表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/145

十一話・2 絶望観測

 つか、魔導機関? なんか久々に聞いたな、それ。


 魔『女』機関なら最近は特によく聞くけど、それにあやかって俺が命名したあの自作魔導具については、父様に取り上げられて俺の手元を離れてからはほとんど思い出すことすら無かった。

 だって、下手に『魔導機関は俺が作った』なんて吹聴すると、王家の手柄を横取りする奴扱いされるし。ていうかされたし。


「……一応聞くけど、魔導機関って、アレでいいんですよね? ほら、鉄道とか自動車とかに使われてる、アレ」


「貴方、私のこと本気で馬鹿にしてるの……?」


「いやなんでやねん」


 俺今なんかおかしいこと言った? 人としての尊厳投げ出すレベルで頭下げてたはずのシャノンさんが、今のセリフにこそマジのガチで尊厳傷付けられたかのような本気百パーセントの超怖い眼で睨めつけてくるんですけど。


 思わずおどけたような返事になってしまった俺だけど、そのせいで余計に怒りを買ってしまった様子なので、笑顔成分を消して至極真面目な顔で――イルマちゃんを見た。いやだって今のシャノンさんを正面から見る勇気無いですし。こわい。


 だけどイルマちゃんはイルマちゃんで何やら思う所が有るようで、俺の視線を受け止めきれないような曖昧な表情で申し訳無さそうに目を逸らす。なにゆえ。


 仕方ないので、あんまりこの件に関係無さそうなアリアちゃんに目を向けてみた所。ダークホースアルアリアは、荒縄を未だに弄びながら不思議そうにシャノンさんへ言葉を放る。


「おかあさん、あんな『おもちゃ』の作り方わからないの?」


「そんなわけないでしょこのバカ」


「バカ!?!? わ、わた、わたっし、〈アルアリア〉なのに!!!?」


「それを言うなら私だって元〈アルアリア〉よ。ていうかあなたこそ怒りなさいよ、今あなた、『〈アルアリア〉は凡百共が作ったエセ魔導機関さえ作れないのかよプゲラwwwww』て言われたも同然なのよ??」


「え、それ言われたの、わたしじゃなくておかあさん――」


「歴代全てのアルアリアの罪も業も、全て背負ってこその今代アルアリアよ。あんまり戯けたことばっかり言ってると、あんたの【眼球】抉り出すわよ?」


「ぴぇぇ」


 一瞬でボロクソに言い負かされたらしいアリアちゃんは、ようやく荒縄遊びを放り出して縄ではなく細腕で俺を締め付けすんすんと泣きじゃくる。


 拘束の解けた手でアリアちゃんの頭をぽんぽんと優しく叩いて慰めてあげながら、俺は意を決して激おこシャノンさんに向き直った。


「……あー……、『エセ』魔導機関、っていうのは……」


「エセはエセよ。もしくはクソみたいな出来のゴミみたいな愚にもつかない紛い物。◯◯コの生えてない男とか、マ✕✕の空いてない女とか、◯✕△の産めないおよめさ」


「ストォォォオオオオオオ――――――ッッッップ!?!?! シャラッッッ!!!! シャラァッッップ!!!!! いきなり何毒電波垂れ流してんだあんた!?! バッキャロウ、生まれつきとか後天的とか主義思想なんかの理由でそういう身体になっちゃった人だって普通にいるだろうし、お嫁さんはたとえ◯✕△なんて産めなくても世界一カワイイお嫁さんだろうがッッ!!!!」


「……………………………避◯具付けた性◯渉」


「それはエセだね」


 子ども作る気無いなら◯ックスするなよ。なんだよ快楽目的のセック◯って。こちとらお嫁さんも子どもも一生養う気万々なのに通算百年超の超次元銀河童貞ゼノディアス王だぞ、ざけんなよマジで。


「とにかく、話はわかった。

 今一般に流通してる魔導機関って、確か『1の魔力を2に増幅する』ことは出来ても『0から1は生み出せない』みたいな『疑似魔導機関』が主なんだよな?

 で、シャノンさんが教えてほしいっていうのは、後者――つまり、『俺が昔作った方』のオリジナル魔導機関なわけだ」


「最初からそう言ってるでしょう?」


「言ってないよ……」


 土下座時代が嘘のように腕組み脚組みしてふんぞり返るシャノンさんに、俺は泣き言めいたひょろ長い溜め息と脱力で応えた。


 魔女は、メンツが何より大事。とはいえ、予想もしてなかった道端へ唐突に地雷埋め込んどくのはほんとやめてほしいものである。そういう取り扱い注意な性格してるのは、いつも勝手に流れ弾や飛び火を喰らいに行って勝手に鬱になるどこぞのゼノディアスくんだけで充分なのでね、ええ。


「……つっても、魔導機関なんてそんなに難しいワザとか使ってないですよ? あれこそ、力に任せてパワーを放つ脳筋流の化身みたいな代物なんで」


 未だに泣いたままのアリアちゃんと、あと未だに何やら俯いちゃってるイルマちゃんを両手でぽんぽん叩いてあやしながら、シャノンさんの顔色を伺いつつおそるおそる告げてみる。

 ちなみに、難しい技使ってないっていうのは『え? こんなの簡単でしょ??』みたいに煽りカマしてるわけではなく、ただの純然たる事実だ。


 なのにシャノンさんがピクリと眼尻を釣り上げる気配が有ったので、俺は急いで言葉を続けた。やめてくれよぉ、地雷原。


「0から1の魔力を生み出す役割を持ってるのは『核』の部分ですけど、あの核自体は基本の《抽出還元》と《凝結錬成》の錬金術しか使ってません」


「嘘ね」


「だからなんでじゃーい!!」


 さっきから全然俺の思う通りのお返事返ってこなさすぎて、そろそろ白旗上げて机に突っ伏したいです。



 エーテライズとマテリアライズ、要するに『形有る物から特定の要素を抽出』することと『カタチ無きモノを任意の物質として顕現させる』という、錬金術の基礎である二本一組の柱。

 この二つの術は、この世界においてはあらゆる錬金術師が必ず学ぶ基礎であり、と同時に最も極めるのが難しく、基礎にして奥義なんて言われてたりする。


 ぶっちゃけ、俺がまともに『使える』と表現できる水準の錬金術ってこれだけである。他の術も使えなくはないけど、やっぱり一点特化って漢のロマンじゃん?

 大体、俺に錬金術の手ほどきしてくれた初代〈晴嵐〉様が『小細工なんざ要らねェんだよ!!! 賢しい裏ワザ考えてる暇が有んなら、もっと魔力をブチ込みな!!!!』という純度100000%の脳筋スタイルだったもんだから、うっかりその思想をカッケェと思ってしまった俺も脳筋スタイルに染まってしまうのは仕方のないことなのである。

 俺は悪くない。悪いのは全てあのストロングハルマゲドンこと初代晴嵐の魔女サマである。



「って、そうだ。ほら、俺の師匠的なアレって、あの脳筋魔力バカこと初代〈晴嵐〉様ですよ? もうその時点で、その門弟である俺畜生ごときが、天賦の頭脳を誇りしかの高名なる〈深淵〉様ご一族にはどうあがいても知識や技術では勝てないっていうか、さすがは深淵様っていうか、へへへ、へへへ」


「…………フッ。それは、そうね。ああでも、自分や師匠のことをそんな悪く言っちゃダメなのよ?」


「でへへ、さーせん、へへへ」


 チョロいな先代深淵様。こんな見え透いた勢い任せのお世辞でそんな簡単に機嫌直すとか、本当にそれでいいのか……? なんか、えもいわれぬ罪悪感が……。ちなみに脳筋バカ呼ばわりした晴嵐様への罪悪感は欠片も無いよ、全身の穴から体液噴出しながら絶命させられた幼き日を俺は忘れない。


 ともあれ、ようやくシャノンさんが気を取り直してくれた事で室内の空気が明るさを取り戻し、イルマちゃんとアリアちゃんもほっと一安心。


 そんなにわかに弛緩した空気の中、シャノンさんがおもむろに懐をごそごそと漁り、明らかにそこに収まらなくねとツッコミたくなる小玉スイカサイズの機器を取り出して机上へゴトリと置く。


「ん? なんすかそれ」


「ウ◯コよ」


「ウン◯じゃねぇよ? 女の子が◯ンコとか言うなよ」


「じゃあクソよ」


 同じだろ……なんなんだよもう――って、あー、これが例のエセ魔導機関の実物ってわけね。


 見た目は、豪華なカップに収まった大きな卵。カップからツタみたいに伸びた金色の装飾が卵の周囲を這ってて、それがアンティーク超のオシャレな小物って感じを演出してる。

 だが、これが単なる置き物でないことは魔力の流れを見れば一目瞭然だ。むしろ、あまりに無駄も淀みも無い実用一辺倒の回路構成からして、豪華な見た目になったのはただの偶然に過ぎないと言われた方がしっくり来る。


 だが。目の前のこれは、あくまで『核から引き出した一の魔力を千や万にする』魔導具だ。

 その用途で使うならば俺が作った場合よりも遥かに出来の良い代物ではあるのだが、残念ながら、0から1を生み出すことを目的としていた場合は失敗作の烙印を押さざるを得ない。


 ゆえにこそ、『クソ』。――そして、この異様なまでに悪しざまに語るシャノンさんの様子と、眼の前のブツの人智超越してそうな完成度からして、


「これ、作ったのはシャノンさん?」


「…………………うるさい」


「や、べつに馬鹿にしようとしてるわけじゃなくて……ああもう、わかった、わかったよ。オリジナルの作り方、ちゃんと教えるから、だから睨まんといて」


「……………ふん」


 怒ってる、というよりはちょっと拗ねてるような様子で『わかればいいのよ』とばかりに首肯と鼻息を返してくるシャノンさん。


 チョロいんだか、気難しいんだか。俺みたいな下半身でしか物を考えられない脳足りんの愚物には、女心って奴はあまりに高度且つ難解過ぎて永遠のミステリーでござる。


「っと。教えるのは全然いいんですけど、詳しい話は日を改めてってことでいいですか?」


「だめ」


「だめかー。……や、でも、どうせならこんな放課後のスキマ時間じゃなくて、次の休みにでも時間ちゃんと取ってみっちりやった方が良くないです?」


「次の休みもやって、今日も、明日も明後日もその次も毎日たくさんヤればいいでしょう?

 ……いえ、もしあなたがそれは迷惑だって言うなら、私も――――それなりのギャラを用意させてもらうだけだけど」


 そこは、折れるんじゃなくてあくまで自分の意思を通す方向なんすね。まあ、やっぱ魔女はこうでなくっちゃて感じするし、それにこれだけ熱烈に俺とヤりたがってくれてる(←誤解を招く表現)となると中々悪い気もしない。

 あ、ちなみにこれが野郎相手だったり、タカリ目的の性格ブサイク女だったりした場合は当然問答無用でケツブッ叩いて追い出します。


 でもまあ、今回は相手シャノンさんだし。それにタカるどころか逆に金くれるつもりらしいから、なら俺としてはイルマちゃんとアリアちゃん次第かな。


「あ、でも、ヤるにしてもヤらないにしても金とかべつに要らないんで。どうせ報酬くれるならもっとこう、なんていうかこう、ね? わかるでしょ? ねっ??」


 シャノンさん特製魔導機関を『じ〜~〜~』っと見つめすぎてて完全に一ミリたりとも話聞いてないアリアちゃんはともかく、ナイフ持ったまま俺くんの横顔を『じ〜~〜~』っと見つめてくるいもーとちゃんが怖すぎて、報酬のリクエストを素直に口にすることもままなりません。

 そのせいでなんか女性の弱みにつけ込んで性的な要求を突き付けてるみたいな雰囲気になっちゃったけど、違うよ、俺はただ『金なんか要らんから、代わりに今後とも俺くんと仲良くしてあげてね』と言いたかっただけである。


 そんな俺くんの内心をきちんとわかってくれたのか、シャノンさんはイルマちゃんをちろりと見てから、アリアちゃんにも一度目をやり、苦笑交じりに首肯する。


「……ま、いいわ。最初からお金なんかで払うつもりは無かったけど、『貸しひとつ』――いえ、『あなたへの個人的な信頼度がプラス10されました』、って所でどう?

 ちなみに、私は他人からの信頼は裏切ろうとも、自分から相手へ向けた信頼を裏切ることはなるべくしない方針よ。なるべくね、なるべく」


「なるべくかぁ。正直なのはいいことだけど、他人からの信頼裏切っちゃうのは、うーん」


「あくまで、他人の場合よ? 信頼度30ポイント以上有る場合は別だから、あなたは『まだ』気にする必要は無いわ」


「そ、そすか……まだすか……」


 俺、今信頼度いくつくらいなんだろう……。この口振りからすると、赤点ではないしろ、たぶんそんなに余裕無い程度なんだろうな……。

 というか、シャノンさん専用ルートの個別イベントとかこなした記憶なんてほぼ無いも同然だから、むしろなんで今30ポイント以上有るのかがちょっと気になってきちゃったぞ……? 乙女心、マジで難しすぎだろ。もっと易しくなれ、俺に優しくなれ。


「……ちなみに、イルマちゃんとアリアちゃんは、俺への信頼ポイントって今どのくらい?」


 得点方式解読の参考にしようと思って何の気無しに話を振った俺だけど、いやこれ直接聞いたらあかんやつじゃね? 聴いた時点でデリカシー無さ過ぎだし、その上返答次第では冗談抜きで普通に自殺ものである。


 でも、そんなに悪い答えが返って来ない気がするからこそうっかり訊いてしまったというのも事実なので、敢えてお返事を心待ちにしてみちゃったり。どきどき、ドキドキ。


『信頼ぽいんと……』


 未だに俺を抱き締めるレベルで引っ付いたままだったイルマちゃんとアリアちゃんが、二人で顔を見合わせてその単語を反芻し――。


 やがて、俺からすすすと若干距離を取った。あ、死のう。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ