらかと言えば、本来は猫よりも犬派だな。猫は気まますぎる奴が多いし、その上なんだか愚妹を思い出すし……」


「にゃうーん?(いるまは、どっちかっていうと犬じゃない?)」


「私に懐かぬ犬など、うっかり殺してしまいたくなるからな。それならまだ、猫だとでも思っておいた方が許せそうな気がするだろう?」


「な、なっふ、なっふ……(い、犬でも猫でも、ころしちゃダメよ……?)」


 戦慄しながらおまたにしっぽを挟んで縮こまるみーちゃんに、オルレイアはフッと笑って首を横へ振る。


「殺さんよ。誠に遺憾ながら、あのふてぶてしい猫にも可愛い所が無いでもないのでな。主に、処女な所とか、あとゼノディアス様に一途な所も中々にレイアちゃんポイントが高いな。

 最初は嫌ってたはずのゼノディアス様にうっかり惚れちゃう過程とか傍から見てて超面白かったし、しかもある日またもうっかりゼノディアス様のひとり遊びを目撃した時には見てておもしろいくらいに顔真っ赤にして挙動不審になりまくり、そんなウブな娘のくせしてそれからも毎日にようにゼノディアス様のおあそびや着替えや入浴を食い入るようにガン見してるとかマジでおもしろ――



 ――む? おかしいな、彼奴の殺意と呪詛が飛んでこない……。どうやら、本格的にこちらに構っている余裕も無いようだな。やれやれ、予想外の事態に直面すると途端に脆くなるのは彼奴の悪い癖だ」


「…………………(←絶句)」


 聞いてはいけない秘密をくっちゃべりまくった挙句に何事も無かったように素面で苦言を呈するオルレイアを前に、みーちゃんは目ん玉をひん剥きながら口開けて言葉を失うことしかできなかった。


 そんな、まるで初めてこんにゃく食わされた猫みたいな顔してるみーちゃんをひょいっと胸元に抱いて、オルレイアはてくてくとキッチンへ向かう。

 泣きべそかきながらなんとか事態をコントロールしようと藻掻いている、そんな哀れな策士気取りの小娘の顔を思い浮かべて。





「――本当に、哀れなことだ。神たる御方の審判を前に、人の身では見守る以外の道など無いのに」

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