影に気づかず飼われるネズミの如く。
ニュースを見た時、言葉が出なかった。亡くなった女性が、あの日僕に声を掛けてきた女性の特徴と一緒で殺害された現場は祭りに行った神社だったから。なんであの女性は殺されたのか。考えた所でなにもわからない。あの女性とはあの日初めて会ったから。わかるはずもない。たまたま運が悪かっただけなんだろう。殺人事件なんて他にもある365日毎日、誰かが殺されたとニュースやっている。だから気にしなくても良いはずなのに。なんでこんなにもこのニュースから目を離す事ができないのだろう。僕が殺害現場の祭りに行ったから?それが怖いのか?物騒ではあるがそうではない。…なんだろう、この変な胸騒ぎは。考えていると、僕のスマホが鳴った。
「もしもし蒼君?ニュース!ニュース見た!?殺されたのって蒼君に声かけてた人だよね?まさか、私達が帰った後殺されたなんて…」
「うん。…怖いけど、これはたまたま運が悪かっただけなんだよ、きっと。」
「そ、そうだよね。運が悪かっただけなんだよね」
「茜も気をつけて。犯人は捕まってないらしいから」
「…うん」
しばらく外出は控えようと思った。近所でこんな事が起きるなんて思ってもしなかった。せっかくの夏休みだけど、こればかりは仕方ないだろう。課題を進める気にはならなくて僕は目を閉じた。
…だが寝れるわけもなく、僕は春樹に電話をかけていた。
「…春樹?今平気?」
「どうしだんだよ、蒼。珍しいな、蒼から電話かけてくるなんて」
「いや、なんていうか…。ニュース見た?」
「え、なんかあったん?ちょっと見てくるわ。…おい、紫の蝶の簪つけた女の人って、まさか…!?」
「祭りの時の人だよね?」
「まじかよ…。しかも俺たちが祭り行った日に殺人事件が起きたなんて。茜は無事でよかったなぁ」
「そうなんだけどさ…」
「ん?どうしたんだよ」
「なんか、なんであの人だったんだろうって思って」
春樹に聞いた所でわからないのに僕は春樹に問いかけた。
「運が悪かったんだろうよ…。きっとな。だからそんなお前が気にすんなって」
春樹に話をしたらなんだかスッキリした。春樹には感謝しかない。
何かがおかしいとは思った。でもこの事件は単なる偶然で、たまたま声を掛けてきた女性が運悪く殺されてしまっただけ。だけどこの不幸な出来事は始まったばかりだったんだ。
夏休みが終わって二学期が始まった。なんだかんだあったけど、今日からまた頑張っていこうと思う。
登校中に春樹に会った。
「はよ」
「蒼はよ。課題終わった?」
「そりゃまぁ…。え、まさか終わってないの?」
春樹は声を出して笑い始めた。
「はっはっはー!ご名答!その通りだよ!だからノート見せて!」
おいおい、まじかよ。1ヶ月以上休みはあったはずなのに。呆れながら了承した。
教室に着くとなんだかガヤガヤしていた。夏休み明けだからそんなもんだろう。…だが、様子がおかしい。
みんな僕の机の方を見ている。…冷ややかな目で。教室に入るとみんなの視線が僕に向いた。
…まさか?いやいやそんなはずない。目立つ様なことなんてなに一つとしてやってないんだから。机を見た時、言葉が出なかった。フラグが回収された。僕の机の上に広がるのはペンで書かれた罵倒の言葉ばかり。
…嘘だろ?!2学期初日から…。一体僕が何をしたって言うんだ。僕の机を見た春樹は、
「誰だよ!?こんな事した奴!ふざけんじゃねぇーよ!」
何も言わない僕のために怒ってくれた。だが名乗り出るものは1人もいない。それもそうだろう。わざわざやって名乗り出るものなんていたら警察だって苦労しないだろう。
チャイムが鳴って担任が入ってきたので仕方なく席についた。
一体誰が?なんの恨みを持って?
ニヤリと笑った影に僕は気づかなかった。