蝶は飛べずに散る。
春樹の補習が終わり、僕たちにようやく夏休みが来た。僕たちは夏の風物詩である祭りに行く事になった。…まあ、半分強制だったが。茜1人だと危ないと言う事で行きは春樹が、帰りは僕が送り迎えする事になった。春樹に自分が送り迎えをするからと言われたが春樹にばかり任せてしまうのは申し訳ないと思い、帰りは僕が送ることになった。
7月28日土曜日、午後5時半、神社の鳥居にて集合。
僕は20分早く集合場所に着いた。暇なのでヘッドホンで音楽をかけた。
「あの…お兄さん、1人?もしよかったら私と一緒に屋台まわらない?」
ショートヘアに紫の蝶の簪を刺した女性に声を掛けられた。こんな陰キャに声かけるなんて、この人は目が腐ってるのか。ブス専なのか。
「すみません。待ち合わせしてるんです」
一緒にまわらないと伝えるとまだ納得していないのかこの場を去ろうとはしない。するとそこに
「蒼!あれ?待った?」
「あれ?時間間違えたかな?」
春樹と茜が来た。連れが来たのが分かった途端声を掛けてきた人はそそくさ去っていった。春樹はニヤニヤしながら言った。
「あれ?俺たちお邪魔だった?」
「いや、本当に助かったよ。断ってもどっか行きそうになかったから」
「蒼君ナンパされるんだね!いつもされるの?」
「いや今回初めてだよ」
「そうなんだね」
「…ところでなに食べる?俺腹ペコだよ」
僕達は屋台を見て回ることにした。
「やっぱ祭りと言えば焼きそばだよな」
春樹が言った。すると茜は対抗するかの様に
「なに言ってんの、チョコバナナでしょ」
焼きそばとチョコバナナで揉め始めた。…どちらでも良いのでは?どっちも美味しいんだからそんな争わないでほしい。
「「蒼(君)はどっち!?」」
2人が僕に回してきた。勘弁してくれ。
「僕は…どっちも好きだよ」
するとは2人は「まあどっちも美味しいからね」と顔を見合わせた。
「あ、僕かき氷買ってくるから2人はあっちで待ってて」
これは僕なりの気遣いだ。鈍感な僕だが、気づかないはずがない。春樹がちょくちょく茜を見てる事を。きっと春樹は茜の事が好きなんだろう。なら親友は気を回してやらなければ。すると春樹が、
「俺と茜の分も頼んだ!」
「りょーかい」
「ありがとう!蒼君!」
僕は気を回してやろうと言うことを考えすぎて気づかなかったんだ。
まさかあんな事が起きるなんて。
「今日はすごい楽しかったね!」
「また出掛けようぜ」
「そうだね」
そろそろ帰るか。春樹の妹も来てたらしく遭遇した春樹は妹と共に帰り始めた。春樹達と別れた僕たちは歩き始めた。
「…私ね蒼君にすごい憧れてるの。蒼君みたいな落ち着いてる人になりたくて」
茜はポツリと吐いた。驚いた。憧れてたのは僕も同じだから。
「そんな…。僕には何にも取り柄なんてないよ」
「そんな事ないよ!」
僕は誰かに憧れる様な人間ではないがそれでも茜にそう思ってもらえるのが不思議だけど嬉しかった。
「あ、うちここ。今日はありがとう!また学校でね」
「うん。またね」
今日はなんだか楽しかった。3年ぶりの夏祭りはなんだか新鮮でたまにはこう言うのもありかも。そう思えた。
『次のニュースです。7月28日土曜日の深夜、女性の遺体が発見されました。女性は浴衣で髪に紫の蝶の簪をつけていて、祭りの帰りに何者かに襲われたもようです。
犯人は今も逃走中のもようーーー』