本とテストとお祭りと。
「ねぇ、君も本読むの好きなの?」
声がした方を見てみるとそこにはあの西山茜がいた。彼女が僕に声をかけたのか?…いや、そんなはずはない。こんな見るからに陰キャの僕に声をかけるはずがない。
「中村君、君どんな本が好きなの?」
僕に言ってたのか…。まじか。
いつまでも答えないわけにもいかない。なにも言わなかったら無視していると勘違いされて僕は周りのクラスメイトに生き埋めにされてしまうのではないだろうか。
ええい。どうにでもなれ。
「僕は、ハッピーエンドよりもうシリアスの方が好きです…。」
すると西山さんはモノ不思議そうな顔をして言った。
「え、意外だね。異世界系とか読んでそうに思ったんだけどなぁ」
「異世界系は苦手なんです。なんかしっくりこなくって」
「実は私もなんだよ。異世界系は苦手。私はどっちかっていうとシリアスよりもハッピーエンドの方が好きだなぁ」
女子は結構ハッピーエンドで終わる物語が好きみたいだ。妹もあまりバッドエンドで終わる物語とかは好まない。
「なんでシリアスの方が好きなの?」
西山さんは言った。それもそのはず。ハッピーエンドの物語の方が幸せな気持ちになる。だが僕はそんな気持ちになりたいんじゃない。共感したいのだ。過去の辛い体験を引きずっている人の方が愛着が湧く。悲しい話の方が現実味もある。全ての人が幸せに終わるなんてあり得ないから。あり得ないから異世界系が苦手なのかもしれない。ただ、これを言うと引かれてしまうことが多いのだ。人の不幸は蜜の味の様なものに近いと思われるのだろう。だから僕は言わない。本当の様な嘘をついた。
それからと言うもの「本好き」と言うもの繋がりでよく西山さん…いや、茜とは仲良くなった。(苗字で呼んでたら何故か名前で呼ぶ様に言われた)
クラス替えから2ヶ月が経ち、期末テストの時期になった。…かなりやばい。勉強なんて全然していない。かと言って赤点を取るわけにもいかない。補習だけは免れたい。そんな時茜が一緒に勉強しようと声を掛けてくれて僕と茜と春樹の3人で勉強会を開く事になった。
「…なにこれなにをどうしたらこうなんの」
声を上げたのは春樹だった。
「それさっきやったとこじゃん。ここをこうして…そうそう」
「…出来た!蒼サンキューな!」
「ふふふ。春樹君数学苦手なんだね。なんか意外」
「…数学以外ならできる!」
「それでもダメじゃん」
そんな他愛のない会話をしながら勉強して無事赤点を取ることはなく、夏休みを迎えることができた。
…春樹を除いては。
「なんで俺だけ!?なぁーそーうー何点だったよ」
「僕、68」
「…まじかよ」
「春樹君、どんまい!」
「補習終わったら夏祭りいこーぜ!3人で」
春樹が言った。正直人の多いところは苦手だ。暑いし、うるさいし。
「いいね!行こうよ!蒼君は?」
「蒼ー。多数決の結果だぞー」
夏祭りに行く事になりました。