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??? ラブ&ビーム兵器

誰得おっさん回。

 歴史の裏で、恋愛難儀を標榜する何某が己のアイデンティティを失うレベルでやんごとなき女の子達(+ついでに野郎共)と宴会してたり、すっとぼけた女の子が革命の志士達にお手製の仮面をひっかぶせて「せっかくだからこのまま仮面舞踏会しよーぜ☆」などと全力ではしゃぎ倒して皆を笑わせていた(←失笑と嘲笑)、そんな頃。

 歴史の表では、列強各国の長かそれに準ずる者達による、極めてむさ苦しくて華の無い男だらけの国際会議が開催されていた。



 ――暗く、冷たく、物寂しい、石造りの大広間。

 天窓から差す淡い光に照らされた白き円卓が、臨席者達の顔に光を反射させ、ぼんやりと浮かび上がらせる。


 最早お馴染みとなって久しい、代わり映えのしない面子。語られる内容にも真新しいものはなく、それぞれが一国を束ねるトップ同士であるとは思えないほどに、衝突や波乱の気配すら微塵も無い。


 当たり前だ。異なる国々の代表達とは言っても、ここに集った面々は皆『ミリス教』の信者であるという点において同士であり、更には現体制の維持を至上とする極めて保守的な思想をも共有している同志でもある。


 持ちつ、持たれつ。ひとつの国が『最近こんなことで困っている』と素直に言えば、ふたつの国が『ああ、じゃあ少し手貸そう』と何の気負いもなく応じる。一国は多国のために。多国は一国のために。そして世界はラブ&ピース……。


(なんちゃって)


 円卓に頬杖をついて会議を聞き流していたその冴えない中年男は、自らの浮かべたおもしろくもない思考に失笑する。


 ああ、世界は確かに愛と平和に満ちている。だが、少なくともこの場の面々がたいせつにしているのは、己への愛と、己だけの平穏だ。

 それを守るために最も有益で、何より『楽』で『怠惰』な方法として、他人を苛烈に蹴落とすのではなく、緩やかにお互いを利用し合う……というか、お互いに寄りかかり合う関係を不文律的に結んでいるに過ぎない。


 他者への思いやりと自己への戒めを是とするミリス教からすれば、彼らの思想もやってる事も、紛うことなき悪ではある。


 ――だが。彼らの自己愛や怠惰の結果が、争いの無い世界や民の幸福に貢献しているのであれば、もうそれはそれで良いんじゃないだろうか?


 俺だって、楽して平和に生きたいし。


「……さて。先程から少々考え込まれておられるようですが、もしや、やはり今の件に何か気になることでも有りましたかな? エドロウィ様」


 進行役を勤めていた太っちょ国王にそんなふうにいきなり水を向けられて、益体の無い思に耽っていた冴えない中年男――エドロウィは、『やっべなんも聞いてなかった』などという焦りはおくびにも出さず、フッとニヒルに嗤ってダンディな声で返した。


「サンスン殿……。前々から言っているでしょう? どうか私のことは、様など付けず呼び捨てにして欲しいと。一国を預かる国主たる貴男方とは違い、私はあくまで、まつりごとに深く関わるわけにはいかない『我が祖国』から遣わされた、ただのしがない記録係、いえ置き物に過ぎないのです。

 それなのに、エドロウィ様などと面映ゆい呼ばれ方をされますと、どうにも自分がやんごとなき貴方様方と対等になれたような気になってしまっていけない……」


 淀みない口上からの憂いを帯びた流し目を受けて、太っちょサンスン、すぐさま察する。


 あ、これ話聞いてなかったから話題逸らしにきてるな。


「……ほ、ほっほっほっほ!! まったく、言うに事欠いて置き物だなどと、エドロウィ様は相変わらずご冗談がお上手ですな!

 我ら『列王議会』が一人も欠けることなくこうして無事に集まれるのも、全てはかの国からの信任厚き貴方様の的確なご助言有ってのもの!!

 いやはや、流石は名高き【八翼】の――おおっと失敬、これはここだけのヒミツでしたなぁ!! 皆様、どうか今のは何も聞かなかったということでお願いいたしますぞ〜??? ほぉーっほっほっほっほ!!!!」


 まだスマートな体型だった若かりし頃、舞台俳優を夢見て密かに特訓していたサンスン。その大根役者っぷりおっと失敬、卓越した演技力は今尚健在の模様。


 サンスンの巧みな誘導により、他の王達も口々に「儂はなーんにも聞いておりませんぞぉ??」とか言いながら変顔でそっぽを向いたり、「エドロウィ様、様々ですな! エドロウィ様だけに!」とか渾身のドヤ顔で上手いこと言ったり(うまくない)と、俄に大根役者の見本市と化す議場。

 全ては、話をまったく聞いてなかったエドロウィを庇うために。


 そしてそんな皆の気遣いは、正しくエドロウィに伝わった。伊達に十年近くも付き合ってはいない。先程まで自己愛塗れとか怠惰野郎とか散々酷いことを考えていたのも忘れて、エドロウィは「ったく、お前らはよぉ……!!」と歓喜に満ちた苦笑いを零す。


 そんな感じでおっさん達があははうふふとあたたかな空気に耽溺していたその時、突如事件は起こった。



「た、大変です!!!」



 どばーん!! と議場の扉を開け放ち、倒れ込むようにして駆け込んできた伝令兵。瞬間、楽園でぬるま湯に浸かっていたはずのおっさん達は瞬時にキリッと表情を引き締め、いかにも『世界の行く末を憂えて真面目に議論してました』感を全開にする。


「――何事だ、騒々しい。貴様、ここが我ら列王議会による円卓会議の場であると知って」


「報告します!!! 昨日未明、聖国にて、聖騎士団筆頭騎士・聖剣士アレク様によるクーデター発生!!!!

 その凶刃を受けて大聖女レティシア様が身罷られたとのことでしたが、同時にその大聖女様がそもそも聖戦後間もなく故人となっていたとの続報も入って来たことで、近隣各国が大混乱となっております!!!

 尚、今回のアレク様のご乱心は、偽の大聖女様を仕立てて威光を利用していた『墜ちた八翼』達への宣戦布告との見方が大勢とのこと!!!!」


『………………………』


 聖剣士アレク。


 クーデター。


 偽者の大聖女。


 ……………八翼への、宣戦布告。


「あーあー、ついにやっちまったか、アレクの坊主……。最近の『クソガキ共』の暴れっぷりを考えれば、いつか誰かがなんかしら行動を起こすたぁ思ってたが……、この出来過ぎな流れは、大方リリ嬢ちゃんの差し金ってところか?」


「そ、そのぉ、エドロウィ様……?? 聖剣士様が、クーデターというのは……」


 一切動じることなく考察を巡らせているエドロウィに、サンソンがおそるおそる声をかける。


 あれ、なんかみんな距離遠くね? と一瞬違和感を覚えながらも、エドロウィは『友達』のよしみとしてある程度の情報を開示してあげることにした。だって、『友達』だから!!


「ああ、皆様もご存知の通り、一部の八翼連中は裏組織や諸王なんかと結託して、教義に反した行いをしているでしょう?」


「……諸王と結託……。……教義に反する……」


「アレク――様は、聖剣士なんて呼ばれてるだけあって、義に厚く民想いのまさに騎士ですから。これまでは色々気を遣って我慢することを選択してきたんでしょうが、とうとう堪忍袋の緒が切れたってことなんでしょう。

 ……まあ、肝心の、大聖女様が偽者云々については……、残念ながら私には『よくわかりません』が」


『…………………』


 友を安心させるために、わざとへらりと笑いながら語り。そして、友を不用意に深入りさせないために、この『カバーストーリー』の核心部分であろう大聖女の真偽云々についての詳しい言及は敢えて避ける。


 それらは全て、エドロウィなりの気遣いの現れでしかなかったのだが――、


 残念ながら。今この場においては完全無欠の裏目であり、誤解を生むものでしかなかった。


「…………エドロウィ様。――いや、エドロウィ」


「おお、サンソン様!! 私の気持ちが伝わり、とうとう呼び捨てに――」




「大聖女様の死すら利用する、貴様ら『穢れた翼』共をォ!!! 聖剣士アレク様への貢ぎ物にしてくれるわああああああああああああああ――――!!!! キィエエエエエエエエエェェェェイ!!!!!」


「ほげぇぇえええええええええええェェェェ―――――!!!?!?」




 突如、物騒な輝きを蒔き散らす国宝の数々を惜しみなく全開放しながら襲いかかってくるサンソンと、そしてそれに合わせて「オラも加勢するでよ!!」「久々に我が愛剣に血を吸わせてやろうかねぇ!!!」「ヒャッハァああああ!!!!」等々、戦意を叫びに変えながらそれぞれの国宝を振り回してビカビカ閃光祭りを開催する諸王達。


 わけもわからず応戦を余儀なくされるエドロウィだったが、友を傷付けるわけにもいかず、すぐさま逃げの一手を打つ――。



◆◇◆◇◆



 遠ざかりゆく、おっさんたちの狂騒や爆発音。それを最後まできちんと聞き届けてから、伝令兵はくるりと踵を返した。


 そして、ぼそりと呟く


「任務、完了。……リリチア様に、ご報告……」

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