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十二話 そこが琴線

「……ふぅん。ほんとに、ゼノディアスくんの精子だったのねぇ……」


「わたし、最初にそう言ったじゃん。信じてなかったの?」


「それとこれとは別よ。やっぱり自分の目で確かめないと、100%の自信も確証も持てないでしょう?」


「そーだけどぉー……むぅ〜……、むーぅ〜!」


「はいはい、悪かった、私が悪かったわよ。……まあ、欲を言えば、実際に『生産』される所を本当に直で見たかった所だけどねー」


「それねー」


 先刻爆誕したばかりのシャノン製オリジナル核と、その横に更に爆誕した採れたてミルクによるアリア製オリジナル核を見比べながら新旧真正痴女共がなんか好き勝手言ってるけど、俺はいもーとちゃんの膝に縋り付いて泣くのに忙しくて何も聞こえないったら聞こえません。


「はいはい、よしよし。泣かないで、おにーちゃん」


「うぅ、ぐすっ、ァウゥ……」


 椅子にちょこんと腰掛けたイルマちゃんの、お膝、というかお腹に真正面から立ち膝で抱き着いて、頭をよしよしと優しく撫でられるノーパンの俺。

 あ、でもズボンは履いてるのでフルチンじゃないです。哀しみに汚れちまったべとべとマイパンツは、イルマちゃんの手によって優しく脱がされた後、手ぐすね引いて待ち構えてたあっちの痴女共へ提供されました。その様、まるで飢えた虎の檻に生肉を放り込む飼育員の如し。

 で、下半身フリーダムとなった無敵の俺にイルマちゃんがズボンを履き直させてくれて、その時点でなんか色々キャパオーバーした俺は、以降ただただイルマちゃんの体温に癒やされるだけのしあわせな人生を絶賛満喫中であった。えへへ、イルマちゃんだいしゅきぃ♡♡♡


「しかしいもーとよ、お兄ちゃんは今問いたい。きみ、さっき普通に俺のチンチン見なかった?

 更に言うならあの痴女共は早速採れたてミルクを使ってキャッキャウフフと楽しげに実験を楽しんでいらっしゃったけど、そんな多面的にR18待った無しの破廉恥空間だったはずなのに何故みんなして俺本体のおちんちんへの性的興味を抱いていらっしゃらないご様子なのか……?」


『……………………………………』


 イルマちゃんのみならず、テーブルの向こうのアルアリア共も揃ってあらぬ方向を向いてしまい、それからきっかり十秒が経過。


 謎のアイコンタクトを経て再び顔の向きを戻した三人は、それぞれ実験談義の続きや俺の頭撫で撫でへと戻っていき、俺の先程の発言は全力で無かった事にされてしまった模様。なんでや! なんやねん、この謎の乙女同盟!


 まあ、女の子達の仲が良いのであれば、それに越した事は無い。それにあんまり過剰に反応されなかったおかげで、俺もひとまず正気を保っていられるし。

 あ、ちなみに俺のこの涙は半分くらい演技です。ぶっちゃけ、女人環視の中でうっかり射精させられた件については、情けなさや悲しみなんかよりも背徳的な快感の方が遥かに勝ってたので。


 ただ、娘っ子どもが俺に性的興味を抱いてないご様子である件については依然として釈然としないままである。

 なので、敢えて涙目のままでイルマちゃんのお顔をじ〜〜〜っと見上げて無言の圧力をかけてみたら。彼女は右へ左へふらふらと視線を彷徨わせた後、観念したように小さく溜め息を吐きながらぽそぽそと語ってくれた。


「……それは、だから……。あちらのマッドさん達は、正直、まだ色気より食い気というか、えろすより研究な方々ですし……」


「じゃあ、イルマちゃんは?」


「………………………………………我、その……。すとーかー、ですし……? あの、ね? あのね、あの、……おにーちゃんの、あの……、べつに初見じゃない、ってゆーか、そのぉ、あの……、お、おにーちゃんが、もっと、すごいの、部屋でひとりで」


「OKわかった全て把握だ、きみはひとまず何も言わずに黙っておきなさい」


「………しゃべらせたの、おにーちゃんなのに……」


 ちょっと不満げに抗議してくるイルマちゃんだけど、流石に分が悪いと悟っているのか、こちらではなくアリアちゃん達の方へ意味もなく目をやりながら、ノールックで俺への頭撫で撫でを継続してご機嫌取りを図ってくる。

 うむ。おにーちゃん、今初めていもーとちゃんに完全勝利した気配やで。今まで全戦全敗もいいとこだったから、なんだか謎の感慨が有るな……。


 でもまぁ、べつにイルマちゃんを負かしたいわけでもないので、これ以上いじめるのはやめてあげよう。


 ただし痴女ども、あんたらは別だぜ?


「で、そっちのガチモン真正痴女達は、傷心の俺をほっぽってキャッキャウフフしてた件について何か申開きは無いんすか?」


『…………………………』


「……もう、『痴女って言わないで』とさえ言えない身である自覚は有るんすね」


 俺になじられてしょんぼり肩を落としちゃってるあのお二方は、片や嬉々として自らの意思でスカートたくし上げておぱんつ様見せつけてきた最早言い逃れしようのない痴女で、片や精液まみれのべとべとパンツをおおはしゃぎで受け取ってねちょねちょ弄びまくってた完全無欠のアウト判定痴女。

 もしこの二人が痴女でないなら、この世に痴女という概念など要らないんじゃね説がにわかに浮上してしまう。


 涙の枯れた白い眼で見つめ続ける俺の圧に負けてか、「で、でも」とシャノンさんが上目遣いで心細げに反論してくる。


「私の、その、……下着、見れて、ゼノディアスくんは、嬉しかったでしょう? ……なら、そんな、怒らないでよぅ……」


「……そもそも、なんであんたいきなりおぱんつ様見せつけて来たんや?」


「…………つい、出来心で……。あとその、精液、もっと、いっぱい絞れたら、いくらかお持ち帰りさせてもらえるかな〜? とか、ねっ???」


「『ねっ?』じゃねーよ。男に性的サービスして射精強要して搾りたての精液お持ち帰りって、もうそれ痴女とかじゃなくてなにかよくわからんマニアック過ぎる風俗店のプレイだよ……。

 ああもう、シャノンさんは処置無しでいいや。じゃあ次、アリアちゃんはなんか――最期に言い遺すことある?」


「最期なの!!? わたし、死刑?!?」


「俺はそろそろマジでキミの貞操観念や異性観について、叩き直しならぬ撲殺・新生を図らねばと決意を新たにしたからね。ほら、さっさと過去のキミに手向けの言葉を送りなさい」


「え、えぇぇぇぇ………?? じゃあ、えっと、うぅぅぅ〜ん……」


 処置無しとして放置されたシャノンさんが愕然とした顔を向けてくるのをさくっと無視して、アリアちゃんがうんうん唸るのをしばらく眺めてみる。


 やがてアリアちゃんは『これだ!』という遺書が脳内に出来上がったのか、一転して春の青空のように晴れやかな笑顔で高らかに宣言した。


「さっきまでのわたしよ、しかと聞くがいいっ!!!」


「ふむふむ」


「―――――どうせ結局怒られるんだから、折角ならいるまちゃんを懐柔してぜのせんぱいのナマ射精を一緒に見学した方が断然お得d」


 言い切る前に、さっ、と自らの頭を両手で防御してぷるぷるふるえるアリアちゃん。うん。そんなところで学習能力発揮しても意味無いからねー? もう何もかもが余すことなくとっくに手遅れだからねー??


 つーか、


「怒られるって事前に予想出来てるなら、いらんこと言わなきゃいいのに。勇者かよ……」


「わたし、ゆうしゃじゃなくて、わるい魔女です……」


「自分で『わるい』って自称しちゃうの?」


「――魔女なんて連中はね。一皮剥けば、どいつもこいつも、餓鬼畜生にも劣るようなクズやワルしかいないのさ。フッ……」


「……おばあちゃん語録?」


「…………たぶんそう、だけど……。ごめん、いまの、大体わたしの所感です……」


「さ、さよか……」


 アリアちゃんの中の魔女観がわりと容赦無くてビビったけど、これは彼女自身が魔女の中の魔女である〈力有る魔女〉だからこその自虐みたいなもんだろう。

 本当に救えない悪というのは、己が悪であることを恥に思ってしょんぼりしちゃってるアリアちゃんのような素直な娘っ子のことではなく、その隣で『そうそう、その通り! やっぱり私怒られる必要なかったじゃーん!!』みたいな腹立つドヤァ顔でうんうん頷いてるどこぞの痴女の事である。


 だけど、まあ、うん。魔女なんてゴーイングマイウェイ過ぎる悪党共しかいねーというか、むしろそうじゃなきゃ魔女じゃないだろみたいな論説は、正直わりと俺としても納得できる感覚ではあるんだよなぁ……。主に、天災人外クソババァこと初代〈晴嵐〉様のせいで。


 もちろん、『だから魔女は無意味に人の心臓を抉り出して食い散らかして良い』となったりはしない。だが、もっと他人に迷惑がかからない範囲の悪事や、迷惑かけるにしてもその対象が俺だけであるならば、『まあそんなに怒ることでもないかなぁ……』と思わなくもないのだ。


「……じゃあ、まあ、わかった。ひとまず、今起きたあれこれについてはいったん許すとしよう。

 でもな、『三人とも』。くれぐれも、俺以外の男に対して、なんかそういう性的なあれそれは気軽にしないように――」



















「「は?」」

















「シャノンさん、聞いてください。うちのいもーとちゃんと後輩女子ちゃんがものすごく怖い目で俺くんのことを威圧してくるんです。これって、反抗期?」


「思春期じゃないの?」


 思春期かー……じゃあ仕方ねえなー……。多感な時期の少女達に、俺くんってば無遠慮にちょっと踏み込みすぎでしたものねー……。ここは下手な言い訳せんと、おとなしく睨まれとこ〜っと……。


「ちなみに私は思春期のめんどくさい娘じゃないから、おれくんの優しい忠告にお行儀良く『はーい!』と応えておくわぁ。……心配してくれて、ありがとね?」


「あ……、い、いえいえ、いえいえぇ、そんな、アハハ……!」


「その代わりと言ったらなんだけど、研究用の精液提供はゼノディアスくんが専属でしてくれるってことでOKなのよね?」


「なんて?」


「ゼノディアスくんが、専属で、精液提供」


「なんで?????」


「他の男に性的なあれこれ、禁止なんでしょう? なら当然の帰結じゃない。そもそも、あなた以外の精液じゃまったく意味なさそうだし……」


「……………………」


 そうだけれども。そうなるけれども。でもそれ、脳味噌や頭皮の命運が思春期イルマちゃんの手の中に掴まれてて、肉体の生死はおろか死後の運命まで思春期アリアちゃんの瞳の奥に委ねられてる、そんな絶対絶命のゼノディアスくんに今すぐ確認すべき内容かなぁー? たぶん、違うんじゃないかと、ゼノディアスくんは思うなぁー……。


「……大体、精液――じゃねぇや、魔導機関なんてなんでそんな研究したいんすか?

 いくら魔力を生産できるレアな魔導具っつっても、元から魔力を湯水の如くドバドバ使える魔女達からしたらあんまり意味無いような……」


 わりと紆余曲折を経てようやっと本筋へ回帰を果たした俺の台詞に、シャノンさんが鼻白んだような嘆息を返してきた。


「今あなたが口にしたのが、わりと理由の全部な気がするんだけどね……」


「というと?」


「〈アルアリア〉は皆、【深淵】に特化した自己研鑽を続けることで権能を保ち続けて来たけれど、保有する魔力総量自体は代を経るごとに減っていってる。だから、どこかの嵐や俺くんみたいに、湯水のようにドバドバーなんて景気の良いことは言えないのよ」


「……あ、そなの?」


「そーなの。でもまぁ、それはべつに大した問題でもないけれどね。あとは単に、レアな魔導具や未知の素材に対する好奇心が大半ね。ぶっちゃけ」


「ぶっちゃけちゃったかー」


「あ、でも一応建前とか大義名分は用意して来たのよ? でもなんだか言うタイミング無かったし、それにあなたの場合、素直に『興味有るから精液ください!』」ってお願いした方が仲良くなれそうな気がするの」


「……………」


 マジでここぞとばかりにぶっちゃけおったな……。まあ、確かにその方が下手に小細工弄されるより俺には効きますけれども。

 しかし重ねて言うが、俺は二人の年下女子どもに命をまるっと握られている身の上。ここで下手に肯定的な返事をしてしまうと、心なしか『ぎしり……』と高まってきた年下女子低気圧によって頭蓋と魂をあえなく圧殺されてしまう。


 なので俺は、まずイルマちゃんの手の中からするりと抜け出……、出……、…………………出ようとするたびに延髄にさりげなくそっと添えられてくる指先のせいで抜け出せなかったので、仕方なく場の仕切り直しを放棄してそのまま会話を続けた。


「……ちなみに、建前って?」


「……本当に建前だから、あなたはもう気にしなくていいんだけれどね? 元々は、『今度の戦争のための備え』、っていうことにして、断りづらくしようかなって。




 実際、ゼロから魔力創れる魔導具が無かった場合、私ら魔女はみんな『魔女殺し』の男共にあえなく敗北して性奴隷になる未来しかないし」




 ……………………。


 ………………。


 …………。


 ぬん?

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