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 とりあえず逆ギレをしてみた。


 でもこれでいいんじゃないかな。

 だって時間的にもアレだし、場所も崖だし。


 だから俺はブラフで強引に話を展開させることにする。何故なら田中(妻)が、崖をバックに立っているからだ。

 多分、もうラストの方だと思う。


「田中瞳美さん……私にはわかっています。 ……ですが、私の口から説明するべきではないでしょう」

「刑事さん……!」


 る~る~るるる~♪


 どこからか流れてくる悲しげな音楽とともに、田中(妻)は涙を流しながら膝をついた。


「『正義(ジャスティス)田中』は……夫です。 彼は『田中の為に悪の田中に天誅を下す田中』……略して『田誅(でんちゅう)』。『他人の恋路を邪魔して己の欲望を満たす田中』を(ほふ)る為、『角をぶつけると死ぬ豆腐』を密かに作っていたのです」


 あ、ジャスティス田中は存在する流れなんだね。

 つーか『田誅(でんちゅう)』って。


 俺の思いを無視して石動が言う。


「『他人の恋路を邪魔する奴ァ、豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ』ってことか……」

「はい、夫は江戸ッ子でしたから……」


 そんな理由で鈍器は豆腐らしい。

 落語家かよ。


「だが、それだとピエロ氏殺しが成り立たない! 晴一氏はその時既に死んでいるではないですか。それに晴一氏殺しの犯人は一体……」


 神無月が矛盾を叫ぶ。

 自分の迷推理を棚に上げて。


 うっわ神無月俺の方見んなよ……

 知らんわー!(無責任)


 神無月の視線に思わず後ずさった俺は、石に蹴つまづいてよろけてしまった。


 その拍子に、ちょうどそこに立っていた所轄の伊藤巡査の肩を掴んでしまう。


 ──すると


「ふっ……流石は轟刑事。 貴方の目は誤魔化せないということか」


 伊藤巡査がなんか言い出した。


「そう……伊藤とは仮の名! 私が『田誅』こと『田中を粛清する田中』!!」



 ──ザワザワッ!!


「「「「な、ナンダッテ────!?」」」」



 イッツ・ミラコー!!!(引〇天功ばりに)


 主人公の強制力かな?!

 とりあえず乗っかっとこう!!


「ふっ……俺の目は誤魔化せないぜ、伊藤巡査。 ……いや、田中! ……つまり晴一さんは、あくまでも『角をぶつけると死ぬ豆腐』を作る役だったんだな?」


 俺のありがちな名推理に、石動が更に乗っかる。


「口封じの為に彼を殺したのか!」


 しかし、


「それは違います」


 伊藤(仮)は『外人かよ』とツッコミたくなる感じのやれやれジェスチャーをしながら薄く笑って否定したあとで、悲しげに遠くを見つめた。


「……晴一さんは事故でしょう。 『浮気田中』を屠るのが私の役目。 浮気をしていない彼を殺る理由はない」


 ほら~、『事故と事件の両面から調べないんかい!』って思ったとおりじゃん……

 なにが『連続田中殺人事件』だよ。

 ないわ~。

 一件事故とかないわ~。




 る~る~るるる~♪


 再び鳴り出す音楽。

 イイ感じで夕陽が沈み出した崖をバックに伊藤(仮)は徐に語りだした。


「思えば『田中=人畜無害』なイメージを守る為に、組織に尽くしてきた人生でした」

「……」


 俺は無言で手錠を出した。

 掛ける言葉が見つからない……とかどうとかより、『田中』と声を掛けるべきか、『伊藤』と掛けるべきか決めかねただけである。


『組織』に関してはツッコまない。

 何故ならもう、お時間的にクライマックスだからである。




 ──こうして『連続田中殺人事件』は幕を閉じた。


 かに見えた。


 伊藤(仮)は、大人しく手錠を掛けられると思いきや、崖へと走り出したのだ!


「「「伊藤(仮)──!!!」」」



 ──ざっぱーん!

 ──ざざざざざ……



 波音だけが虚しく響く。

 崖から飛び降りた伊藤(仮)の姿はもうそこにはなく、夕陽が海を紅く染めながら沈んでいく。


「真実を知るのは我々のみ……ですかね?」

「ああ……犯人不在じゃどうしようもない。 ……始末書を覚悟しとこう」

「あはは……いつものヤツですね」

「言うなよ~」


 解決したが、解決しない黄金パティーン。

 それが轟クオリティである。




 こうして本当に事件は幕を閉じた。


 崖の斜め下に、伊藤(仮)が引っ掛かっていたのには、気付かないフリをして。




 仕方なく俺らは帰った。

 勿論、行きと同様にマイクロバスで。


 マイクロバスの車内は何故かカップルが多数出来ており、ラブワゴン(※若い方は要G〇ogle)と化していたが、そんなことはどうでもいいことだ。

 神無月の隣がアイナさんだけど、それもどうでもいいことである。


「そうだ、先輩! 帰る前に温泉に入って行きませんか?!」

「お前……フラグを立てるんじゃない!!」

「?」

「また今度! この手のシリーズモノは精々半年に一回で充分だ!!」

「なにを言っているのかわかりません!」


 石動が『湯けむり殺人事件』に(いざな)おうとするのを制し、俺は「次のヤマはちゃんと検挙するぞ~」とお決まりの台詞を吐いて眠った。



 起きたら次のエピソードが始まってないといいなって、マジで思う。


 ……フラグだったらどうしよう。



 ~おわり~



この番組は田中薬品と田中食品、『過払い請求はお任せ!』田中弁護士事務所の提供でお送りしました。

来週のこの時間は『ドキッ☆モフモフだらけのぶらり電動自転車旅~秘境編~』をお送りします。

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[良い点] 優勝!!!wwwwwwwww……何の優勝か分からんけどw  いやもう、タイトルから最終話のあとがきまで、突っ込み所だらけで笑いっぱなしですたwww  『モブ僕』第8話のあとがきに、まん…
[良い点] 面 白 いw [一言] たまたま見つけて読んだらめっちゃ面白い。一気に読みました。 田誅とはなんぞや!?(笑) たまたま田中でたまたま悪いことすると田誅されてしまうなんて、田中さんもな…
[一言] こんにちは。 めちゃくちゃ笑わせていただきました。 ジャスティス田中というワードを出した神無月氏はなんだかんだで有能ですね(笑) 何度も笑ったのですが、 一番は主人公が轟クオリティの世…
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