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十一話裏 被害者は増殖する

 とある一派に所属せし貴族子弟達がたむろしクダを巻く、男子寮の一角にある娯楽サロン。


 昼飯やジュース代をチップにして札遊びや玉突きに興じる、退廃的ながらもなんとなく平和で弛緩した雰囲気が満ちたその部屋に、突如『どばああああん!!』と力いっぱい扉を開け放って倒れ込むように駆け込んできた、一人の小柄な男子生徒。


 室内に詰めていた総勢五十人以上の耳目を一瞬で集めた彼――オーウェンは、この機を逃すまいとばかりに、酸素の足りない肺に鞭打って唾を飛ばしながら本題をブチ撒けた。


「た、たた大変だ!! ゼノディアス様がっ、お、おお、女の子妊娠させちゃった!!!(※させてない)」


『な、なんだってええええぇぇぇええええぇ―――――!!??』


 と、ノリよく叫んでくれたのは、残念ながらオーウェンと特別親しい友人数名のみ。残念ながら他の大多数の面々は、入室してきたのがオーウェンだとわかった時点で興味を失い、何事もなかったようにそれぞれの遊戯に戻っている。


 伯爵家次男、オーウェン=クロフォード。またの名を、針小棒大のオーウェン。ちなみに針小棒大とは小さなことを大げさに言うことを差し、それと似たような言い回しはこの異世界にも普通に存在する。


 そんな異名を与えられるほどに、いっつも泡食って飛び込んできてはボヤを『火事だ!!』と騒ぎ立てるお騒がせ者。それが周囲のオーウェンに対する認識だった。


 そんな傍迷惑な彼が、このサロンに居場所を維持できる理由。それは、彼が決して小火のない所では火事を叫ばないというのがひとつ。そしてもうひとつは、


「オイオイ、今度ぁまぁぁた随分戯けたことフカシたなあああぁぁ、オオオォォォォウェェェン!!?」


 一人がけのソファーに優雅に足を組み肘を突きして腰掛けていた赤毛の大男、この集いの首魁たる侯爵家長子・レオリウスにある。


 友人達の不安そうな顔と、レオリウスに近しい腹心達の巌のような強面が見つめる中、オーウェンは体格・家柄・気迫で己に勝る敵を前に、へそにぐっと力を込めて果敢に声を張る。


「フカシなもんか!! ぼくはこの目で、確かに見たんだ!!」


「はぁぁぁん!? おいおいおいおい、テメェの節穴で何を見たってよぉ、オイィィ!!? もっぺん言ってみろやゴルアアァァァァァ!!!!」


「だからっ!!! ゼノディアス様が、男子寮の廊下で女の子を孕ませてたんだああああぁぁ――――ぁッッ!!!!(※孕ませてません)」


「………いやオメェ、それさっきとだいぶニュアンス変わってんぞ……? いつも言ってるだろ、オメェ目の付け所は良いんだから、人に物事を伝える時は自分の中で一回寝かせて整理しなさいってよォ」


「ご、ごめん、レオ……。でも、ぼくの血に受け継がれた熱い衝動が、ぼくに立ち止まることを許してくれないんだ……」


「…………アァ。テメェの親父さんも、熱い漢だったもんなァ……」


「父さんの勇姿を忘れないでいてくれて、ありがとう、レオ……」


 などと、二人にしかわからない思い出話でしんみりとするオーウェンとレオリウス。

 詰まる所、オーウェンの話を聞いてくれる『仲の良い友人』筆頭が、幼馴染のレオリウスその人なのであった。ちなみにレオリウスがやたらドスを効かせていたのは、オーウェンと二人で子供の頃に興じた『正義のヒーローと悪の親玉』ごっこの名残である。


 大人になってからふとごっこ遊びをやりたくなった時、何も言わずに察して喜んで合わせてくれる。二人はそういう間柄で、お互いを生涯の親友だと公言して憚らない。


 そんな二人を見守っていた面々の間に若干白けた空気が漂う中、けれど盲目のオーウェンと鋼のレオリウスは一切気にせず話を進める。


「で、ゼノディアス様がどォしたって? あのやんごとねー御方に関する取り扱い注意の最新情報を、この俺が【羽】の一葉だとしっかり理解した上で、キチンと慎重かつ正確に報連相してみろや」


「だから、ゼノディアス様が男子寮の廊下で女の子を公開レイプ」


「オゥ無理言って悪かった取り敢えずおめぇちょっと一旦頭冷やせ頼むから。いつものアイス買ってあるから、好きな味食べていいぞ」


「ありがとう、レオ!!」


 幼馴染のあまりのいつも通りっぷりにちょっと頭痛すらしてきたものの、そんな所もこいつらしいと親バカ全開のレオリウスである。手のかかる子ほどかわいがってしまう、レオリウスの悪い癖であった。


 一旦仲良くアイスを取りに行き。オーウェンの友人達とレオリウスの腹心達がババ抜きで一喜一憂してるのを眺めながら、幼馴染二人は長椅子に腰掛けてアイスキャンディーをぺろぺろしつつ再び語り合う。


「ったくよォ……。つまりなんだ、ゼノディアス様がまた毎度の如くどこぞの女の子を助けてたってだけの話だろォ? 今更驚くこっちゃねェだろそんなん。あの人、歩く人助けマシーンだぞ? イチイチ騒いでたらキリねぇわ。普通に報告だけ上げっから、後はほっとけほっとけ!!」


「け、結構突き離すね……。レオは、ゼノディアス様のこと、そんなに嫌いなの?」


「あァ? 違ェよ、直接喋ったこともねーのに嫌いもクソもねぇだろ。俺が嫌いなのは、あのアバズレティシア様だ。あのクソアマ、いつかぜってぇ泣かす」


「えぇぇ? レティシア様、すっごい良い人だよ?? だって、ゼノディアス様の教室での様子話すだけでシュークリームくれるし」


「おゥ、頼むからそんな飴ちゃんひとつで拉致られるガキみたいな、すんげー不安になるエピソードは聞かせないでくれ……」


 今度こそ頭痛に苛まれて頭を抱え込むレオリウスに、オーウェンは『アイスでキーンと来ちゃったのかな?』と見当外れな心配をしながら反論する。


「大体、レティシア様が嫌いだーとか言いながら、『飴玉』に釣られてほいほい尻尾振ってるのはレオの方じゃないか。そっちの方がタチ悪くない?」


「…………その話、誰に聞いた――って、考えるまでもねェわなァ」


「うん。レティシア様。こないだ、『ゼノディアス様が授業中に居眠りしてて、鼻の頭に留まったちょうちょに驚いて「あひっ」ってかわいい声上げてビクッとしちゃって、しばらく恥ずかしそうに俯いてたよー』って話したら、見返りになんでも知りたいことひとつ教えてくれるっていうから……」


「……なんか、オメェから聞く普段のゼノディアス様って、他の信者共の話と違ってほんっっとフツーの人なんだよなぁ……」


 いつもと変わらぬオーウェンの様子から、肝心要の秘密は漏れてなさそうだと安堵しながら、レオリウスは食べきったアイスの棒をがじがじ噛みつつ思考を巡らせる。


 レティシアやゼノディアスに直接関わった人間というのは、どいつもこいつも彼らのカリスマ性に当てられて半ば信者や狂信者と化す傾向にある。

 そうなると少なからず――どころか盛大に彼らを見る目にフィルターがかかることになり、そもそもレティシア自身が瓶底メガネもびっくりの盛大な桃色眼鏡越しにゼノディアスを見ているので、そんな彼女の信奉者たちが上げてくるゼノディアス情報というのは、もはや『神話の聖人かな?』と思わずにはいられないほど盛りに盛ったものとなる。


 その点、このオーウェンというおばかな少年は少々毛色が違う。なぜならおばかだから。


「平時は妙なフィルター無しであの御方のことを見れて、ンでも、なんかあった時には小火でも必ず血相変えて報告してくる。そんで、相手がゼノディアス様だろうがあのクソアマだろうが、どんな相手にだっていっつも裏も無けりゃ含みも無ェ。……オメェのそういうとこを買ってんだろうな、あのアバズレはよ」


 ――それは、自分だけが知っていればいい、この幼馴染みの長所だったのに。


「……レオ、なんか寂しそう? …物足りないなら、ぼくのアイスも食べる? もうほとんど残ってないし、唾液でドロドロで悪いけど……」


「ご褒美か」


「え?」


「ご褒美はやっぱ大事だよなァって話だよ!!? 変な勘違いすんじゃねぇぞ!!」


「う、うん……?」


 致命的な失言を勢いで乗り切ったレオリウスは、こんな雑な誤魔化しで素直に頷いてくれる愛らしい幼馴染みに感謝しつつ、やっぱりあのアバズレには渡せねぇと決意を新たにする。


 そのためには、自分がもっと【組織】の中で力を付けて伸し上がっていかなければならない。いつか、あのクソアマから『あの秘薬』を手に入れ、幼馴染みを悪女の手から助け出して二人仲良く幸せになるために――。


 だがそのためには、有象無象の『羽』共とは異なる視点を持ち、あのクソアマのオキニとなっているこの幼馴染みを利用しなければならない。


 ジレンマだった。図体ばかりデカくて、家柄くらいしか取り柄のない非力な自分に、心底腹が立った。


 それでもレオリウスは、あの悪女が鼻先でちゃぷちゃぷと揺らしてみせたあの薬のために、今は辛酸と苦渋を悦んで飲み干してやると心に誓う。


 あの、レオリウスにとって奇跡としか言いようのない、この世の希望を煮詰めて創り上げられた究極の秘宝。


 悪女は言った。




『ここに、【異性化薬】があるじゃろ?』




 それまで徒党を組むことを嫌い、ただオーウェンだけがいればよかった一匹狼のレオリウスは、秒で信念を捻じ曲げて家名を使い金をばらまき貴族子弟の手下を集め、目的のために愛する幼馴染みすら悪女の元へ差し出した。

 もしレティシアが『おとうと様にご迷惑をおかけしないために』という理由で一定のルールを設けていなければ、レオリウスはきっと本気で悪の親玉にすら成り上がっていたに違いない。


 そう。全ては、愛するヒトと添い遂げる、ただそれだけのために。


「……レオは、【八翼】入りを目指してるの? 何か欲しいごほうびがあって、そのためにレティシア様に認められるだけの功績が欲しいんだよね?」


「んんッ!? ああ、まぁ、なァ……」


「……そっか。じゃあぼくも、もっときちんと正しい報告ができるようにがんばるね」


「…………おゥ」


 ――【聖天八翼】。


 最高聖女レティシア直轄。曲者揃いな教会勢力の中でも特にアクの強すぎる連中で構成された、掛け値なしの人外集団。


 レティシアの親衛隊でありながら遊撃部隊や粛清部隊としての側面も併せ持ち、かつて教会を二分し一方を殲滅せしめた『聖戦』の折には、主たるレティシア自身すら欺く諸刃の凶刃として、或いはあらゆる敵を問答無用で悪と断じて浄化する至高の聖剣として、世界の表と裏を震撼させた恐怖の代名詞。


 それこそが、聖天八翼であり。そして、その下部組織にあたる【羽】の、名も無き一葉、それが今のレオリウスの肩書だった。

 つまりは、色んなものを投げ売ってなりふり構わずここまで来たのに、未だにレティシアに傅く有象無象のモブ信者共と同等程度の地位でしかない。


 ――せめて、俺にあの〈金狼〉のような、明確なアドバンテージがあれば――。


「……………あん? なんだァ、なんかやけに騒がしいなオイ?」


 益体のない思いに囚われ始めたレオリウスは、幼馴染が心配そうに顔を覗き込んでくるのに気付いて、やるせなさのあまり思わず顔と話を反らした。


 そんな下手くそな誘導術に敢えて引っかかってあげて、オーウェンもにわかにざわついてきた方向へ目線を向けて「なんだろね?」と呟いた。


 そんな二人の耳に、なんだかデジャブを感じる叫びが聞こえてきた。


「だから、ほんとなんだって! 俺も見たんだよ、ゼノディアス様が女の子とえっちしてる所!!!(※してません)」


「…………あァーん……?」


 周囲の者達に『またまたぁ〜』みたいな感じで笑われてまったく取り合ってもらえず、顔を赤くしてムキになってる小太り少年。


 彼は正直、貴族の息子という以外に取り柄のない奴だったはずだが、それでもレオリウスが自ら声をかけて配下に加えただけあってそこそこ使える奴ではあった。

 何より、真面目な仕事ぶりに定評があり、間違ってもオーウェンの猿真似をして目立とうなどと考えるような奴ではない。


 しかも、彼に続いてぽつぽつと『じ、実は俺も見たんだよね……』という目撃証言が異口同音にちらほらと出始める始末。


 俄に騒然とする一同を、レオリウスの雷鳴めいた一喝が打ち据える。


「囀るなッッッ!!! ……おい子豚ァ、テメェ一回ちゃんと説明してコイツら黙らせろや!!」


 子豚呼ばわりされた小太り少年は、「こ、子豚……?」と若干のショックを受けつつ、レオリウスの肉食獣じみた眼光に震え上がって片膝を突き臣下の礼を取る。


「は、ハッ!! じ、実はですな、それがしは遠目に見ただけではあるのですが、なんとゼノディアス様が、男子寮の廊下で見知らぬ女の子の手を甲斐甲斐しく引いておられましてですね……」


「そンなん、もうオーウェンに聞いたっつーの。やたら女を神聖視してるあの御方が、そこかしこで困ってる女を見つけてはホイホイ助けて回るのなんざいつものこったろ?」


「い、いえ、しかしですな? それがし思わず目を疑ってしまって、よく見ないうちに思わず逃げてしまったのですが、その、ゼノディアス様がですな……。手を引くのみならず、非常に恥ずかしがっている女の子の腰に手まで回して、熱烈な抱擁を交わすように力強く抱きながら、その子に下半身を密着させて蕩けるような笑みを浮かべておられたのです。

 ――今思えば、これ、完全に致しちゃってる真っ最中だったのでは?(※事実誤認)」


「………………………」


 レオリウスは、無言で傍らのオーウェンを仰ぎ見た。ちょっと不思議そうな顔をしたオーウェンは、しかしすぐに意図を察して笑顔で頷く。


「そっか、だからあんなに妊婦さんを気遣うような甲斐甲斐しさだったんだねぇ。やっぱりあの女の子のお腹の中には、ゼノディアス様との愛の結晶が芽生えていたんだ!!(※論理の飛躍)」


「…………………………」


 レオリウスは我知らず冷や汗を流しながら、往生際悪く更に周囲へ視線を巡らせる。先程、子豚に続いて声を上げていた者たちの方へ。


 凝視されてちょっと挙動不審になりながら、目撃者達はこしょこしょと囁きを交わして話を擦り合わせ、やがて代表者が半歩前に出て来て神妙な面持ちでこくりと頷いた。


「……ゼノディアス様は確かに、人通りが少ないのを良いことに、男子寮の廊下で女の子とセックスしてました(※断定)」


「…………うっっそだろ、オイィィ!!!?」


 レオリウスの全身を、滝のようにぶわっと溢れる冷や汗が襲う。嘘だ、嘘だろ、嘘だと言ってくれ。おいおいおいおい、うっそだろお前、まじかよマジなのうっそマジかよ。こんなのどうやってあのゼノディアス様大好き星人のレティシアに報告しろっつぅんだ無理死ぬ殺される絶対俺生きて帰れない!!!


 そしてレオリウスは、愛する人と生きる未来を守るため、残酷な現実を否定することにした。


「バッキャロウッッッ!!! テメェら、揃いも揃ってありえねェ幻覚見てんじゃねぇぞ!!? あのやたら女にコナかけといてちょっと良い感じになるとすぐさま尻尾巻いて速攻トンズラこく、ヘタレと童貞の権化みたいなあのゼノディアス様が、ンなバカな――」



「――ヒトの弟を捕まえて、随分な言い様じゃないか? なあ、〈赤獅子〉よ」



 抜刀された抜き身の刀に断ち切られるが如く、前触れなき闖入者による冷え切った声が人垣を左右に割り開き、レオリウスを直撃して突き抜ける。


 動揺の絶頂にいたこともあって思わず気圧されて一歩下がったレオリウスだが、すぐさま踏み止まって牙を剥きながら、部屋の入口に余裕の笑みで突っ立っているいけ好かないそいつを睨みつけた。


「〈金狼〉……!! てめぇ、何しに来やがった!!」


 金狼と呼ばれたその青年――シュルナイゼは、相手を心底馬鹿にした酷薄な笑みで鼻を鳴らす。


「前を通りかかったら、よく吠える犬の耳障りな喚き声が聞こえてきたものでね。一体どんな醜い顔をしている駄犬なのかと、怖いもの見たさで思わず覗いてみたくなったのさ」


「……駄犬は、テメェだろうがよォ……!! あの売女に家名まで貢いで尻尾振ってる貴族の面汚しが、何を偉そうに!!」


「愛する人さえ悪魔に捧げる畜生未満が、人の事を言えた義理かい?」


「ンなななななんっててめぇ何故それをいやデタラメ言ってんじゃねぇよ俺の人生に女なんて惰弱な生き物を愛した経験なんざねぇよバッキャロぅい!!!!」


「女……か。フッ。そうだね、確かに今のは俺の出任せだった。だから気にしないでくれ、オーウェンくん」


「ここでオーウェンに話振る奴いる!!??」


 赤獅子と金狼による醜いマウントの取り合いを『ぼくも混ぜてほしいなぁ』とキラキラした目で見ていたオーウェンは、ここぞとばかりに喜び勇んで参戦しようとするも、レオリウスに全力で阻止されてぶーたれる。


「ぶーぶー! なんだよ、二人だけで盛り上がってさー、ずるいよ!!」


「そうだぞ、ずるいぞ赤獅子。なあオーウェンくん、こんな薄情な奴ほっといて、よかったらシュークリームでも食べにいかないかい? はーい、俺と一緒にー?」


「行くぅー!!」


「行かせるかタァコ!!?」


 唐突なやんごとなき公爵家嫡男のご登場にどうしたらいいかわからなかった周囲の皆は、そんな困惑どこ吹く風とばかりに楽しそうな三人を見てすっかり白けてしまい、解散の雰囲気となる。


 だがそれより先に、オーウェンを羽交い締めにしたレオリウスが、ふと声色を低くして唸るように訊ねた。


「……オイオイおいおい、金狼さんよォ、こんなとこでオーウェンなんかと遊んでていいのかよ、オイ?」


「ふむ……? どういう意味かな?」


「とぼけんじゃねェ。保身と謀略に長けたクソうぜぇてめーのことだ、もうゼノディアス様に関するあの厄ネタも掴んでんだろ?」


「厄ネタ……? ……ふむ。ひょっとしてそれって、さっきゼノが女の子と――」



「ああ、そうだ。ゼノディアス様が、男子寮の廊下で見知らぬ女の子とセックスしてた一件についてだ(※刷り込み完了)」



「……………………。え、すまない、今なんて??」


「ハッ、てめぇのそのすっとぼけた反応だけで十分だ!! 悪ィが、テメェの韜晦や悪ふざけこれ以上に付き合ってる暇は無ぇ。レティシア様のご婚約者であらせられる安全の保証された御身と違って、こっちは未だ下っ端なもンでな。対応を誤ればすぐに首を掻っ切られちまう」


「待ってくれ。いやほんと色々待ってくれ」


「野郎共ッッッ!! 総員、配置に付け!!  まずはゼノディアス様及び件の女の子と、レティシア様との邂逅を阻止して対策を練る時間を稼げ!! おい子豚ァ! お前ェ、三人がそれぞれ今どこにいるかちゃんと掴んでんだろうなァ!?」


「も、もちろんですぞ! いくらレオリウス様とはいえ、それがしの情報処理能力を甘く見ないで欲しいですな、ふんすふんす!!」


「うっし上等だァ、んで今どこだぁ!!?」




「予測進路から判断すると、お三方とも現在第一食堂でばったり鉢合わせた所ですな!!!」




「……………………………………。総員、退避いいいいィィィィィィィィィッッッッ!!!!!」


 狂人じみた偏愛を注いでいるおとうと様に、女ができた。しかもその女は既におとうと様とヤることヤっちゃっており、子供まで孕んでいるかもしれない。


 そんな残酷すぎる現実を目にした時。かつて齢七にして人外集団【聖天八翼】を組織し、自らの手でその誰よりも狂った戦果と死体の山を築き上げ、自分が気に入らない全ての人もモノも等しく根こそぎ殲滅してみせたあの最高聖女様は、果たして何をするのか。


 答えは、ただひとつ。



 ――【聖戦】の再演である。

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