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一話前 修羅の一刀(byお姉ちゃん)

「戦力外チームへようこそ、おとうと様っ!!!」


 ひとまずイルマちゃんの指示に従って、制服に着替えてから隣室の女学生達を迎えに行った俺。

 ドア一枚を隔てて紳士と淑女の正しい受け答えを終えた後、そっとドアを開けてみたら、両手を広げながら満面の笑みでお出迎えしてくれた義姉様の台詞に面食らう。


 戦力外? はて、なんのことだろう? こと戦力という分野において、この竜殺しことゼノディアスくんは世界でもわりと上位に位置しているはずなのだが……。


 と、そんな風に戸惑っているうちに元気ハツラツおねえちゃんに腕を取られ、更には義姉様といつの間にやら結託したらしいローブっ娘アリアちゃんに背中をぐいぐいと押されて、三人でくっつき合うようにしながらお外へ飛び出すこととなった。


 ちなみに、『戦力外』の意味する所は、出立間際にリビングらしき方向から聞こえてきた女の子達の喧々諤々やり合う声によって早々に判明している。

 うん。あの高度に政治的で神算鬼謀が渦巻いてるっぽい激しい議論の場に呼ばれずに、『そんなことより朝ごはん食べて学校行きなよ』と優しく追い払われてしまった俺達は、確かにまごうことなき戦力外チームだね……。


「アリアちゃん、義姉様。俺達、ズッ友でいようね……」


「ずっともー! いぇーい!」


「ええ、もちろんですわっ!! ――ところで、ズットモって何ですの?」


 思いの外ノリ良く『いいともー!』みたいな感じで拳を掲げてノってくれたけど絶対何もわかってなさそうな笑顔のアリアちゃんと、同じく拳を掲げてくれたけど即座に笑顔のままこてんと首を傾げる義姉様。

 そんな二人のぽんこtゲフンゲフン、天然オーラにあてられて、思わず俺までゆっるゆるの笑顔である。難しいことは賢い娘達に任せておけばええんや、ワイら要らん子チームは何も考えずににこにこ笑い合ってればそれでええねん!


「……っと、そういや朝飯食わせろって話だったっけ。二人とも、何かリクエストある?」


 朝の喧騒を遠くに聞き、人気の無い裏通りをそぞろ歩いてる現在。

 お手々繋いで仲良さげに前を往く即席姉妹にそう声をかけてみれば、「わたし、ずっとも食べたい!」「あら、じゃあわたくしも今朝はズットモにしようかしら?」とスットコドッコイな返答がのほほ〜んと返ってきたので、ぼくも今日の朝食はズットモでいいやと思いました(←天然少女達による洗脳完了)。


 さて、ではズットモなる未知の料理はどこの店で食べられるんだろうか? とりあえず、人見知り拗らせ中のアリアちゃんが乗り気という時点で、表通りの方には無いのは絶対条件。

 ならば、このまま裏道歩いて未だ見ぬ隠れ家的名店を開拓し、おすすめ創作料理とか注文して「これがズットモさ☆」とドヤ顔で紹介してテキトーにお茶を濁すこととしよう。


「めっしーや、飯屋、めし、めっしっし……。メシアが飯屋で召し上がる〜♪ なんちゃって?」


「……ねえ、シアおねえちゃん。後ろから、今、すっごいへんてこりんなお歌が聞こえたような――」


「しっ! ダメよアリア、そんなへんてこりんだなんて正直に言っては。うっかりポロッと思いつくままに鼻歌とダジャレを漏らしてしまってつい恥ずかしくなり『なんちゃって』とさりげなく誤魔化そうとしているおとうとさまの愛らしい失敗を、そんなへんてこりんだなんてストレートに言ってはいけません!! メッ!!」

 

 あんたが『めっ』だよ、的確に人の傷抉りにかかるんじゃねぇよお姉ちゃん。ぶっ飛ばすぞこんちきしょう。


 でも女の子に手を上げるなんて童貞上皇ゼノディアス様には到底不可能なので、俺は全ての鬱憤を込めて、アリアちゃんが被ってるフードを背後から無駄にバサバサと上げ下げしてやった。アリアちゃんが「ひょぇう!??」と怯えて抵抗しようが、義姉様が「おとうと様っ!? こ、こらっ! めっ!」と慌てて止めに入ろうがお構い無しである。

 フハハ! 無力よのう、シアお姉ちゃんとやら! 愛する妹が眼の前で弄ばれているのに救えぬのは、さぞ口惜しかろう!!


 やっべ、二人をイジメるの超楽しい。おまけにバサバサするたびにアリアちゃんの髪から甘いフェロモンが漂ってきて、脳髄が蕩けそうになってくる。


 ――――ああ、でも、やっぱりこれは良くないな。これじゃ完全に好きな子虐める小学生男子じゃん。相手に嫌な思いさせておいて自分は股間を大きくさせてるとか、どうしようもないクズじゃねぇか。


「………ごめんね、アリアちゃん」


「あっ……」


 最後にそっとフードを被らせてあげて、上げ下げ終了。ぽんぽんと撫でるようにして形を整えてあげてから一歩下がると、アリアちゃんが名残惜しそうな声を上げてくれた気がするけど、それは俺の願望が聞かせた都合の良い幻聴だ。


 妄想を振り切るかのように、完全に止まっていた歩みを「じゃあ、行こっか」と仕切り直しの台詞と共に再開し、女の子達が付いてきてくれることを願いながらさっさと先を往く俺。


 でも数歩進んでも女の子達の気配が動いてくれないせいで、一歩ごとに歩行速度が劇的に落ち込んでいく。


 ……やっぱ、嫌われちゃったかな? 不安になってくるけど、でも振り返るだけの勇気が出ない。けれど、このまま別れてしまう勇気もまた出なくて、必然的に俺の歩みはまたしても止まってしまい――、


 けれど。背後から突如襲いかかってきた軽い衝撃によって、腰を押されて強制的に二歩ほど歩かされることになった。


「……あ、あの、アリアちゃん……?」


「んー!! ん〜!!!」


 背後から俺の腹へ細腕を必死に回してきて、そんな密着体制のまま頭突きで俺の背をぐりぐりと刺激してくるアリアちゃん。突然の凶行に及んだ彼女は、更にそこから俺のシャツの裾を盛大にばっさばっさとめくっては下ろし、めくっては下ろしを繰り返し、俺自慢の鍛え抜かれたシックスパックを世間様へチラ見せさせまくる。

 唐突なる路上抱き付きからの、スカートめくりならぬシャツめくり。これは果たして痴漢行為にあたるのだろうか……? いや、この場合は痴漢ではなく痴女行為とでもいうべき?


 そんな痴女さんは、俺に抱きついておでこをくっつけたまんまズリズリと前方へ回り込んでくると、今度は背中側のシャツをばっさばっさめくってきながら「んっ!!」と何かを急かすように俺を見上げてくる。


「………んー、……あー、っと……」


「んっ!!!!」


「あ、ああ、うん、うん……。じゃあ、まあ、お言葉に甘えまして……?」


 なんとなく。本当に、なんとなくだけど。フード越しに俺を見詰めてくる紅色の双眸が、一体俺に何を望んでいるのか、その答えがどこまでも明確に伝えられてきたような気がして、俺は戸惑うことはしても迷うことはせずに彼女の望みを叶えるために動いた。


 まるで、新婦に誓いのキスをしようとする新郎の如く、或いはシャツめくりという性的イタズラへの報復をするかの如く、アリアちゃんの顔を隠しがちなフードをそっと下ろしてあげる。


 ――ふわりと広がる、ダークブラウンの癖っ毛と、アリアちゃんの香り。


 ちょっとくすぐったそうに目を細めたアリアちゃんは、軽く頭を振るだけでてきとーに髪を整えると、長すぎな前髪の合間から俺を見上げて『にま〜』っと蕩けた笑みを見せてきた。




「これで、おあいこ、です!」




「キスしていい?」


「なんで!?!??」


「え、だって、おあいこってことは、今ならもし俺からキスしたらアリアちゃんからもキスをし返してくれるっていうことなのかなって。違うの?」


「ちがいます!!!!」


「違くないのでキスしていい? いいよね? ほら、もっとあご上げてごらん? おくち『あーん』ってしてみ?? ん??」


「ひょへぇぇぇぇぇぇ……!!?」


 アリアちゃんの顎下に人差し指を引っ掛けてクイッと持ち上げてみれば、ほぼ抵抗値ゼロな感じで超絶あっさりと上を向いてくれた。これ、アリアちゃんも実はキスを期待してるってことでいいですよね? 半開きのちっちゃなお口から漏れてるのは熱い吐息ではなく戦慄の悲鳴に聞こえるけど、これはきっと恥ずかしがって照れ隠ししてるだけなんですよね? ねっ?


 だって、アリアちゃんは俺のことが好きなのだから。小学生男子みたいな歪んだ愛情表現しちゃった俺なんかに、こんなにいっぱい心遣いしてくれて、抱きつきながら笑ってくれて、こんなんもう絶対俺のことめちゃくちゃ大好きなのだから。


 そんなアリアちゃんが、俺からのキスを本気で嫌がるなんて有り得ない。それにほら、ずっと顎クイしながらじーっと見詰めてたら、段々「ぉげぇぇぇ……」と潰れたカエルみたいな悲鳴へ移行しながらお顔をどんどん真っ赤っかにしていってるもの。これ完全に照れ顔でしょ? なぜに潰れたカエルの鳴き真似しとるのかは知らんけども。


「――アリア」


「ひょげっ!?!? ほげぇぇぇ、ぉべぇえええぇぇ……!!! おげぇぇぇ、おげぇぇぇぇぇえ!!!!」


「……………………。あの、俺とキスするの、そんな猛烈な吐き気催してそうなレベルでマジで嫌……?」


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………そ、そこまで、ではない……」


 そこまでではないらしい。これまた判断に困るビミョーな評価だな……。ところで、今のなんか女剣士みたいな妙に凛とした声色は何? アリアちゃんっぽくなくて、ギャップがちょっとおもしろかった。


 そこまでは嫌じゃないんなら、じゃあ、どの程度の嫌レベルなんだろう。というか、そもそもこの娘は果たして本当に嫌がってるのか? 半開きの口から今度こそマジで熱い吐息漏らしながら、泣き出しそうなほどにめちゃめちゃ熱っぽい瞳で俺の顔とか唇とかを忙しなく見まくっていらっしゃるんだけど……。


 とりあえず、一回ほっぺあたりに軽くチッスして反応を見るか? と、ちょっと迷いながらも顔を近づけようとした俺だけど、不意に視界の端っこに写った義姉様がめっちゃあわあわおろおろハラハラしてたので、一旦動きを止めてそちらを見る。


「……義姉様? あの、べつにマジでアリアちゃんの嫌がることしようってわけじゃないんで。さっきは確かにちょっと暴走しかけたけど、今度はなんていうか、ちょっとずつ手探りで仲を深めようとしてるだけなんで……。だから、あんまりそんなガチでハラハラしないでください……」


 俺につられたアリアちゃんにまで見詰められながら、義姉様は俺とアリアちゃんを何度も見比べてひとしきりハラハラし終えると、やがておそるおそる上目遣いで俺を見上げきた。


「……あの、違うのです、おとうと様。わたくしは、その……、おとうと様とアリアなら、今のように二人のペースで触れ合いながら、少しずつ距離を縮めていくのだろうなぁと、だからそこは、べつ何か心配したりはしていないのです……」


 わりとドタバタしまくりだった一連の騒動を『二人のペースの触れ合い』などとあたたかでふわふわな表現に変換されてしまい、思わず変な顔で見つめ合ってしまう俺とアリアちゃん。


 そんな痴漢&痴女に再度見られつつ、義姉様は胸元できゅっと拳を握り、意を決したように訊ねてきた。






「――お、おとうと様はっ!! イルマとアリアの、どちらを選ぶのですか!!?」

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